負けず嫌い

真鉄

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「……なあ、もう賭けとかやめねえ?」

  予想外の言葉にびっくりして顔を上げると、面白くなさそうな表情のコーイチが間近に座り込んでこちらを覗き込んでいた。口をへの字に曲げ、情けない顔をした俺をじっと見つめている。

「……何で?」
「お前、上の空すぎてつまんねえ」

  ……はー、そうかそうかコーイチは俺に構って欲しかったんだな。い奴よのう。俺は強がってニヤリと笑うと、コーイチの頭を撫でながら引き寄せた。そしてその耳元で囁く。

「じゃあ俺の勝ちな」
「図に乗ってんじゃねえぞ」

  瞬時に手を払いのけるとコーイチが立ち上がり、俺の視界から消えて行った。そうだそうだほっといてくれ。今のこのつらすぎる状況も我慢しきれれば悟りの境地に至れるかもしれん。修行スイッチを入れるのだ。俺は布団に顔を突っ伏した。その時、背中に何かあたたかいものが触れた。掌だ。

「……こうなったら強制的にイカせてやる」
「ひ、あっ……!」

  ぞくぞくぞく、と身体が戦慄いた。背後から抱き込んだコーイチが隙間から手をこじいれ、服の上から勃起を掴んだのだ。空いた片手が腹筋や胸筋を撫で回す。餓えすぎて過敏になっているのか、コーイチの指先が触れたところが熱く、びりびりと細かく震えているような錯覚に陥った。思わず逃れようと膝を立てたが背中からのしかかられて、動くに動けなくなってしまった。顔面から布団に突っ伏してしまい、首を守るために何とか肘をつく。ケツだけ上げたような姿勢は色々とがら空きだった。

「ひゃっ……!」

  Tシャツの上から乳首を摘まれ、俺は震えた。えっ、乳首ってこんな感じたっけ?  嘘でしょ?  だが、爪でかりかりと引っかかれる度にぞわぞわと甘さのある快感が全身へと広がっていくのは紛れもなく事実であり、真実だった。閉じることを忘れた口から熱い息が漏れる。小さいながらも固くしこった乳首をつねられ、撫でられ、捏ね回され、その度に身体中が震えるほどの快楽に意識の半分は流されていた。

  コーイチの両手がTシャツ中に潜り込み、直に肌に触れた。熱い掌が腹筋を撫で回し、脇腹をくすぐり、胸筋を揉みあげた。時折、その手に乳首が擦れる度、腹筋がびくびくと戦慄いた。

「さ、わんなって……!」
「どこもかしこもめちゃくちゃ敏感になってら。おもしれー」

  笑いを含んだコーイチの声が耳元で囁かれた。殴りてえ……が、この気持ちよさをやめさせてしまうのが何だかもったいなくて、つい躊躇してしまう。でも負けたくない。ていうか払う金なんか持ってないんだから負けられない。そうやって思い悩んでいる間にも、コーイチの手は我が物顔で俺の身体中を撫で回し、容赦なく追い込んで行った。

「ん、あ……!」

  再度勃起を掴まれた。ヤバい。めちゃくちゃ濡れてる。だって今ぬるってしたもん。コーイチもそれを感じたのだろう。くく、と喉奥で笑うと、俺に囁きかけた。

「これ、脱がねえとシミになっちまうよな」
「あっ、……くぅっ!」

  指先が下から上へなぞりあげ、敏感な先端をぐりぐりと押し込んだ。いや、ファスナーのスライダーを探っているのだ。ゆっくりとスライダーが下がっていく微振動さえも、まるでバイブを押しつけられているかのように感じられ、俺は布団を握り締めた。ついにフロントは完全に開かれ、汗に蒸れた性臭が俺の鼻にも届いた。いやらしい匂いにますます顔に血がのぼる。笑いを含んだ声が耳元で囁いた。

「えっちな匂いがするな?」
「あ、う……」

  くっそ、完全にやり返されてるじゃねえか。大量の先走りで、着替えたばかりのパンツはもうぐっしょりと濡れていたようで、先端に少しばかり冷たさを覚えた。コーイチの手によって、四つん這いに上げたままの尻の方からズボンとパンツが一緒にずるりと降ろされる。

「ほら、もう脱いじまえ」
「うう……」

  俺は布団に真っ赤になった顔を伏せたまま、もぞもぞと足を動かし、脱がされるに任せた。友人の前で下半身だけ剥き出しなのは、さすがの俺でも恥ずかしかった。だというのに、コーイチは俺の肩を掴み、しきりに仰向けにさせようとする。やめろ。今この涙目で発情してる顔を見られたくねえんだよ。

「このまま出したら布団汚れんだろ。こっち向けよ」

  だがそう言われてしまうと仕方がない。俺はバスタオルと一緒くたになった布団に腰を下ろし、顔から火が出る思いで正面を向いた。きっとそこにはいつもに冷めきったコーイチの顔が――と思っていたのに、意外すぎるその表情に俺は息を呑んだ。

  俺を凝視するギラついた眼差しときたらどうだ。かすかに頬を上気させ、俺を一心に見るその顔は、間違いなく興奮していた。その燃えるような目に絡め取られた瞬間、ぞくり、と腰から胸にかけて甘い何かがよぎっていった。

