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第二幕

22 フェイキン・イット.1◇

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 白骨を纏った青い鮫のような機海獣から、声が聞こえた。

「陛下の機体を◾︎◾︎して逃げるとは、やはり◾︎◾︎◾︎は貴殿らか?」

 中性的な凛とした声だった。向こうにも中に人がいるんだろう。

「違うな。他をあたってくれ。◾︎◾︎は第三王子の命令で行動している」

「ほう、ならば何故我々から逃げる?」

「名乗れ、話はそれからだ」

「これは失礼。私は◾︎◾︎騎士、七元徳が一人。《遁走曲フーガ》と申す。さて、こちらが名乗ったのだ、其方は?」

「……オード。ただの騎士だ」

「その名、どこかで聞いたような──」

「人違いだ。俺はマナ様の騎士。それ以上でも以下でもない。ここは行かせてもらうぞ」

「そうか──ならば役割を果たさせて貰おうか!」

 突然加速した鮫の機海獣が、私達に襲いかかる。

「掴まれ!」

 オードが咄嗟に機体を急降下させて、鮫の牙から逃れた。

「一撃躱した程度で、このフーガから逃げられると──」

「悪いが油を売っている暇はない」

 急加速して引き離そうとする。

「容易く逃げられると思うなよッ!」

 けれど相手も手練れらしく、遅れる事なく追跡して来ている。

「騎士…なんで…私達…追うの?」

「恐らく、第三王子が俺達に罪を着せている……か、他の王子達がマナ様を王座の為に利用しようとしているか、或いはその全てだ」

「なんで…私?」

「第三王子は、自分のした事を押しつけて、報復した上で権利の主張を。他の王子はマナ様を神輿にして権力を得たいんだ。……聖女はこの国の権力の象徴だからな」

「……そう」

 この国に愛着なんてないし、兄弟姉妹なんて殆ど顔を合わせた事が無い。

 そんな人達の欲望に巻き込まれたくはない。

 私にはやらなきゃならない事があるんだから──

「──それで本気で逃げているのかッ!」

 フーガとかいう人の声が響く。

 機体に掠ったのか、座席は大きく揺れる。

「くっ!まだ付いてくるか……!」

「陛下の機体とは言え、速度だけが取り柄の旧式が私の《モルス・ケルタ》から逃げられるとでも?」

「《死は確実》……か、嫌な名前だな」

 私には分からなかったけれど、オードは知っている言葉らしい。

 今思うことじゃないかも知れないけれど、オードって、やっぱり頭いいのかな、色んなこと知ってるし、私達の言葉もすぐに覚えたし。

「それが、お前達の死の名前だ!」

「冗談は寝て言え!」

 鮫の牙を紙一重で躱したオードは、さらに加速させる。

 凄まじい速度で空の景色が流れ、座席はさらに酷く揺れる。

「わっ、お、オード!」

「巻くまで我慢してくれ!」

 もうのんびり風景を眺めている余裕なんて──ん?

 追手の機海獣から大量の何かが放たれるのが見えた。

 それは光の尾を引く、小さい魚のような。

「オード!何か…来てる!」

「捕鯨砲か……参ったな」

「どうする?」

「……遠距離武装があれば撃墜するところだが」

 オードは額に少しだけ汗をかいていた。

 それだけ集中しているんだろう。

「つまり…ない?」

「近接武器以外、全て外されている」

「じゃあ……」

 万事休す……?まるでそんな雰囲気があった。

「……直接切る」

 と、思ったらまだ方法はあったらしい。

 渋っているのは間違いじゃあ、なさそうだけれど。

「……えっ」

「あの光の尾を切る。他に一掃する手はない」

「できるの?」

「俺を誰だと思っている」

 言い切る彼は頼もしい。彼がそう言うなら、私は彼を信じよう。

「オード…私…騎士」

 私の騎士が出来るというのだから。

「いや、そういう……まあいいか。しっかり掴まっててくれよ」

「何する…つもり?」

「見せてやるよ。ちょっとした曲芸を……な」

 機体は上空に向かって上昇し始めた。
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