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第一幕

02.

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 強い陽射しの下に熱砂を巻き上げ、雑多な民族が入り混じった兵士の列は、捕虜を連れ、敵から奪った軍旗を掲げて続く。

 市民からは、勇ましく見えるのだろうけど、その中にいる身としては、ただただ男臭くて、砂煙が煙いだけだ。

 まあ、荒野と草原を渡るこの長旅で、散々味わったから、もう慣れたものだけれど。

「我らは戦い、すばらしき勝利を得た」

「はい将軍、大変すばらしいことです」

 初老のダリオン将軍は、私の男装にも気が付かず、偽造した私の国の推薦状を鵜呑みにして、私を側近にしていた。

 ナローシュに内緒で、安全に旅するにはこうするのが一番楽だった。

「ナローシュ様の栄光は常に増す事だろうな」

 軍楽隊が鳴らす管弦は、人々を道行く軍隊の物見に呼び集め、金管の音色は優しい調べとなって、勝利を鳴り響かせる。

「長旅ご苦労であったダリオンよ!」

 隊列は王宮の広場で止まり、兵士達は壇上で待っていた青年に跪く。

 金の髪と瞳を持つ美青年。

 ナローシュだ。相変わらず外面の対応だけは、まともに見えなくもない。

 ただ、この二年間であまり痩せなかったらしい。見た目はあまり変わらない。

「顔を上げよダリオン、お前の剣は常に勝利をもたらす、抱きしめたいくらいだ」

「全ては陛下の御名の威光あってこそでございます」

「よせ、苦労をかけた褒美として、お前の娘に、王家に等しい者の婿をとらせると約束しよう」

「恐れ多い事です、そんな大胆な夢の様なことは、考えてもみなかったことです」

 将軍の言葉は、遠回しに断りの文句を言っているように聞こえた。

「いいや、言わせてもらう!ダリオンよ此度の戦、見事であった!」

 ……でも、ナローシュには分からなかったらしい。

「……ありがたくお受けいたします、ありがとうございます。して、ナローシュ様。頼みたい事があるのですが」

「言ってみろ、可能な限り叶えてやろう」

「前へ」

 ダリオン将軍は、私を前に呼び寄せる。

「はい」

「こちらの者を近衛として推薦したく存じます」

「その者は?」

「は、隣国より友好の証として、送られてきた将校にございます。なんでも陛下の近衛、ひいては参謀として推薦すると」

「お前、名はなんと言う」

「"アリステラ"、そうお呼びください」

「……顔を上げよ」

「は!」

 歩み寄ったナローシュは、まじまじと私を見つめる。

 かなりジーッと見てくる。

 これは、バレたかな。

 ……まあ、髪の毛切って口元隠すくらいじゃ流石にバレるか。

 バレたらバレたで、普通にお祝いしてあげよう。その為に来たんだし。

「……随分と小綺麗な面構えをしているな、まるで娘のようではないか、何故顔を隠す?」

……気がついたわけじゃないんかい。

 そこは、"目元ですぐに君とわかった"とか、昔みたいに気取ったこと言って見せなさいっての……無理か。

「日の光に弱いもので」

……いや、これはフェイントで、実は気づいていた……とか?

「……まあ、よい。明日から宮殿に勤めることを許す、配属は追って沙汰しよう」

……ダメだ完全に気がついてない。

 まあ、私の男装が完璧なんだろう。

 そう言う事にしておこう。
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