上 下
11 / 31
君の気持ち

大河side 3P

しおりを挟む
「話したいことがあるんやって」

「俺に?なんの話やろ…?」


でも、話しかけられたことは一度だってない。



「なんか俺に用…?」


1年生のところへ行くと、俺はそう尋ねた。


「矢野先輩…!ちょっとお願いしたいことがあって…!」

「いっしょについてきてもらえませんか…!?」


真ん中のボブのコはなにもしゃべらずに、両隣にいたコたちが俺に話しかける。


「お願いしたいこと…?まあ、ええけど」


俺はそのまま、言われたとおりに3人のあとについて行った。



階段を下りて、1階へ。

そして昇降口を通り過ぎて、やってきたのは人気のない校舎裏だった。


「こんなところに連れてきて、…ここになんかあるん?」


ぱっと見、なにもない殺風景な場所だけど。


「…突然呼び出してしまって、すみません」

「実は、このコが矢野先輩に話があって…」


『このコ』というのは、さっきからひと言も話さなかったボブのコだった。


「…話?どうした?」


背丈は、俺の胸くらいまでしかない小柄なコ。

俺は視線を合わせようと、腰を低くした。


なのに、なぜか目を逸された。


「どっ…どうしよう…!やっぱり無理や…!」


…えっ。

無理って…、なにが?


なぜか拒絶されて、俺は首を傾げる。


「…今さらなに言ってんの!せっかく矢野先輩を呼び出せたんやからっ」

「せやで!ここまできたんやから、気持ちぶつけたほうがいいって!」


両隣のコたちに助けを求めるように、ボブのコが俺に背中を向ける。


え~…っと。

俺…、なんかしたかな?


このコたちと話すのは、これが初めてだと思う。

だけど、それより前に気づかないうちに嫌な思いでもさせたかな…?


これまでのことを振り返ってみるが、まったく思い出せない。


――すると。


「あの…あの…」


ボブのコが手をもじもじさせながら、チラリと俺に視線を送る。


もしかしたら、なにか文句を言われるかもしれない。

だから、3人いっしょに俺のところにきて…。


そう思っていたら――。


「矢野先輩…!小学校のときから、ずっ…ずっと好きでした!私と…付き合ってください!!」



その言葉に、俺は一瞬ポカンとしてしまった。

だって、てっきり怒られると身構えていたから。


それなのに――。


『好きです』…?

『付き合ってください』……?


これってもしかして、告白…っていうやつ?



正直、告白されたのはこれが初めてだった。

だから、そう言われるまでまったくその雰囲気に気づかなかった。


こんなにも真っ赤な顔して、緊張で泣きそうになりながらも、俺に告白してくれた女の子。

ものすごい勇気が必要だったに違いない。


それに、覚悟して俺をこの場に連れてきた。


だから、俺もそれ相応に応えなければならないのが筋ってものだ。


しかし、それはこのコの告白を受け入れるという意味ではない。



「ごめん」


俺は視線を落として、そう言った。

その言葉に、とっさに顔を上げて俺を見つめるボブのコ。


「悪いけど、最後の大会も近いから、今は野球以外のことは考えられへん。やから、…ごめん」


俺は、頭を下げた。


悔いなく最後の大会を迎えられるように、とにかく練習に専念したい。

だから、今の俺には彼女をつくる余裕なんてない。


すると、ボブのコは今にも泣き出しそうに顔がくしゃっとなった。

そのコを代弁するかのように、両隣の女の子たちが俺に迫る。


「じゃあ、その大会が終わったら、このコのことを考えてくれますか!?」

「このコ、小4のときから矢野先輩のことが好きだったんです!」


ついには、泣き出してしまったボブのコ。


…正直、女の涙には弱い。


俺がここで、「やっぱり付き合おう」と言ったら、このコは泣き止むことだろう。


しかし、俺だってそこは譲れない。



「ごめん。それでも、付き合えへん」

「…どうしてですか!?」

「もしかして…、受験があるからですか!?それなら、このコは一切邪魔はしないですから――」

「ちゃう。そういう問題やないねん」


受験は関係ない。


「じゃあ――」

「俺、好きなヤツおるから」


そう。

俺には、好きなヤツがいる。


このコたちよりも女の子っぽくなくて、きっと俺のことを男とも思っていないような、じゃじゃ馬娘のことだ。


そんなヤツのことが好きってことに、…気づいてしまったから。



「…そうなんですか?」

「ああ。やから、他のヤツと付き合うとか考えられへん。…ごめんなっ」


今の関係が当たり前になっていて、あいつとも付き合うことなんて考えられないけど――。

もし、だれかと付き合うなら…莉子がいい。


いや。

莉子じゃなきゃだめなんだ。


だって、俺の隣には莉子しか考えられないから。
しおりを挟む

処理中です...