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虚空塔攻略戦:後編

鏡面界の守護者-2

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「後悔させてやるよォ!アホ共ォ!」

《するのはお前だ!》

「言ってろ三下ァァァ!」

 ニコラスが地を踏み、迸る電流が煌めくと、変形し伸びた土が、巨大な触手のように迫る。

《私と同じ能力!?》

「鏡ってのはこォいうことだァ!」

 それらを躱した隙をつき、伸ばした土の上を走り、接近してくるニコラス。

「手は出させないミケっ!」

 飛び出したミケが短刀で迎え撃つと、鈍い金属音が響いた。

「ニセモンの癖に邪魔すンじゃねェよ!」

 それを防ぐニコラスの片手は、金属のような光沢を放っていた。

「くっ……ミケはミケ、ミケなんだミケッ!」

「似ても似つかなねェだろうがよォ!」

 弾かれた短刀で、何度も切りかかるミケの斬撃は易々と捌かれる。

《足元がお留守ですよっと!》

 ニコラスと同じように、地面を変形させ、足場を崩す。

「ククッ!そうだよなァ!同じ事ができるからなァ!」

 落ちながら笑うニコラスが崩れる地面を蹴ると、電流が迸り、崩壊が止まる。

「おっと!」

 ミケは私の上に飛び移ってくる。

「--だが、俺には勝てねェよ、魔人サンよォ?」

《……!?》

 突然、目眩が。

「--おいおい、どォしたよ?自己の認識までブレ始めてんのか?記憶使い過ぎじゃねェのか?」

《何を言って……》

「知らねえのか、なら、"この先に行くのは"俺でいいよなァァ!」

 重い蹴りに身体が弾き飛ばされる。

「《風精よ、吹き付ける風をここに!》」

 ミケの魔術が私達の態勢を立て直す。

《ありがとう》

「ミケケッ、お安い御用ミケ!」

「ケッ!ニセモンの友情ごっこは楽しいかよォ?」

 地面から槍を作り出すニコラス。

《え、そんなのできるの?》

「同じ力でも使い方がワカンねぇのはヒサンだナァ!」

 飛ぶように襲いくる槍の一撃。

《なら!》

 壁を作り出してそれを防ぐ……が。

「全然なってねェな!」

 アッサリと砕け散る防壁。

《なっ………なんてね!》

「残念ミケッ!」

 死角の真上から襲うミケ。

「クッ!盾は目眩しかァ!」

 槍で捌くニコラスに隙が生まれる。

《真似はしたくないからッ!》

 同じく作るなら武器!けど片手しか無い私に扱える武器はあまりない、なら!

《デカイ拳でブン殴るッッ!》

 変形させた床を腕に纏わせて殴りつける。

「ぐぎィィ!何だそりゃァァァ!!」

 殴り飛ばされたニコラスは転がって地を跳ねる。

《魔術っぽい事も出来るようになった今の私に敵は無い!》

「さすっデュラっミケっ!」

 抱きついてくるミケ。

 ……いや、それ何語?


