上 下
33 / 95
第2部

14 仮説-3

しおりを挟む
 泥に灯った青白い炎は、やがて赤とオレンジの見慣れた色へと変わり、洞窟を暖かく照らしている。
 
 火を囲んで食事をとりながら、私は今迄の経緯と疑念を説明した。

「せいじょ、とやらが、そぼかもしれない?」

 私の肩に乗っている毛玉は、口の中の袋に肉を詰めてリスのように膨らませたまま、真剣な顔をしていた。

「……そうです。私を幽閉したのも、今まで女児を殺していたのも」

「のう?よいか?」

 アトラが中身を吸った肉を、火の中へ捨てながら聞く。

「なんでしょうか?」

「余は最初に二百年前からここにいると言ったであろう?」

「……流石に別の聖女による《契約》だと考えていました」

「余は最初から祖母に対して復讐を遂げるのだと思っておったわ」

「……祖母とアリアが同一人物ということは否定しないのですか……?」

「何度か来ている聖女の見た目は違う事もあったし、そやつら皆、似た気配は感じたが……同一人物かと聞かれると、違うような気がしてくるの」

 首を傾げるアトラ。

「……そうですか」

「われからもよいか?」

「どうぞ、わかる事なら何でも構いません」

「もし、わかがえることができるなら、おまえのそぼは、なぜ、としおいていたのだ?」

「……わかりません」

「そして、わかがえっているのなら、なぜおまえは、せいじょこうほとなった?」

「そう……でしょうね」

 確かにその通りだった。

 アリアがもし、六年前に若返った祖母だとするなら、無能な私を無理に聖女候補にする必要はない。

「……私を次代の聖女と言ってしまっていたからなのでは?」

「だとしても、ほうほうある。──いまのおまえにしたように、いくらでもな」

「いやいや、理由があったのかもしれんぞ?例えば、6年間待つ必要があったとかな」

 アトラがその発言に割り込んだ。

「待つ必要?」

「何らかと《契約》してそうなったか、或いは、自らに《制約》をかけたか、それくらいしても不思議ではないだろう?」

 いつのまにか回り込んだアトラは、耳元でそう囁く。

「それなら生きていても……」

 その可能性もあり得るように思えた。

「あとら、それは、きりがない。"しろいからす"がいないことをしょうめいするために、すべての"くろいからす"をあつめようとすることに、かわりないぞ?このむすめを、ぜつぼうさせたいのか?」

 アトラを諌める毛玉。

「あくまで均衡を保つ為の意見に過ぎないのだぞー?」

 くつくつと笑うアトラは、他意はないと訂正する。

「いずれにせよ、けつろんをだすのには、はやい」

「俺からもいいか?」

 骨を噛み砕いて、骨髄を啜っていた獣が問う。

「どうぞ」

「複雑なことは分からないが、親族が自らの娘や孫に対して、そのような行いをするとは思えない。これは論理ではなく感情の話だがな」

「……私もそうであってほしいです」

「だが、一方で主人は祖母が生きていて欲しいとも思っているのではないか?」

「──え?」

 考えてもみなかった角度からの質問だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

パニックゾーン

春秋花壇
現代文学
パニックゾーン

悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま
恋愛
アデライトは婚約者である王太子に無実の罪を着せられ、婚約破棄の後に断頭台へと送られた。 ……だが、気づけば彼女は七歳に巻き戻っていた。そしてアデライトの傍らには、彼女以外には見えない神がいた。 「見たくなったんだ。悪を知った君が、どう生きるかを。もっとも、今後はほとんど干渉出来ないけどね」 「……十分です。神よ、感謝します。彼らを滅ぼす機会を与えてくれて」 ※※※ 冤罪で父と共に殺された少女が、巻き戻った先で復讐を果たす物語(大団円に非ず) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

短編まとめ

あるのーる
BL
大体10000字前後で完結する話のまとめです。こちらは比較的明るめな話をまとめています。 基本的には1タイトル(題名付き傾向~(完)の付いた話まで)で区切られていますが、同じ系統で別の話があったり続きがあったりもします。その為更新順と並び順が違う場合やあまりに話数が増えたら別作品にまとめなおす可能性があります。よろしくお願いします。

最前線

TF
ファンタジー
人類の存亡を尊厳を守るために、各国から精鋭が集いし 最前線の街で繰り広げられる、ヒューマンドラマ この街が陥落した時、世界は混沌と混乱の時代に突入するのだが、 それを理解しているのは、現場に居る人達だけである。 使命に燃えた一癖も二癖もある、人物達の人生を描いた物語。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

これは、どういう状況かしら?【意外なオチシリーズ第2弾】

結城芙由奈 
恋愛
【寝言は寝てから言ってもらえないかしら?】 もうすぐ卒業を控えた彼は婚約中にも関わらず、今日も堂々と他の女子学生と2人きりで楽しそうに会話をしている。けれど決定的な浮気の証拠がないために問い詰めることが出来ずにいた。そこで私は彼を泳がせて浮気の証拠を掴み、謝罪させようと決めた。しかし、事態は予期せぬ方向へと動いてく…… ※【意外なオチシリーズ第2弾】 ※あっさり終わります ※他サイトでも投稿中

処理中です...