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第二幕

34 エルフィン・ナイト.1◆◇

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 微かな寝息が聞こえる、俺の側に横たわり、夜の闇に眠っているその白銀の髪は、穏やかな風に揺れ、月明かりに輝きを映す。

 彼女の眠りを守る為、耳を澄まし、感覚を研ぎ澄ませる。

 東に空が白む前に、移動しなければならないだろう、起こさないようにゆっくりと。

 これは夢でも幻覚でもない、そうだったらどんなに楽だっただろう、果たして俺はいつまで偽り切れるだろうか。

 僅かに震える手を押さえ、また自分に言い聞かせる。

 朝が来れば、恐れを知らない戦士のように振る舞うことしか許されない。

 寄るべない彼女の為に。

 もう、夜明けはすぐそこで待っている。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 曇っていた空は、私が目覚めるとすっかり晴れ渡っていた。

 照りつける日差しが強く、暖かい……むしろ暑いくらい。

 風が涼しいからそこまで気にならないけど、これが夏ってやつなのかな。

 町外れを行くオルキヌスの上から、空を眺めていると、私の視界に不思議な光景が映った。

「あ!見て!オード!あれ!」

「あれは……マレルター……ラッコって言った方が分かりやすいか?」

 中空に小さな獣の群れが仰向けで漂っていた。その背中に飛沫のようなイムラーナの光が、ほんの少し見える。

「ラッコ……?飛ぶ……?」

 ラッコって飛ぶの?海に浮かぶ動物じゃなかったの?また機海獣?

「どうしてと言われてもな……アレも機海獣何だろう……多分な」

「多分?」

「あれは、誰が作ったのかも分からないし、小さ過ぎて乗れない。空を漂っているだけだ。風に流されて何処かへ行って、朝になると同じ場所へ帰ってくる……それ以外は何も分からない。勝手に増えるしな」

「増える?」

 機海獣って機械じゃないのかな、よく分かんない。

『マナ様、あれは恐らく使者です』

 足元にいたスカールがそう言った。

『何か知ってるの?』

『いいえ、ですがアレは我々と似た気配が致します。何かの目的があるのでしょう』

「スカールは何て言ったんだ?」

「あれ…スカール…仲間…似てる…だって」

「……スカール達も何者か分からないし、似たようなもんか」

『失礼な、我々はマナ様に使える鼓笛隊という明確な存在ですが』

『その鼓笛隊ってなんなんだ?』

 オードが私達の言葉で聞く。

『フカミル語が多少できる程度で……いえ、我々はマナ様の安らかな眠りを守る為にいるのです』

「安らかな眠り……ね、『じゃあ俺も鼓笛隊の仲間だな』」

 そう言ってオードは手を差し出す。

『まあ、ここまでマナ様をお守りして頂いている恩義はありますから、加えてやっても良いでしょう、見習いですが』

 応じるスカールは苦笑いだった。

「……言ってることが全部分かるわけじゃないが、言いたい事は分かるさ、まあよろしくな」

『ですが、目覚めは訪れた。こうなった以上、貴方はいずれ選ばなけらばならないでしょう』

「……?どういう意味だ……?」

『スカール?それってどういう意味なの?』

 分からなかったオードに代わって私が聞く。

『マナ様、その時はまもなく訪れる事でしょう……ですが、私から申し上げることが出来ないのです、お許しください』

 深々と謝罪するスカール。なんか誤魔化されている気がしなくもないけれど……

『……?まあ、そのうち分かるなら別にいいんだけど』

 オードが何を選ぶって言うんだろう。

 分からないことばかり。

 まあ、オードが言ったようにこれから知っていけば、大丈夫かな。

 彼が一緒なら、多分。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ん?動かねぇな……どうなってんだ……?またどっか壊れたのか?」

 旧市街、アシカの機海獣に乗ろうとした男は、石のように固まって動かないそれを不審がった。

「全く、安物はこれだから──ん?」

 突然、頭上に影が差し、見上げる男。

 彼は声を上げる間もなく、頭から珊瑚が飛びし赤い華と化した。

 旧市街の機海獣達は、取り付けられた装甲を脱ぎ捨て、空へ逃げ出して行った。

 彼らが去った後の浮島の地に、上層から続くパレードは異臭と共に来る。
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