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第2章ダンジョンの怪物

07戦い方

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  俺の目の前にいる化け物は、初めて戦うことになる『呪猫(カース・キティ)』だ。
 いや、戦うなんて言葉は相応(ふさわ)しくないか。一方的に殺される未来しか見えないんだから。


【『1』ターン目・《プレイヤー側》】


 化け物は一定の距離を保っているが、こちらを見て大量の唾液を吐き出している。
 まるで人間を餌として見ているようだ。
 気持ち悪い、飢えた獣のような口に見える。あんなのに噛まれたら病気にかかりそうだ。
 俺は震えながら化け物のステータスを確認した。
 何度も何度も見間違えじゃないかって、自分勝手な妄想を考えながら。


―――――――――――――――――――――――
 ●呪猫(カース・キティ)                                                                                 Lv.45
 ○HP…『55000』
 ○状態…『通常』
 ○殺人カウント…『68』

 闇より生まれた呪われし子猫。
 人間を食い散らかしていくたび、口の数が増えていく。
―――――――――――――――――――――――


 だけど、ずっと見ていても変わらない。そこには絶望しかなかった。
 不思議なものだ。
 絶対に勝てないと分かると、全てがどうでもよくなって一時的に冷静さを取り戻す事が出来たよ。
 おかげで鮫島の怒鳴り声に気づくことができた。


「おい! なんか返事しろ奴隷!」
「ごめん。ボーッとしてた。鮫島君、戦うの?」
「移動が途中までしか出来ねえしな。戦えって事だろ?」
「そうね。でも!こっちには『王(キング)』の鮫島がいるし、もしかしたら勝てるんじゃない?」


 鮫島と松尾は強気な口調ではある。
 しかし、視界で二人の姿を見ると体が震えていた。
 やはり相手ステータス上の『殺人カウント』と記されている項目に怯えているのだろう。
 正直言うと俺もその項目の意味は非常に気になる。しかし、怖くて他の人に質問できないのだ。


 もしかしたら自分達が『殺人カウント』を増やしてしまうのかもしれないと思うと。



〈コマンドを選択してください〉


 また機械音か。今度はなんだ。驚きで声が出ない。
 目の前に見覚えのある映像が映し出されたのが原因だ。
 簡素化された表示だが、明らかにゲームの操作画面と似ている。


―――――――――――――――――――――――
   選択時間:1分
→ ●戦う
  ●逃げる
―――――――――――――――――――――――


 なるほど。本当にゲームの世界と混じっているのか。
 だから目の前の化け物は大人しく待機しているんだ。


 さっきから襲って来ないのは、奇妙だったんだよな。


 俺は自分の考えた仮説に妙に納得した。そうだ。半分ゲームの世界なんだから、これは当たり前の事なのかもしれない。
 って事はもしかして……。


 コマンドで『逃げる』を選択していないから、俺達は逃げられないって事か。
 俺はある事に気がついてしまった。この絶望的な状況を打開できるかもしれない。
 鮫島や松尾の方向に向かって、勢いよく叫んだよ。


「鮫島君、コマンド見えてる?!」
「あぁ! みえてるぞぉ!」
「私も見えてるわ」
「逃げるのコマンドを押したら、ここから逃げられるんじゃない?」


「一回やってみるか!」
「そうしましょう。選択時間も残りわずかよ」
「選択時間って何?」
「奴隷君! 早く画面を見なさい」


 松尾の指示に従って前方に顔を戻すと、左上にあるカウントダウンに気が付いた。


―――――――――――――――――――――――
  選択時間:10秒
  ●戦う
→ ●逃げる
―――――――――――――――――――――――


「あと、10秒……」


 急いで俺は『逃げる』のコマンドを見つめた。よし!逃げるだ!
 そう念じた瞬間に、また頭の中に機械音が鳴り響いた。
 この時はこれで俺達は助かるんだ。なんて淡い期待を抱いていたと思う。
 でも、知らなかった。全員が逃げる事は不可能だって。


〈ブーッ!〉
〈全プレイヤーが『逃げる』を選択致しましたので、このターン、プレイヤーは行動できません〉


 『逃げる』のコマンドを利用するには、誰かが戦闘に残らなきゃいけないのかよ。
 絶望に打ちひしがれる俺達に対して、無情にも機械音が言葉を続けた。


〈呪猫(カース・キティ)のターン、『戦う』でプレイヤー『蓮』を選択致しましたので〉
〈これより呪猫(カース・キティ)の攻撃ターンに入ります〉


「え?……」


 頭の中に響く。これから自分が攻撃されるという情報に、俺は不安に耐えきれずその場で崩れてしまった。
 前方を見ると、先程まで動かなかったはずの化け物が大量の唾液を吐き散らしながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる姿が見える。


 やはり機械音の言う通り、俺は攻撃されるんだ。それを悟ると体が勝手に震えだした。
 怖かったんだよ。


「やだやだ。まだ死にたくない」


 俺は恐怖のあまり背中を仰け反らせて大声をあげた。
 まるで、これから待ち受ける拷問に恐怖する『奴隷』のように。


「うぁああああ!」
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