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第二幕
05.
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適当に夜道を流し歩いて、王宮に戻った私は彼女と別れ、部屋に戻るフリをしてふたたび抜け出した。
「やっと来ましたね、王宮を抜け出すのはそんなに大変だったんですか?」
小屋の扉を叩くと、偽花売り娘が顔を出してそう言った。
「……女性と散歩していたもので」
「これは、まあ。宦官さんも隅に置けませんなぁ」
……?何でだろう?この子には女だと言ったはずなんだけどな。
「あの、私は……」
「でしたよね?宦官さん」
何故か念押ししてくる……何か不味いことでも……あ、そうか。流石にアルサメナ様には気付かれるかもしれないからね。
「ああ、そうでした」
流石に女と言って私が出てくれば、正体はすぐにバレてしまうでしょう。
まあ、アルサメナ様にバレて何か問題があるかと聞かれれば、特に無いのだけれど、この従者みたいな密偵が何処にいるかも分からないし。
……もしかして、あのお嬢さんは、ナローシュ側の密偵なんじゃ……あのやたら目を見てきたり、伺ってくるような……いや流石に考えすぎかな。
「どうぞ、どうぞ、中へ」
促され、私の思考はそこで途切れた。
部屋で待っていた王弟殿下を見て、驚いてしまったから。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……やあ。君が隣国からの来たって言う密偵君かな?」
「はい、アルサメナ様。……何かお疲れの様子ですが、ご病気でも……?」
王弟殿下は、私の記憶と変わらず、ナローシュと同じ金色の髪に金色の瞳で、整った顔立ちをしていたけれど、今日は随分とやつれた顔をしていた。
目には熊が出来ているし、以前は全身に活力が満ちたような筋骨隆々の青年だったのに、今では少し萎んだように減量していた。
それでも普通の人と比べれば、筋肉の塊である事には変わらないのだけれど。
「ご主人様は追放されてからというもの、誰からも相手をされず、すっかり腑抜けになったのですよー」
「……ルヴィ、幾ら僕の身分が低くなったからと言っても、僕はまだご主人様なんだけどな」
「ええ、勿論!ですから誰にも相手されないご主人様の為に女装なんてしてるんじゃないですか!」
「……え」
女装……?え?この子が……?どう見ても女の子にしか見えないけど……というか、男の子にあんな事されそうになったの?
……というか、女の人でも気にしないってそう言うことだったんだ。
「それは君の個人的な趣味だろう……ああ、いや申し訳ないお客人。単に僕は……疲れているだけなんだ。自分の不甲斐なさにね」
「お労しい事です王弟殿下」
「今殿下と呼ぶのは君くらいだよ、僕は政争に負けたとしか思われていないからね。まさかナローシュが人々の扇動まで出来るとは。……いや、アレは誰かの入れ知恵じゃないかと思うけどね」
「それで、どうしますご主人様。せっかく王宮へ簡単に出入りできる人間を捕まえたのですから、サクッと暗殺してきてもらいますか?」
いや、別に流石に殺したいほど憎いわけじゃないんだけどね。
私を捨てた事を後悔させてやりたいだけだし。
命まで奪ったら何の意味もない。
しかし、この従者はやっぱり危険だ。もしアルサメナ様と一緒に追放されてなかったら多分ナローシュ様は暗殺されてただろう。
アルサメナ様には悪いけれど、誰の命も落とさず穏便に済ますなら結果としては、間違ってなかったのかも知れない。
まあ、ナローシュがそれをしようと思った理由が馬鹿馬鹿しいことを、全く棚に上げれば。
「王弟殿下、先ずは、ベルミダ様に連絡を取ってみてはいかがでしょうか?」
とにかく、この二人をくっつけることがナローシュを一番悔しがらせる事が出来るだろう。
そうして、失意の中にある彼の前に現れて私は言うのだ。
私を捨てるからこうなるのだと。
「やっと来ましたね、王宮を抜け出すのはそんなに大変だったんですか?」
小屋の扉を叩くと、偽花売り娘が顔を出してそう言った。
「……女性と散歩していたもので」
「これは、まあ。宦官さんも隅に置けませんなぁ」
……?何でだろう?この子には女だと言ったはずなんだけどな。
「あの、私は……」
「でしたよね?宦官さん」
何故か念押ししてくる……何か不味いことでも……あ、そうか。流石にアルサメナ様には気付かれるかもしれないからね。
「ああ、そうでした」
流石に女と言って私が出てくれば、正体はすぐにバレてしまうでしょう。
まあ、アルサメナ様にバレて何か問題があるかと聞かれれば、特に無いのだけれど、この従者みたいな密偵が何処にいるかも分からないし。
……もしかして、あのお嬢さんは、ナローシュ側の密偵なんじゃ……あのやたら目を見てきたり、伺ってくるような……いや流石に考えすぎかな。
「どうぞ、どうぞ、中へ」
促され、私の思考はそこで途切れた。
部屋で待っていた王弟殿下を見て、驚いてしまったから。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……やあ。君が隣国からの来たって言う密偵君かな?」
「はい、アルサメナ様。……何かお疲れの様子ですが、ご病気でも……?」
王弟殿下は、私の記憶と変わらず、ナローシュと同じ金色の髪に金色の瞳で、整った顔立ちをしていたけれど、今日は随分とやつれた顔をしていた。
目には熊が出来ているし、以前は全身に活力が満ちたような筋骨隆々の青年だったのに、今では少し萎んだように減量していた。
それでも普通の人と比べれば、筋肉の塊である事には変わらないのだけれど。
「ご主人様は追放されてからというもの、誰からも相手をされず、すっかり腑抜けになったのですよー」
「……ルヴィ、幾ら僕の身分が低くなったからと言っても、僕はまだご主人様なんだけどな」
「ええ、勿論!ですから誰にも相手されないご主人様の為に女装なんてしてるんじゃないですか!」
「……え」
女装……?え?この子が……?どう見ても女の子にしか見えないけど……というか、男の子にあんな事されそうになったの?
……というか、女の人でも気にしないってそう言うことだったんだ。
「それは君の個人的な趣味だろう……ああ、いや申し訳ないお客人。単に僕は……疲れているだけなんだ。自分の不甲斐なさにね」
「お労しい事です王弟殿下」
「今殿下と呼ぶのは君くらいだよ、僕は政争に負けたとしか思われていないからね。まさかナローシュが人々の扇動まで出来るとは。……いや、アレは誰かの入れ知恵じゃないかと思うけどね」
「それで、どうしますご主人様。せっかく王宮へ簡単に出入りできる人間を捕まえたのですから、サクッと暗殺してきてもらいますか?」
いや、別に流石に殺したいほど憎いわけじゃないんだけどね。
私を捨てた事を後悔させてやりたいだけだし。
命まで奪ったら何の意味もない。
しかし、この従者はやっぱり危険だ。もしアルサメナ様と一緒に追放されてなかったら多分ナローシュ様は暗殺されてただろう。
アルサメナ様には悪いけれど、誰の命も落とさず穏便に済ますなら結果としては、間違ってなかったのかも知れない。
まあ、ナローシュがそれをしようと思った理由が馬鹿馬鹿しいことを、全く棚に上げれば。
「王弟殿下、先ずは、ベルミダ様に連絡を取ってみてはいかがでしょうか?」
とにかく、この二人をくっつけることがナローシュを一番悔しがらせる事が出来るだろう。
そうして、失意の中にある彼の前に現れて私は言うのだ。
私を捨てるからこうなるのだと。
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