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君の気持ち
莉子side 1P
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「なに、これ!また同じクラスなんだけど…!」
貼り出されたクラス分けの紙を見て、わたしは目を丸くした。
わたしがこの土地に引っ越してきて、早くも2年がたった。
入学したころは、肩につくくらいのミディアムヘアだったわたしの髪は、胸くらいまであるロングヘアに。
そして、気づけばわたしは今日から中学3年生。
今日は、1学期最初の登校日。
つまり、始業式だ。
この日は、新しいクラス発表の紙が昇降口に貼られている。
それを見て、わたしはポカンと口が開いていた。
――なぜなら。
「ほんまやんっ。さすがに、最後の年くらい離れたかったわ~」
そう言って、わたしの隣にやってきたのは、わたしよりも頭1つ以上背の高い、黒髪短髪の男…。
そう、大河だ。
この2年の間で、ものすごく身長が伸びていた。
「それは、こっちのセリフ。それに、悠もいっしょだしね」
「まあ3人仲よく、また1年間よろしく~」
悠は、わたしと大河の間に入ってきて肩を組む。
大河と悠とは、結局1年生から3年生まですべて同じクラスだった。
もはや、腐れ縁と呼ぶしかない。
しかも、大河に関しては、席替えをしても近くの席になることが多かった。
隣の席なんて、これまで何度なったことか。
まあ、口ではこう言ってみるけど、実際大河には感謝している。
大河は、引っ越してきたばかりで馴染めないわたしのことを常に気にかけてくれていた。
1人になったときは、雑談をしにきてくれたり。
そうして、大河がわたしに話しかけにきてくれたおかげで、他のクラスメイトも徐々に集まってきてくれるようになった。
「東京からきたん?」
「やっぱり、街歩いてたら有名人とかいたりするん!?」
「インスタで見たこのお店行きたいねんけど、東京にしかないねん~!」
などなど。
初めこそ、関西弁ってこわいなんて思っていたけど、ちっともそんなことはなかった。
それに、大河はわたしをあるものに誘ってくれた。
それは、野球部のマネージャーだ。
「俺、野球部に入るねんけど――」
「それは、言われなくてもわかるよ」
だって、野球バカなんだし。
「…そうじゃなくて!もしあれやったら、莉子もどう?」
「…え、野球部?それって、男の子だけでしょ?」
「ちゃうちゃう!野球部のマネージャーなっ」
マネージャー…。
そもそも、部活に入るつもりなんてなかったから、なにも考えていなかった。
だから、大河に誘われてびっくりした。
正直、初めはあまり乗り気じゃなかった。
でも、家に帰ってお母さんに話してみたら、お母さんも高校生のときに、野球部のマネージャーをしていたと話してくれた。
それで、少し興味がわいた。
放課後、とくにやることもないし、入りたい部活があるわけでもない。
それなら、野球部のマネージャーをやってみようかな。
そう思ったのだった。
そのおかげで、わたしは同級生だけじゃなく、野球部の部員やマネージャーの先輩たちまで、知り合いの輪を広げることができた。
マネージャーの仕事も初めは大変だと思ったけど、慣れたら要領よくできるようになった。
それに、部員から「ありがとう」と言われるたびに、達成感に満たされた。
右も左もわからなかった、マネージャー1年目。
後輩もできて、教わる立場から教える立場に変わった、マネージャー2年目。
そして気づけば、この夏で引退を迎える、マネージャー3年目になっていた。
「莉子、おはよ~!」
「おはよー!」
こうして、すれ違う友達みんながあいさつしてくれるなんて、2年前のわたしは想像もつかなかったことだろう。
「なぁ、莉子!クラスどうやった?」
大河たちと昇降口で上靴に履き替えていると、前に同じクラスだった友達が話しかけてきた。
「わたしは2組だったよ」
「ちなみに、大河と悠とは?」
「…それが、また同じクラスだったんだけど」
「ほんまに!?3人、どんだけ仲いいん!?」
ほら、大笑いされてる。
3人いっしょに3年間同じクラスだなんて、先生が仕組んだとしか思えない。
「そんなに仲いいなら、どっちかと付き合えばいいやん!」
「やめてよー。野球バカと付き合ったら、バカが移るじゃん」
大河とも悠とも仲はいいけど、わたしたちの関係はそういうのじゃないと思ってる。
遠慮なくなんでも言い合える、『仲間』って感じ。
しかも、意外と2人とも…モテるみたい。
同級生の反応はそんなことはないけど、後輩は2人を見てキャーキャー言ってたり。
ただ周りより背が高くて、人より野球ができるだけ。
あとは、大河は野球部の部長、悠は副部長をしているから、そのおかげでかっこよく見えてるだけじゃない?
