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君に救われた

莉子side 1P

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わたし、そして大河たち中学3年生の引退をかけた夏の大会――。


わたしたちは、決勝戦の舞台の上に立っていた。



9回の裏、ツーアウト。

あとアウト1つで勝利という目前のところで、先攻で守備の青城中学は満塁の大ピンチ。


点数は、わずかに1点差。


ヒットが出れば、同点…。

いや、サヨナラだってありえる。


だれもが固唾を呑む。


まさか、こんな展開になるとは思っていなかった。


なぜなら、1回から登板していたピッチャーである大河は、それまで無失点で抑え、青城中学は5回までに4点差をリードしていた。


しかし、中盤の5回裏。

初戦から投げ続けていた大河だったが、ここにきてその疲れが出たのが、腕の痙攣を訴えた。


手が痺れて、コントロールがうまくできないと。


そこで、大河は途中降板。

大河が降板後、徐々に点差を詰め寄られ、この9回の裏で、逆転サヨナラのピンチを迎えていたのだった。


そんな体が強張りそうなほどの緊張感の中――。

ベンチで声がかかった。



「…大河、いけるか?」

「もちろんです」


見ると、わたしの隣で安静にしていた大河が、キャップを被り直して立ち上がった。


「…待って、大河!大丈夫なの!?」

「ああ。もうすっかりよくなったし」


って言っても、まだ若干指先が震えてるじゃん…。


大河が無理しているのはわかっていた。


でも、無理してでも自分の手であと1つのアウトを取りたいという大河の気持ちは、痛いほど伝わってきた。


だって途中降板するとき、悔し涙を目に浮かべていたから。


だから、それ以上わたしはなにも言えなかった。


「なんで泣きそうな顔してんねんっ」

「べつに…、泣いてなんかっ…」

「大丈夫やって!勝つのは俺らやから」


そう言って、大河はわたしの頭をくしゃくしゃに撫でた。


わたしが泣きそうなっているのは、青城中学が負けるかもしれないという心配からじゃない。

もし、ここで無理に登板して、大河になにかあったらという不安からだった。


「莉子は、そこで黙って見てるだけでいいから。…3球で決めてくる」


大河はキャップのつばをギュッ握ると、まるでスポットライトが当たっているかのような、眩しい太陽の光が降り注ぐマウンドへ駆け出していった。



『3球で決めてくる』


大河は、わたしにそう言った。


すると、その宣言どおり――。


1球目、見逃しのストライク。

2球目、空振りのストライク。


…そして、最後の3球目。


大河は、左手に握ったボールに目を移す。


1球目も2球目も、ストレートだった。


だから、わたしには3球目もわかっていた。

なににでもまっすぐな大河らしい、自慢のストレートで勝負するって。



ノーボール、2ストライク。

あと、1球…。


わたしは、顔の前で両手を握りしめ――祈った。



――そして。


「ストラーーーーイク!!」


球審の声が、静まり返ったマウンドにこだまする。


大河が投げたストレートの球は、バッターが大きく振ったバットにかすることもなく…。

まるで吸い込まれるように、悠のキャッチャーミットの中に収まったのだった。


その瞬間、グラウンドにいた部員と、ベンチから溢れ出した部員が、マウンドに立つ大河に駆け寄った。

みんな人差し指を掲げて、マウンドの上で飛び跳ねている。


去年と一昨年は決勝戦で破れ、悔し涙を呑んだ。
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