隣の席の一条くん。

中小路かほ

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教室で

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ここで正直に胸の内を語ってしまったら、同じ“恋愛禁止”という条件でアイドル活動をしている他のメンバーを裏切ることになる。


真面目なマオちゃんだから、きっとそんなことまで考えていて、素直に言えないんだ。


「そ…その人のことは、……たぶん好き。だけど、やっぱり付き合えない。…だから、もう連絡も取らないようにする……」


…マオちゃん。


すべてを話してくれたのに、なにも言ってあげられることがない。


おそらく、これが正しい判断だから。


相手の気持ちも、自分の気持ちにも気づいているのに、その気持ちを押し殺さなきゃいけないなんて――。


わたしの心もチクッと痛かった。


どんよりとした空気が、わたしたち3人を包み込む。

だけど、なぜかユイカちゃんはキョトンとしていた。


「なんでっ?」

「…え?」

「なんで付き合わないの?好きなら、『好き』って言えばいいじゃん!」


ユイカちゃんの言葉に、わたしもマオちゃんも目が点。


「ユ…ユイカちゃん…!?私たち、“恋愛禁止”なんだよ…?」

「…そうだよ!好きな人ができたとしても、付き合うなんてこと――」

「だーかーらー!…バレなきゃいいんでしょ?」


ユイカちゃんが、悪い顔をして笑っている。


ユイカちゃんは黒髪ストレートの見た目から、PEACEの中では、『純情派アイドル』として言われているけど――。


この発言に、この顔…。


…絶対、純情派なんかじゃない!


「マオが話してくれたから、私も正直に話すけど…。私、彼氏の1人や2人くらい…いたことあるよ?」

「「…えぇ!?」」


まさかのユイカちゃんの爆弾発言。

開いた口が塞がらない。


こんなの、マネージャーや社長の耳に入れば…どうなることかっ。

それにもし、週刊誌なんかに嗅ぎつけられたら終わりだ。


「2人がいつも一生懸命にレッスンしたり、ファンと熱心に交流するの見てたら、私だけ恋に浮かれてるなんてこと…言い出せなくて」


…初めて知った。

わたしたちが知らないところで、ユイカちゃんが恋愛をしていただなんて。


それに、恋に浮かれているような場面は一切見たことがなかった。


ユイカちゃんは自分に厳しくて完璧主義者で、レッスンだっていつも早くきては、1人で遅くまで残っていたりしてたし…。


「開き直ってることになるんだけどさ…。10代の女子に、『恋愛するな』って言う方が無理があるんだよ!」


…うん。

完全に開き直ってる。


だけど、ユイカちゃんのその表情は、見ていてとても清々しかった。


こんな告白をされたら、同じアイドルグループであるわたしやマオちゃんは、ユイカちゃんを非難しなきゃいけないんだろうけど――。


「なんか…ユイカちゃん、カッコイイ」

「…うんっ。私も、なんだか勇気が出てきた」


なぜか背中を押されたような気になってしまった。


…そうだよっ。


学校に行けば、隣の席で。

寝ている顔や、つまんなさそうに授業を聞いている顔がすぐそばで見れて。

ときどき、ちょっかいなんかもかけてきて。


周りの女の子からは、「よく話せるね」なんて言われるけど、…わたしは知っている。


本当は、とても優しい人なんだって。

そんな人がそばにいて、…好きにならないはずがない。


ユイカちゃんの言う通り、やっぱり『無理』なんだよ。

「恋をするな」って言うほうが。



ユイカちゃんはマオちゃんに、アイドルとしての恋愛について伝授していた。


「…いいっ?付き合えるからって、浮かれちゃダメ。楽しいことばかりじゃないんだから」


好きな人と付き合えたのなら、うれしくて舞い上がっちゃうと思うけど、どうやらそれではダメらしい。


「私たちの恋は、周りには絶対知られちゃダメなの!もし知られたら、自分だけじゃない。PEACE全体に迷惑がかかるからっ」


わたしたちそれぞれの恋は、個人で責任を取れるようなものではない。

アイドルグループである以上、メンバー1人のスキャンダルがグループの存続を揺るがせてしまう。


他の事務所のアイドルグループで、そういうのがあった。

1つのスキャンダルでファン離れが加速して、解散してしまった。


「それに、いくら好きだったとしても一旦落ち着いて、その人がいい人かどうか見極めてみて。万が一、別れるってなった場合、悪いヤツならそのネタを売るようなヤツだっているんだから」


そういえば、数年前にいた同じ事務所の先輩――。

噂によれば、交際していた人が別れた腹いせに、付き合っていたときの写真を週刊誌に売ったとかで。


記事は、事務所側が公にされないように握り潰したと聞いたけど、そのせいで交際がバレて、その人は事務所を解雇されたと。
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