と、わたしは思っているけど。
「そういえば、今日は部活ないんだよね?」
「ああ。やから、学校帰りに莉子ん家行こって、さっき悠と話しててん」
「…えっ!?なんで、わたしん家!?」
「だって、この前のゲームの決着、まだついてへんやんっ」
春休みにわたしの家でしたテレビゲームで、わたしに負けたことが相当悔しかったみたい。
そのリベンジをしたいんだそう。
「まあ…いいけど。お母さんに連絡しておくっ」
「よろしく~」
2人がわたしの家に遊びにくるのは、べつに珍しいことじゃない。
仲よくなった1年のころから、よくわたしの家に遊びにきていた。
お母さんは、さっそくわたしに友達ができたことがすごくうれしかったみたいで、大河と悠をもてなした。
それからも2人は、遠慮なくわたしの家に遊びにくるように。
お母さんもお父さんもすっかり大河と悠のことを気に入っているから、いつも2人がくるのを楽しみにしているほど。
まあ、わたしも大河や悠の家にはよく遊びにいく。
だから、2人の親とも仲がよかったりする。
その日は、朝に宣言したとおり、大河と悠がわたしの家に遊びにきた。
「大河くん、悠くん、久しぶり~!」
お母さんは、満面の笑みで出迎えた。
『久しぶり~!』って言ったって、3日前にきたところだけど。
しかも、この前2人がおいしいと言ってくれた手作りクッキーを、今日は大量に焼いて準備していたお母さん。
息子がいないから、どうやら2人のことがかわいくて仕方がないらしい。
「莉子のお母さんのクッキー、めっちゃ好きなんすよ!」
「まあ、うれしい!たくさんあるから、どんどん食べてね~!」
しかも、成長期の2人の胃袋は尋常じゃない。
無限にクッキーが入っていく。
「よかったら2人とも、晩ごはんもウチで食べていったら?」
「「いいんすか!?」」
「もちろん!今日は、お父さんも早く帰ってこれるから、2人に会える楽しみにしてると思うから」
「やった~!莉子のお母さんの料理、めちゃくちゃうめぇよなー」
「ああ。遠慮なくいただきまーす!」
「そこは遠慮しなよ」とツッコミたくなるけど、これもよくあること。
わたしもこの前、大河の家で夜ごはんを食べさせてもらったし。
夕方の5時ごろ。
いつもより、仕事から早く帰ってきたお父さん。
「やぁ!大河くん、悠くん!」
「「お邪魔してま~す!」」
2人とも、我が家かと思うほどのくつろぎようだ。
そして、大河と悠も交えて晩ごはんの時間。
わたしの家は3人家族だから、5人で食べるとなると一気に賑やかになる。
もしわたしに兄弟がいたらこんな感じなのかな、とちょっと思ったりもした。
――晩ごはんのあと。
大河がわたしの肩を叩いた。
「なあ、莉子。前に貸してたマンガって、もう読み終わった?」
「うん、この前読んだよ!」
「それ、次に読みたいってヤツがおるし、今日返してもらってもいい?」
「いいよー。部屋にあるからっ」
後片付けの手伝いをしてくれている悠をリビングに残して、わたしは大河を自分の部屋へと連れていった。
「確か、ここに置いて…」
と思ったんだけど、……ないっ。
「あれっ…?こっちだったかな?」
わたしの部屋は、べつに散らかっているというわけではなかったんだけど、大河から借りたマンガが見当たらない。
「おいおい。失くしたんとちゃうやろな~」
「そんなことないよ。だって、昨日見かけたし」
わたしがそう言っているのに心配になったのか、大河もいっしょに探し始めた。
そして、探すこと10分――。
「…あっ!思い出した!」
わたしは、ベッドの横の本棚の一番上の棚を見上げた。
貼り出されたクラス分けの紙を見て、わたしは目を丸くした。
わたしがこの土地に引っ越してきて、早くも2年がたった。
入学したころは、肩につくくらいのミディアムヘアだったわたしの髪は、胸くらいまであるロングヘアに。
そして、気づけばわたしは今日から中学3年生。
今日は、1学期最初の登校日。
つまり、始業式だ。
この日は、新しいクラス発表の紙が昇降口に貼られている。
それを見て、わたしはポカンと口が開いていた。
