初恋の王子様

中小路かほ

文字の大きさ
上 下
18 / 21
初恋の王子様

1P

しおりを挟む
最悪のデート日からの、明けの月曜日。


「ほのかちゃん、ごめんねっ…」


マスクをした優馬くんが、あたしに会うなり謝ってきた。


「…そんな!風邪なんだからしょうがないよ!」


もしかしたら、今日は学校休むのかなと思っていたから、思ったよりも元気そうな優馬くんを見れて安心した。


優馬くんとのデートも楽しみだったけど、やっぱりあたしは優馬くんの顔を見れるだけで毎日が幸せだ。


そんな平凡な日々が続いた。

たまに燈馬くんが入れ替わって花森にやってくるけど、あたしは口をきかなかった。


そして、いつしか季節は移り変わり、過ごしやすい気温が続く秋から、冷たい北風が吹く冬になった。


街はイルミネーションに彩られ、クリスマスソングが流れている。


今日は2学期の終業式。

明日からは冬休みだ。


「それでは、よいお年を!」


担任の先生がそう締めくくり、2学期最後の終礼が終わった。


「それじゃあ、ほのか。先に帰るねっ」

「うん!また新学期に」


あたしはアミに手を振る。


この日が日直だったあたしは、教室に残って日誌を書いていた。

書き終わるころには、教室にはもうだれもいなかった。


職員室へ行き、担任の先生へ日誌を届ける。


「ご苦労さま、朝倉」

「いえ。それじゃあ、あたしはこれで」

「ああ。気をつけて帰れよ」

「はい、さような――」

「ちょっといいですか?」


先生にあいさつしようとしたとき、あたしたちのところへ美術の先生がやってきた。


「どうかしましたか?」


担任の先生がくるりとイスといっしょに振り返る。


「渡優馬は先生のクラスですよね?」

「そうですが」

「冬休みの課題の彫刻、美術室に取りにくるように事前に伝えていたのですが、渡くんだけ取りにきてないんですよ」

「あ~…。渡のヤツ、たまに抜けてるところありますからねぇ」

「新学期に提出予定なので、渡くんの家に今日か明日中に取りにくるように連絡してもらえますか?」

「わかりました」


美術の課題である彫刻の木の板を預かる担任の先生。


「…まったく。渡のヤツは…」


そうぼやきながら、先生はクラスの連絡先の書かれたファイルを机の引き出しから取り出した。


「あの、先生っ…」


それを見て、あたしは先生に声をかけた。


「あたし、渡くんの連絡先知ってます。なので、あたしが今から届けましょうか?」

「えっ、いいのか?朝倉」

「はい!任せてください」


今日、あまり優馬くんと話せなかった。

このまま冬休みに入ってしまうのは寂しかったから、この美術の課題を届ける口実に優馬くんに会えたらなと思った。


それに、優馬くんの行くところは知っていた。

帰りに、他校の友達と駅前のファストフード店にお昼ごはんを食べに行くという話が聞こえたから。


「それじゃあお願いするよ」


あたしは先生から美術の課題を受け取った。



駅前のファストフード店に到着。

店内に入って、優馬くんの姿を探す。


お店の中は、あたしのような終業式を終えた学生たちであふれていた。


ひと通り探したけど、優馬くんの姿は見当たらない。


「ここじゃなかったのかな…」


ここで会えれば美術の課題を渡せると思ったんだけど…。


あたしは携帯を取り出し、優馬くんに連絡することにした。

しかし、運悪くこのタイミングで携帯の充電が切れてしまった。


…最悪だ。


そのとき、ちょうどあたしのお腹の虫が鳴く。

お腹も空いたことだし、この状況でこのファストフード店のジャンキーな匂いには絶えられない。


あたしはひとまず、ここでお昼を済ませることにした。


ハンバーガーとポテトとジュースのついたセットを購入。

空いている席を探す。


だけど、さっきまでいくつが空席があったのに、あたしがお会計している間にすべて埋まってしまっていた…!


