配信

真鉄

文字の大きさ
上 下
6 / 6

6

しおりを挟む
「……え、嘘、マジ!?」

 男は思わず身を乗り出し、モニタに顔を近づけた。ゲイ向けアダルト投稿サイトを、掘り出し物があればラッキー程度の気持ちで眺めていた男の目に、見覚えのある青年のサムネイルが飛び込んだのだ。顔の上半分を黒のスパンコールで覆った青年が、こちらにたくましい背を向け、その横顔を見せていた。――アキだ。

 アキのチャンネルが更新されないまま二ヶ月が経過しようとしていた。動画どころか新しいメッセージすらなく、度重なる失敗に心が折れてしまったのだろうか、と男は心配していたものだった。毎日、変わり映えのしないホーム画面を眺めては消沈する日々――。なんだよ、河岸を変えただけなんじゃないか。きっとエロ表現の規約にでも引っかかってしまったのだろう。男は笑った。

 高画質は有料とのことで、男は惜しげもなく課金し、サムネイルをクリックした。タイトルは――『元野球部男子大学生アキ③』。再生数は、なんと万を超えていた。

 カメラを設置したところだろうか、顔のアップから動画は始まった。黒いバンダナの下、分厚めのセクシーな唇と丸いカーブを描いた幼い顎。ああ、アキだ。男は熱い溜め息をついた。いつものやわらかな挨拶はなく、画面端から飛び出したディルドに小さく笑い、掴み上げると、見せびらかすように振った。

「うわ、えげつな……」
 思わず男は苦笑する。子供の腕ほどもありそうな真っ黒なディルドだ。中太りした竿には太い血管がくっきりと浮き上がり、エラは何でもこそげ落とせそうなほどに張り出していた。揺れ具合からしてもちもちとやわらかそうではあるが、いかんせん巨大すぎる。以前のアキは指二本ぐらいが限度だったが、さて――。

 場面が変わり、画面の真ん中には、フローリング床に敷かれたシートの上に直立した巨大ディルドがあった。どうやら根元に吸盤がついているようだ。何か違和感を覚えたが、画面端から現れ、こちらに背を向けてディルドを跨いで膝をついたアキに目はすぐ釘づけとなってしまった。

 相変わらずたくましく鍛え上げられた肉体のラインを男は目で追う。そして気づく。――何とまあ、全裸じゃないか。大きめの陰嚢がさっきからちらちらと尻の間から覗いていた。しかも、この投稿サイトは海外のものだから無修正だ。そのうち前も向いてくれないものだろうか……。

 画面の中のアキがちらりと背後のカメラを見た。おそらくはここがサムネイルだろう。男の期待の眼差しを一身に受け、アキは少し身をかがめると、股の間を通した手で尻の谷間をむっちりと押し広げた。

「おお……」
 日に焼けぬ白い谷間の奥、そこにはぬらぬらとローションにまみれ、ふっくらと唇を尖らせた肉蕾が息づいていた。慎ましさは失われていたが、濃いピンク色に充血した肉はふわふわとやわらかそうだった。きっと一人で何度も練習したのだろう。がんばれ、アキ。失敗してしょげていたときの顔を思い出しながら、男は手に持ったままの缶チューハイの存在も忘れ、ただ画面を見つめていた。

 だが、男の心配も、応援も、既にアキには不要のものだった。ディルドの先端に触れた途端、柔肉は軟体生物の捕食のように巨大な塊を呑みこみ、その根元まで全てを難なく腹の中に収めてしまったのだ。まるで手品のようにすら思えるほどにスムーズで、男はぽかんと口を開けた。

『――入った……』
 小さく呟いたアキの声に男は我に返る。どこか嬉しげな、誇らしげなトーンが滲み出ていて、微笑ましい……微笑ましい、はずだ。ゆっくりとアキの腰が動く。ずるずると引き出される巨大ディルド。まるで名残惜しむかのように、中太りした竿にむしゃぶりつく媚肉。皮膚の下でくりくりと浮かび上がる尻の筋肉。かすれた甘い喘ぎ声。徐々に勢いを増すピストン。全てが男を圧倒する。

『……あっ、は、……あぁ、っ』
「すごい……すごいなぁアキ……」

 うわ言のように呟きながら、男は既にがちがちに勃起していた己の雄茎に手を伸ばした。まるでプロのような動きでいやらしく腰をひらめかせ、巨大ディルドを尻穴でしゃぶり尽くすアキの姿は、男の欲望を否が応にも駆り立て、一滴漏らさず精を搾り取る魔性にすら思えた。アキの腰の動きに合わせて自身をしごく手を止められない。あの媚肉に突きこんで泣かせてやりたい。肉厚な尻肉を鷲掴み、パンパンと乾いた音を鳴らすほどに腰を打ちつけて、思うさまアキの中に精子をぶちまけたい――。

 だが、射精への渇望に沸きかえる身体とは裏腹に、今までのアキの素朴な笑顔やはにかむ仕種を懐かしく思っている自分がいた。かわいらしく、愚かなアキ。そんなアキのいやらしい姿を望んだのは確実に自分自身だ。なのに、心だけが置いてけぼりを食らっている。アキの成長を見守りたかったのだ。蛹からいやらしく羽化するアキの姿を――。

