2 / 51
第一幕
02 アイ・アム・ア・ロック-1◇
しおりを挟む
その時が来るまで、
私はただの石ころだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私は外の世界を知らない。
壁に囲まれた庭園は甘い香りが漂い、一年中温度が変わらず、涼しい。
ステンドガラスの天井から差し込む光は、いつも冷ややか。
窓のないこの庭園で唯一、外の事を知ることができるのは、そのステンドグラス越しの空だけ。
私がこの国について知っているのは、今は多分、冬という季節で、この庭園は帝国の何処かにある、と言うこと。
多分、というのはこの庭園は本当に何も変わらないから。
季節なんてものが存在するのか時々疑ってしまうくらい。
お父様曰く、帝国の冬は寒い……寒かった?らしい。
ただ、"寒い"っていうのもよくわからないからどういう事なのかピンとこない。
比べるものも無いし。
信じられないけれど、冬になると雪っていうのが降り積もって固まるらしい、凍って身動きが取れなくなる場所もあった、と言う。
森が丸ごと凍り付く事すらあった、と言う。
でも、私は雪も見たことないし、凍るってどういう感じなのか知らない。
というか森ってなんなの?木が沢山生えているらしいけど。
庭園に木が植えてあるみたいに、森を作るのかな?
そんなに植えて何の意味があるんだろう、さっぱり分からない。
壁に阻まれ、私が知る事ができるのは天気だけ。
なぜなら、お父様……皇帝陛下は私が病気だからと言って、外へ出る事を許さないから。
薬のお香が無いと本当に頭が痛くなるし、吐き気もしてくる。
けれど、薬が効いている間は目が回って、こんな風にまともに考える事もできない。
すぐに眠くなるし。
何でこんなに自由がないんだろう。
出来ることならいつか外へ出て、冷たい雪とやらを踏んでみたい。
全うに人らしく、自分の人生を生きてみたい。
お父様が私に与えたのは、聖女としてこの庭園で祈る役目。
そしてお母様の形見、暗い虹色の宝石。
私の現実には何も無い。
だから、私は夢を見る。
寝ている間だけ、少しは幸福な夢を見ていられるから。
遠い、世界の涯にあるという海の夢を。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私は海を回遊する大きな鯨の夢を見る。
青く広がる世界を自由に泳ぎ続ける夢。
何者にも遮られない世界。
色取り取りの魚達や、珊瑚達を横目に。
私は泳ぎ続ける。
たった一人で、誰にも分からない歌を歌いながら。
自分一人だけ使う"言葉"が違うのは、夢でも現実でも変わらない。
遠く、別の言葉で歌う鯨の群れを眺めて。
私は一人、泳ぎ続ける。
たった一人で、誰にも分からない歌を歌いながら。
深い海をただ一人。
私はただの石ころだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私は外の世界を知らない。
壁に囲まれた庭園は甘い香りが漂い、一年中温度が変わらず、涼しい。
ステンドガラスの天井から差し込む光は、いつも冷ややか。
窓のないこの庭園で唯一、外の事を知ることができるのは、そのステンドグラス越しの空だけ。
私がこの国について知っているのは、今は多分、冬という季節で、この庭園は帝国の何処かにある、と言うこと。
多分、というのはこの庭園は本当に何も変わらないから。
季節なんてものが存在するのか時々疑ってしまうくらい。
お父様曰く、帝国の冬は寒い……寒かった?らしい。
ただ、"寒い"っていうのもよくわからないからどういう事なのかピンとこない。
比べるものも無いし。
信じられないけれど、冬になると雪っていうのが降り積もって固まるらしい、凍って身動きが取れなくなる場所もあった、と言う。
森が丸ごと凍り付く事すらあった、と言う。
でも、私は雪も見たことないし、凍るってどういう感じなのか知らない。
というか森ってなんなの?木が沢山生えているらしいけど。
庭園に木が植えてあるみたいに、森を作るのかな?
そんなに植えて何の意味があるんだろう、さっぱり分からない。
壁に阻まれ、私が知る事ができるのは天気だけ。
なぜなら、お父様……皇帝陛下は私が病気だからと言って、外へ出る事を許さないから。
薬のお香が無いと本当に頭が痛くなるし、吐き気もしてくる。
けれど、薬が効いている間は目が回って、こんな風にまともに考える事もできない。
すぐに眠くなるし。
何でこんなに自由がないんだろう。
出来ることならいつか外へ出て、冷たい雪とやらを踏んでみたい。
全うに人らしく、自分の人生を生きてみたい。
お父様が私に与えたのは、聖女としてこの庭園で祈る役目。
そしてお母様の形見、暗い虹色の宝石。
私の現実には何も無い。
だから、私は夢を見る。
寝ている間だけ、少しは幸福な夢を見ていられるから。
遠い、世界の涯にあるという海の夢を。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私は海を回遊する大きな鯨の夢を見る。
青く広がる世界を自由に泳ぎ続ける夢。
何者にも遮られない世界。
色取り取りの魚達や、珊瑚達を横目に。
私は泳ぎ続ける。
たった一人で、誰にも分からない歌を歌いながら。
自分一人だけ使う"言葉"が違うのは、夢でも現実でも変わらない。
遠く、別の言葉で歌う鯨の群れを眺めて。
私は一人、泳ぎ続ける。
たった一人で、誰にも分からない歌を歌いながら。
深い海をただ一人。
0
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
【完結】2愛されない伯爵令嬢が、愛される公爵令嬢へ
華蓮
恋愛
ルーセント伯爵家のシャーロットは、幼い頃に母に先立たれ、すぐに再婚した義母に嫌われ、父にも冷たくされ、義妹に全てのものを奪われていく、、、
R18は、後半になります!!
☆私が初めて書いた作品です。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる