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元々私のものですが何か

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 王宮に設けられた私の執務室に、二人の客人が押しかけていた。

「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」

 その一人、金髪で小太りの婚約者、モーケンが私に怒鳴る。

「え、良いのですか?私が出て行っても」

 書類に目を通していた私はついうっかり、嬉しそうな声を出してしまう。

「勿論です!貴女のような金の亡者がこの国は残っていることが恥です!」

 派手な化粧に豪華なドレスに身を包んだ聖女のリンフが私を指差してそう言う。

「教会に献金していた私にそんなこと言うのですか?聖女とあろう人が?」

「献金とは名ばかりの買収ではありませんか、貴女が教会に影響力を持ちたいだけでしょう!」

「……ものは言いようですね。何でもよろしいですが、良いのですね?モーケンにリンフさん」

「ああ!婚約も解消だ!これ以上のお前に王宮の財政を握らせるか!」

「握らせるって、私は国のために働いているだけなのによくそんな……いえ、まあそんなにおっしゃるなら仕方ありません。今日限りでお暇を頂きましょう。私の物は持って行きますがよろしいですね?」

「そんな物いくらでも持っていけばいい!さっさと出て行け!」

「……というわけで言質をいただきましたので、私の資産は全て持ち出させて頂きます、ブランドン、手配を」

「承知致しました」

 側に控えさせていた長身の私兵、ブランドンが黒いオールバックの頭を下げて部屋を出て行く。

「なんだ大袈裟な、お前が持っている資産など……」

「ああ、言い忘れていましたが、この国の財政は破綻していたので、これまで私の私有財産でほぼ賄っていたんですよね」

「「……は?」」

 顔を見合わせる男女。

「なので、私の財産はこの国が所有するあらゆる財産全てです」

「な、何を馬鹿な!そんなわけが……!」

「では陛下に確認されては如何でしょうか?まあ、国家の予算が全て個人から捻出されていた何て絶対に言えなかったのでしょうけど」

「す、既にこの国を掌握していたということですか!?やはり貴女は金の亡者です!教会は認めません!!」

「貴女方が認めようと認めまいと、陛下と交わした条件です。さて、今貴女の来ている服も私の私有財産にあたるのですが、如何なさいますか?今ここで返却して頂けるんですよね?」

「な、なんて理不尽な!貴女は人のこころがないのですか!?神は貴女のような行いを認めません!怒っていますよ!神は!」

「神は経済に手を触れませんよ。自己利益の追求の集積を見えざる手と呼ぶだけです」

「何を訳の分からないことを!わかるように説明しなさい!」

「貴女の頭が悪いのは私のせいじゃありませんので、どうにもできませんが、可能な限り分かりやすく説明しましょう。今、貴女ができるのは、私にお金を払ってその服を買い上げるか、全て脱いでここから去るか、です」

「く、くぅぅ!じゃあ買えば良いんでしょう!そのくらい大したことじゃ」

「では1億です」

「はぁ!?何を言ってるんだ!スミス!いくら何でもおかしいだろ!」

「おかしくありませんよ、売る側は値段を自由につけて良いんですから」

「こ、これは既に借りていた、そうだろう!借りている人間にも権利があるはずだ!そんな横暴なことが許されるわけがないんだ!」

「ではそのリース代をお支払い頂きましょうね、追って請求書をお送り致しますので確認のほど、よろしくお願いしますね」

「……くっ!」

 こうして私は島の王国から出て行くことにしました。
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