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第2部

19 地上

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「やっと、外に──え?」

 牢獄から出て初めに見たものは、暗雲に包まれた空。

 周囲は墓地。

 高い壁に囲まれた敷地。

 遠くに見えるのは王城。

 星はなく、今が朝なのか夜なのかも分からない。

「はは……中も外もそれほど変わらないな。まだ牢獄の中なのではないのか?」

 獣は皮肉のような空模様に笑う。

「終末になって、二百年も経てば、朝も夜も分からなくなってもおかしくあるまい?」

「ここは……ていこく……か?」

「間違いありません……!ここは帝国の首都、わたしが処刑されるまでいた修道院です!」

 どこにでるか分からなかったけど、これならすぐにでもアリアを……。

「どこか隠れられる場所はないかの?このままでは、我らはちと……目立ち過ぎるでの」

「……剣の鍛錬の為に使っていた隠し通路が近くにあるはずです、行きましょう」

 心臓が早鐘を打つ。

 私はやっとここに戻ってきたんだ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆


 墓場の奥から隠し通路を進むと、それほど広くない武器庫についた。

 ここからさらに進めば、私の部屋……ほとんど幽閉のような生活を送っていた部屋に着く。
 
「帝国の修道院に、武器庫があるとはな」 

 獣は並んだ甲冑や武器を眺めて、意外そうに言う。

「……戦いを是とする教義ですから」

 略奪と戦いを心の中で否定しつつも、結局は趣味は剣だし、性格も温厚な方ではない。私も同じ穴の狢なのだろう。

 そして、これからやろうとしていることも。

「ここのぶぐは、たべてもいいものか?」

 毛玉が肩から飛び降りて鎧の材質を確かめるように、つつく。

「多分、汗とか沁みてて、美味しくないですよ」

「しおあじは、だいじだ。まずくても」

 ……美味しいものって食べ物だけじゃないんだ……この感性は分からないな……

「……まあ、一つや二つ盗んだところで罪の多寡は知れているでしょう、一国を滅ぼすのですから」

「おお、いいぞ同盟者よ!ではこの武器庫のものは全て余が回収してやろう!」

 蜘蛛糸の網を広げ、ごそっと鎧やら槍やらを纏めて背負うアトラ。

「また、がらくたを。こじまに、ひきとったものも、ろくでもないものばかりだったろう」

「勝手に持っていった貴様にとやかく言われる筋合いはないぞー」

 小島のにあったガラクタの山って……いや、彼女にとっては大事なものなんだろう。

「……そんなにいらないと思いますよ、邪魔ですし」

「そうか……?これはお前にとって《価値はないのか?》」

「まあ、あんまり」

「ならば、いらぬ。だいたい、余に似合う武具など無いしな!」

 アトラは網ごと放り投げた。

 確かに獣達の体に合うような鎧なんて専用に作らなければ……そうだ。

「ツァト様、土の権能で鎧や兜を作る事は出来ますか?」

「おもうように、やってみるといい、そうぞうが、まじゅつをつくる」

「はい!《鋼よ、我の望む形質を成せ!》」

 剣の呪印が輝く、切っ先に宿った光が武具達を溶かし、液体へ変える。

「《我らに鎧と兜を》」

「獣となってからついぞ被ることはなかったな」

 獣には狼の顔に合う全身鎧を。

 一応、外に出ても獣とバレないように。

「……余は何を着ても似合うがの!」

 アトラには鎖帷子を。あまり重い物は動きを阻害しそうだから。

 下半身の蜘蛛はどうあがいても、隠せそうにないし。

「われには……兜か」

 毛玉には兜を。殆ど帽子のようなものだけど。……見るたびに大きさが変わってしまう彼に鎧は無理そうだし。

「……よし」

 私にはなるべく軽くした鎧と、顔を隠す程度の兜。魔力を集中させないと重くて動けないし。

 もし、アリアが私の部屋を使っているのなら、最短でこの先で遭遇する。

──確かめなければ、貴女が一体何者なのかを。
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