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地下迷宮と馬鹿騒ぎ

第16話 捜査と突入

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「何だこれ、おーいレイマンの旦那ー?生きてんのかー?」

「やはり私の予感は正しいぞ。これは事件だ!」

 当たって欲しくない予感だ。
事件なんざいくら起きてくれてもいい。
俺が関わらないなら。

「じゃあ、レイマンの店が原因不明の爆発、店主は死亡って事で」

「死んでねえぞ!勝手に殺すんじゃねぇ!」

 物陰からボロボロのレイマンが瓦礫の上をヨタヨタと歩いて来た。
あのレイマンがこんな姿になるとは、余程のことだろうな、やはり関わりたくない。

「殺人事件と爆発事故だったらどっちの方が点数が高いだろうか?ロイド三等監視官?」

「そりゃいうまでもありませんな」

 どっちでも問題にならない。
ここは地上ではないからだ。
普段から起きている事をいちいち問題に取り上げるか?取り上げないだろう。

「ロイドじゃねえか、全くご苦労なこった。いつも詰所で寝てるお前が何で出て来てるんだ?」

「こちらのお嬢様がね。なんでも二階級特進したいそうなんで」

「これまた訳のわからんやつが来たもんだな。生憎店は開店休業だ。お前らの用のあるものなんざここにはねぇよ」

 そりゃそうだろうな、俺にも用はない。
もしあるのなら、この頭の愉快なお嬢様を黙らせる魔導具が欲しいが。

「知っているぞ!お前には何か…そう何かあるだろう!」 
 
 安いカマかけだ、まあ腕っ節だけで頭はすっからかんのレイマン程度だったら引っかかるだろう。

「今日は勘違いで酷い目にあってんだ。そんなカマかけ、引っかかるかよ」

珍しいこともあるもんだ、いつものなら、深刻そうに言っておけば真に受けるだろうに。

「…いや!何かあるはずだ!私は運がいいからな!」

「なあ、お嬢様?この街で後ろめたい事がない住人なんざ、いないんじゃあないですかね?」

「絶対に何かあるはずだ!」

 聞いちゃいねぇ、こいつを監視官に任命したやつの顔を見てみたいな。

「めんどくせぇなぁ…そんなに手柄が欲しいんなら、今からバックリーのどこにでも行ってこいよ!」

「ほう?それは何故だ?」

「"両刃の斧"だ、後は言わなくてもわかるな」

 今一番聞きたくない名前だった。
この間の始末が如何に面倒だったか思い出される。
肉片の回収とかを何故監視官がやらないといけない?

「おぉっと、俺は用事を思い出したぞ、報告書のチェックをしないとなぁ、今すぐに帰らないとなぁ」

「逃がさんぞロイド三等監視官?両刃の斧というのは何だ?」

 喜々とした表情のティール。
俺をしっかり掴んで離さない。痛みすら感じる。

「絶対に関わっちゃいけない奴っすよ、俺らじゃ手に負え…」

「ほう?どうやらツキが回ってきたようだな!」

「はあ?」

「捕獲するぞ。その何とやら」

こうして俺の監視官としての最後の仕事が始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 商館が遠くに見えましたが、入り口の門は閉ざされています。

「見てください!閉まってますよ!レモナ様!」

「い…まっ…」

 風でレモナ様の声が聞こえません。
ゴブリンのおじさんに乗って滑走しているのであっという間です。
でも私とレモナ様の魔術で無理やり走らせているので急には止まれません。
ここは、レモナ様が仰っていた通りに、ご挨拶差し上げないと。

「《氷精の礫を!息吹を!ここに!》」

「え?」

 扉を吹雪と氷塊で吹き飛ばしました。
これで商館の方も気がついてくれるでしょう。
そのまま突入します。

「こんなものですか?レモナ様」

「え?……あ。そうね!」

「お邪魔しまーす」

ガラ空きになった入り口から私たちは堂々と入りました。

「これが"ダイナミックエントリー"…なのですね!」

「そ、そうね!」

 レモナ様も腕を組んで頷いています。
強者になった気分です。楽しくなって来ました。
今ならフーカさんも倒せるような気がします。

 扉の先にはボロボロになった人がいました。
どうしたのでしょう、まるで礫で打たれたような姿ですが。

「ぅ…ぐっ、お前ら何者だ!」

「何者と聞かれると答えに困りますねぇ、何と答えたらよろしいでしょうか?レモ」

口を塞がれました、少し苦しいです。
何か間違った事いいましたかね?

「わ、私達は問題を複雑にしたいわけじゃないわ!お、落ち着きなさい!」

「これが落ち着いてられるか!そ、そいつはなんだ!なんでそんな酷い事ができる!」

 足元には血塗れのゴブリンおじさん。
おかしいですね、最初はこんなじゃなかったのに。
困りました、治癒魔術は得意じゃないですが…

「お、応急処置を…《名も無き精霊よ、その者を癒せ…》」

出血を抑え……あっ。おじさんの腕が変な方向に…!わ、私は何もしていません!見てません!どうしましょう!大変です!

「モモ!なんて事するの!」

「お、脅しには屈しない!」

「だ、大丈夫です、今直します!《名も無き精霊よ、その者を癒せ…》」

目を瞑って、落ち着いて、深呼吸してもう一度。

 ゴキゴキと嫌な音がしました。
なんの音でしょうか?目を開けたくありません。
もう何も聞こえません、わたしわるくないです。

「も、モモォーー!!」

「これ程までに恐ろしい魔術師は見たことがない…!殺さずしてここまで痛めつけるとは…!」

「ち、ちがうわ!こ、この人は……誰だっけ?あー、モモ?この人の物を…」

「あ、これを受け取りまして!」

 私の鞄にしまっていた杖を取り出して、よく見えるように掲げます。
きっとこれで誤解も解けてくれるはずです。

「なっ!"黒鉄の杖"!そうか、ピーターズバーグの残党かお前ら!」

「へ?」

何やら不穏な空気です。

「くたばりやがれ!スベトラーナの犬め!」

 杖を構えて魔術を打とうとしています!
これは、失敗してしまったかもしれません!
早く防がないと!

でも、唱える前に商館の人は氷漬けになっていました。
手元にあったおじさんの杖が、ほんのりと魔力光を帯びています、勝手に魔術が出ていたみたいです。
何故でしょう……私は詠唱してないのに。

「モモ!ダメよ!手荒な真似しちゃ!」

レモナ様が固まった商館の人と、私との間に走って庇います。

「つ、杖が勝手に……!わ、わたしじゃ…」

奥の扉が開いて、また人がやってきました。

「な、なんだこれはっ!」

この状況をどうやって説明しましょう……いえ、私は今すぐにでも逃げ出したい気分です。
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