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桜の木の下で
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そして、窓越しにいるわたしと――目が合った。
〈ひらり見っけ〉
こんな雨の日に、傘も差さずに、全身ずぶ濡れなのに…。
のんきに、こちらに向かって手を振っている。
〈晴翔…。どうして、こんな日にわざわざ…〉
〈ひらりが、直接会って話したかったって言うから、会いにきた〉
明日になれば学校で会えるっていうのに、晴翔はわたしのために、雨の中ここまできてくれたんだ。
〈この距離なら、写真を撮られることもないだろ?…まぁ、直接は会えてないかもだけど〉
〈…ううん、うれしいっ。十分すぎるくらいだよ〉
距離は離れているけど、晴翔の表情を読み取ることはできる。
〈…悪かった。ひらりが1人で悩んでるのに、気づいてやれなくて〉
〈そんなことない…!〉
なにも、わたしをほったらかしにしていたわけじゃないのはわかってる。
だからこそ、こうして会いにきてくれたんだから。
〈ひらりがこんなに悩んでるのは、…俺のせいだよな。俺がいなかったら、ひらりが責められることも――〉
〈晴翔のせいじゃないっ。わたしの…自覚が足りなかっただけ〉
“恋愛禁止”というアイドルの自覚が、わたしにはなかった。
だけど、晴翔を好きという気持ちをもう抑えることはできない。
〈わたし…、晴翔のことが好きなの〉
〈なんだよ、改まって。そんなの、知ってる〉
〈でも…、仕事も好きなんだ〉
〈それも知ってる〉
…しかし、両方続けることはできない。
つかんでいいのは、片方だけ。
子役の頃から、芸能活動をしていて――。
このまま仕事を続けて、行く行くはアイドルを引退して女優をしているのかなっていう、漠然とした未来や将来しか考えていなかった。
でも、今回のことをきっかけに、わたしはわたし自身を見つめ直すことができた。
そして、見つけることができた。
――なりたい自分の姿を。
〈俺は、ひらりが決めることだったらどっちだっていい。ひらりのためなら、喜んで身を引く覚悟だから〉
晴翔はこう言ってくれている。
…だけど、わたしが出した答えは――。
〈わたしは、普通の女の子になりたいの。好きな人といっしょにいても、顔を隠さずに人前で堂々と手を繋いで歩けるような〉
今のアイドルとしての人気をなくしても、わたしはごく普通の、どこにでもいるような女の子になりたい。
それが、今のわたしの夢。
〈でもそうなったら、ひらりは芸能界を――〉
〈引退することになるね。アイドルでもなくなっちゃう〉
そんなことになるなんて、少し前までは考えられなかったけど。
〈晴翔は、…イヤ?アイドルのひらりのほうがよかった…?〉
わたしがそう尋ねると、電話越しからプッと笑う声が聞こえた。
〈愚問。俺が、“アイドル”ってブランドに興味があると思ってる?〉
それを聞いて、わたしも思わず笑ってしまった。
〈それはないねっ。晴翔は、アイドルに興味ないもんね〉
〈そうだよ。ひらりが一番よくわかってんじゃん〉
わたしは窓越しから、晴翔に笑ってみせた。
〈晴翔。会いにきてくれて、ありがとう〉
〈こんなことでよかったら、いつでも会いにきてやるよ〉
晴翔の言葉に励まされる。
もうわたしは…、迷わない。
わたしは、そう心に決めた。
ママには、そのあときちんと説明した。
ママは何度もわたしに考え直すよう説得したけど、わたしは首を縦には振らなかった。
最後は、ママの根負け。
絶対に曲がらないわたしに、諦めたという感じ。
「頑固なところは、パパ似ねっ…」
「…ごめんね、ママ。でもわたし、アイドルとして注目される道じゃなくて、普通に高校に通って、大学に進学する道を歩んでみたいの」
「『普通に』ねぇ…。そんなふうに、ひらりが自分で将来を考えるようになったのは、彼を好きになったおかげ…?」
「うんっ。彼との恋は諦めたくない。彼と同じ高校に行くために、ちゃんと受験勉強もしたい!」
「そう。やりたいことが見つかったのね」
そう続けたあと、ママはわたしに謝った。
その訳を聞くと、わたしに自分の夢を押しつけすぎたのだと。
ママも、小さい頃は子役として芸能活動をしていた。
だけど、それきりで仕事はなくなり、それ以降も長く芸能活動をしたいという夢をわたしに託していたんだそう。
芸能活動の楽しさや辛さも、ママは自分自身の経験でわかっている。
わたしがよく考えて、それでもやめたいと言うのなら、これ以上させるつもりはないと言ってくれた。
「でも明日、社長さんに自分の口からちゃんと話せる?」
