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君の気持ち

大河side 3P

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「話したいことがあるんやって」

「俺に?なんの話やろ…?」


でも、話しかけられたことは一度だってない。



「なんか俺に用…?」


1年生のところへ行くと、俺はそう尋ねた。


「矢野先輩…!ちょっとお願いしたいことがあって…!」

「いっしょについてきてもらえませんか…!?」


真ん中のボブのコはなにもしゃべらずに、両隣にいたコたちが俺に話しかける。


「お願いしたいこと…?まあ、ええけど」


俺はそのまま、言われたとおりに3人のあとについて行った。



階段を下りて、1階へ。

そして昇降口を通り過ぎて、やってきたのは人気のない校舎裏だった。


「こんなところに連れてきて、…ここになんかあるん?」


ぱっと見、なにもない殺風景な場所だけど。


「…突然呼び出してしまって、すみません」

「実は、このコが矢野先輩に話があって…」


『このコ』というのは、さっきからひと言も話さなかったボブのコだった。


「…話?どうした?」


背丈は、俺の胸くらいまでしかない小柄なコ。

俺は視線を合わせようと、腰を低くした。


なのに、なぜか目を逸された。


「どっ…どうしよう…!やっぱり無理や…!」


…えっ。

無理って…、なにが?


なぜか拒絶されて、俺は首を傾げる。


「…今さらなに言ってんの!せっかく矢野先輩を呼び出せたんやからっ」

「せやで!ここまできたんやから、気持ちぶつけたほうがいいって!」


両隣のコたちに助けを求めるように、ボブのコが俺に背中を向ける。


え~…っと。

俺…、なんかしたかな?


このコたちと話すのは、これが初めてだと思う。

だけど、それより前に気づかないうちに嫌な思いでもさせたかな…?


これまでのことを振り返ってみるが、まったく思い出せない。


――すると。


「あの…あの…」


ボブのコが手をもじもじさせながら、チラリと俺に視線を送る。


もしかしたら、なにか文句を言われるかもしれない。

だから、3人いっしょに俺のところにきて…。


そう思っていたら――。


「矢野先輩…!小学校のときから、ずっ…ずっと好きでした!私と…付き合ってください!!」



その言葉に、俺は一瞬ポカンとしてしまった。

だって、てっきり怒られると身構えていたから。


それなのに――。


『好きです』…?

『付き合ってください』……?


これってもしかして、告白…っていうやつ?



正直、告白されたのはこれが初めてだった。

だから、そう言われるまでまったくその雰囲気に気づかなかった。


こんなにも真っ赤な顔して、緊張で泣きそうになりながらも、俺に告白してくれた女の子。

ものすごい勇気が必要だったに違いない。


それに、覚悟して俺をこの場に連れてきた。


だから、俺もそれ相応に応えなければならないのが筋ってものだ。


しかし、それはこのコの告白を受け入れるという意味ではない。



「ごめん」


俺は視線を落として、そう言った。

その言葉に、とっさに顔を上げて俺を見つめるボブのコ。


「悪いけど、最後の大会も近いから、今は野球以外のことは考えられへん。やから、…ごめん」


俺は、頭を下げた。


悔いなく最後の大会を迎えられるように、とにかく練習に専念したい。

だから、今の俺には彼女をつくる余裕なんてない。


すると、ボブのコは今にも泣き出しそうに顔がくしゃっとなった。

そのコを代弁するかのように、両隣の女の子たちが俺に迫る。


「じゃあ、その大会が終わったら、このコのことを考えてくれますか!?」

「このコ、小4のときから矢野先輩のことが好きだったんです!」


ついには、泣き出してしまったボブのコ。


…正直、女の涙には弱い。


俺がここで、「やっぱり付き合おう」と言ったら、このコは泣き止むことだろう。


しかし、俺だってそこは譲れない。



「ごめん。それでも、付き合えへん」

「…どうしてですか!?」

「もしかして…、受験があるからですか!?それなら、このコは一切邪魔はしないですから――」

「ちゃう。そういう問題やないねん」


受験は関係ない。


「じゃあ――」

「俺、好きなヤツおるから」


そう。

俺には、好きなヤツがいる。


このコたちよりも女の子っぽくなくて、きっと俺のことを男とも思っていないような、じゃじゃ馬娘のことだ。


そんなヤツのことが好きってことに、…気づいてしまったから。



「…そうなんですか?」

「ああ。やから、他のヤツと付き合うとか考えられへん。…ごめんなっ」


今の関係が当たり前になっていて、あいつとも付き合うことなんて考えられないけど――。

もし、だれかと付き合うなら…莉子がいい。


いや。

莉子じゃなきゃだめなんだ。


だって、俺の隣には莉子しか考えられないから。
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