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君の気持ち

莉子side 2P

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するとそこには、わたしの集めたマンガに混じって、大河から借りたマンガが並んでいた。


「そういえば、昨日本棚にしまったんだった…!」

「それにしても、…なんであんな高いところに」

「おもしろかったから、もう1回読み返そうと思って~」

「いや、あそこに置いてる時点で、借りパクしようと思ってたやろ」


大河から疑いの目がかけられる。


「…そんなことないよ!それに、大河だってわたしのマンガ、借りパクしてるじゃん!」

「あれは、まだ読んでへんねん」

「何ヶ月前に貸したと思ってるの~!?それこそ、借りパクだよっ」


…まったく。

自分のことは棚に上げて。


わたしは大河を押しのけて、本棚に手を伸ばした。


しかし…届かない。

わたしの身長では、一番上の棚に指先がつくかつかないかくらいだ。


確か、昨日はイスを踏み台代わりにして上ったんだっけ。


――すると。


「じゃあ、返してもらうからな」


後ろから声がしたと思って振り返ると、大河が軽々と一番上の棚に手を伸ばしていた。


わたしの体は本棚と大河に挟まれて、身動きが取れない状況。


だから、黙って大河を見上げることしかできなかった。


ちっ…近い。


大河と密着しそうになって、思わず背中を向ける。


「よしっ、取れた」


大河はいとも簡単に、わたしの背じゃ届かないような本棚から、自分のマンガを引き抜いた。


――と、そのとき!


「…うわぁ!」

「なにっ…!?」


突然、大河が変な声を出したと思ったら、わたしに急接近してきて――。



「…いたたっ」


わたしは、大河とぶつかった額の痛みに顔をゆがめた。

しかし、そんなことよりも、目を開けて…驚いたっ。


なぜなら、大河がわたしの目の前にいたのだから。


状況が理解できなくて、一瞬ポカンとしてしまった。


ぶつけた額は、痛い。

だけど、体は痛くない。


なぜなら、わたしはベッドの上に倒れているから。


……ん?

ベッド…?


そこで、ようやく気がついた。


わたしは、大河に押し倒されてベッドの上にいることに…!


上から覆いかぶさる大河と、ふと目が合う。


すると、大河はすぐに目を逸らした。

しかし、顔がどんどん赤くなっていく。


そんな大河を見たら――。

わたしだった、なんだか頬が熱くなるっ…。


ていうか、そもそもこの状況って…なんなの!?


「…ちょっと大河!早くどいてよっ!」

「あっ…、わ…わりぃ!」


テンパったような大河が、慌ててわたしから体を起こした。


お互い心を落ち着かせるために、背中を向けて深呼吸する。


それにしても、ほんと意味わかんない…!

大河、なに考えるの…!?


「いっ…今の、なに…!?」

「…か!勘違いすんなよ!あれは、ただの不可抗力やし!」

「不可抗力~…!?」


この期に及んで、なんの言い訳かと思っていたら――。


「…これこれ!!このせい!」


大河はしどろもどろになりながら、床からなにかを拾い上げた。


大河が手にしていたのは、中に赤い模様が入った透明で丸いもの。

それは、ビー玉だった。


「これが床に転がってたから、それを踏んづけてバランスを崩してっ…!」


わたしは、目を細めて大河を見つめる。


もう少し、まともな嘘があったんじゃ。

と思ったけど――。


「…あっ」


わたしの口から、そんな気の抜けた声が漏れた。


――そういえば、思い出した。


昨日、小物を入れていた缶をひっくり返して…。


あのビー玉は、その缶に入っていたものだった。


だから、ビー玉が床に転がっていたというのも、どうやら嘘ではなさそうだ。


「でも、ビー玉でよろけるなんて、…大河って案外体幹悪いんだね」

「なんやそれ!そもそも、部屋にビー玉が転がってるなんて、だれが想像する…!?」

「てっきり、わたしと2人きりなったからって、欲情したのかと――」

「いやいや、ないないっ。俺だって、女くらい選ぶわ」

「…はぁ!?わたしだって、だれが大河なんかに――」


と軽い口喧嘩をしていたとき、部屋のドアが開く音がした。


「さっき物音がしたけど、なんかあった?」


ドアから顔を覗かせたのは、悠だった。

わたしたちは、とっさに距離を取る。


「そっ…それがさ~!大河がビー玉踏んづけて、1人で派手に転けちゃって!」

「ああ~。その音?」

「「…そうそうっ!」」


わたしと大河は、いっしょに首を縦に振った。


なんで悠に説明するのに、こんなに焦っているのかはわからなかった。



その日の夜。

いつもならすぐに寝つけるのに、なんだかなかなか眠れなかった。


『いっ…今の、なに…!?』

『…か!勘違いすんなよ!あれは、ただの不可抗力やし!』


目をつむったら、あのときのことが思い出される。


わたしもなに大河に押し倒されて、赤くなってたんだろうっ。

相手は、恋人が野球って言うほどの、野球バカなのに。


…ほんとに、ありえない!


そんなふうに怒っていたら、いつの間にか眠ってしまっていたのだった。


次の日は、恥ずかしくて大河とまともに顔を合わせられなかった。


だけど、悠はなにかを察したのだろうか――。


「お前ら、ケンカでもした?」


なんて聞いてくるから、無理やりでもいつもどおりの雰囲気を演じるしかなかった。


だけどそのおかげが、数日たてば元通り。

何事もなかったかのように、接することができた。


――そりゃそうだよね。


わたしと大河だもん。

なにかあるわけがない。


このときは、そう思っていた。



それから、3ヶ月後。

大河と悠といっしょに、お昼休みのお弁当を食べ終わったころ――。


「…ほらっ、いるで!」

「今なら、大丈夫やって!」

「で…でもっ…」


廊下のほうから、そんな声が聞こえてきた。

目を向けると、教室のドアのあたりに、3人の女の子たちが見え隠れしていた。


同じ3年生じゃない。

おそらく1年生だ。


「珍しいね。この階に1年のコがくるなんて」

「そうやなー。だれかに用事でもあるんとちゃう?」


悠とそんな話をしていると、クラスメイトの男の子がわたしたちのところへやってきた。

そして、大河の前に立つ。


「大河、なんかきてほしいらしいで?」

「…え?だれが?」

「あのコら」


男の子が指さしたのは、廊下からチラチラと覗いているさっきの1年生の女の子たち。


「話したいことがあるんやって」

「俺に?なんの話やろ…?」


大河は、不思議そうに首を傾げながら席を立った。


女の子たちのところへ行くと、3人に連れられるようにして、どこかへ行ってしまった。


「なんだろうね?知らないコたちだったけど」


わたしがそうつぶやくと、なぜか悠はポカンとしてわたしに目を向けていた。


「…莉子、あの状況でわからん?」

「わかるもなにも、ここからじゃなに話してるか聞き取れなかったじゃない」

「いやいや…!そうじゃなくても、あの女の子たちの雰囲気でわかるやろ!?」

「えっ?」


未だに理解していないわたしに、ため息をつく悠。

そして、わたしに耳打ちする。


「あれ、絶対大河に告白するんやで」

「…はっ!?…こ、告白!?」


慌てて振り向いたせいで、悠と額をぶつけてしまった。


「…いった~。驚きすぎやろ、莉子」

「だってだって…!大河だよ!?野球バカのっ!」


痛そうに額を抑える悠と違って、わたしは驚きのあまり、痛みなんて感じていない。


「しかも、3人同時に告白なんてありえないでしょ…!」

「3人同時というよりも、2人は付き添いちゃう?3年の教室まで1人でくるとか、勇気いるしな」


…あ、そういえば。

少女マンガでも、そんなふうなシチュエーションを見たことがある。


「け…けど!ないない!大河なんて、男の魅力ゼロだし!」

「それやったら、オレと賭けてみる?」

「賭け…?」

「オレは、大河が告白されるに1票。外れたら、購買のジュースを奢るってことで」

「…いいよ!それなら、わたしは告白じゃないに1票ね!」


大河が女の子に告白されるなんて想像できないし
、ましてや付き合うなんてっ…。

野球以外に興味があるなら、とっくに彼女なんているだろうし!


だからこんな賭け、無意味すぎる。


「で…、どうやって確かめるの?」

「そんなん、大河たちのあとを追いかけるしかないんちゃう?」

「…でも、覗き見ってよくないよね?」

「とかなんとか言って、ほんまは大河が告白されへんか気になってるくせに~」
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