上 下
89 / 95
第3部

31 決闘-2

しおりを挟む
◆◆◆◇◇◇◇◇


「アリアァァァァァァァ!!」

「クララァァァァァァァ!!」

 お互いに遠距離から攻撃する権能は、最早使えない。

 だから私達が振るうのは杖ではなく、剣の他に無い。

「この程度の腕力まで落ちてくるとは!"人間"に合わせたつもりですか!この偽物ぉぉぉ!!」

 アリアも私と同じように、魔力で増幅した力で、剣を叩きつけてくる。

「アリア!例え力が同じでも!戦い続けていた私が!踏ん反り返っていたお前に負ける訳が!」

 甘い一撃を弾き返し、返す刃で切りつける。

 剣が打ち鳴らす高音が響く。

「踏ん反り返ってただぁ?!」

 しかし、アリアが切り返してくる剣は、予想外に鋭い。

「──くっ!」

 アリアの振り下ろしを躱して後退する。

 何故これほどまで……!

「戦い続けてたのは、自分だけだとでも?テメェが聖女としてぬくぬくと暮らしてた6年間、そして牢獄にいた10年間、その間ずっと戦い続けてたんだから──なぁ!」

 一足で目の前に踏み込んできたアリアは、真っ直ぐに突きを放ってきた。

 速さはそれほどでもない、弾くのは造作でも──

「それにぃ!」

 弾こうとした私の剣が巻き上げられる──

「剣術ってのは"人間が人間を"殺す為にあんだよぉ!このマヌケぇ!」

 続け様に振り下ろされる切っ先。

 剣じゃ間に合わない──なら!

「──あぁぁぁぁ!!」

 魔力で強化した脚力で、無理矢理アリアの剣の間合いから逃走する。

 着地──同時に足が砕け散る。

 「くっ──」

 負担を掛けすぎたか──

「これで終いだ化け物ぉぉぉ!!」

 その隙を突いたアリアの大剣が振り下ろされた。

「ぐぅぅ!!」

 対処も出来ずに、私はそれを食らった。

「どうだクララぁ?剣なら絶対に負けないと思っただろう!ハハハ!死ね!死んでしまえ!アハッ!アハハハハハッ!」

 アリアの高笑いが聞こえる。

 体から熱が消えていく。

「後はお前ぇをすり潰して、女神の依代にしてやれば全ては解決すんだよぉ、もう生贄は十分だしなぁ!!」

「……女神……生贄……」

 ……この戦争を仕掛けた理由、それは不完全な召喚をさせる為。

 だけど、私はもう一つの意図をやっと理解した。

「そうか……そうだったんですね……アトラさん……だからこんな方法を──」

「おい、とっとと死ねよクソがよぉ!もう一回切り刻んで──」


◆◆◆◇◇◇◇◇


「『神の、御加護を──』」

 その祈りは、私の体を瞬時に修復し、アリアの剣に対応できる力を取り戻させた。

「なっ──!?」

 アリアの剣を弾き飛ばす。

「な、なにしやがった!テメェ!」

 予想していなかった反撃に、タタラを踏むアリア。

「何って……ただの──お祈りですよ」

 そうだ……今の私は聖女の力……この戦争で捧げられた生贄のお陰で、女神の力が使える。

 あらゆる病や傷を癒す力……そして、誰かを傷つけることでしか発揮できない呪いの力。

 治癒の代償に相手を変異させてしまう呪い……それを私は使えるんだ。


◆◆◆◇◇◇◇◇


「化け物が。女神の力を使いやがったか。それにしても……らしく変異したじゃねぇか、あぁ?なんだその耳と尻尾は。舐めてんのかよ、くひひ、馬鹿みてえだなぁ!おい!」

「……」

 私の頭には獣の耳、そして尻尾の変異が生じていた。……まるで狼のような。

「そうですか?私はそうは思いませんけど」

「……はぁ、回復できるってことは、まだテメエの方が魔力が多いか。だが力任せに棒切れを振り回すのなんざ、私には通じねぇってことがよくわかったよなぁ?諦めてさっさと死ねよ」

 剣を構え直し、悪態を吐く。

 確かに、アリアの方が師匠から正しく剣技を継承している。

 私の魔力は尽きかけ、アリアは《制約》の力を失い、お互いに互角。

 純粋な剣の勝負では完敗だ。

 魔力を使う度に、頭の中の色んな記憶が砕けていくのを感じる、もう私の期限はすぐそこに迫っている、

 もう、ほんの少しの猶予もないだろう。

「でも、私が全力で移動すれば、貴女はついて来れない……」

 肩で息をする私も同じく構え直す。

「はっ!チクチク切ってくるかぁ?どうせ魔力もいずれ尽きる!そんときゃ、私の勝ちだ!」

 口角を歪めて勝ち誇るアリア。

「剣技が劣っていても、貴女が反応できない最大最速の一撃を加えれば良い……!」

「そんな物ねぇよ!テメエの剣も、ワタシの剣も元は同じ師を持つ剣だろうが!そこに違いなんざねぇんだよぉ!さあ、死ねぇぇ!」

 上段に構えた、アリアの突きが迫る。

 確かに私の反応の方が早くとも、剣技で対応されれば、次は命がない。

 私達の剣の師匠は同じ、もしそこに違いがあるとするのなら。

 ……一つだけだ。

 でも、私にも限界がある。

 私の力だけじゃ勝てない。

 なら──。

「《──その者は光を見ず、その祈りは憎悪に満ちる》」


 何かが体を貫いたような衝撃が背中を通り過ぎ、視界が闇に閉ざされる。

 開けていても変わらない。

 目を閉じる。

「《焦熱よ──》」


 そして私は雷の落ちた剣を──鞘へ納める。


「帯電しただけの魔術剣なんぞぉぉぉ!!」


 声と魔力の光が近づいてくるのが分かる。


 さらに意識が加速し、世界が遅くなっていく。


◆◆◆◇◇◇◇◇


 相手よりも早く──

 ありったけの魔力を込めて──


◆◆◇◇◇◇◇◇


 剣を振り抜く、それしかない──!


「疾れ──」

「なに──!?」


 振り抜く、最高最速の剣──


◆◇◇◇◇◇◇◇


「死ねぇぇぇぇぇ──!!」

 アリアが剣をいなそうとしても──

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 残った力全てを込めて──


 その剣ごと──


 ──両断する!

「ぁぁぁぁぁ!!」


 暗闇の視界に、赤黒い雷と魔力の剣閃が輝いた。


「──馬……鹿な」

 振り抜いた剣を鞘へ納める。
 
 遅れて、返り血が顔に降りかかる。

 魔力が尽き、魔術が解け、視界が元に戻る。

 目の前には、胴体を両断されたアリアが転がっていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~

サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...