「…うん!わかってもらえるかはわからないけど、思っていることを全部話すよ」
〈ひらり見っけ〉
こんな雨の日に、傘も差さずに、全身ずぶ濡れなのに…。
のんきに、こちらに向かって手を振っている。
〈晴翔…。どうして、こんな日にわざわざ…〉
〈ひらりが、直接会って話したかったって言うから、会いにきた〉
明日になれば学校で会えるっていうのに、晴翔はわたしのために、雨の中ここまできてくれたんだ。
〈この距離なら、写真を撮られることもないだろ?…まぁ、直接は会えてないかもだけど〉
〈…ううん、うれしいっ。十分すぎるくらいだよ〉
距離は離れているけど、晴翔の表情を読み取ることはできる。
〈…悪かった。ひらりが1人で悩んでるのに、気づいてやれなくて〉
〈そんなことない…!〉
なにも、わたしをほったらかしにしていたわけじゃないのはわかってる。
だからこそ、こうして会いにきてくれたんだから。
〈ひらりがこんなに悩んでるのは、…俺のせいだよな。俺がいなかったら、ひらりが責められることも――〉
〈晴翔のせいじゃないっ。わたしの…自覚が足りなかっただけ〉
“恋愛禁止”というアイドルの自覚が、わたしにはなかった。
だけど、晴翔を好きという気持ちをもう抑えることはできない。
〈わたし…、晴翔のことが好きなの〉
〈なんだよ、改まって。そんなの、知ってる〉
〈でも…、仕事も好きなんだ〉
〈それも知ってる〉
…しかし、両方続けることはできない。
つかんでいいのは、片方だけ。
子役の頃から、芸能活動をしていて――。
このまま仕事を続けて、行く行くはアイドルを引退して女優をしているのかなっていう、漠然とした未来や将来しか考えていなかった。
でも、今回のことをきっかけに、わたしはわたし自身を見つめ直すことができた。
そして、見つけることができた。
――なりたい自分の姿を。
〈俺は、ひらりが決めることだったらどっちだっていい。ひらりのためなら、喜んで身を引く覚悟だから〉
晴翔はこう言ってくれている。
…だけど、わたしが出した答えは――。
〈わたしは、普通の女の子になりたいの。好きな人といっしょにいても、顔を隠さずに人前で堂々と手を繋いで歩けるような〉
今のアイドルとしての人気をなくしても、わたしはごく普通の、どこにでもいるような女の子になりたい。
それが、今のわたしの夢。
〈でもそうなったら、ひらりは芸能界を――〉
〈引退することになるね。アイドルでもなくなっちゃう〉
そんなことになるなんて、少し前までは考えられなかったけど。
〈晴翔は、…イヤ?アイドルのひらりのほうがよかった…?〉
わたしがそう尋ねると、電話越しからプッと笑う声が聞こえた。
〈愚問。俺が、“アイドル”ってブランドに興味があると思ってる?〉
それを聞いて、わたしも思わず笑ってしまった。
〈それはないねっ。晴翔は、アイドルに興味ないもんね〉
〈そうだよ。ひらりが一番よくわかってんじゃん〉
わたしは窓越しから、晴翔に笑ってみせた。
〈晴翔。会いにきてくれて、ありがとう〉
〈こんなことでよかったら、いつでも会いにきてやるよ〉
晴翔の言葉に励まされる。
もうわたしは…、迷わない。
わたしは、そう心に決めた。
ママには、そのあときちんと説明した。
ママは何度もわたしに考え直すよう説得したけど、わたしは首を縦には振らなかった。
最後は、ママの根負け。
絶対に曲がらないわたしに、諦めたという感じ。
「頑固なところは、パパ似ねっ…」
「…ごめんね、ママ。でもわたし、アイドルとして注目される道じゃなくて、普通に高校に通って、大学に進学する道を歩んでみたいの」
「『普通に』ねぇ…。そんなふうに、ひらりが自分で将来を考えるようになったのは、彼を好きになったおかげ…?」
「うんっ。彼との恋は諦めたくない。彼と同じ高校に行くために、ちゃんと受験勉強もしたい!」
「そう。やりたいことが見つかったのね」
そう続けたあと、ママはわたしに謝った。
その訳を聞くと、わたしに自分の夢を押しつけすぎたのだと。
ママも、小さい頃は子役として芸能活動をしていた。
だけど、それきりで仕事はなくなり、それ以降も長く芸能活動をしたいという夢をわたしに託していたんだそう。
芸能活動の楽しさや辛さも、ママは自分自身の経験でわかっている。
わたしがよく考えて、それでもやめたいと言うのなら、これ以上させるつもりはないと言ってくれた。
「でも明日、社長さんに自分の口からちゃんと話せる?」
「…うん!わかってもらえるかはわからないけど、思っていることを全部話すよ」
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