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第3部

32 神判-2

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「や、やった……!」

「……とでも思ったか?クソマヌケぇ」

 しかし、体を両断されていてもアリアはまだ生きていた。

「こうなっても、まだ私は戦え──ぐぅぅ!!制約がなくなっても、魔力が無くても……!玩具修理者さえいれば……!」

 上半身だけで無理やり起き上がったアリアから、また、光が砕け散った。

「《だるぷし、あどぅら、うる、ばあくる……!》私を直せぇぇぇ!」

「てぃけ、り、り?」

 現れた黒衣の者はアリアを覗き込む。

 そして。

「……?なおせない」

「何故だ……!何故出来ない!」

「──こわれてないものは、なおせない」

「壊れてない?……何を言ってる!……どう見たって私の」

 アリアの腕が崩れていく。

「ほ、ほら!どう見ても……壊れてるじゃあ、ないですか!早く直し──」

「わたしがなおしたものも、いずれ、こわれることがきまっている。それはこわれたのではない、そうなることがきまっていた。さだまったものを、かえることは、できない。おまえのからだは、もう、なおらない。そのからだは、いまは、もう、しぬことが、きまってしまっている」

「……巫山戯るなよ、それじゃ、まるで私の肉体が婆さんみたいな言い方じゃねぇか!!」

「いつ、だれが、おまえがもとの、くららで、もうかたほうが、おまえのそぼだと、いった?」

「巫山戯るな!巫山戯るなよ!そうじゃなきゃ可笑しいだろうがよぉぉ!!私が聞きたいのはそんな言葉じゃないんだよ……!さっさと私を直して、そこのクララに、英雄気取りの、主人公気取りの化け物に、私を森に捨てた連中に思い知らせて……やるんだ……誰がなんと言おうと私は人間なんだってことを……!私は間違ってないってことをよぉ……!」

 這いずり、黒衣に縋り付くアリア。

「……それは……違います。間違ってるんですよ。貴女は人間に出来ないことはしないと言いましたね」

「……そうだ!誰にでもできることしか──」

「でも他の"人間"には出来ないことをしました。そこの玩具修理者です」

「……は、何を言ってるんですか?こいつは子供達の玩具を直すだけの……!」

「こどもたちの、ために?」

 首をかしげる黒衣の者。

「そう、そうですよ!早く──」

「──ちがう、"わたしの"、こどもたちのために」

「……は?」

「わたしの、こどもたちのために、わたしはこわれたものを、なおす、それだけ」

「アルラウネは妙な事を言っていました。終始、私達のことを"あの方"の子供達と言っていました。祖母のことは"あの婆さん"と呼ぶのに……どう言うことかわかります……よね」

「そうか……ずっとどこにいるか知れなかった女神……!"黒き豊穣"──お前、ずっと近くで見てやがったのか!」

「ちがう。そのなは、わが、つまのもの。わたしは一にして全、全にして一なるもの、あらゆる全ての父にして、あらゆる全てを記す──"虚空の書板"」

「これが答えです、我らが父である"創造主"の力を行使していた。それが出来たのは、その娘である私、いいえ、私達だけなんです」

「…………ちがう、違う!間違っている!私は紛れもなく人間で、本物だ!誰がなんと言おうと!私は!」

「認めなさいアリア。……私達は、最初から人間じゃあ、ない」

「お前と……一緒にするな、化け物がぁぁ!!」

「さて、我らが父よ、私達を、《元に戻して頂けますか?》」

「クソっ!クソっ!クソッタレ!私の話を聞け!無視するな!こんなふざけた終わりを認めるかっ!」

「クララ、大丈夫なのか?」

 獣が問いかける。

「問題ありません。"材料"に意識を奪われた事はありませんから、……お願いします」

「わかった」

「やめろ、やめろ!戻すんじゃない!そんな甘ったれと一緒にするな!私は……!あんな間違いを犯した愚か者に戻りたくな──」

 そして私達はバラバラになった。

 表皮が剥がされ、中の筋肉がそれぞれの部位ごとに取り出され、肉片や臓器が並ぶ。しまいには骨も綺麗に外されて、完全に解体された。

「──」

 声にならない痛みだった。アリアは絶叫すらできなかった。

 それは歌いながら、ふたたび組み立てていった。

「ないわーず、やんめぇん、ないわーず、ろぉばぁ、なっすぃんく、さてぃーすふぁい、みーばぁとうゎい」

 その"修理"は気が遠くなるほど、長く感じた。
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