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第2部
17 化身
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「……え?」
灰色の竜の心臓を貫いた私は、気がつくと白い空間にいた。
「おー、凄いね、"私"を倒すなんて。それにしても、こんなとこまで来て、何?君、暇なの?」
長いウェーブのかかった茶髪の女性が、白い空間に備え付けられたベッドに座っていた。
「もしや貴女は……あの竜なのですか……?」
「そうでもあるし、そうでもないよ。"そっちの私"は、あそこで《自分の生み出した者共を食らい永劫に眠り続ける》そういう《契約》で縛られている」
「……!ではあの異形達は貴女の子供達……!?」
「そう、私の子供で、私自身でもある」
「それではまるで……」
「さしずめ、私は自らの尾を食み続け、夢を見るでっかい蛇ってところかなぁ?君らの信じる神とやらのお話によく出てくるでしょう?」
髪の一本一本が蛇に変わり舌をだす。
「……!」
もしそれが本当なら、私が今対峙している存在は神代の……
「くはは、びびったぁ?この私こそ君らのよく知る世界蛇ってやつだぞー?どうだー怖いかぁー?」
手をわきわきしながら歯を剥く女性。
「私には怖く見えません」
「本当かなぁー?これならどうだぁ!」
彼女の影が伸び、その中から三つの頭を持つ黒龍が起き上がる。
「◼︎◼︎◼︎──!!」
咆哮を上げ、地を踏むそれは、激しい振動を空間に響かせる。
「……例え、何が立ちはだかろうと、私の復讐を止める事は出来ません。それが神代の存在であろうと、強大な竜であろうと」
「その小さな身で?武器だって持っていない。貴女を守る獣君はここにはいない。お友達の口達者な蜘蛛もいない。魔術だって毛玉がいなければ碌に使えない。そんな君に何ができる?」
随分と芝居じみた身振りで私に問う女性。
なら、こちらも似たような調子でお返しするとしよう。
「人の武器は、鉄器のみではありません。人の言葉は、欺く為だけにあるわけでありません。人の魔術は、目に見える炎を生み出すだけではありません」
「では何を武器とする!矮小なる者よ!」
背後の竜と彼女は同時に口にする。
「人が初めに使った魔術は言葉です。それに力を持たせたものが《契約》と《制約》です。私はその力によって貴女をこの楔から解き放ちましょう」
「それ本気?私は外に出るときこそ、この世が終わる時なんだよ?」
「今さら竜が一匹外に出たところで何も変わらないでしょう?」
「く、くはは。これはそういう"物語"か。いいよ、いいよ。まあ、私は貴女の"お父さん"でも"お母さん"でもないけど、君の覚悟と絶望に免じて……力と身の程も足りぬ、矮小なる君の為に力を貸してあげよう」
「では《契約》を上書きしま──」
「……私には、いらないな。代わりに君に呪いを掛けてあげよう。『お前はこの牢獄、冥界に"相応しくない"』さあ、お帰りはあちら。呪いのお陰で自ずと道は開けるさ」
視界が白く染まっていく。
「"剣"は勝手に使っていいから。協力に関してはねー《待て、しかして希望せよ》なんちゃって。君に送る言葉にしては丁度いいと思わない?なんか違う?まあそこは私の語彙力にご勘弁を。ではでは、書板の導くままにー」
やたらと喋る神代の獣は、白い薄靄の中に姿を消していった。
灰色の竜の心臓を貫いた私は、気がつくと白い空間にいた。
「おー、凄いね、"私"を倒すなんて。それにしても、こんなとこまで来て、何?君、暇なの?」
長いウェーブのかかった茶髪の女性が、白い空間に備え付けられたベッドに座っていた。
「もしや貴女は……あの竜なのですか……?」
「そうでもあるし、そうでもないよ。"そっちの私"は、あそこで《自分の生み出した者共を食らい永劫に眠り続ける》そういう《契約》で縛られている」
「……!ではあの異形達は貴女の子供達……!?」
「そう、私の子供で、私自身でもある」
「それではまるで……」
「さしずめ、私は自らの尾を食み続け、夢を見るでっかい蛇ってところかなぁ?君らの信じる神とやらのお話によく出てくるでしょう?」
髪の一本一本が蛇に変わり舌をだす。
「……!」
もしそれが本当なら、私が今対峙している存在は神代の……
「くはは、びびったぁ?この私こそ君らのよく知る世界蛇ってやつだぞー?どうだー怖いかぁー?」
手をわきわきしながら歯を剥く女性。
「私には怖く見えません」
「本当かなぁー?これならどうだぁ!」
彼女の影が伸び、その中から三つの頭を持つ黒龍が起き上がる。
「◼︎◼︎◼︎──!!」
咆哮を上げ、地を踏むそれは、激しい振動を空間に響かせる。
「……例え、何が立ちはだかろうと、私の復讐を止める事は出来ません。それが神代の存在であろうと、強大な竜であろうと」
「その小さな身で?武器だって持っていない。貴女を守る獣君はここにはいない。お友達の口達者な蜘蛛もいない。魔術だって毛玉がいなければ碌に使えない。そんな君に何ができる?」
随分と芝居じみた身振りで私に問う女性。
なら、こちらも似たような調子でお返しするとしよう。
「人の武器は、鉄器のみではありません。人の言葉は、欺く為だけにあるわけでありません。人の魔術は、目に見える炎を生み出すだけではありません」
「では何を武器とする!矮小なる者よ!」
背後の竜と彼女は同時に口にする。
「人が初めに使った魔術は言葉です。それに力を持たせたものが《契約》と《制約》です。私はその力によって貴女をこの楔から解き放ちましょう」
「それ本気?私は外に出るときこそ、この世が終わる時なんだよ?」
「今さら竜が一匹外に出たところで何も変わらないでしょう?」
「く、くはは。これはそういう"物語"か。いいよ、いいよ。まあ、私は貴女の"お父さん"でも"お母さん"でもないけど、君の覚悟と絶望に免じて……力と身の程も足りぬ、矮小なる君の為に力を貸してあげよう」
「では《契約》を上書きしま──」
「……私には、いらないな。代わりに君に呪いを掛けてあげよう。『お前はこの牢獄、冥界に"相応しくない"』さあ、お帰りはあちら。呪いのお陰で自ずと道は開けるさ」
視界が白く染まっていく。
「"剣"は勝手に使っていいから。協力に関してはねー《待て、しかして希望せよ》なんちゃって。君に送る言葉にしては丁度いいと思わない?なんか違う?まあそこは私の語彙力にご勘弁を。ではでは、書板の導くままにー」
やたらと喋る神代の獣は、白い薄靄の中に姿を消していった。
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