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第2章ダンジョンの怪物
20希望の光
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最後のターンが始まってしまった。遂に俺達は最後の賭けにでる。
あの化け猫を倒せるかもしれない。そんな局面へと。
残された希望は俺が有していた謎のコマンド『呪怨(じゅおん)』しかないけどさ。あるだけマシだ。
そう、これはあくまでも可能性にすぎない。
化け物に有効なダメージを与えられないかもしれないんだ。
こんな博打みたいな事に命を託すなんてな。
俺は微(かす)かな希望を胸に、火憐の方を見つめた。
もうこれで最後かもしれない。そう思うと一目だけでも見たかったんだ。
俺を信用してくれた彼女を。
そんな彼女は心配そうに俺を見つめていたんだ。
逃げないって言ってくれたけどさ。
火憐も怖いんだろう、これから先の不安定な未来が。
でも、心配しなくていいよ。もしダメなら火憐に逃げてもらうつもりだから。
こんな場所で死ぬのは俺だけでいい。
俺は火憐を見つめ返して微笑(ほほえ)んだ。
これで最期だったとしても悔いはない。火憐が優しさを教えてくれたから。
逃げ出さず俺に協力してくれた。それだけで十分だ。
「どうしたのよ?……蓮……」
「……」
俺が無言でが微笑み返したその時。機械音が、俺達の最期の攻撃を告げた。
〈ジジッ……〉
〈『呪怨(じゅおん)』を……実……行致……しま………す〉
ノイズが強くかかった不吉な音声。その音声の後に、周りが一斉に暗くなった。何も見えない……深淵へと……。
スゥゥゥゥゥゥ……。
松明の光も何も感じる事のできない漆黒の闇。状況が分からない。
でも、音だけは聞こえるんだ。
すぐに火憐(かれん)が震える声を出しているのが分かった。
「ちょっと蓮。あなた何したのよ」
「……ごめん。自分でもよく分からないんだ」
「そうなの。でも、まだ私達は生きているわ」
「そう。問題はこれから何が起きるかだね」
「……」
「……」
極限の緊張で俺達は2人とも言葉が出なくなっていた。
視界が真っ暗になって何も分からないし、前方から化け物の呻(うめ)き声が聞こえる。
『アゥゥゥヴヴア!』
「……」
「……」
そんな状況で気軽に会話なんか出来るわけない。
出来ることと言えばせいぜい生唾(なまつば)を飲むくらいだよ。
でもさすぐに会話が出来るようになったんだ。
ん?なぜかって?それは沈黙が少し経った後、機械音が教えてくれたからだよ。
もう終わりだ、ってさ。
〈ジジッ……〉
〈……戦闘を……終了……致しま……す……〉
「「え?……」」
突然の機械音。突然の戦闘終了の知らせ。
それは暗闇の中の俺達を混乱させた。
「火憐(かれん)聞こえた? 今の機械音」
「えぇ……聞こえたけど。本当に終わったの? まだ何も見えないわ」
「俺もだ。まだ何も見えない」
「……」
彼女の言う通りだ。
機械音は戦闘終了を告げたが、まだ視界は奪われたまま。
本当に安心できるのか分からない。ましてや、化け物の呻(うめ)き声が聞こえるんだから。
『アヴヴアアア!』
「ちょっと蓮。化け物まだ近くにいるみたいよ」
「いや、大丈夫だ火憐。呻(うめ)き声の方向を見てくれ」
「何よ! 何も見えないじゃない!!」
「そう。だから大丈夫なんだ」
「え?……どう言う事?……」
「前までは見えてたじゃないか。化け物のステータスが」
「……あっほんとだ。消えてる」
その声は恐怖ではなく安堵(あんど)の感情を表していた。
声を聞いて分かったよ。火憐も戦闘が終了したって気がついたみたいだ。
そう思った理由は簡単さ。見えなくなっていたんだ。
化け物のステータスが。
でもこれだけじゃ足りない。
俺は『戦闘が終了した』という確証がどうしても欲しかったんだ。
だから彼女に叫んだ。
「火憐(かれん)! 何でもいいから音を出し続けて!!」
「音?……分かったわ、ちょっと待って」
【カッカッカッ……】
石と石とがぶつかり合う音が響く。
「これでいいかしら! 何故か分からないけど足元にいっぱい石が転がっていたの!!」
「うん。これでいいよ。ありがとう!」
「教えてよ。何するつもり?」
「内緒。静かにしてて」
「うん。分かった」
「……」
【カッカッカッ……】
石がぶつかり合う音。俺はその方向に向かっていたんだ。
本当に戦闘が終了したならさ、自由に動けるはずなんだから。
少し歩くと音の鳴るすぐ側(そば)まで来れた。あとはゆっくりと手を伸ばすだけだ。
ゆっくり……ゆっくりと音の鳴る方へ。
ガッ!
