上 下
15 / 51
第一幕

15 ドミニオン・オブ・ソード.3◆

しおりを挟む

「王族相手に随分と頑張りましたの」

 アンナは分かったでしょう?とでも言いたげなシタリ顔で微笑む。

 どうやら、彼女の言っていた"直情的な馬鹿ではなくてよかった"というのはこういう事だったらしい。

「……吹っかけておいてよく言う、俺が反論できなけばそのまま俺達を追い出すつもりだったんじゃあ、無いのか?」

 こいつなら、まず間違いなくそうしただろう。

「お互い様ですの。貴方、最初からあの落とし所にする為に、わざと挑発したり、前提か褒美かとか言う話題に逸らして、最終的にお兄様を勝ったような気分にさせましたの、お見事ですの」

 そうする他に無かっただけで、普通に話が通じるなら、そう言った事はしたくはなかった。

 既に追放されるのが既定路線だったが故に出来た手段でしか無い。

「前提で飲むなら、それに越した事はない。そうした方がお互いの為だ」

 そもそも、自分の為に国外へ出ろと言うのに、その為の方法も準備もないと言うのは明らかにおかしいのだ、それが分からない者がまさか、王族で、しかも皇帝になろうとしているとは思わなかっただけで。

「ま、そう言うことにしておきますの」

 アンナはそれだけ言うと、またお茶を口にした。

「それで、貴女は何が目的なんだ?」

「……目的?どう言うことですの?」

 とぼけたように聞き返してくる彼女は微笑みを浮かべてはいたが、目は全く笑っていなかった。

「彼は恐らく、自分から蜂起を考えられる人間ではない」

「……へぇ。そういう風に見えますのー?」

「或いは無知故に無謀な夢を見ている、というのもありえるが……いや、その両方か」

「……ふぅ、なるほどー?」

 アンナは俺の目を検分するように見つめた。

「……まあ、遠からず、という感じですの。まあ、いずれ分かりますの。私の正しさが」

 そして降参するようにそれを認めた。

「……やはり夢想家はこちらの方だったか」

「失礼な。私以上に、現実が見えている存在は他にいませんの」

「他人を唆し、謀反を企てる者が何を言う」

「──福音に導かれて法が決まることはありませんの。教会でも国家でも、剣がそれを神聖化するまでは」

「つまり勝者は正しいから、何もおかしくないと?」

「その通りですの。正しさは常に"剣の支配"によって与えられますの」

「……暴論だな」

「ですが真実ですの。人類がそうしてきたように、そうするだけ。私はただ、物事をあるべき形にしたいだけ。どこも悪くありませんの。そう──私は何も悪くないんですの」

 第二王女は悪びれる気配もなく言い切った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~

サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――

あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後

アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

親友、婚約者、乳姉、信じていた人達に裏切られて自殺を図りましたが、運命の人に助けられました。

克全
恋愛
「15話3万8026字で完結済みです」ロッシ侯爵家の令嬢アリア、毒を盛られて5年間眠り続けていた。5年後に目を覚ますと、婚約者だった王太子のマッティーアは、同じ家門の親友ヴィットーリアと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、乳姉のマルティナだと、助けてくれた叡智の精霊ソフィアに聞かされるた。更に追い討ちをかけるように、全てを仕組んだのは家門の代表だった父が最も信頼していたヴィットーリアの父親モレッティ伯爵だった。親友のヴィットーリアも乳姉のマルティナも婚約者のマッティーアも、全員ぐるになってアリアに毒を盛ったのだと言う。真実を聞かされて絶望したアリアは、叡智の精霊ソフィアに助けてもらった事を余計なお世話だと思ってしまった。生きていてもしかたがないと思い込んでしまったアリアは、衝動的に家を飛び出して川に飛び込もうとしたのだが……

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

私をはめた妹、私を切り捨てた元婚約者の王子――私を貶めた者たちは皆新たな時代に達するまで生き延びられませんでした。

四季
恋愛
私をはめた妹、私を切り捨てた元婚約者の王子――私を貶めた者たちは皆新たな時代に達するまで生き延びられませんでした。

処理中です...