「コー……イチ……」

  熱い掌が膝を掴み、押し広げた。すかさず細身の身体をこじいれられ、もう足は閉じられない。固くそそり立ち、腹にくっついた俺の勃起がTシャツを変色させていた。コーイチの指がぱんぱんに張った陰嚢を下からとんとんと軽く叩き、掌の全体を使って上へ下へと柔らかく揉み回した。

「すげえな。マジででけえ」
「う……やめろ……」

  気持ちはいいが決定打に欠けるその愛撫。だが、それは確実に俺の射精欲を掻き立てた。俺の腰は自然と揺らめき、熱い掌にとろとろにぬめるちんぽを自ら擦りつけていた。

「あっ、ん、いいっ……!」

  コーイチは何も言わず、俺のちんぽを握り締めてくれた。俺は天に向かって腰を何度も突き出し、ぬるぬるの肉の筒に爆発寸前の勃起を突き入れた。待ち侘びた直接的な快感。くちゅぐちゅと湿ったいやらしい音。俺はうわごとのように、きもちいい、きもちいい、と呟きながら、夢中になって腰を振った。ああ、もう、イク。陰嚢がきゅうっと引き攣れる。だが、その時だった。

「っ、あ、あああっ……!」

  コーイチの手がぱっと離されたのだ。ぎんぎんに張り詰めた勃起が濡れたTシャツにびたんと叩きつけられ、俺は泣きそうな声を出して悶えた。腰は限界まで跳ね上がり、がくがくと震えた後、力なく布団へと落ちた。あんないいところまで上り詰めたというのに寸止めされたのだ。

「……ひどい!  外道か!」

  頭を上げ、涙目で抗議する俺に、コーイチは薄い唇を吊り上げた。

「イキたいって言えよ」
「ふえ……?」

  やだ、この子ドSじゃないの。頭を布団に落とした俺の上に覆い被さり、じっと俺の目を見つめてくる。逆光で顔は暗いが、楽しげに細められた目はぎらぎらと光っていた。爪の先でゆるゆると裏筋がなぞられる。

「はうっ……!」
「イキたいだろ?  それとも自分でしごくか?」

  一瞬、それもいいかなと思ってしまったが、ダメだダメだ。完全敗北じゃねえか。俺は強く目を閉じて、ぶんぶんと首を振った。

「じゃあ、このままだ」

  くく、と喉奥で笑うと、コーイチはまた足の間に座り込み、俺のちんぽをしごき始めた。たまらず腰が動き出すと、握り締めたままその手はぴたりと動きを止める。快感を求めて腰だけでブリッジするように、俺はかくかくと肉筒に突き入れた。

「ン、あああっ……!」
「はいダメー」

  そしてまたしても寸止め。泣きたい。というかもう既に泣いてる。鼻をぐずぐずと鳴らし、腹筋を震わせ、俺は頭を掻きむしった。

「も、やだあ……寸止めやだあ……」

  泣き濡れて甘ったれた声が出た。コーイチの濡れた指がTシャツの上からでも一目でわかる、ぴんと勃ち上がった乳首をくりくりと引っ掻き、ちんぽとはまた違う甘くとろけそうな快感に俺は首をのけぞらせた。

「じゃあ、言えよ」
「う、う……」

  イキたい。イキたいに決まってる。でも――。

「――いや、だ」

  お前は本当にバカだな、という顔をして、コーイチが勃起しごいては手を離すということを何度も繰り返し始めた。その度に固く反り返ったちんぽは下腹に叩きつけられる。何度も、何度も。俺の腰はいつの間にか高く突き出されたままになっていた。

  何度目だろう。手から離れたちんぽが、ばちん、と音を立てて下腹にぶち当たったその時、瞼の裏でちかちかと星が散った。腰がぶるぶると震え、ぱつぱつに張り詰めた陰嚢が痛いほどに引き攣れた。

「あ、がああああっ……!」
「うわ」

  どびゅるるっ!  とでも表現すべきだろうか。まるで破裂したかのような勢いで、触れられていないちんぽから大量に射精していた。尿道を焼きながら精子が発射される度、俺は腰を突き上げ、ぶるぶると震えた。我慢に我慢を重ねた上での絶頂は、今まで経験した中でも最っ高に気持ちよかった。ああ認めよう、めちゃくちゃ気持ちよかったのだ。

「――っ、は、あ、はっ、はあっ……!」

  顔にまで飛んだ精子を拭うこともできないまま、俺はぐったりとその身を布団に沈めた。あー……最高……。荒い息に上下する胸が、何だかじわじわと濡れていっている気がするが、今はただ、息を整えることに必死だった。

「お前……すごいな」

  呆れたような、感心したようなコーイチの声に重い瞼を上げた。少し顔を上げて、自分でも信じられない光景にぎょっとした。着ていたカーキ色のTシャツは、まるで練乳でも全面に絞り出したかのように、半分ほどが真っ白に濡れていたのだ。幾筋もの精液が線を描き、じわじわと染み込み始めていた。これ、全部俺の精子かよ……。自分でも引くわ。生臭いような精液の匂いが鼻を突いた。

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