そして俺は手を掴んだんだ。音を鳴らしている主。火憐の手をね。
「キャッ!……」
「驚いた?」
「その声は……蓮?」
「そうだよ。早く逃げよう。俺がここまで来れたって事はさ。本当に戦いは終わったんだ」
「終わったのね。うっ……」
「泣いてるの?」
「うっ……違うわよ……私が泣くわけないでしょ」
「そっか。あ! 1箇所だけ明るくなってる箇所があるよ!」
「ど……どこ?」
「こっちだよ。ほら、ついてきて」
「うん……」
「……」
俺は火憐の手を握ったまま歩き出した。微(かす)かな灯(あか)りが見える方へとね。まるでそれは希望の光のようだった。
「蓮……」
「……うん」
歩いている最中(さなか)、彼女は震える体を俺に押し付けてきた。
それに応えるように俺は手を強く握ったんだ。
■□■□■□
コツコツコツ……。
そのまま歩いていくと、松明(たいまつ)が辺りを照らす空間にたどり着いた。
そう。この場所は俺達がいるこの場所は、何も変わっちゃいない。ダンジョンの中だった。
そして暗闇から抜け出すと一気に力が抜けたんだ。
「本当に……終わったのね」
「そうだね。何かもう……すごい疲れた……」
「私も……」
「……」
ズズズ……。
俺達は2人して肩を寄せ合いながら、地面に倒れていった。
疲れているんだ。精神的にも肉体的にも。
松尾なんか俺の肩に頭を乗せて眠り出したほどなんだぞ。
「眠い……」
「寝ないでよ? まだ後ろの暗闇から、アイツが来るかもしれないんだから」
「分かってるわよ……だけど、もう少しこうさせて」
「はいはい」
松尾が休憩している間、俺は後方の暗闇を見ていた。
実を言うと、まだ暗闇が晴れていないんだ。
ダンジョンをこれ以上進むには、暗闇を通る必要がある。
幸(さいわ)いな事に、出口へと通じるルートには暗闇はかかっていないけどね。
でも、余計に分からなくなった。『呪怨(じゅおん)』の効果とは一体何なのだろうか?
疑問が深まる中、暗闇の中から聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。
『アアアアヴヴァ』
化け物の声。まだ暗闇の中にいるみたいだ。
俺が渋い顔をすると、ちょうど松尾の顔が俺の胸へと移動してきた。
彼女も化け物の鳴き声が聞こえたんだろう。体を震わせていたんだ。
「蓮。さっきのやつまだいるの?……」
「そうみたいだね。でも、様子がおかしい」
そう。化け物の様子がおかしい。
化け物はまだ、暗闇の中で何かと戦っているみたいなんだ……呻(うめ)き声を上げて何かに向かって吠えている。
俺の直感は正しかった。
後で分かった事だが『呪怨(じゅおん)』の効果とは相手に幻を見せる事。
そしてそれを囮として戦闘を強制終了させる事だからだ。なので化け物はまだ暗闇の中で戦っている。
――実態のない幻と、終わりのない争いを。
しかし『呪怨(じゅおん)』の効果を知らない俺達は、万が一に備えてその場から離れようとしていた。
「火憐(かれん)、もう大丈夫か?」
「うん。なんとか立てる」
「少し暗闇から離れよう」
「……分かったわ」
松尾の肩を支えながらゆっくりと出口の方へ進んだ。
唇を噛みながらダンジョンから出る事を決意したんだ。
なぜ唇を噛むのかって?氷華の捜索を断念せざるを得ないからだよ!