『あ、あっ、あかん、も、イク……、おれ、あ、イクイクイク……っ!』

 画面の中のアキがかすれた声で叫び、四股を踏むように広げていた足ががくがくと震え、尻から背筋、頭のてっぺんへと、感電したかのように戦慄が走り抜けていった。アキは首をあおのかせたまま動けず、ただ熱い息を吐き続けている。男の手はいつの間にか大量の白濁で汚れていた。アキの足の間から、焦茶のフローリング床に漏れ落ちた白い雫が数滴散っているのが見え、荒い息をつきながら男はいやらしく笑った。だが、ふと真顔に戻る。アキの部屋は和室だったはずだ。ここは――誰の家だ?

 その時、カメラが動いた。

 絶頂にぼんやりと上を向いたままのアキの顔が大写しになる。その上気した頬へ、今アキが尻に咥え込んでいるディルドと寸分違わぬグロテスクな赤黒い肉竿が押しつけられた。それに気づいたアキは、カメラに向かって――いや、カメラを持った男に向かって、とろけきった笑顔を見せた。

 長大な屹立の根元に鼻を埋め、掌に乗せた陰嚢を食みながらうっとりと顔を擦りつけるアキ。分厚めの唇から赤い舌を伸ばし、裏筋を舐め上げるアキ。子供の拳ほどはあろう亀頭をその口に含み、苦しげに眉をひそめながらも巨大な肉塊を喉奥へと呑み込んでいくアキ。上から伸びた手に頭を掴まれ、まるでオナホールのように無造作に腰を振られるアキ。太い涎を口端から垂らしながらも、すがるように相手の腰にしがみつくアキ――。

 何だこれは。
 誰だお前は。

 男は呆然とイラマチオに耐えるアキの顔を眺めていた。カメラマンの腰が動く度に、聞くに耐えない嘔吐に似た不吉な声が耳を震わせる。ついには相手の下腹に顔がピッタリと押しつけられてしまった。苦しげに眉をひそめた窒息寸前の真っ赤な顔。なのに、後頭部を手で押さえこまれ、動くこともままならない。生えそろった下生えがアキの鼻息でそよぐ。アキの喉が間歇的にびぐびぐと震える。きっとこの喉にはあのグロテスクな肉塊が蓋をするようにみっちりと詰まっている――。男は息を呑んだ。

『……~~ぶはぁっ……!』
 唐突に手を離され、ぞろりと肉竿を引き抜かれたアキが音を立てて空気を吸いこんだ。首元まで赤らんだ顔。周りを涎でべとべとに濡らし、ぬらぬらと光る唇。泡立つ唾液にまみれた赤い舌。そこに、びゅるびゅると容赦なくぶちまけられた精液が幾筋もの白い線を描いた。バンダナの黒と血色の赤に白濁が映える。

 ――そう、口惜しいが、ひどく映える画だった。

 男はいつの間にか再び画面に魅入り、己をしごきたてていた。まるであのグロテスクな肉塊が自分のものであるかのように錯覚しながら、アキの喉まんこを激しく責めていた。

 かわいいアキ。むちむちといやらしい身体に寂しいほどの無垢さを持ち合わせていた。それは男たちの嗜虐心と征服欲を煽ってやまないものだ。きっと本人にそんな自覚はないのだろうが。

 愚かなアキ。自分を無価値だと思いこみ、無防備なところをこんな男にあっさりと食われてしまった。寂しがりで誰かに愛されたい子供に言うことをきかせるには、取り上げるよりも与えるほうが簡単だ。誉め殺して一度ほだしてしまえば、服従させることなどたやすい。

 ああ――どうして俺はアキに声をかけようとしなかったのだろう。もしかしたら、寂しいアキを愛し、慈しみ、自分好みに調教したのは……こうしてカメラを持っていたのは、俺だったかもしれないのに――。

 手を止めた男はふと赤文字が踊っていることに気づいた。投稿者名の隣でちかちかと輝く「有料生放送」の文字。男は、全てに負けた悔しさに唇を噛んで――その文字をクリックした。

(了)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

さみしがりっこ

あづま永尋
BL
久しぶりに朝倉が自室に戻ると見知らぬ少年が居座っていた。依存にも似た求め合い。くたびれたオッサン受け。

転生奴隷は有名な死神貴族の番となる

荷居人(にいと)
BL
会社の仕事中、急な心臓発作により同僚たちの声を最後に意識を失った。そうして死んだはずの僕が、次に目を覚ました時、何故かボロボロの奴隷少年に。 最初こそ夢かもしれないと気を強く持ったが変わらない奴隷生活に、絶望や苦痛を味わううちに諦めがつき、死にたいと思ったその時、あの人は現れたのだ。 「………?おかしいな」 「………?」 黒い髪に凍てつくような赤い目。だけど不思議と安心してしまう雰囲気がその人にはあり、その日奴隷商を営んでいるオーナーというその人に引き取られる運びとなった。 これは転生奴隷少年と死神と言われる悪役貴族の話。 R18入ります。 BL大賞応募作品です。応援いただけたら嬉しいです。

君と笑顔でいたい  ~恋した相手は父の愛人でした! ~

大波小波
BL
 風野 竜也(かぜの たつや)は、一流企業クルス・不動産に勤めるアルファ男性だ。  ある日、行きつけのカフェで、以前から気になっていたオメガの少年・真宮 朋(まみや とも)と相席になる。  これをきっかけに、朋との距離を縮めようとする竜也だが、彼は塩対応だ。  しつこい竜也をドン引きさせようと、朋は自分がある男と愛人契約を結んでいると明かす。  それでも、朋が好きなことには変わりがない、竜也だ。  明るい彼に、朋は次第に心惹かれていく。  そんな折、朋のパトロンである来栖 正吾(くるす しょうご)が、彼に自分は末期がんであると明かす。  正吾は、竜也の勤めるクルス・不動産の、社長だった。  そしてさらに、秘匿されていた、竜也の父親だったのだ……!

大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:たちばな 様 (Twitter → @clockyuz ) ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) 子供の頃、諸星真冬(もろぼしまふゆ)の親友は高遠原美鶴(たかとおばらみつる)だった。 しかしその友情は、美鶴によって呆気無く壊される。 「もう放っておいてくれよっ! 俺のことが嫌いなのは、分かったから……っ!」 必死に距離を取ろうとした真冬だったが、美鶴に弱みを握られてしまい。 「怖いぐらい優しくシてやるよ」 壊れた友情だったはずなのに、肉体関係を持ってしまった真冬は、美鶴からの嫌がらせに耐える日々を過ごしていたが……? 俺様でワガママなモテモテ系幼馴染み×ツンデレ受難体質男子の、すれ違いラブなお話です! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※序盤の方で少し無理矢理な表現があります……! 苦手な人はご注意ください!(ちっともハードな内容ではありません!)

キミのために鐘は鳴る

今野ひなた
BL
Ωの星見かすがは、叔父の新規取引である家の次男でαの自殺志願者、橘優月を1年間、優月が死なない様に見張っていてくれと依頼されてしまう。かすがは動揺し無理だと言うが、自分の過去の境遇や恩人である叔父の頼みであることもあり了承する。  だが橘家が優月を預けた理由には嘘があり、叔父はこの話は無しでいいと言うが、情緒が発達していない優月が心配なかすがはそのまま一緒に住むことになる。  困ったのは発情期。優月の体つきにあてられ、一夜を共に過ごしてしまう。 依存していく優月にこれではいけないとかすがは合コンをセッティングするが、その際にキスをしている場を、その場にいた優月の許嫁に撮られ、優月を連れていかれてしまう。 二年後、かすがは長年の夢である職業に就くが、そこで優月に再開。まだ諦めきれないと優月とまた一夜を過ごしてしまい、この子を幸せにしたいと悩むかすが。 両家の結婚を許嫁と結託し無効にすることに奔走する。 賞に落ちたので年内供養です。 小説家になろうさんにも登録しています。 最初はなろうさんに直リンしてましたが、アルファポリスさんに慣れてきたので切り替えました。

【完結】誓いの鳥籠

BL
幼い頃に交通事故で両親を亡くした勇士は、父親の親友であり、ヤクザの組長でもある龍一郎に引き取られる。龍一郎は小学校にも通わせない程過保護であり、それでも優しく穏やかな良き父親であった。だが勇士が成長すると厳しく、他人行儀のように冷たくなってしまう。そして同時期、勇士は小学三年生でやっとのこと通学が許されたが、災いから逃れられるようにと御守りとして龍一郎から貞操帯をつけられてしまう。高校生になっても勇士は、冷たいままの龍一郎に苦悩していた。しかし貞操帯を外したあるひと時だけ龍一郎は昔のように優しくなる。龍一郎が勇士に貞操帯をつける、その背景には重い過去があった。 ※大スカ、小スカあり。※なんでも許せる方向け。 イラストは姉が描いてくれました!

モブの俺には構わないでくれ。

ぽぽ
BL
女好きな平凡な男、健太は男子校の保険医として着任することになったが、あることがきっかけでBLに目覚めてしまう。 目の前で生徒たちの恋愛を楽しみたいだけなのに、なぜか生徒たちは健太との距離を縮めていく。 「お前ら、俺みたいなモブにかまうんじゃねえ!!」 高校生/男子高/美形×平凡

小さな箱に願いをこめて

朝顔
BL
それは不運が重なった日のこと。 宿無し文無しでふらふらと生きていた雅貴は、元同僚からの誘いにまんまと騙されて、怪しい店に連れていかれてしまう。 男同士が絡み合っているその店で働かされそうになり、慌てて逃げ出すのだが、ボスらしき危険な匂いしかしない男、瑛士と出会うことになる。 薬を盛られた雅貴は女好きだったのに、男に抱かれて、雅貴のちっぽけなプライドはズタズタに壊れてしまう。 しかし体を重ねる度に雅貴は、瑛士に溺れていくことになり…。 過去に縛られて孤独を選んできた雅貴が愛を見つけるお話です。 ムーンライトでも掲載しています。

処理中です...