上 下
15 / 37
第二幕

06-2

しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇


 どこかの密偵であろう異国の騎士は、用件をすませるとすぐに王宮へと戻っていった。

「ルヴィ、彼に見覚えがあるのは気の所為かな?」

「さぁ、私には何のことやらさっぱりですねぇ」

 相変わらず飄々としてるように見えるが、ルヴィが何かを誤魔化しているのは、間違いが無さそうだった。

 彼が僕に隠し事をしているのはいつものことだから、嘘を言うときの癖は見慣れたものだ。

「なるほど、と言うことは知り合いか、それに近いな。しかしあの美しい目はどこかで……」

 そう、見慣れていたような気がしてならない。

「おやおや、よろしいのですか?ご主人様、ベルミダ様と言うものがありながら、しかも宦官ですよ」

 態とらしく首を傾げて聞いてくる。

 ベルミダ……彼女の事を思うと胸が締め付けられる。今まで状況を知ることはできなかったが、今の彼女は僕の為に過酷な立場に立たされているのだ。

 何としてでも助け出さなければと思えば思うほど、自分の無力さを思い知らされてきた。

 だがそれも終わるだろう、僕は光明を得たのだから。

「そう言う意味で言ったわけではないよ、だが何故だろうね、初対面のはずなのに、とても親近感があるんだ。それに何故だか勇気付けられるような気がする」

「へぇ、私でも奮起させられなかったご主人様をやる気にさせましたか。なるほどなぁ。……ちょっと興味が湧いてきましたよ」

 ……ルヴィの悪い癖がまた始まったらしい。

「別に僕は咎めはしないけど、ほどほどにしておくんだよ。彼にはこれから頑張ってもらわないとならないんだ」

「なに、ちょっとした身辺調査ですよ。それに本当に始末しなくていい相手なのか分かりませんしね」

 隠し持ったナイフを出したり引っ込めたりして音を鳴らす。

「……だいたい君、女の人の方が好きって言ってなかったかい?」

「まさか少年を愛する事を咎める方はいらっしゃらないでしょう。"僕"だってたまには逆の立場になってみたいものなのですよ、ご主人様。"少年は婦人のように愉悦をともにすることはないのであって、愛欲に酔うものを素面でながめるもの"なのですから」

 少年愛か……いつも自分が対象にされているからと言いたいんだろうか。

 宦官でもないのに好き好んで女装している癖によく言う。

「嫌われないように気を付けてくれよ。彼が協力してくれないと道は遠退くばかりなんだからな」

「……いえいえ、なにを仰いますかご主人様、簡単な方法はいつだってすぐ側にあるものですよ」

 耳元で囁き、絡みついてくる彼の手を払いのける。

「……簒奪はしない。いいね。暗殺もだ。あんなザマでも唯一の肉親であることには変わらないんだからな、僕を天涯孤独にするつもりか?」

「全く、ここまで腑抜けになるとは。ナローシュよりもベルミダ様の方が憎いです」

 ささっと離れ、少しムクれた顔をしたルヴィは部屋の窓側まで歩く。

「言ってくれるな、別に彼女が悪いわけじゃない」

「……ま、構いません。私はご主人様が元気になれば何でもいいですからー。さて、彼に夜這いでもかけて──」

「あまり、僕を困らせないでくれるか?」

 新しい味方に余計な事をしに行こうとした従者の腕を掴み、壁へ押し付ける。

「……そういうの、ズルイですよ」

 上目遣いで見てくるその顔は少女にしか見えない。

「何の事かな?」

「……なんですか。離してください。ちょっと遊んでくるだけです」

「いいや、今日はここにいてもらう」

「……独り寝は寂しいのですか?」

 そう言ってニヤリと微笑む少女のような顔。

「それでもいい、頼むから余計な事はしないでくれ……あと、ルヴィ、僕にそういう趣味はないと何度言ったら……」

「仕方ありませんねー!ご主人様がどうしてもというので、今日は特別に余計な事はしないでおきます!」

「……ああ、もう何でもいいよ」

 この面倒臭さが無ければ従者としては……いや、優秀とも言い難いな。

 待っていてくれベルミダ、必ずや君を助け出してみせるから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...