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第6章過去転移

114 カレン

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 古来より、魔導師は異質な存在であった。
 簡易な魔法を使う者は少なからず存在したが、複雑な魔法式を組んで高度な魔法を操る者は魔導師と呼ばれ人々から尊敬の念を受けていた。
 特に、伝説の魔導師と呼ばれていたカフロスは大樹から削り出した大振りな魔法の杖を持ち、帽子を深く被り、素顔をあまり見せなかった。
 カフロスが若い頃は王都にも呼ばれ、さまざまな災厄から国を守る為に動いたが、晩年は森の中にこもって隠遁生活を続けたと言う。


「あっあの……。大魔導師さんは、急に本なんか読み出してどうしたんですか?」


 蓮は呆れそうな表情をグッと堪えて苦笑いをした。
 目の前にいる大魔導師が自身を馬鹿にされたと思い、怒っている様子を見せた後で、急に本を取り出して読み始めたのである。
 どうやら、この本に出てくる伝説の魔導師カフロス。
 この人物が自身の師匠であると言いたいのだろう。実際に彼女が手にしている大きな魔法の杖は、随分と古いものだ。
 それに本を読みながら蓮の方をチラチラと見てくる。


「無学なスレイヴも、伝説の魔導師カフロスの名は聞いたことがあるだろう?」


 ニヤニヤしながら蓮を見てくる彼女は、口元に本を持ってきてニヤけた表情を隠そうとしている。
 驚いてそうな反応をとって欲しいのだろうが、蓮は反射的に素直に答えてしまった。


「カフロス? 聞いたことがないな」
「な! なんだと!? 我が師匠の名を聞いたことがない者などこの世界に存在するのか?」


(まぁ、厳密に言えば俺はこの世界の人間じゃないけど)


「ふっ。まぁいい。私が言いたいのは、私は伝説の魔導師の弟子だと言うことだ! この魔法の杖が何よりの証拠」


 そういうと彼女は大きな杖を地面に勢いよく刺して蓮に向かって言った。


「我が名は大魔導師カレン。よく覚えておけよ」
「……カレン?」


 蓮は驚いた表情を見せてカレンの方向を向いた。
 現実世界にいた時の同級生、火憐と同じ名前。


 リリアンといい、この世界と現実世界には変なつながりがあるみたいだ。
 まぁ、もともと火憐はこの世界の住人じゃないから本人と違うけど、どこか懐かしく思えてくる。


「ふふっ」
「何がおかしい!? 我が名がおかしいか?」
「いや。いい名前だなって思ってさ」


 蓮はカレンの方向を向いてニコッとした。
 そういえば、身長も体格もどことなく火憐と似ている。
 怒りっぽいところまでそっくりだ。
 顔は、布で巻かれてるので似ているのか分からないが、雰囲気だけでも安心できる。


「そうか。やっと我の偉大さに気づいたか。」


 カレンの方は自身の名前が褒められたことが嬉しかったらしい。
 腕を組んで顔を縦に振っている。


「これで、勇者の仲間は全員か?」
「そうだ。この大魔導師カレン。勇者アーサー。そして、貴様の肩の上でくつろいでいる、その狩人サシャ。これで全員だ」


 カレンは腕組みながら蓮の質問に答えた。
 すると、蓮はサシャがボソボソ言っているのが聞こえた。


「くつろいでるわけじゃない……」
「サシャよ。無理をしなくてもよい。このまま、この大魔導師が空間転移魔法を用いて王都まで連れて行ってやる」
「え?!」
「なんだ。礼はいらんぞ。街の広場に転移してやる」


 そういうとカレンは魔導の杖を天へと大きく掲げた。
 そして、目を閉じて呪文を唱え始めた。
 杖の先端から円盤状の魔法陣が広がる。蒼く光っていて美しい。
 どうやらカレンは空間転移魔法を発動し始めたようだ。
 しかし、サシャは慌てた様子で叫んでいた。


 ――肩から下ろして!!!
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