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虚空塔攻略戦:中編

ネーデルの戦い方

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 未だ、映像は復旧していなかった。
さらに追い討ちのような情報がアカーシャから投げられた。

「……ネーデルの反応が消失しました」

「えっ、どういう事?何か持たせてるんじゃなかったの?」

「眷属の応答もありません……」

 ネーデル寮長……どうしてだぁ、なぜなんだ。どうにかしてくれるんじゃないのかぁ。

《まだ判断するには早いだろう、もしお前が最初に期待した通りであるなら、何か策を講じたと考えた方がいい》

そうか、そう言う事もあり得るか。

「至急、近隣の守護者を--」

「大丈夫、ネーデルを信じよう。彼なら無事にここに戻って来るはずだよ」

「クドュリュー様がそう言うなら……」

 これで、余計な手は入らない筈だ。
頼みますよ、ネーデル寮長。
この隙にどうにかしてくれよ、他とないチャンスなんだからね。

《奴が何かしているうちに、作り直す手筈を整えるぞ》

どうやって?アカーシャとか、その眷属がいる限り、簡単になるような事してたらバレちゃうし。

《そう難しい事では無い、お前がその気になればな》


◆◆◆◆◆◆◆◆


「《嘆け、韃靼の羊》」

 唱え、シュルシュルと、脱衣していくマルスィ。

「あ、こらっ、やめるですぅ!」

「コレハ……メノヤリバニ、コマルナ」

 謎の男もとい、ネーデルは視線を逸らしながら次の手を考えていた。

「あらぁ、遠慮なさらなくて結構ですわぁ、恐怖している獲物の方が--」

マルスィは、それを咎められても一切気に留めない。

「そして血を全身で味わった方が美味ですわぁ」

 衣服を投げ捨てた彼女の肌は、漆黒に染まっていた。
足の先は羊のような蹄を持ち、衣服の代わりに白い毛皮を纏う。
ただ、それも申し訳程度に局部を隠すに過ぎず、他は隠していない近かったが。

「ああもう、ちゃんと肌を隠すですぅ!」

一応寝ているサドルの目を塞いでおくハルシィ。

「隠したら肌で返り血を味わえません……わぁ!」

そして距離を詰め、ネーデルに鞭を振るう。

「オット!……ナカナカ、イヤ……カナリキビシイナ」

 何とか防ぐが、後方へ飛ばされたネーデル、彼は仮面の下で冷や汗が流れるのを感じていた。

 見た目はともかく、相手は高位魔術である心器を操る人外。

多少腕に覚えはあるネーデルではあるが、それも人間や一般的な魔物に限った話だ。

「ハタシテ、ドチラガ、マジンダロウナ」

「一緒にされては困りますわぁ!さあ!食事の時間ですわぁ!」

マルスィの体から伸びる蔓、その先端は羊の頭。
それらは大きく口を開けて、獲物を食む為に迫る。

「デハボクモ、ソレナリニ、ガンバラセテモラウヨ! 《オキアガレ!ツチクレヨ!》」

大きな影が蔓の前に立ちはだかる、それは無骨な土塊兵。

「トウッ!」

ネーデルはその中へ飛び乗った。

「心器ではありませんね、その程度では相手になりませんわぁ!」

羊達の蔓がその巨体を締め付け、先程と同じように砕こうとする。

「ハタシテドウカナ!《ガレキノケンヨ!》」

壁のような石の剣が床から生え、土塊兵の両腕ごと蔓を断つ。

「蔦を切ったくらいで!」

直接飛び込んできたマルスィの蹴りが炸裂し、土塊兵の前面の装甲は砕け散った。

「ダロウネ!《ガレキヲココニ!》」

土塊兵から上に抜け出していたネーデルは、瓦礫を降らせる。

「おかしいですわぁ!これで囲んだつもりなんて!」

ほんの少し跳んだマルスィ、彼女が回転しながら放った蹴りは、その衝撃で彼女を囲む障害物を破壊する。

「サスガ、ジンキニハ、カナワナイカ」

「次は、貴方ですわぁ!」

空中のネーデルは翼を持たない。
落ちるしかない彼にはマルスィの蹴りを躱す術は無い。

「《ツチクレヨ、ワレノノゾムクミタテヲ!》」

 砕かれた残骸、落ちる瓦礫がマルスィを中心にして凝縮する。

「こんな拘束なんて……え」

「《サラニ、ギョウコセヨ!イシヨ!》」

彼女は岩の中に顔を残して飲み飲まれ、固まったそれは岩塊となった。

「イクラチカラガ、ツヨクテモ、スベテカタメラレタラ、ウゴケマイ!」

その上に立って杖を構えるネーデル。

「……これはすぐには……動けませんわね」

顔だけが出ているマルスィはそう呟いた。

「……オトナシクシテクレヨ」

「すぐに、と言いましたわぁ……」

岩の隙間という隙間から、夥しい数の根や蔓が伸び、速やかに岩を覆っていく。

「私ひとり分の穴を開けるなんて、簡単ですわぁ!」

押し開いた隙間からマルスィは抜け出し、伸ばした蔓でネーデルを捕まえる。

「……ツカイタクハナカッタノダガ」

「楽しいお遊びも終わりにしましょう」

一本の蔓から巨大な羊の頭が現れ、ネーデルを呑み込んだ。

「味がしませんわ、石みたいな……あら?」

捕まっていたはずのネーデルはそこにはなく、同程度の大きさの土塊兵に変わっていた。

「《擬似領域:無銘騎盤》」

 彼女の背後で短い詠唱を呟いたのは無傷のネーデルであった。

領域によって生み出されたのは土塊の騎士達。
足元には白と黒に塗り分けられた正方形の升目。

「まだ至っていない領域なんて相手になりませんわぁ」

「アア、ベツニ、カツツモリナンテ、ナイカラネ」

「なら、大人しく私の--っ!」

振動。部屋を揺らすそれは耳障りな異音を発した。

「ドウヤラ、マニアッタヨウダ」


◇◆◇◆◇◆◆


「……ネーデルの向かった階層は崩壊、彼らは塔の外へ落下したようです」

アカーシャは淡々と報告した。

「では負けたか、他は?」

フーカは特に驚いた様子もなく聞く。

「守護者の反応もありません」

「なるほど、そうなったか」

顎に手を当て考え込む。

「どうすれば良いでしょうか?」

「そうだな、"我輩"達は待つだけでよい。本でも読みながら、な」

"フーカ"は『虚空塔編集記録』の頁をめくり、口角を釣り上げた。
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