俺だって本当はこのまま氷華を探し続けたい。
でも奥に進む体力はないんだ!
いや、出口に辿り着ける体力すらないかもしれない。
はっ……今、化け物に出くわしたら終わりだな。
俺がそう思った瞬間だった。
洞穴の大きな一本道からではなく、無数にある小さな横道の1つ。
その中から、ガシャンガシャンという音が聞こえたのだ。
「火憐。今の音聞こえたか? 俺が足止めするから早く逃げ……むぐっ!?……」
俺の言葉の途中で、火憐が口を両手で塞いだんだ。怒った様子で口を膨らませながらね。
「さっきも言ったでしょ。逃げろなんて言わないでって!」
「……はは…そうだったな」
俺は馬鹿だった。
彼女の目は真剣そのものだったんだ。
「次それ言ったら、殴るからね!」
「もう二度と言わないから、大丈夫だよ。それより……」
「うん。分かってるわ。音が近づいてくる」
「……」
コツ……。
俺達は、音の方向に注意して足を止めた。
するとすぐに、横穴からあれが出てきたんだ。
「「え?」」
【ガシャン!ガシャン!ガシャン!】
鉄と鉄が擦(こす)れる音。その金属音を響かせながら近づいてくる。その正体は全身武装した騎士だったんだ。
体全てが鎧に覆(おお)われ、まるで中世の騎士のような姿。
いやそれだけではない。大剣が背中に装備されている。
理解が追いつかない俺達。そんな状況で、先に言葉を発したのは火憐であった。
「あれ?敵なのかしら?」
「……さぁ? 俺には何とも」
敵なのかは分からない。ただこちらに近づいてくる事は確かだ。
俺達は騎士相手に身構えて戦闘に備えた。
しかしあれは敵じゃなかったんだ。いや、むしろ仲間だったんだ。
騎士は身構える俺達を見ると立ち止まって声をかけてきた。
「蓮じゃん! もうこんな奥まで来たんだ」ってさ。
この声の主を俺は知っている。
あの騎士は氷華だ。
あの化け猫を倒せるかもしれない。そんな局面へと。
残された希望は俺が有していた謎のコマンド『呪怨(じゅおん)』しかないけどさ。あるだけマシだ。
そう、これはあくまでも可能性にすぎない。
化け物に有効なダメージを与えられないかもしれないんだ。
こんな博打みたいな事に命を託すなんてな。
俺は微(かす)かな希望を胸に、火憐の方を見つめた。
もうこれで最後かもしれない。そう思うと一目だけでも見たかったんだ。
俺を信用してくれた彼女を。
そんな彼女は心配そうに俺を見つめていたんだ。
逃げないって言ってくれたけどさ。
火憐も怖いんだろう、これから先の不安定な未来が。
でも、心配しなくていいよ。もしダメなら火憐に逃げてもらうつもりだから。
こんな場所で死ぬのは俺だけでいい。
俺は火憐を見つめ返して微笑(ほほえ)んだ。
これで最期だったとしても悔いはない。火憐が優しさを教えてくれたから。
逃げ出さず俺に協力してくれた。それだけで十分だ。
「どうしたのよ?……蓮……」
「……」
俺が無言でが微笑み返したその時。機械音が、俺達の最期の攻撃を告げた。
〈ジジッ……〉
〈『呪怨(じゅおん)』を……実……行致……しま………す〉
ノイズが強くかかった不吉な音声。その音声の後に、周りが一斉に暗くなった。何も見えない……深淵へと……。
スゥゥゥゥゥゥ……。
松明の光も何も感じる事のできない漆黒の闇。状況が分からない。
でも、音だけは聞こえるんだ。
すぐに火憐(かれん)が震える声を出しているのが分かった。
「ちょっと蓮。あなた何したのよ」
「……ごめん。自分でもよく分からないんだ」
「そうなの。でも、まだ私達は生きているわ」
「そう。問題はこれから何が起きるかだね」
「……」
「……」
極限の緊張で俺達は2人とも言葉が出なくなっていた。
視界が真っ暗になって何も分からないし、前方から化け物の呻(うめ)き声が聞こえる。
『アゥゥゥヴヴア!』
「……」
「……」
そんな状況で気軽に会話なんか出来るわけない。
出来ることと言えばせいぜい生唾(なまつば)を飲むくらいだよ。
でもさすぐに会話が出来るようになったんだ。
ん?なぜかって?それは沈黙が少し経った後、機械音が教えてくれたからだよ。
もう終わりだ、ってさ。
〈ジジッ……〉
〈……戦闘を……終了……致しま……す……〉
「「え?……」」
突然の機械音。突然の戦闘終了の知らせ。
それは暗闇の中の俺達を混乱させた。
「火憐(かれん)聞こえた? 今の機械音」
「えぇ……聞こえたけど。本当に終わったの? まだ何も見えないわ」
「俺もだ。まだ何も見えない」
「……」
彼女の言う通りだ。
機械音は戦闘終了を告げたが、まだ視界は奪われたまま。
本当に安心できるのか分からない。ましてや、化け物の呻(うめ)き声が聞こえるんだから。
『アヴヴアアア!』
「ちょっと蓮。化け物まだ近くにいるみたいよ」
「いや、大丈夫だ火憐。呻(うめ)き声の方向を見てくれ」
「何よ! 何も見えないじゃない!!」
「そう。だから大丈夫なんだ」
「え?……どう言う事?……」
「前までは見えてたじゃないか。化け物のステータスが」
「……あっほんとだ。消えてる」
その声は恐怖ではなく安堵(あんど)の感情を表していた。
声を聞いて分かったよ。火憐も戦闘が終了したって気がついたみたいだ。
そう思った理由は簡単さ。見えなくなっていたんだ。
化け物のステータスが。
でもこれだけじゃ足りない。
俺は『戦闘が終了した』という確証がどうしても欲しかったんだ。
だから彼女に叫んだ。
「火憐(かれん)! 何でもいいから音を出し続けて!!」
「音?……分かったわ、ちょっと待って」
【カッカッカッ……】
石と石とがぶつかり合う音が響く。
「これでいいかしら! 何故か分からないけど足元にいっぱい石が転がっていたの!!」
「うん。これでいいよ。ありがとう!」
「教えてよ。何するつもり?」
「内緒。静かにしてて」
「うん。分かった」
「……」
【カッカッカッ……】
石がぶつかり合う音。俺はその方向に向かっていたんだ。
本当に戦闘が終了したならさ、自由に動けるはずなんだから。
少し歩くと音の鳴るすぐ側(そば)まで来れた。あとはゆっくりと手を伸ばすだけだ。
ゆっくり……ゆっくりと音の鳴る方へ。
ガッ!
そして俺は手を掴んだんだ。音を鳴らしている主。火憐の手をね。
「キャッ!……」
「驚いた?」
「その声は……蓮?」
「そうだよ。早く逃げよう。俺がここまで来れたって事はさ。本当に戦いは終わったんだ」
「終わったのね。うっ……」
「泣いてるの?」
「うっ……違うわよ……私が泣くわけないでしょ」
「そっか。あ! 1箇所だけ明るくなってる箇所があるよ!」
「ど……どこ?」
「こっちだよ。ほら、ついてきて」
「うん……」
「……」
俺は火憐の手を握ったまま歩き出した。微(かす)かな灯(あか)りが見える方へとね。まるでそれは希望の光のようだった。
「蓮……」
「……うん」
歩いている最中(さなか)、彼女は震える体を俺に押し付けてきた。
それに応えるように俺は手を強く握ったんだ。
■□■□■□
コツコツコツ……。
そのまま歩いていくと、松明(たいまつ)が辺りを照らす空間にたどり着いた。
そう。この場所は俺達がいるこの場所は、何も変わっちゃいない。ダンジョンの中だった。
そして暗闇から抜け出すと一気に力が抜けたんだ。
「本当に……終わったのね」
「そうだね。何かもう……すごい疲れた……」
「私も……」
「……」
ズズズ……。
俺達は2人して肩を寄せ合いながら、地面に倒れていった。
疲れているんだ。精神的にも肉体的にも。
松尾なんか俺の肩に頭を乗せて眠り出したほどなんだぞ。
「眠い……」
「寝ないでよ? まだ後ろの暗闇から、アイツが来るかもしれないんだから」
「分かってるわよ……だけど、もう少しこうさせて」
「はいはい」
松尾が休憩している間、俺は後方の暗闇を見ていた。
実を言うと、まだ暗闇が晴れていないんだ。
ダンジョンをこれ以上進むには、暗闇を通る必要がある。
幸(さいわ)いな事に、出口へと通じるルートには暗闇はかかっていないけどね。
でも、余計に分からなくなった。『呪怨(じゅおん)』の効果とは一体何なのだろうか?
疑問が深まる中、暗闇の中から聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。
『アアアアヴヴァ』
化け物の声。まだ暗闇の中にいるみたいだ。
俺が渋い顔をすると、ちょうど松尾の顔が俺の胸へと移動してきた。
彼女も化け物の鳴き声が聞こえたんだろう。体を震わせていたんだ。
「蓮。さっきのやつまだいるの?……」
「そうみたいだね。でも、様子がおかしい」
そう。化け物の様子がおかしい。
化け物はまだ、暗闇の中で何かと戦っているみたいなんだ……呻(うめ)き声を上げて何かに向かって吠えている。
俺の直感は正しかった。
後で分かった事だが『呪怨(じゅおん)』の効果とは相手に幻を見せる事。
そしてそれを囮として戦闘を強制終了させる事だからだ。なので化け物はまだ暗闇の中で戦っている。
――実態のない幻と、終わりのない争いを。
しかし『呪怨(じゅおん)』の効果を知らない俺達は、万が一に備えてその場から離れようとしていた。
「火憐(かれん)、もう大丈夫か?」
「うん。なんとか立てる」
「少し暗闇から離れよう」
「……分かったわ」
松尾の肩を支えながらゆっくりと出口の方へ進んだ。
唇を噛みながらダンジョンから出る事を決意したんだ。
なぜ唇を噛むのかって?氷華の捜索を断念せざるを得ないからだよ!
俺だって本当はこのまま氷華を探し続けたい。
でも奥に進む体力はないんだ!
いや、出口に辿り着ける体力すらないかもしれない。
はっ……今、化け物に出くわしたら終わりだな。
俺がそう思った瞬間だった。
洞穴の大きな一本道からではなく、無数にある小さな横道の1つ。
その中から、ガシャンガシャンという音が聞こえたのだ。
「火憐。今の音聞こえたか? 俺が足止めするから早く逃げ……むぐっ!?……」
俺の言葉の途中で、火憐が口を両手で塞いだんだ。怒った様子で口を膨らませながらね。
「さっきも言ったでしょ。逃げろなんて言わないでって!」
「……はは…そうだったな」
俺は馬鹿だった。
彼女の目は真剣そのものだったんだ。
「次それ言ったら、殴るからね!」
「もう二度と言わないから、大丈夫だよ。それより……」
「うん。分かってるわ。音が近づいてくる」
「……」
コツ……。
俺達は、音の方向に注意して足を止めた。
するとすぐに、横穴からあれが出てきたんだ。
「「え?」」
【ガシャン!ガシャン!ガシャン!】
鉄と鉄が擦(こす)れる音。その金属音を響かせながら近づいてくる。その正体は全身武装した騎士だったんだ。
体全てが鎧に覆(おお)われ、まるで中世の騎士のような姿。
いやそれだけではない。大剣が背中に装備されている。
理解が追いつかない俺達。そんな状況で、先に言葉を発したのは火憐であった。
「あれ?敵なのかしら?」
「……さぁ? 俺には何とも」
敵なのかは分からない。ただこちらに近づいてくる事は確かだ。
俺達は騎士相手に身構えて戦闘に備えた。
しかしあれは敵じゃなかったんだ。いや、むしろ仲間だったんだ。
騎士は身構える俺達を見ると立ち止まって声をかけてきた。
「蓮じゃん! もうこんな奥まで来たんだ」ってさ。
この声の主を俺は知っている。
あの騎士は氷華だ。
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