51 / 64
50 フラワーズ・ネバー・ベンド・レインフォール◇-2
しおりを挟む夜が開けて間もなく、明るい筈の空は、雲が太陽を覆い隠して、今にも雨が降りそうに、薄暗く静まり返っていた。
『あれは……』
あっさりしたものだった。
私が夢見た海は、そこにあった。
オルキヌスは飛び続け、漸く目的地の上空へ辿り着いた。
『あれが……海……?』
そこは広い入り江……細長い陸に外海と隔てられた、大きな湖のような地形をしていた。
その湖の中に小さな島々が見え、地図に書いてあった街は、その中心だった。
『海の上だったんだ……オルキヌス、少し下に降りるよ』
「◾︎◾︎◾︎」
『……お母様は、ここに』
地図を頼りに、空を降る。
『オルキヌスは、来たことある?』
「……」
オルキヌスは何も言わない。
近づいてくる街並みは、大きな川のような水路が中心をうねりながら通っていて、背の高い建物が整然と密集していた。
まるで、海の上にそのまま浮かんでいるような街並みだ。
『どうやって作ったんだろうね』
「◾︎◾︎◾︎◾︎?」
『建物がない場所に殆ど陸地がないし、……帝国みたいに元々あったものを海に浮かべてるのかな?』
「◾︎◾︎◾︎◾︎」
オルキヌスは否定するような唸りを上げた。
『イムラーナで街が浮かぶんだから、水の上に浮く街があっても不思議じゃないと思うけど』
「◾︎◾︎◾︎◾︎……」
別に何を言ってるか分かるわけじゃないけど、最近はずっと話しかけてしまっている。
一応返事はしてくれるから、まだ自分が天涯孤独になったわけじゃないと、思い込ませてくれる。
……相手はそもそも生き物なのかどうかも怪しいけど。
ずっと誰かが私を側で守っていた。
それは鼓笛隊のみんなだったり、オードだった。
『私に、何ができるんだろう……』
◇◇◇◇◇◇◇◇
建物に囲まれた広場に着陸して、竜の形態に変形させると、物珍しいのか、人が集まってきてしまった。
『なんか変かな……?』
いや、違う。あまり穏やかな様子じゃない。
すこし離れた先から鎧を来た人達が来ている。
『私、なんかやっちゃった……?』
オードがなるべく、いつも町外れや人目につかない場所を移動していた理由がなんとなく分かった。
「バルバロッサ陛下!出迎えも用意できず、申し訳ありません!ご案内いたしますので、此方へどうぞ!」
……どうしよう。
オルキヌスから降りる事が出来ず、私はそのまま聖堂らしき建物──細かい装飾が至る所に彫刻された綺麗な建物──の正面まで案内されてしまった。
「ようこそいらっしゃいました、父上」
私を迎えた、赤毛で穏やかな顔の青年はそう言った。
父上……?という事はこの人は。
「お久しぶりです、第二王子のフィリップです」
二番兄様だ……!暫く見てないから身長とかも変わってて全然分からなかったけど……
いきなり捕まったりしなくて良かった、二番兄様なら話が通じるかも知れない。
彼の記憶はあまりないけれど、少なくとも、宮殿にいた二人よりはマシな筈。
「それにしても、見ない間に随分と錆びつきましたね、何かあったのですか?」
……今声を出したら、案内してくれた騎士たちにバレる……ジェスチャーでどうにかしないと。
「父上……?なぜ黙っておられるのですか?出てきてしまって大丈夫なのですか?ご病気の加減は──?」
それだ!えっと、具合悪そうな様子ってどんな感じだろ、とりあえずお腹痛そうなポーズをすれば──!
「……ど、どうされたのですか!オルキヌスの調子が悪いのですか?」
ぜ、全然伝わらない……!
「……ん?……いや、なるほど分かりました。他の物は下がれ、オルキヌスは私が整備はする!」
「御意!」
去っていく騎士たち。
「では参りましょう」
通じたのかな?だったらいいんだけど……?
「……一体誰が乗っているかはわかりませんが」
小声で呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『……さて、出てきてもらおうか?』
いくつもの機械獣が並んで眠る広い部屋で、二番兄様は静かに呟いた。
……私達の言葉で。
『……お久しぶりです、二番兄様』
オルキヌスの手を借りて降りる。
『やはり、マナか』
『ええ。お兄様は随分と背が伸びましたね』
『ああ、そうだな……父上は』
『ハインリヒが殺しました、聞いていませんか?』
『数日前から帝国との連絡は完全に途絶え、向かった者も戻らない。何が起きているんだ?』
『帝国の首都は珊瑚のような物に覆われ、亡者が歩き回っています……そんなことより、なぜフカミルの言葉を』
『……先ずは休みなさい。部屋を用意させる』
『はい……』
『よく一人で頑張ったな』
私の頭を撫でる二番兄様。
……こんな人だったっけ。
『その……一人じゃ……オードが私を逃してくれたのです』
『そうか、オードが……彼が』
一人で呟く。
……オードは知り合いなのかな。
元七元徳なら、知ってておかしくないけど。
『心配するな、簡単にやられるような奴じゃない』
『……そう、ですね』
オードは私をここに連れてきて、どうするつもりだったんだろう。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……
百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。
楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら……
「えっ!?」
「え?」
「あ」
モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。
ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。
「どういう事なの!?」
楽しかった舞踏会も台無し。
しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。
「触らないで! 気持ち悪い!!」
その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。
愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。
私は部屋を飛び出した。
そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。
「待て待て待てぇッ!!」
人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。
髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。
「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」
「!?」
私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。
だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから……
♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?
早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。
物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。
度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。
「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」
そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。
全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる