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学園生活(カッコカリ)
第27話 いつもの能力検査
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クリンはうんざりしていた。
「では、アドルノ寮の皆さんは前に出てきてください。……なるべく器具は壊さないように」
この日、広々とした修練場に各寮から生徒達が集められていた。毎年行なっている能力検査である。
裁定の剣とは役割が異なり、この検査はどの程度成長をしたか確認する為に、いくつかの測定で見るもの為のものだ。
仕事を押し付けられるのは、いつもの事だと許容していたクリンだが、"手に負えない隔離グループ"のアドルノ寮の世話となると話は違ってくる。
「今日の測定の最後は、魔力量を測りますよ」
「はい!はい!わたしやるわ!」
出て来たのは校長の愛娘、レモナ。頭が痛くなるトラブルメーカー。
彼女が目立ちたがり屋な上に我儘なのを十分承知しているクリンは、順番を無視しようが、今更注意しない。
「好きにどうぞ……」
「いいのね!!……破ぁッ!」
魔力量を測るのには、貯蔵晶という魔導具を使い目盛りで判断する。
しかし、レモナが触れた貯蔵晶はあっという間に限界まで魔力が充填され--爆ぜた。
「……はい、一つ目」
この寮の生徒で貯蔵晶を"破壊しない"生徒は平凡な一年生くらいのもの。その後もレモナの元に貯蔵晶の亡骸が積み上がっていく。
「……もういいですよ」
「まだいけるわ!」
「…もう皆さん十分驚きましたよ」
「そ!じゃあいいわ!」
レモナは満足げに戻って行った。
他の寮の一年生達は今見たものが信じられないような顔をしていた。この後しばらくは。
その後も殆どの上級生が目盛りの限界を示すか、何個か破壊した。彼らはとても満足げだったが、学校には非常に迷惑な話だ。クリンは無意識のうちに費用を計算していた。
「すみません?次いいですか?」
レモナの所為で名乗り出たものから測定する事になった中、わざわざ確認してきたのはモモ・ハノーバーだった。
「え、ええ、大丈夫ですよ」
彼女の家業の関係で前から見知った生徒だ。確かそれほど魔力量も多く無かった筈と、クリンは思い出していた。
結果も予想通り一年目の生徒にしては少し多い程度。モモにとってはあまり喜ばしい結果でなかったが、クリンには何となく安心できる結果だった。
「あんまり多くないですか…?」
「そ、そんな事ありませんよ!他の子達がどうかしてるだけで……!」
他の子達、そう言って周りを見たときにクリンは気がついた。アドルノ寮の生徒が少ないのはいつもの事だが、新入生が妙に少ない。
「モモさん?他の新入生の子達は何処にいるのか知りませんか?」
「えっ、いや、その…」
「どうしたんですか?」
モモの顔色はみるみる悪くなっている。明らかに何か知っていそうな様子だった。
「気がついたら……いなくなってたんです」
クリンはまたか、と思っていた。アドルノ寮の悪しき伝統とでもいうべきだろうか、寮生達は何かしらの洗礼を新入生達に浴びせている。
例えば優秀な同期をけしかけたり、自ら襲撃したり、地下迷宮に放置したり。そうして、大体の生徒が二ヶ月もしないうちに退学していく。
残るのは優秀な生徒か、頭のネジが外れたような者達だ。ただ優秀な事には変わりなく、悪名と共に名声もあるので口出しがし難いのが現状だった。
何故か大元のエルマイス学園側は非難されていない。
クリンは大方、そこの卒業生にどんな反応をされるかわからない、という恐怖の所為なんじゃないかと考えていた。
最初は驚いていた下級生達も次第に飽きて帰り始め、人もまばらとなった頃、その生徒はふらりと現れた。
「わたしが最後かな」
その娘はフーカ・フェリドゥーン。裁定の儀式でクリンに長期休暇を決意させた張本人である。
クリンはあの後に聞いた同僚の言葉を思い出していた。
彼女は、どうやらこの学園に来るまで魔力検査をした記録がなく、貴族枠で筆記試験は免除されているというものだ。
同僚が何故それを知っていたのかは分からないが、裁定の儀式での不可解な行動は恐らく試験の類になれていない所為なのだと勝手に納得していた。
「……これは飛んだりしませんか?」
飛んでいるのはその意味不明な質問だとクリンは言いたかった。
「え、あの、どれの事ですか?」
「この魔導具の事です」
「……安心してください、飛びませんよ」
クリンはこれがもし飛びだしたら辞職しようと決意した。
「そうですよね、魔力を込めればいいんですね…?」
「はい、よろしくお願いします」
再三確認する姿は、自分の能力を表す事を躊躇っているように映った。
もしかすると最後に来たのも周りの人間に見られたくないからなのではないだろうかとクリンは考える。
実際はイヴァルアスと話しているだけだったり、寝坊して来ただけなのだが、そんな事は知る由もない。
「結果は人それぞれです、誰かと比較したりしませんので恥じる事はありません。気にせずどうぞ。」
「……はい!わかりました!思いっきり行きます!」
フーカの顔は明るくなった。クリンとしてはそれ程真剣に言ったつもりは無かったが、珍しく事務仕事より教師らしい事が出来たのではないかと、思っていた。
それが仇になるとも知らずに。
《オオォォォォォォ》
奇妙な音が修練場に響いた。それは怨嗟、そして瞋恚の声であった。そこにあったのは冥界の顕現。全てを覆い尽くす暗黒。一切の光明無い混沌。
それは形を持っていた。生ある者を亡者の参列へと引き摺り込むべく、四方へ蠢く悍ましい腕。それらは全ての生徒を集めてもあまりある修練場に満ち満ちていた。
クリンはへたり込みそうになった、今まで生きてきた中で見た何よりも、恐ろしいモノに思えたからだ。
その異常な光景は、ほんの僅かな時間で姿を消した。それを知覚できた人間は殆どいない。魔力視を集中していたクリンを除いて。
彼女は人間にしては魔力視に優れていた故に、不幸にもそれが魔力光の類のモノだと理解できてしまったのだ。
「爆発はしないかー」
フーカはのんびりした口調でそういった。
他の生徒にもおかしな様子はない。
異常な風景を見たのは自分だけなのだと気付かされた。
「先生?どうしたんですか?」
フーカの呼びかけで、我に返るクリン。
もし、今の魔力光が彼女のものだとしたら--そんな思いがよぎり、慌てて貯蔵晶の目盛りを見る。
しかし、そこには似ても似つかない綺麗な紫色の魔力光が目盛りの9割を指していた。つまりは彼女の色は先程の悍ましい何かではないという事になる。
「もういいですか?」
「え、あ、はい」
フーカはそそくさと帰って行く。
「先生さようならー」
帰っていく他の子供達が無邪気に挨拶をする。
「え、ええ、また明日」
今この修練場に残っていたのは、遅れてきた生徒ばかりだったが、その彼らも測定を終え、寮へと戻って行く。
「さて、片付けますか」
非力にも関わらず、片付けまでさせられるクリンは、自らを奮起させるために誰に言うでもなく言う。
「《さあ、元の姿を思い出して》」
回復魔術を破壊された器具たちに掛けていく。彼女が任されている理由の一端は、無機物までも、ある程度は元通りに直せるから、というのも理由であった。
「ん?あれ?」
しかしほとんどの器具に魔術が効かず、修復が出来ない。
どうやら本格的に不調のようだ。
本当に、暫く休暇を貰って島国にでも行くべきだろうか、そんな事を考えたクリンは、気分を入れ替えようと修練場の外へ出る。
「サボりですかい?クリン先生?」
見知った老人だった。
「違いますから!……あれ用務員さん?腰はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、わしゃ、頑丈じゃからな。伊達に人の倍は生きとらんわい、全部話し終わるまでは死んでたまるかよ」
「はいはい、悪竜を見たって話でしょう?昔から何度も聞いてますって」
「信じなくとも構わんさ……もうどれほど前の事かも覚えとらんしな」
「いつまでも現役なんじゃないんですか?」
「くははっ!お子様だったクリンの嬢ちゃんに言われるようじゃ、ヤキが回ったかな」
「本当にもう……いやヤキが回ったのは私の方か」
「どうしたんじゃ?まあ、わしの話でも聞いてーー」
老爺が話し始めた瞬間、貯蔵晶はまるで思い出したように爆散した。修練場に残っていたもの全てが。
「えっ」
「おお、そうだ!あの光だ!」
クリンは修練場から光の柱が伸びているのを見た。それは老爺がかつてみた極光と同質のもの。
