36 / 95
第2部
17 化身
しおりを挟む
「……え?」
灰色の竜の心臓を貫いた私は、気がつくと白い空間にいた。
「おー、凄いね、"私"を倒すなんて。それにしても、こんなとこまで来て、何?君、暇なの?」
長いウェーブのかかった茶髪の女性が、白い空間に備え付けられたベッドに座っていた。
「もしや貴女は……あの竜なのですか……?」
「そうでもあるし、そうでもないよ。"そっちの私"は、あそこで《自分の生み出した者共を食らい永劫に眠り続ける》そういう《契約》で縛られている」
「……!ではあの異形達は貴女の子供達……!?」
「そう、私の子供で、私自身でもある」
「それではまるで……」
「さしずめ、私は自らの尾を食み続け、夢を見るでっかい蛇ってところかなぁ?君らの信じる神とやらのお話によく出てくるでしょう?」
髪の一本一本が蛇に変わり舌をだす。
「……!」
もしそれが本当なら、私が今対峙している存在は神代の……
「くはは、びびったぁ?この私こそ君らのよく知る世界蛇ってやつだぞー?どうだー怖いかぁー?」
手をわきわきしながら歯を剥く女性。
「私には怖く見えません」
「本当かなぁー?これならどうだぁ!」
彼女の影が伸び、その中から三つの頭を持つ黒龍が起き上がる。
「◼︎◼︎◼︎──!!」
咆哮を上げ、地を踏むそれは、激しい振動を空間に響かせる。
「……例え、何が立ちはだかろうと、私の復讐を止める事は出来ません。それが神代の存在であろうと、強大な竜であろうと」
「その小さな身で?武器だって持っていない。貴女を守る獣君はここにはいない。お友達の口達者な蜘蛛もいない。魔術だって毛玉がいなければ碌に使えない。そんな君に何ができる?」
随分と芝居じみた身振りで私に問う女性。
なら、こちらも似たような調子でお返しするとしよう。
「人の武器は、鉄器のみではありません。人の言葉は、欺く為だけにあるわけでありません。人の魔術は、目に見える炎を生み出すだけではありません」
「では何を武器とする!矮小なる者よ!」
背後の竜と彼女は同時に口にする。
「人が初めに使った魔術は言葉です。それに力を持たせたものが《契約》と《制約》です。私はその力によって貴女をこの楔から解き放ちましょう」
「それ本気?私は外に出るときこそ、この世が終わる時なんだよ?」
「今さら竜が一匹外に出たところで何も変わらないでしょう?」
「く、くはは。これはそういう"物語"か。いいよ、いいよ。まあ、私は貴女の"お父さん"でも"お母さん"でもないけど、君の覚悟と絶望に免じて……力と身の程も足りぬ、矮小なる君の為に力を貸してあげよう」
「では《契約》を上書きしま──」
「……私には、いらないな。代わりに君に呪いを掛けてあげよう。『お前はこの牢獄、冥界に"相応しくない"』さあ、お帰りはあちら。呪いのお陰で自ずと道は開けるさ」
視界が白く染まっていく。
「"剣"は勝手に使っていいから。協力に関してはねー《待て、しかして希望せよ》なんちゃって。君に送る言葉にしては丁度いいと思わない?なんか違う?まあそこは私の語彙力にご勘弁を。ではでは、書板の導くままにー」
やたらと喋る神代の獣は、白い薄靄の中に姿を消していった。
灰色の竜の心臓を貫いた私は、気がつくと白い空間にいた。
「おー、凄いね、"私"を倒すなんて。それにしても、こんなとこまで来て、何?君、暇なの?」
長いウェーブのかかった茶髪の女性が、白い空間に備え付けられたベッドに座っていた。
「もしや貴女は……あの竜なのですか……?」
「そうでもあるし、そうでもないよ。"そっちの私"は、あそこで《自分の生み出した者共を食らい永劫に眠り続ける》そういう《契約》で縛られている」
「……!ではあの異形達は貴女の子供達……!?」
「そう、私の子供で、私自身でもある」
「それではまるで……」
「さしずめ、私は自らの尾を食み続け、夢を見るでっかい蛇ってところかなぁ?君らの信じる神とやらのお話によく出てくるでしょう?」
髪の一本一本が蛇に変わり舌をだす。
「……!」
もしそれが本当なら、私が今対峙している存在は神代の……
「くはは、びびったぁ?この私こそ君らのよく知る世界蛇ってやつだぞー?どうだー怖いかぁー?」
手をわきわきしながら歯を剥く女性。
「私には怖く見えません」
「本当かなぁー?これならどうだぁ!」
彼女の影が伸び、その中から三つの頭を持つ黒龍が起き上がる。
「◼︎◼︎◼︎──!!」
咆哮を上げ、地を踏むそれは、激しい振動を空間に響かせる。
「……例え、何が立ちはだかろうと、私の復讐を止める事は出来ません。それが神代の存在であろうと、強大な竜であろうと」
「その小さな身で?武器だって持っていない。貴女を守る獣君はここにはいない。お友達の口達者な蜘蛛もいない。魔術だって毛玉がいなければ碌に使えない。そんな君に何ができる?」
随分と芝居じみた身振りで私に問う女性。
なら、こちらも似たような調子でお返しするとしよう。
「人の武器は、鉄器のみではありません。人の言葉は、欺く為だけにあるわけでありません。人の魔術は、目に見える炎を生み出すだけではありません」
「では何を武器とする!矮小なる者よ!」
背後の竜と彼女は同時に口にする。
「人が初めに使った魔術は言葉です。それに力を持たせたものが《契約》と《制約》です。私はその力によって貴女をこの楔から解き放ちましょう」
「それ本気?私は外に出るときこそ、この世が終わる時なんだよ?」
「今さら竜が一匹外に出たところで何も変わらないでしょう?」
「く、くはは。これはそういう"物語"か。いいよ、いいよ。まあ、私は貴女の"お父さん"でも"お母さん"でもないけど、君の覚悟と絶望に免じて……力と身の程も足りぬ、矮小なる君の為に力を貸してあげよう」
「では《契約》を上書きしま──」
「……私には、いらないな。代わりに君に呪いを掛けてあげよう。『お前はこの牢獄、冥界に"相応しくない"』さあ、お帰りはあちら。呪いのお陰で自ずと道は開けるさ」
視界が白く染まっていく。
「"剣"は勝手に使っていいから。協力に関してはねー《待て、しかして希望せよ》なんちゃって。君に送る言葉にしては丁度いいと思わない?なんか違う?まあそこは私の語彙力にご勘弁を。ではでは、書板の導くままにー」
やたらと喋る神代の獣は、白い薄靄の中に姿を消していった。
0
お気に入りに追加
630
あなたにおすすめの小説
聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~
サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる