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第3部
08 アリアと人間-2
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歓声の内に、瓦礫の壇上を降りるアリア。
「この歓声、ああ!なんて──堕落し切った連中だこと!ふふふ!女神様!貴女の元へ参る民は全くいないようですよ!」
そう独り言を言って笑う。
「……何故、彼らを無条件で従うように作り変えないんだ?玩具修理者ならば不可能ではないだろう?」
その背に問いかけるレオンハルト。
「全て、彼らに選ばせているのです。文句も、その行為も否定させない為に。誰にも、私を間違った存在だと言わせない。──私は何か変わった存在じゃあ、ありませんので」
「君は……聖女で、強大な力を持っているではないか」
「《制約》を重ねがけしているだけですよ。不死の軍団は、みんな死霊術と普通の回復魔術ですし、その術も書籍を辿れば知り得た存在から得たもの、他の術もそう。私の言葉も誰かが同じ事を言っているでしょう。誰にだって、できた」
「……それは、可能性に過ぎないだろう」
「なら、私が"こう"なったのも、ただの可能性ですねぇ。私は叙事詩の中の英雄じゃあ、ない。偶々アルラウネから魔術を知って、森から帰ってしまった。それだけです」
「……しかし現に……聖女ではないか」
「全く……人は本質的に、超越者……義士や聖女、神性、威厳なるものを追い求めて止まない。少なくとも千年期の終わりまで、"それ"はあったのですよ。でも、"無くなった"しまったから」
「……千年期末に神の救済が訪れなかったからか」
「教会の権威で認められていた"皇帝"の座も無意味になった。でも人々は神を望んでいた。だからこそ、皇帝も望み、女神を召喚できた。かくして、"確からしい神"を求める声に応じ、"終末を齎す女神"は現れた。人々が欲しがった"救いの象徴"として、聖女は本物になった、ですがそれまでは、ただのお飾りだったのです」
「……今更そんな事を講釈して、何が言いたい」
「権威は与えられるもの。人々が聖女という権威を承認し、その属性を私と言う偶像に与えた。聖女だから言うことを聞いているんじゃあ、ありません。自分達に都合の良い言い訳を与える、誰かが欲しいだけなのです。誰だって良いんですよ、あの偽物にも出来たでしょう」
「……だが、君がやったんじゃないか、君が帝国をこうしたのだろう?」
「はい、私は有罪ですよぉ。それでも、人々が聖女を欲し、戦いを欲し、そして"私"を作り上げた。"私"を掲げて、変異した友を殺し、獣になったからと言って同じ人間を殺す。それは扇動するまでもなく、繰り返されてきた事でしょう?肌の色が違うから、信仰が違うから、或いは、利益を害するから。もう一度言います、私は特異な存在じゃあ、ない」
「……本当にあの子とは別人だな。僕が彼女に言った言葉が上っ面だけに思えてくるよ」
「私の言葉も上っ面ですよ。所詮、我々の命はあらかじめ決められているもの。全て"書板"とかいう粘土板に記された、僅かばかりの文字列に過ぎないのです」
「聖女を望む人がいるから」
「戦いを望む人がいるから」
「悲劇を望む人がいるから」
「殺戮を望む人がいるから」
「流血を望む人がいるから」
「──復讐を望む人がいるから」
「そう、私は"そうあれかし"と誰かが望んだが故に舞台へ立たされる、哀れな影法師なのですよ。だからこそ、せめても復讐として、こんな運命を望んだ連中に見せつけてやるのです。"貴方方が望むような、もっともらしい救済を私が否定してやる"とね」
「なら……何故君は別の道を選ばなかったんだ?こうできるなら、いくらでも方法はあったんじゃないのか?君が"やろうと思えば"こんな残酷な世界を"選ばせない"事も出来たんじゃないのか?」
詰め寄るレオンハルトの目が黒い炎のように揺らめく。
「……何を怒ってるんですか?レオン君、落ち着いてくださいよ?」
後ずさるアリア。
「……友を殺さず……愛するものを殺さず……隣人を吊るし上げずに済む世界を、作り上げられたんじゃないのか!血や争いを望むのと変わらないくらい、平穏に暮らしたい心もあるだろう!何故それを望む声を聞かなかった!」
摑みかかるレオンハルトの手の高温に焦がされ、アリアの血濡れの服を燃やし、その下の肌をも焼いていく。
「ふふ、滑稽だこと。救済、正義、平穏、公正、癒し、人々が望む穏やかで快いもの、そんな理想は──所詮、夢物語で偽物なんですよ、そんなものが勝利するのは物語の中だけ……この世にないからこそ、人はそれを望んで止まない。だからアレはそのようになるでしょう、アレは人々の望む都合の良い"偽物"となり……怪物だと思っている私達を殺しに来る……」
焼けた肩を再生させながら、レオンハルトの頬を撫でるアリアの指は、熱に灼け爛れていく。
「《質問に答えろ!》何故だ!何故お前は!」
「《じゃあ、答えないといけませんね》人間である為です。私は他の"人間"に出来ることしかしない。もし、人々を救えば人ではなくなる、完全に支配すれば、それは怪物になる。私は……いえ、私が人間なんですよ」
「お前が人間なものか……人間であってたまるか……」
崩れ落ちるレオンハルト。
「ああ、素晴らしき人間賛歌!私は英雄にも怪物にも負けない!絶対に!」
焼け爛れた腕を広げ、アリアは笑う。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「──殺せ!殺せ!獣を殺せ!人間の!王国の為に!どいつもこいつも殺してしまえ!」
進軍していく亡者達を高い櫓の上から眺めるアリア。
「どこもかしこも急に攻めて……!いくら帝国以外の全てが包囲しようが、不死の兵隊に敵うわけが無いというのに……!一体何が目的だ獣共──は?」
揺れる大地、振動と共に崩れていく櫓。
「そうですかぁ、そういうこと。しかもこの地震……来ましたねぇ……偽物ォォォォ!」
睨みつけた視線の先、遥か丘の上に立つ真っ白な髪の小娘。
蒼銀の大狼に乗って、"十字"の旗を掲げる者。
「"異端"の旗……そうですよね!獣ども扇動するなら!そうだよなぁ!来いよ!クララァァァ!!決着の時間だァァァ!!」
聖女と偽の聖女は闇夜に相見える。
「この歓声、ああ!なんて──堕落し切った連中だこと!ふふふ!女神様!貴女の元へ参る民は全くいないようですよ!」
そう独り言を言って笑う。
「……何故、彼らを無条件で従うように作り変えないんだ?玩具修理者ならば不可能ではないだろう?」
その背に問いかけるレオンハルト。
「全て、彼らに選ばせているのです。文句も、その行為も否定させない為に。誰にも、私を間違った存在だと言わせない。──私は何か変わった存在じゃあ、ありませんので」
「君は……聖女で、強大な力を持っているではないか」
「《制約》を重ねがけしているだけですよ。不死の軍団は、みんな死霊術と普通の回復魔術ですし、その術も書籍を辿れば知り得た存在から得たもの、他の術もそう。私の言葉も誰かが同じ事を言っているでしょう。誰にだって、できた」
「……それは、可能性に過ぎないだろう」
「なら、私が"こう"なったのも、ただの可能性ですねぇ。私は叙事詩の中の英雄じゃあ、ない。偶々アルラウネから魔術を知って、森から帰ってしまった。それだけです」
「……しかし現に……聖女ではないか」
「全く……人は本質的に、超越者……義士や聖女、神性、威厳なるものを追い求めて止まない。少なくとも千年期の終わりまで、"それ"はあったのですよ。でも、"無くなった"しまったから」
「……千年期末に神の救済が訪れなかったからか」
「教会の権威で認められていた"皇帝"の座も無意味になった。でも人々は神を望んでいた。だからこそ、皇帝も望み、女神を召喚できた。かくして、"確からしい神"を求める声に応じ、"終末を齎す女神"は現れた。人々が欲しがった"救いの象徴"として、聖女は本物になった、ですがそれまでは、ただのお飾りだったのです」
「……今更そんな事を講釈して、何が言いたい」
「権威は与えられるもの。人々が聖女という権威を承認し、その属性を私と言う偶像に与えた。聖女だから言うことを聞いているんじゃあ、ありません。自分達に都合の良い言い訳を与える、誰かが欲しいだけなのです。誰だって良いんですよ、あの偽物にも出来たでしょう」
