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第2部

25 挫折

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「……と言うお話でしたぁ。如何ですかぁ?クララさぁん?最高の気分でしょう?私は超☆最高ですよぉ!」

 ……私が考えた、アリアが祖母である説より俄然辻褄が合ってしまう"物語"だった。

「……そんな……私が……偽物………」

「そーです!そーですよぉ!ひひっ、まあ、もう私は"クララ・アメストリス・ハシュヤーラ"じゃあ、ないですから、その名前はあげますけどねぇ!大逆の罪を犯した家の名前なんて……もう一生使えないでしょうけどね!」

 ……辻褄は合う。

「──それならば……なぜ……おまえ……は、じつのちちおや……ははおや…あに…おとうとをころした……?」

 毛玉がアリアの魔術を説いたのか、精一杯口を開く。

 そうだ、まだおかしな点は残っている。

「話していないとでも?」

「……まさか」

「"私が本物のクララです"って得体の知れない浮浪児に言われて信じるとでも?現に"クララ"はいるのに?……誰一人、信じてくれませんでしたよ。……肉親なのにね」

 一瞬、酷く疲れたような顔をするアリア。

「ひひっ、お陰で殺すことになんの躊躇もいりませんでしたよ。貴女の居場所を奪った方が"美しい"復讐だったのですけどね。ああ、信用がないって辛いですねぇ、ねぇ──アトラさん?」

 しかし、アリアは、すぐにニヤニヤした顔に戻り、アトラを見る。

「さあ、アトラさん、ここまでご案内、お疲れ様でした」

「──え?」

 振り返ると、アトラは俯き、無言でアリアの隣まで歩いていった。

「こういう《契約》って事ですよ!」

 アリアはアトラの服を引き裂き、白い肌を露わにさせ、臍に描かれたもう一つの呪印を見せた。

「だから言っただろう……余を信じるなと……」

 アトラは顔を上げなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「そんな、あ、貴女も、私を裏切るの……?価値のある物を貴女に献上できなかったから……?」

「……そうではない……余の任務は元々、監獄にいる者共の監視だった。そしてお主が牢を出た場合は……ここへ連れてくる事を命じられていた。お主の牢の中にいた蜘蛛の一部は余の眷属だ」

 アトラは目を伏せながら、そう言った。

「あとら……いや……」

 毛玉は口を噤んだ。

「いやぁ、このネタバラシの為に、貴女に"わざわざ、玩具修理者の使い方を教えた"甲斐がありましたよ」

「教えた……?」

「自分で治せるのに、玩具修理者ちゃんを使わなきゃいけないんですかぁ?後ろに連れて歩いてたのに、全然に思い出さないんですから、困りましたよ。……さて、アトラさん、貴女のお望み通りに、この帝国の財の半分は貴女のものですよぉ」

「……そうか……それは嬉しいの……」

 どうしてアトラが侵入する経路を容易に準備できたのか……それはごく単純な事だったのだ。

 私は最初から決まった道を歩かされ、絶望する為にここまで歩いてきていた……ただ、そういうだけのことだった。

 復讐の決心も、祖母を殺す葛藤も、仲間への信頼も、何一つ……意味のないものだった、この命も、名前も、意識も全て偽物だった。

 復讐の大義すらない。

 ここでアリアを仮に殺せても、私はただ聖女を殺しただけの大逆人で、父親と同じ無為の死を遂げるだけ──老衰で死ぬまで、あの暗闇に転がり続けるのだろう。

 もう、それでいいかもしれない。

「さぁて、お伽話のような、姫と騎士ごっこがお好きなようなので、相応しい終わりを与えてあげましょう!《さあ!目覚めなさい!》」

「──」

 アリアの魔術で獣が目覚め、立ち上がるのが見えた。

 もう、その腕に私との《契約》の呪印はない。

 体からも、頭からも、力が抜ける。

 アリアの触手は、私を放り投げた。

 浮遊感。

 きっと、床に打ち付けられるのだろう。
 
「さて、お立ち会い、お姫様は醜いままに、騎士だと思った野獣に無念、サクッと食い殺されましたとさ!実に滑稽!実に愉快!さぁ!無意味で無価値な茶番劇、第2部、これにて閉幕──」

 落ちる私に、駆け寄る獣の腕が迫る。

「……私には最初から何の意味も──」

 結局、無意味で無価値な──。

「大丈夫か!!」

「──え?」

「──あららぁ?」

 獣は私を受け止めていた。
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