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第4章過去との決別

42令嬢との約束

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 鮫島の攻撃。それは単純にダメージを与える技じゃない。時間差で必ず殺せる一撃必殺の技だったんだ。


「そんなに睨んでどうした?」
「……」


 鮫島は笑顔で俺に質問する。なんで睨んでるのか分かってるだろうに性格の悪い奴だ。
 そう。あと3ターン後に俺は死ぬ。こんな技ってありなのか?俺が言えた立場じゃない事は分かるけどさ。


 周りにいるクラスメイトもそう思うだろ。って周りを見てみたんだ。皆んなは静かに首吊り台を見ていただけだ。
 俺は忘れていたよ。機械音が聞こえるのは戦闘に参加しているプレイヤーだけだってな。


〈『鮫島』のターンが終了いたしました〉
〈コマンドを選択してください〉


 おっと。俺のターンが来たようだ。
 でも、自分のコマンドを選択する前にしなきゃならない事がある。
 さっきから火憐が声をあげているんだ。何が起こっているの?ってさ。


「蓮! 今、どうなってるの? あの首吊り台は何なのよ?」
「大丈夫だよ」


 俺が笑顔で答えても火憐はもう納得してくれないようだ。彼女は机に身を乗り出し、今にも泣きそうな顔で訴えてきた。。


「大丈夫って……いつもそうじゃん……ごまかしてさ……」
「ごまかしてる訳じゃないよ。本当に大丈夫だから」
「じゃあ、今の状況を説明してよ」
「……」


 俺は彼女の質問に応えられなかった。
 火憐を心配させたくなかったんだ。3ターン後に必ず死ぬ。なんて知ったら彼女になんて言われるか。
 そうして俺と火憐が下を向いてが黙り込んでいると、鮫島が会話に割り込んできた。
 嫌味な口調で。


「おいおい。王子様がだんまりかよぉ」
「鮫島は黙ってて!」


 火憐が鮫島に向かって叫んだ。先程の挑発からイライラしているのだろう。
 鮫島を睨みつける目は憎悪に満ちていた。
 しかし、鮫島は軽い調子で言葉を返すだけだ。彼は良心など持ち合わせていないのだろう。


「松尾も怖くなったな。俺とつるんでいた時なんかいつもクールだったのによぉ」
「あの時は人生に冷めてたのよ」
「へぇ~。そんな中で王子様に出会ったってわけか。うんうん、感動的だね」
「うるさいわね!」


 火憐が机をドンッ、と叩くと鮫島はニヤついた表情のまま、話し相手を俺に変えてきた。
 今度は俺の事を奴隷ではなく王子様に呼び代えている。火憐を相当怒らせたいようだ。


「なぁ王子様。お前は松尾の事どう思ってんだ? あいつはいつも虐める側だったんだぜ」
「……それは、分かってる」
「ははは。松尾聞いたか? 王子様はお前の事嫌いだってよ!」
「……」


 鮫島は再び火憐の方を見て悪魔のような笑みを浮かべている。
 そして、本当の悪魔に魅入られているように火憐は下を向いて黙り込んでしまった。俺に対して罪悪感が残っていたんだろう。
 でも、もう俺にとってはそんな事どうでもいいんだ。
 鮫島がチャチャを入れてきても俺は火憐に向かって話し続けた。


「違うよ」
「はぁ? 何言ってんだ。お前はMか?」
「それも違う。火憐は確かに俺を虐めてた。けど、ダンジョン内で俺に魔法をかけなかった」
「ほぉ! それで虐められた事をチャラにしたって事か!」
「いや、チャラにしたわけじゃない。乗り越えたんだ。俺と火憐は虐めっ子と虐められっ子の関係から、友達の関係になったんだ」
「意味わかんね~。松尾は分かるのか?」


 鮫島は白けた顔をして俺と火憐の顔を交互に見ている。
 俺たちが思ったよりも信頼し合っている事に気付いたんだろう。
 実際に火憐は再び元気を取り戻して話し始めた。


「私も蓮の言ってる意味はよく分からない……。けど、私の事を嫌ってないって事は分かったわ」
「目がウルウルしてんじゃねぇか。全く! 興醒めだぁ。ちっ。最後にいい事教えてやるぜ松尾。俺が王子様に掛けたのは呪いだ。3ターン後に死ぬぞ!」
「蓮! 本当なの?」
「……」
「答えてよ!」
「……大丈夫……俺は絶対に死なない……約束だ」


 俺は火憐に向かって微笑んだ。
 出来るだけ安心して欲しい。そういう願いを込めて。
 その願いが叶ったか、その時はよくわからなかった。
 火憐は心配そうな顔はしているがその後話しかける事はなくなったんだ。
 鮫島のお喋りは止まらないようだけどね。


「どうよ。3ターンの間、死を待つ感覚は」
「最悪だね」


 俺はわざと苦悩の表情を浮かべた。鮫島の絡みがいい加減鬱陶しくなってきたのだ。
 そして俺はゆっくりと自身のコマンドに目を移した。


――――――――――――――――――――――――――
   選択時間:20秒
→ ●物理攻撃
  ●呪怨(じゅおん) ※MPが0のため使用不可
  ●身を守る
  ●アイテム ――――――――――――――――――――――――――


 喋りすぎた。残り時間が全然ないじゃないか。


 俺は悩みに悩んだ。力加減が難しいのだ。
 もし、スキルで数万単位の数値を攻撃値に移したら、鮫島が即死してしまうだろう。
 正直、鮫島を消したい憎んでいる。だがそうすれば俺は殺人犯で逮捕されてしまうのだ。
 だから、時間をかけて鮫島に一矢報いる方法を考えようとしていた。


 でも、3ターンという制限がついてしまったのだ。
 困り果てた俺は頭の中にいるあの人に相談した。


(ダンフォールさん聞こえる?)
(何の用じゃ少年、儂は眠いんじゃけどな)
(ごめん。でも、相談したい事があるんだ)
(まぁええよ。言ってみるのじゃ)
(実は今、プレイヤーと戦闘してるんだけど、力加減が分からなくて……)
(なるほどな。確かに今の少年が、攻撃したら下手すると相手を殺しかねんな。ははは)


(笑い事じゃないですよ……)
(すまんすまん、じゃあ代わるか?)
(何を代わるんですか……)
(意識をじゃよ!)


 俺はまだこの時知らなかった。
 頭の中の老人に体を託す事が出来るなんて。
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