◆◇◆◆◆◆◇◆


「クキキ……なら教えてやるよ、この力の本当の使い方をよォォ!」

 膝をついて立ち上がるニコラス。

《本当の使い方……?》

「『舞台へ上がれ、鏡宴を始めよう』」

《え……?》

「虚空塔を自由に使えるってのはよ、こォいう事なんだよォ!」

 塩湖は紫色の焔を映し出した。

「何だミケっ!領域ミケッ!?」

「んなモンじゃねェ、こいつは何でもアリの『魔法』!」

 焔で縁取られた真っ直ぐな道を、悠々と歩いてくる。

《魔法……!?》

 魔法、壁や床の操作能力、紫色の炎、そんなのまるで--。

「俺はお前の鏡写し、この領域共々、クドゥリューのクソガキが生み出した存在だ」

 この階層に手を出した記憶も、金髪クソ野郎を作った記憶もないけど、要は。

《つまり……劇場版に出てくるアナザー主人公だな!》

「台無しな説明ありがとうよォ!『身の程を知れ三下ァァァ!』」

 焔が湖面を焼き尽くす。

《ミケッ!中に!》

「わっ」

 急いでミケを鎧に収納する。次の瞬間、焔に、熱に包まれる。

《あっ、ぐっ…っ!!》

 鎧の身になって初めて感じる痛み。

「デュラハンさんっ!僕の事はいいミケ!囮になるからデュラハンさんは逃げるミケ!」

《それは……しない》

「お前には勝てネェよ、諦めて、因子と記憶を寄越すんだナァ!」

 ゆっくりと歩いてくるニコラス。

《諦め……ない》

 だって。

「さもなければ砕け散れ出来損ないィィ!」

 槍の穂先を振り上げる。

《だって、もう勝負ついてるから》

「減らず口を--ッ!?」

 しかし、血を吐いてその切っ先は止まった。

--正確には身動きが取れなくなった。

《さっき殴りつけた時……お前の体に刺したんだ……破片を……ね》

 刺した迷宮の破片を体内で操作すれば、中身はズタズタだ。

《切り離しても思い通りに動かせるならって思ったけど、ここまで近づかないと動かなかったよ……危なかった》

「グハッ……て、てめえ……クソ、汚ねぇなクソッタレ、それでも主人公かよ」

 崩れ落ちるニコラス、焔は消え、湖面は静かに凪いだ。

《……勝てばよかろうなの……だ》

◆◇◆◆◆◆◇◆


《終わった……か、行こう、ミケ……》

 背を向けて歩き始める。

「魔力は大丈夫ミケ?あんなに派手に使って」

 中から出て、私を支えるミケ。

《壁とか床とか操作する限りはそこまで使わないから……》

「肩くらい貸すミケ、出口もどっかにあるはずミケ」

《ありがとう……流石にちょっとだけ疲れ……た……》

 意識が遠くなりそうだ。

 その時だった。

「--『引き摺り込め!虚空の門!』」

 背後からの声に振り返る、そこには巨大な石扉。

「危ないミケ!」

 私を突き飛ばしたミケは、夥しい数の黒い腕に掴まれ、引き摺られる。

「外れんじゃねェよォォォォ!!クソっクソ、クソォォォォ!」

 視界の端でニコラスは光になって消えた。

 しかし、石門は消えない。

《ミケッ!》

 駆け寄って、引き摺られていくミケの手を掴む。

「あいつ往生際……悪いミケ……ミケケ…」

《もっと手に力入れて!踏ん張って!》

「一度捕まったら無理ミケ。それに……ここから先には行けないミケ」

《一緒に上に行くんでしょ!?》

「最期にひとつだけ答えて欲しいミケ、ミケは本物ミケ?」

《なに言ってるの!?ここにいるのは本物のミケでしょ!?》

 それを聞いたミケは、一瞬だけ悲しそうな顔をして微笑んだ。

「ふふ、デュラハンさんはお馬鹿ミケなー、でもありがとう、ミケはこの領域で生まれた偽物だけど、この気持ちは本物って思っていいミケな……」

《馬鹿な事言わないでよ!》

「"本当"のミケは、すぐに戻るミケ……だってここはニコラスの《領域》、全部幻みたいなものミケ」

 ミケは、そう言って手を離す。

《あぁ!!》

 それでも掴み直そうとした手は、虚しくすり抜けていった。

「ありがとう、僕を本物と言ってくれて。貴女も……なれるといいね、……のに……」

《ミケェェェェ!!》

 最後まで笑ったまま、引き摺り込まれていった。

 言葉は、最後まで聞き取ることができなかった。

 後に残ったのは、凪いだ塩湖。

 そして、ミケが落としていった時計のようなモノが残った。

 何もない場所に私だけが立ち尽くしていた。


◆◇◆◆◆◆◇◆


 --ピシリ。

 その音に見上げると、薄皮が剥がれるように端から空が砕け、破片が舞い散り始めた。

《う、ぅぅ、ミケ、ミケェ……っおわっ!》

 何かが落ちて来て、のしかかってきた。

 でもそんな事も気にならない、ミケは消えてしまったのだ。

《みけぇぇ、ぁぁ……》

「でゅ、デュラハンさん?」

 ミケの幻聴まで聞こえ始めた、もしかして記憶を消費して正気すら失ったのだろうか。

《消えちゃったぁぁ》

「聞こえないんですかっ!いますよ!ここに!いますってば!」

 ミケは心の中に、私の心に生き続けるのか……あぁ。

《うわぁぁぁぁん》

「うっ…ひっぐ……デュラハンさんにも、ぐすっ、認識されなくなってしまいました、酷いよ、やっと戻って来たのに……うわぁぁぁぁん」

 ミケも悲しいか、私も悲しい。

 雨も降ってないのに、水のようなものが兜の上を滴って通り過ぎる。

「なんで見えないの……この!この!」

 ポカポカと叩かれて兜が外れ、湖面に転がる。

 視界はゴロゴロと転がる。ミケが私の胴体に縋り付いているのが見えた。

「あっ!ご、ごめんなさいっ!」

 地に転がった私の頭……兜を、ミケが拾い上げた。

《え、なに、ミケ……?》

「み、見えるんですか……?」

《見えるよ!ミケ!》

「よ、よかった、よかったぁ……」

《うぉぉぉ、ミケぇぇぇ!》

「わ、ちょっ、ちょっと頬ずりしないでください、硬い、硬いですよっ」

 それから暫く、再会を喜ぶ私達だった。
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