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虚空塔攻略戦:中編

デュラハンさんは〇〇ができない

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 虚空塔の中はどこも入り組んだ構造で攻略させる気がかけらも見られなかった。

《まさか、こんな事ができるとは》

 物々しい鎧の腕を伸ばしてみる。
見かけに反して、とても軽く、壁を触ってもあまり感触はない。
当たり前だ、中身が入っていないのだから。

 鎧に意識だけ乗り移るなんて、より一層どこぞの錬金術師みたいだ。

 イヴに教わったのは、意識を別の器に宿す方法。
どうなっているのか詳しくはわからないけど、魔力の感覚はあまり変わらない。

アカーシャが持ってきた時、言ってた身体を変えるとかはこういう事か。

《憑依ってことか……ん?》

 もしかすると例の私の、いや。
前のフーカちゃんの記憶も似たような方法で戻せたんじゃ……?

 じゃあ、なんでイヴはその事を言わなかった?
マヌ爺も知らなかった……?
魔族とかのやる事だから?


 なんか妙な感じがするけど、そんなことよりも、手をつけなければならないのは、この複雑になり過ぎた迷宮を簡単に攻略できるようにすること。

《……こうかな?》

 手甲の指先で壁をなぞって穴を開ける。私の魔力が通っているせいか、想像どうりに変化するようだった。

 これなら簡単に迷宮は作り変えられそうだ。
早いところ何とかしなくては。

 マヌ爺が来るっていう最悪のシナリオが発生するその前に。

 だけどまあ、100層もある迷宮を私1人でどうにかするには時間がかかりすぎる気がするな……別に全部作り変えなくても、誰かが攻略する時に、"その場で"作り変えればいいか。

《よし、ネーデルの方に合流しよう》

 そして足元の床を操作して開いた穴から下の階層に飛び降りると、そこにいたのはボロ布を被った子供だった。



◆◇◆◇◇◆◇◆


「◾︎◾️◾︎◾︎◼︎◾︎………◾️◾︎◾️◾︎◾︎!!」

 突然襲いかかってきたそれは、獣のような呻き声を上げて、何かを叩きつけて壊した。

 え、怖っ、何?守護者……じゃないよね?
彼らが私に襲いかかるとは……あ、今の姿だと--

--風切る高音が鳴った。

 遅れて吹き飛ばされていることに気がつく。

《……ぇ?》

 目の前にいた子供の姿はどこにも見当たらず、見回しても広間に開いた大穴から伸びる枝が揺れているだけ。

 薄暗いからって、今の私の目で見えない物なんて--

--鎧の身に重い衝撃が走る。

 仰け反った視界に、天井に空いた穴が映る。

 全く見えない、見えなかった。
まさか、催眠術とか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあない奴?

 そんなのは有り得ない、アカーシャの眷属とかが捕まえられる相手なら、それ相応の能力の筈だ--つまり。

《そこだ!》

 素早く床を変形させ、前後に壁を作る。
直後に鈍い衝突音、壁は僅かに振動する。

正解したよう--

--視界が両断された。

《っ!》

 生身じゃなくて良かった。
視界を分割しているのは、赤茶けた何か。
多分刺さっているんだろう。

兜から引っこ抜くと、それは錆びきった短剣。

《殺意が高すぎる……》

 生身じゃなくてよかったけど、今の身体も壊されたらどうなるかわからない。

 暴発させずに使えるのは《闇の門》しかないし--もしかしたら、気がつかないうちに何かしらの記憶を忘れてるのかもしれないけど。

 まあ、仮にそれを使うにしても"対象が認識できていなければ魔術は使えない"からできないし。

 私に使えるのは除湿とか……あ、そういや前にレモナが使ってたのがあったか。

 もし、迷彩のような能力なら、光で影が生まれる筈……他に手はない。

《『灯せ!』》

 鎧の掌から眩しい光が全方位に照射される。

《ぁぁああ!目がぁ!》

 しまった!眩し過ぎて全然何も見えない!
すごい目がチカチカする!ダメだこれ!

「◾️◾︎◾️◾︎◾︎◾️!」

 私と同じように苦悶の叫び声を上げている。
どうやら目論見は外れたようだけど、取り敢えず相手の動きは止める事が出来たみたいだ。

 闇の門を開いてその中に入れてしまおう、場所は……声だけじゃ分からないな……そうだ、前見た魔力光を放ってその反響を--

「おぐぇ」

 魔力光を外に出すイメージを浮かべた途端、吐くような声が聞こえた、しかもどっかで聞いた事あるような……?

《え、あれ?》

……視力が戻った時、目の前で蹲っていたのは、以前授業中に気絶させたミケとかいう同級生だった。

……今まで見てきた映像の中では、一度も"見た記憶がない"生徒である。



◆◆◆◆◆◆◆◆



《……大丈夫?》

 ミケの頭に直接声が響いてきた。
どこかで聞いた事があるような声だった。

「フーカちゃん!?」

《わっ》

 飛び起きると、そこにいたのは無骨な鎧で、決して想像したような少女の姿ではなかった。

《ち……違いますけど?だ、誰ですかその子?》

 その鎧はフーカのような少女が身に纏えるような大きさではなかった。

「え、その」

 いかにも迷宮の守護者然としていたので、敵と思い、始末しにかかったミケだったが、改めてよく見ると、迷宮で見た魔物のような魔力光は全く見えない。

「って、あれ……?僕が見えるんですかっ!?」

 今更ながら、自分が認識されていることに驚くミケ。

《気絶する前以外は見えてたよ?》

「そ、そうなんですか」

《確か、ミケ君であってるよね?》

「……?」

《……違った?……ごめん、物忘れが激してね》

「あ、違うんです」

《違うかぁ、やっぱ記憶が……おっと》

 鎧姿がうなだれた勢いで、兜が外れてコロコロと転がり、中身の空洞をミケに見せてしまう。

「デュ、デュラハン……!」

《そうか、デュラハン君かぁ》

 何か残念そうな口調で兜を被り直す鎧。

「あ、いや、デュラハンじゃなくて、リビングアーマー」

《…….?》

 首……はないが、兜をかしげるような仕草をする鎧。

「……ですか?」

《え、それ私に聞く事なの!?》

「え……あ……デュラハンさんでいいです」

 ミケは自分の会話能力がここまで壊滅的だとは思いもしなかった。

《ああ、さんをつけろよって事。よろしくね、デュラハンさん》

「え?あれ?」

《さんを付けて欲しかったんじゃないの?》

「え、あ。はい、そうです、だいじょうぶです」

 ミケは妥協した。
慣れない会話で頭は熱暴走を起こしそうになり、一応は会話成立したような気がしたからだ。

《あ、そうだ、デュラハンさん、お願いがあるんだけど》

「……な、何ですか?」

《私と協力して、この迷宮を攻略してくれないかな?》

「え」

 ミケは知らずのうちに最短の道を歩み始めていた。
--その先に光明があるとは限らないが。
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