――なぜなら。
「ほんまやんっ。さすがに、最後の年くらい離れたかったわ~」
そう言って、わたしの隣にやってきたのは、わたしよりも頭1つ以上背の高い、黒髪短髪の男…。
そう、大河だ。
この2年の間で、ものすごく身長が伸びていた。
「それは、こっちのセリフ。それに、悠もいっしょだしね」
「まあ3人仲よく、また1年間よろしく~」
悠は、わたしと大河の間に入ってきて肩を組む。
大河と悠とは、結局1年生から3年生まですべて同じクラスだった。
もはや、腐れ縁と呼ぶしかない。
しかも、大河に関しては、席替えをしても近くの席になることが多かった。
隣の席なんて、これまで何度なったことか。
まあ、口ではこう言ってみるけど、実際大河には感謝している。
大河は、引っ越してきたばかりで馴染めないわたしのことを常に気にかけてくれていた。
1人になったときは、雑談をしにきてくれたり。
そうして、大河がわたしに話しかけにきてくれたおかげで、他のクラスメイトも徐々に集まってきてくれるようになった。
「東京からきたん?」
「やっぱり、街歩いてたら有名人とかいたりするん!?」
「インスタで見たこのお店行きたいねんけど、東京にしかないねん~!」
などなど。
初めこそ、関西弁ってこわいなんて思っていたけど、ちっともそんなことはなかった。
それに、大河はわたしをあるものに誘ってくれた。
それは、野球部のマネージャーだ。
「俺、野球部に入るねんけど――」
「それは、言われなくてもわかるよ」
だって、野球バカなんだし。
「…そうじゃなくて!もしあれやったら、莉子もどう?」
「…え、野球部?それって、男の子だけでしょ?」
「ちゃうちゃう!野球部のマネージャーなっ」
マネージャー…。
そもそも、部活に入るつもりなんてなかったから、なにも考えていなかった。
だから、大河に誘われてびっくりした。
正直、初めはあまり乗り気じゃなかった。
でも、家に帰ってお母さんに話してみたら、お母さんも高校生のときに、野球部のマネージャーをしていたと話してくれた。
それで、少し興味がわいた。
放課後、とくにやることもないし、入りたい部活があるわけでもない。
それなら、野球部のマネージャーをやってみようかな。
そう思ったのだった。
そのおかげで、わたしは同級生だけじゃなく、野球部の部員やマネージャーの先輩たちまで、知り合いの輪を広げることができた。
マネージャーの仕事も初めは大変だと思ったけど、慣れたら要領よくできるようになった。
それに、部員から「ありがとう」と言われるたびに、達成感に満たされた。
右も左もわからなかった、マネージャー1年目。
後輩もできて、教わる立場から教える立場に変わった、マネージャー2年目。
そして気づけば、この夏で引退を迎える、マネージャー3年目になっていた。
「莉子、おはよ~!」
「おはよー!」
こうして、すれ違う友達みんながあいさつしてくれるなんて、2年前のわたしは想像もつかなかったことだろう。
「なぁ、莉子!クラスどうやった?」
大河たちと昇降口で上靴に履き替えていると、前に同じクラスだった友達が話しかけてきた。
「わたしは2組だったよ」
「ちなみに、大河と悠とは?」
「…それが、また同じクラスだったんだけど」
「ほんまに!?3人、どんだけ仲いいん!?」
ほら、大笑いされてる。
3人いっしょに3年間同じクラスだなんて、先生が仕組んだとしか思えない。
「そんなに仲いいなら、どっちかと付き合えばいいやん!」
「やめてよー。野球バカと付き合ったら、バカが移るじゃん」
大河とも悠とも仲はいいけど、わたしたちの関係はそういうのじゃないと思ってる。
遠慮なくなんでも言い合える、『仲間』って感じ。
しかも、意外と2人とも…モテるみたい。
同級生の反応はそんなことはないけど、後輩は2人を見てキャーキャー言ってたり。
ただ周りより背が高くて、人より野球ができるだけ。
あとは、大河は野球部の部長、悠は副部長をしているから、そのおかげでかっこよく見えてるだけじゃない?
と、わたしは思っているけど。
「そういえば、今日は部活ないんだよね?」
「ああ。やから、学校帰りに莉子ん家行こって、さっき悠と話しててん」
「…えっ!?なんで、わたしん家!?」
「だって、この前のゲームの決着、まだついてへんやんっ」
春休みにわたしの家でしたテレビゲームで、わたしに負けたことが相当悔しかったみたい。
そのリベンジをしたいんだそう。
「まあ…いいけど。お母さんに連絡しておくっ」
「よろしく~」
2人がわたしの家に遊びにくるのは、べつに珍しいことじゃない。
仲よくなった1年のころから、よくわたしの家に遊びにきていた。
お母さんは、さっそくわたしに友達ができたことがすごくうれしかったみたいで、大河と悠をもてなした。
それからも2人は、遠慮なくわたしの家に遊びにくるように。
お母さんもお父さんもすっかり大河と悠のことを気に入っているから、いつも2人がくるのを楽しみにしているほど。
まあ、わたしも大河や悠の家にはよく遊びにいく。
だから、2人の親とも仲がよかったりする。
その日は、朝に宣言したとおり、大河と悠がわたしの家に遊びにきた。
「大河くん、悠くん、久しぶり~!」
お母さんは、満面の笑みで出迎えた。
『久しぶり~!』って言ったって、3日前にきたところだけど。
しかも、この前2人がおいしいと言ってくれた手作りクッキーを、今日は大量に焼いて準備していたお母さん。
息子がいないから、どうやら2人のことがかわいくて仕方がないらしい。
「莉子のお母さんのクッキー、めっちゃ好きなんすよ!」
「まあ、うれしい!たくさんあるから、どんどん食べてね~!」
しかも、成長期の2人の胃袋は尋常じゃない。
無限にクッキーが入っていく。
「よかったら2人とも、晩ごはんもウチで食べていったら?」
「「いいんすか!?」」
「もちろん!今日は、お父さんも早く帰ってこれるから、2人に会える楽しみにしてると思うから」
「やった~!莉子のお母さんの料理、めちゃくちゃうめぇよなー」
「ああ。遠慮なくいただきまーす!」
「そこは遠慮しなよ」とツッコミたくなるけど、これもよくあること。
わたしもこの前、大河の家で夜ごはんを食べさせてもらったし。
夕方の5時ごろ。
いつもより、仕事から早く帰ってきたお父さん。
「やぁ!大河くん、悠くん!」
「「お邪魔してま~す!」」
2人とも、我が家かと思うほどのくつろぎようだ。
そして、大河と悠も交えて晩ごはんの時間。
わたしの家は3人家族だから、5人で食べるとなると一気に賑やかになる。
もしわたしに兄弟がいたらこんな感じなのかな、とちょっと思ったりもした。
――晩ごはんのあと。
大河がわたしの肩を叩いた。
「なあ、莉子。前に貸してたマンガって、もう読み終わった?」
「うん、この前読んだよ!」
「それ、次に読みたいってヤツがおるし、今日返してもらってもいい?」
「いいよー。部屋にあるからっ」
後片付けの手伝いをしてくれている悠をリビングに残して、わたしは大河を自分の部屋へと連れていった。
「確か、ここに置いて…」
と思ったんだけど、……ないっ。
「あれっ…?こっちだったかな?」
わたしの部屋は、べつに散らかっているというわけではなかったんだけど、大河から借りたマンガが見当たらない。
「おいおい。失くしたんとちゃうやろな~」
「そんなことないよ。だって、昨日見かけたし」
わたしがそう言っているのに心配になったのか、大河もいっしょに探し始めた。
そして、探すこと10分――。
「…あっ!思い出した!」
わたしは、ベッドの横の本棚の一番上の棚を見上げた。
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