「……だが、君がやったんじゃないか、君が帝国をこうしたのだろう?」
「はい、私は有罪ですよぉ。それでも、人々が聖女を欲し、戦いを欲し、そして"私"を作り上げた。"私"を掲げて、変異した友を殺し、獣になったからと言って同じ人間を殺す。それは扇動するまでもなく、繰り返されてきた事でしょう?肌の色が違うから、信仰が違うから、或いは、利益を害するから。もう一度言います、私は特異な存在じゃあ、ない」
「……本当にあの子とは別人だな。僕が彼女に言った言葉が上っ面だけに思えてくるよ」
「私の言葉も上っ面ですよ。所詮、我々の命はあらかじめ決められているもの。全て"書板"とかいう粘土板に記された、僅かばかりの文字列に過ぎないのです」
「聖女を望む人がいるから」
「戦いを望む人がいるから」
「悲劇を望む人がいるから」
「殺戮を望む人がいるから」
「流血を望む人がいるから」
「──復讐を望む人がいるから」
「そう、私は"そうあれかし"と誰かが望んだが故に舞台へ立たされる、哀れな影法師なのですよ。だからこそ、せめても復讐として、こんな運命を望んだ連中に見せつけてやるのです。"貴方方が望むような、もっともらしい救済を私が否定してやる"とね」
「なら……何故君は別の道を選ばなかったんだ?こうできるなら、いくらでも方法はあったんじゃないのか?君が"やろうと思えば"こんな残酷な世界を"選ばせない"事も出来たんじゃないのか?」
詰め寄るレオンハルトの目が黒い炎のように揺らめく。
「……何を怒ってるんですか?レオン君、落ち着いてくださいよ?」
後ずさるアリア。
「……友を殺さず……愛するものを殺さず……隣人を吊るし上げずに済む世界を、作り上げられたんじゃないのか!血や争いを望むのと変わらないくらい、平穏に暮らしたい心もあるだろう!何故それを望む声を聞かなかった!」
摑みかかるレオンハルトの手の高温に焦がされ、アリアの血濡れの服を燃やし、その下の肌をも焼いていく。
「ふふ、滑稽だこと。救済、正義、平穏、公正、癒し、人々が望む穏やかで快いもの、そんな理想は──所詮、夢物語で偽物なんですよ、そんなものが勝利するのは物語の中だけ……この世にないからこそ、人はそれを望んで止まない。だからアレはそのようになるでしょう、アレは人々の望む都合の良い"偽物"となり……怪物だと思っている私達を殺しに来る……」
焼けた肩を再生させながら、レオンハルトの頬を撫でるアリアの指は、熱に灼け爛れていく。
「《質問に答えろ!》何故だ!何故お前は!」
「《じゃあ、答えないといけませんね》人間である為です。私は他の"人間"に出来ることしかしない。もし、人々を救えば人ではなくなる、完全に支配すれば、それは怪物になる。私は……いえ、私が人間なんですよ」
「お前が人間なものか……人間であってたまるか……」
崩れ落ちるレオンハルト。
「ああ、素晴らしき人間賛歌!私は英雄にも怪物にも負けない!絶対に!」
焼け爛れた腕を広げ、アリアは笑う。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「──殺せ!殺せ!獣を殺せ!人間の!王国の為に!どいつもこいつも殺してしまえ!」
進軍していく亡者達を高い櫓の上から眺めるアリア。
「どこもかしこも急に攻めて……!いくら帝国以外の全てが包囲しようが、不死の兵隊に敵うわけが無いというのに……!一体何が目的だ獣共──は?」
揺れる大地、振動と共に崩れていく櫓。
「そうですかぁ、そういうこと。しかもこの地震……来ましたねぇ……偽物ォォォォ!」
睨みつけた視線の先、遥か丘の上に立つ真っ白な髪の小娘。
蒼銀の大狼に乗って、"十字"の旗を掲げる者。
「"異端"の旗……そうですよね!獣ども扇動するなら!そうだよなぁ!来いよ!クララァァァ!!決着の時間だァァァ!!」
聖女と偽の聖女は闇夜に相見える。
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