上 下
40 / 88
虚空塔攻略戦:前編

第39話 傀儡の勝利

しおりを挟む
 映し出された映像は捕獲というにはあまりにも苛烈な光景。

「今捕獲してるんだよねぇ!?」

 どう見てもトドメを刺そうとしてるようにしか見えないのだけども!

「守護者、不要、命令、違い、ました?」

「ちがわい!」

「ひッ!」

 肉塊が怯えたように後ずさった。

《魔力光漏れてるぞ》

「え?」

「……怒り、収め、下さい」

 どうやら本当に怯えているようだ。

「と、とにかく!命をとるのはなし!」

「りょ、了解、です!」

「……応答、ありません」

「えっ?」

「守護者、暴走、止められ、ません」

 「な、何とかして!」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 間に合わない、彼が辿り着く前に彼女の命脈は尽きるだろう。

 青年の懐で小さな板が淡い光を灯しているのが見えた。
まだ、彼が命を奪わせない為に出来る事はまだ一つだけ残されていた。

「《階位権限において、決闘の開始を宣言する!挑戦者はメルセン・ロタール!》」

「オトヨリハヤキ、ショウゲキヲ」

 メルセンの放った魔術はレニーの前で霧消し、彼女を粉砕する事は無かった。

「《勝利条件はっ!戦闘不能!序列戦の規定通り殺害を禁ず!》」

《序列戦》の強制力によって、メルセンの魔術は消滅させられたからだ。

「ナン……ダト……?」

 メルセンが停止している間に、すれ違いざまに一太刀入れ、メルセンを散らす。

「おおおおぉ!」

 蝶の群れを掻き分けた青年がレニーを抱き抱え、離脱する。

「……ふ、ふふ…序列戦、ね。《上位権限において参戦する》」

 いままで表情一つ変えなかったレニーがほんの少し笑みをこぼした。

「な!参加するしなければ君は」

「私の勝手、そんな事より前を見て」

「そう……だな!さあ!お遊びを始めようじゃ無いか!」

 剣を向ける青年。

「ン?アアーーソウカ、ソウカ。イイダロウ。オアソビニ、ツキアッテヤルヨ」

 振り向いたメルセンは頭を掻きながら、杖を取り出す。

「《オレハモトメル--」

 メルセンは淡々と詠唱を続ける。

「距離を取って!!」

 レニーの声に反応し、青年は飛び退く。

「《ケンゲンシロ、アンネイ》」

 部屋は森林に塗り替えられ、彼らの立つ場所はひらけた草地となった。

「……不味い」

「何が不味いんだ?」

「本気を出される前に速攻で倒すか、戦場ごと吹き飛ばすしかなかった」

「じゃあ今の状況は?」

「最悪。《領域顕現》まで使われたら、殆ど勝機はない」

「……殆ど?まだ勝てる見込みがあるのか?」

「……ある」

「何をするんだ?」

「この部屋ごと吹き飛ばす、時間稼ぎしてくれる?……未来の英雄様?」  

 レニーはからかうように微笑んだ。

「ああ!任せてくれ!」

「《第二拘束解除!》」

 前に突き出されたレニーの右腕が大砲のように変形する。
 
「《ザツオンヲケセ》」

 大量の蝶の群れが羽ばたきを共振させ、耳鳴りのような音を響かせる。

「おおおおお!!」

 青年は片手に握った剣を正面に突き出す

「《突き進め赤光!》」

 青年の詠唱は声にならず、発動もしない筈だった。
しかし、魔術は成り、赤光は蝶の群れを穿ち焼く。

「……メンドクセェナ、《オトノショウゲキヲ》」

「全て!絶ち斬る!」

 剣の軌跡は弧を描く赤い光となり、衝撃を打ち消す。

「《第一拘束解除、魔力充填開始》」

 レニーの詠唱は続き、塞がれた砲門が蓮の花弁のように開く。

「《制御弁解放、魔力収束・詠唱開始ーー》」

 閂のような棒が砲門から抜け出し、ゴトンと重い音を立てて落ちる。

「《空を焦がす、竜の息吹よ》」

 蝶の群れを振り払い、青年は駆ける。

「《地を焼き尽くす、その瞋恚の焔よ》」

 メルセンの攻撃は激しさを増す。

「《海を割り、そして沸かす憤激よ》」

 青年は幾度も斬撃を放ち、その全てを相殺する。

「《今ここに、その一欠片を齎せ》」

 レニーの体が凄まじい光に包まれる。

「《放て!滅却の光を!》」

 彼女は消えそうな意識を振り絞って最後の句を詠む。

「《二式魔力収束波動砲!発射!》」

 無音の空間には爆炎と光が広がった。
メルセンが展開した森林を滅却の光が包む。

 それは竜が放つ極光の再現、およそ人間が生身で制御しうる最上位の火力。
この暴力の前には、人は抗う事叶わなず倒れ臥すだろう。

 光の暴虐はその先を全て焼き尽くした。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 全てが収まった頃、残照の中に立ち上がる影が一人。

「クソ、オドカシヤガッて」

 立ち上がったのはふらついたメルセンだった。
付近に倒れている青年に歩み寄る。

「コンドこそ、アソビは 」

「《捻り穿て鉄杭》」

 メルセンの背中に突き刺さる何か。

「丁度いい所に落ちてた」

 メルセンが振り返ると、レニーが無くした筈の左腕を突き立てていた。

「お、おい、マテ、今俺は」

「あれー、きこえないなー《爆ぜろガラクタ》」

 そう言ってレニーは左腕を起爆した。
メルセンは崩れ落ち、そして、勝者を告げる鐘が鳴る。

「本当、無駄に頑丈」

 身体のほとんどを欠損したレニーが勝者となった。
広間の景色砕けるように崩れ、元の暗い空間に戻っていく。

「《土精よ、我が望む組み立てを》」

 レニーはメルセンが落とした杖を口で咥え、即席の体を作り上げた。

「引き際は……大事」

 彼女はボロボロになったメルセンと、青年を引き摺って、壁に空いた大穴から去って行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「け、決着!勝者、生徒陣営!!こいつぁ驚いたぜ!まさか腕が変形して大砲になるなんてな!こりゃいいエンタメですわぁ!」

 思わずテンションが高くなってしまった。
殲滅とか言ってたから不味いかと思ったけど大丈夫だったし、先生も回収していってくれて良かった。

 回収、回収か……そうか、そもそも犠牲者が出ない形にすれば良いじゃん。

《なあ、小娘。強すぎる守護者はいなくなった。だがな、もう一度聞くが、ここでそんなに喜んでいいのか?》

 いや、肉塊は単純で純粋な子だ、私を疑ったりしない。

「クドゥリュー様、守護者、負けて、しまい、ました…」

 振り返るとシュンとしたような様子の肉塊。

「なぜ、強気でいられる、のですか?」

《それみたことか》

 大丈夫だ、問題ない。

「逆に考えるんだ。今回の失敗は我々に確かな情報を与えたと。対策はより我々は強くなれると!大丈夫!また新しい奴を捕まえよう!そ、それより上に上がった奴らをどうにかしないと!」

「そう、ですね、落ち込む、より、次、です」

 触手の腕を固く握りしめている。
別に頑張らなくてもいいんやぞ。

 最初の守護者スルーした連中には頑張って上に上がって貰わねば。

「大丈夫、私にいい考えがある!」

《そう言う時は大抵ろくな事にならんのだ》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一族に捨てられたので、何とか頑張ってみる。

ユニー
ファンタジー
魔法至上主義の貴族選民思想を持っている一族から、魔法の素質が無いと言う理由だけで過酷な環境に名前ごと捨てられた俺はあの一族の事を感情的に憤怒する余裕もなく、生きていくだけで手一杯になった!知識チート&主人公SUGEEEE!です。 □長編になると思う多分□年齢は加算されるが、見た目は幼いまま成長しません。□暴力・残虐表現が多数発生する可能性が有るのでR15を付けました□シリアルなのかコメディなのか若干カオスです。□感想を頂くと嬉しいです。□小説家になろうに投稿しています。 http://ncode.syosetu.com/n8863cn/

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...