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第2部

12 仮説

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「どうした?」

 いや、迷うまでもない。

 最悪な事になる前に。私は彼に話さなければならない。

 いずれ発覚するのなら先に言ったほうが、遥かに誠実だし──駒として使うのならそうした方が確実だ。

「獣さん……あなたの知っている聖女は6年前に死んでしまっているのです。ですから……あなたの復讐の相手は……とっくに……」

「……ん?引き継いだが、使い物にならなくなったから捨てられたのではなかったのか?それも親族のあの聖女に」

「……もう一度説明した方が良さそうですね……」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 そして冷静に説明し直すと獣は、唖然とした。

「……では、度々俺の前に訪れていたあの"聖女"とは一体何者なのだ……!?」

「……それが私にも分からないのです。周りの人間は最初から居て当たり前のように振舞いますし、皆、彼女の味方ですし」

「俺はてっきり、魔術で若返ったものかと思っていたが……でもなければあまりに魔力の気配が似通って」

「老化を止める事すら出来ないのに、若返りなんて……出来るわけが………っ──」

 一つ思い当たる事がある。

 それがあれば容易に出来るかもしれない。

「《玩具修理者》……!!」

 アレを使って取り替えてしまえば良いんだ。

 なんなら、死体を偽装するなんて簡単だろう。

「《だるぷし、あどぅら、うる、ばあくる》」

「お、おい、どうした急に!」

「てぃ──」

 現れた玩具修理者の極彩色の髪を掴む。

「私よりも若い存在がいれば、その肉体と入れ替えることは出来るか!?」

「……ぶひん、いれかえる……こと?かんたん、いしき、そのまま、あたらしくなる」

「………!!」

 全てが線で繋がった気がした。

 聖女が二百年以上も長生きしていた理由。

 女児が生まれない、或いはすぐに死んだとされていた理由。

 正体不明の存在が、さも存在して当然のように扱われている理由。

「そ、そんな……そんな嘘……」

 違うと思いたい。違うはず、違う。違う。

 あんなに優しかった祖母がそんなことをするわけがない……!

「てぃきり、り、それで、何を直す?どうしたい?」

「うるさい!そこらへんにいる異形から私の足を作ったらさっさと消えろ!この獣は使うなよ!」

「……わかった……」

「お、おい、いくら不気味でもそんな言い方は良くないのではないか?哀しそうだぞ?」

 間抜けのような事を言うな。

「そんな奴はどうだって良いの!……暫く話しかけないで……ごめんなさい」

「……仰せのままに我が主人よ」

「……」

 玩具修理者は、触手を伸ばして周囲の異形を分解し、私の足を作りながら、ブツブツと言っていたが、いつもの様に陽気に歌う事は無かった。

 洞窟には雫が垂れる音が響いていた。
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