魔力視を使わなくてもはっきり見えるほどの奔流。天高く伸びる光の柱は、魔導王国の外からでも見え、まるでその力の持ち主の復活を告げるように、煌々と輝いた。
「では、アドルノ寮の皆さんは前に出てきてください。……なるべく器具は壊さないように」
この日、広々とした修練場に各寮から生徒達が集められていた。毎年行なっている能力検査である。
裁定の剣とは役割が異なり、この検査はどの程度成長をしたか確認する為に、いくつかの測定で見るもの為のものだ。
仕事を押し付けられるのは、いつもの事だと許容していたクリンだが、"手に負えない隔離グループ"のアドルノ寮の世話となると話は違ってくる。
「今日の測定の最後は、魔力量を測りますよ」
「はい!はい!わたしやるわ!」
出て来たのは校長の愛娘、レモナ。頭が痛くなるトラブルメーカー。
彼女が目立ちたがり屋な上に我儘なのを十分承知しているクリンは、順番を無視しようが、今更注意しない。
「好きにどうぞ……」
「いいのね!!……破ぁッ!」
魔力量を測るのには、貯蔵晶という魔導具を使い目盛りで判断する。
しかし、レモナが触れた貯蔵晶はあっという間に限界まで魔力が充填され--爆ぜた。
「……はい、一つ目」
この寮の生徒で貯蔵晶を"破壊しない"生徒は平凡な一年生くらいのもの。その後もレモナの元に貯蔵晶の亡骸が積み上がっていく。
「……もういいですよ」
「まだいけるわ!」
「…もう皆さん十分驚きましたよ」
「そ!じゃあいいわ!」
レモナは満足げに戻って行った。
他の寮の一年生達は今見たものが信じられないような顔をしていた。この後しばらくは。
その後も殆どの上級生が目盛りの限界を示すか、何個か破壊した。彼らはとても満足げだったが、学校には非常に迷惑な話だ。クリンは無意識のうちに費用を計算していた。
「すみません?次いいですか?」
レモナの所為で名乗り出たものから測定する事になった中、わざわざ確認してきたのはモモ・ハノーバーだった。
「え、ええ、大丈夫ですよ」
彼女の家業の関係で前から見知った生徒だ。確かそれほど魔力量も多く無かった筈と、クリンは思い出していた。
結果も予想通り一年目の生徒にしては少し多い程度。モモにとってはあまり喜ばしい結果でなかったが、クリンには何となく安心できる結果だった。
「あんまり多くないですか…?」
「そ、そんな事ありませんよ!他の子達がどうかしてるだけで……!」
他の子達、そう言って周りを見たときにクリンは気がついた。アドルノ寮の生徒が少ないのはいつもの事だが、新入生が妙に少ない。
「モモさん?他の新入生の子達は何処にいるのか知りませんか?」
「えっ、いや、その…」
「どうしたんですか?」
モモの顔色はみるみる悪くなっている。明らかに何か知っていそうな様子だった。
「気がついたら……いなくなってたんです」
クリンはまたか、と思っていた。アドルノ寮の悪しき伝統とでもいうべきだろうか、寮生達は何かしらの洗礼を新入生達に浴びせている。
例えば優秀な同期をけしかけたり、自ら襲撃したり、地下迷宮に放置したり。そうして、大体の生徒が二ヶ月もしないうちに退学していく。
残るのは優秀な生徒か、頭のネジが外れたような者達だ。ただ優秀な事には変わりなく、悪名と共に名声もあるので口出しがし難いのが現状だった。
何故か大元のエルマイス学園側は非難されていない。
クリンは大方、そこの卒業生にどんな反応をされるかわからない、という恐怖の所為なんじゃないかと考えていた。
最初は驚いていた下級生達も次第に飽きて帰り始め、人もまばらとなった頃、その生徒はふらりと現れた。
「わたしが最後かな」
その娘はフーカ・フェリドゥーン。裁定の儀式でクリンに長期休暇を決意させた張本人である。
クリンはあの後に聞いた同僚の言葉を思い出していた。
彼女は、どうやらこの学園に来るまで魔力検査をした記録がなく、貴族枠で筆記試験は免除されているというものだ。
同僚が何故それを知っていたのかは分からないが、裁定の儀式での不可解な行動は恐らく試験の類になれていない所為なのだと勝手に納得していた。
「……これは飛んだりしませんか?」
飛んでいるのはその意味不明な質問だとクリンは言いたかった。
「え、あの、どれの事ですか?」
「この魔導具の事です」
「……安心してください、飛びませんよ」
クリンはこれがもし飛びだしたら辞職しようと決意した。
「そうですよね、魔力を込めればいいんですね…?」
「はい、よろしくお願いします」
再三確認する姿は、自分の能力を表す事を躊躇っているように映った。
もしかすると最後に来たのも周りの人間に見られたくないからなのではないだろうかとクリンは考える。
実際はイヴァルアスと話しているだけだったり、寝坊して来ただけなのだが、そんな事は知る由もない。
「結果は人それぞれです、誰かと比較したりしませんので恥じる事はありません。気にせずどうぞ。」
「……はい!わかりました!思いっきり行きます!」
フーカの顔は明るくなった。クリンとしてはそれ程真剣に言ったつもりは無かったが、珍しく事務仕事より教師らしい事が出来たのではないかと、思っていた。
それが仇になるとも知らずに。
《オオォォォォォォ》
奇妙な音が修練場に響いた。それは怨嗟、そして瞋恚の声であった。そこにあったのは冥界の顕現。全てを覆い尽くす暗黒。一切の光明無い混沌。
それは形を持っていた。生ある者を亡者の参列へと引き摺り込むべく、四方へ蠢く悍ましい腕。それらは全ての生徒を集めてもあまりある修練場に満ち満ちていた。
クリンはへたり込みそうになった、今まで生きてきた中で見た何よりも、恐ろしいモノに思えたからだ。
その異常な光景は、ほんの僅かな時間で姿を消した。それを知覚できた人間は殆どいない。魔力視を集中していたクリンを除いて。
彼女は人間にしては魔力視に優れていた故に、不幸にもそれが魔力光の類のモノだと理解できてしまったのだ。
「爆発はしないかー」
フーカはのんびりした口調でそういった。
他の生徒にもおかしな様子はない。
異常な風景を見たのは自分だけなのだと気付かされた。
「先生?どうしたんですか?」
フーカの呼びかけで、我に返るクリン。
もし、今の魔力光が彼女のものだとしたら--そんな思いがよぎり、慌てて貯蔵晶の目盛りを見る。
しかし、そこには似ても似つかない綺麗な紫色の魔力光が目盛りの9割を指していた。つまりは彼女の色は先程の悍ましい何かではないという事になる。
「もういいですか?」
「え、あ、はい」
フーカはそそくさと帰って行く。
「先生さようならー」
帰っていく他の子供達が無邪気に挨拶をする。
「え、ええ、また明日」
今この修練場に残っていたのは、遅れてきた生徒ばかりだったが、その彼らも測定を終え、寮へと戻って行く。
「さて、片付けますか」
非力にも関わらず、片付けまでさせられるクリンは、自らを奮起させるために誰に言うでもなく言う。
「《さあ、元の姿を思い出して》」
回復魔術を破壊された器具たちに掛けていく。彼女が任されている理由の一端は、無機物までも、ある程度は元通りに直せるから、というのも理由であった。
「ん?あれ?」
しかしほとんどの器具に魔術が効かず、修復が出来ない。
どうやら本格的に不調のようだ。
本当に、暫く休暇を貰って島国にでも行くべきだろうか、そんな事を考えたクリンは、気分を入れ替えようと修練場の外へ出る。
「サボりですかい?クリン先生?」
見知った老人だった。
「違いますから!……あれ用務員さん?腰はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、わしゃ、頑丈じゃからな。伊達に人の倍は生きとらんわい、全部話し終わるまでは死んでたまるかよ」
「はいはい、悪竜を見たって話でしょう?昔から何度も聞いてますって」
「信じなくとも構わんさ……もうどれほど前の事かも覚えとらんしな」
「いつまでも現役なんじゃないんですか?」
「くははっ!お子様だったクリンの嬢ちゃんに言われるようじゃ、ヤキが回ったかな」
「本当にもう……いやヤキが回ったのは私の方か」
「どうしたんじゃ?まあ、わしの話でも聞いてーー」
老爺が話し始めた瞬間、貯蔵晶はまるで思い出したように爆散した。修練場に残っていたもの全てが。
「えっ」
「おお、そうだ!あの光だ!」
クリンは修練場から光の柱が伸びているのを見た。それは老爺がかつてみた極光と同質のもの。
魔力視を使わなくてもはっきり見えるほどの奔流。天高く伸びる光の柱は、魔導王国の外からでも見え、まるでその力の持ち主の復活を告げるように、煌々と輝いた。
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