「どうしよう…」


キョロキョロと空席を探しながら、店内を歩く。


すると――。


「ここなら空いてるけど」


そんな声が聞こえて見下ろすと、ボックスタイプのテーブル席に1人で座る燈馬くんだった。


「と…燈馬くん…!」


久しぶりの燈馬くんに思わず動揺してしまう。


「なんで…こんなところにっ」

「なんでって、終業式の帰りに昼メシ食いにきただけなんだけど」


チラリとあたしに目をやる燈馬くん。


「座ったら?」

「…結構です!」


あたしを騙してデートにきたこと、あたしはまだ許していない。

そんな燈馬くんといっしょにお昼ごはんなんか食べられない。


「あたしは他の席を探すから」


そう言ってみたものの、…他に席が空く気配はなかった。


「べつになにもしねぇよ。無理に話そうとしなくたっていいし。俺だって、食べ終わったらすぐに帰るからさ」


見ると、燈馬くんはすでにハンバーガーを食べ終えていて、残っているのはポテトとジュースだけのようだった。


「そ…、それじゃあ…」


あたしはおずおずと燈馬くんとテーブルを挟んだ向かいの席に座った。


優馬くんがいないとなると、やっぱり連絡してみるしかないよね。

それなら、一度家に帰って携帯を充電して…。


といろいろ考えていたけど、ふと前に座る燈馬くんが目に入った。


そもそも、燈馬くんに美術の課題を渡せばいいだけだよね…?

優馬くんに渡しておいてって言って。


本当は直接優馬くんに渡したいところだけど、課題だから早めに届けたほうがいいよね。


でも…、燈馬くんに話しかけるのは……。


そんなことを考えていると、燈馬くんは席を外してどこかへ行った。

荷物は置いてあるままだから、また戻ってはくるみたい。


そのとき、後ろの席から物音が聞こえた。


「ごめん、お待たせっ」


さらに、知ったことのある声。


「遅ぇよ、優馬~」

「ほんとごめん!本屋寄ってたんだけど、探すのに時間かかっちゃって」


少しだけ振り返ると、なんと隣のボックス席に優馬くんが座った。

あたしとは、背もたれを挟むようにして背中合わせで座っている状態。


どうやら、隣のボックス席に1人で座っていたのは優馬くんの友達だったようだ。


優馬くんに声をかけようかと思ったけど、楽しそうな話し声が聞こえる。

邪魔するのは悪いと思って、またあとにすることにした。


学校の話やサッカーの話など、他愛のない話で盛り上がる優馬くんたち。


「そういえば、最近どうなの?」

「最近?オレ、優馬になにか話してたっけ?」

「気になるコがいるって、前に言ってたじゃん」

「ああ~、その話ね…」


優馬くんからの問いかけで、話題は恋愛の話へと変わった。


「あのコ、かわいかったんだけどな~。…振られた」

「え!そうなの?」

「ああ。だから優馬、あとでジュースおごって」

「なんだよ、それ~。まぁ仕方ないな」


友達をなぐさめる優馬くん。

そんなやさしいところは、学校の外でも変わらない。


「…で、優馬はどうなの?」

「俺…?」

「だって優馬って、すっげーモテるじゃん。同じ男としてめちゃくちゃうらやましい」

「そうかな~?俺、モテたことないけどなぁ」


その話を聞いて、あたしは思わず声をかけそうになった。

優馬くんは学校一モテてると言っても過言じゃないのに、そのことをまったく自覚していなかった。


それと同時に、どこか寂しい気持ちにもなった。


…あたし、優馬くんにいろいろとアピールしてたつもりだったんだけど。

あんまり響いてなかったのかなって。


「まぁ、優馬って抜けてるところあるからな。そこが憎めないんだよなー」


優馬くんの友達は笑っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ナイショの妖精さん

くまの広珠
児童書・童話
★あの頃のトキメキ、ここにあります★ 【アホっ子JS×ヘタレイケメン 小学生の日常とファンタジーが交錯する「胸キュン」ピュアラブストーリー】 「きみの背中には羽がある」 小六の和泉綾(いずみあや)は、幼いころに、見知らぬだれかから言われた言葉を信じている。 「あたしは妖精の子。いつか、こんな生きづらい世界から抜け出して、妖精の世界に帰るんだっ!」 ある日綾は、大っ嫌いなクラスのボス、中条葉児(なかじょうようじ)といっしょに、近所の里山で本物の妖精を目撃して――。 「きのう見たものはわすれろ。オレもわすれる。オレらはきっと、同じ夢でも見たんだ」 「いいよっ! 協力してくれないなら校内放送で『中条葉児は、ベイランドのオバケ屋敷でも怖がるビビリだ!』ってさけんでやる~っ!! 」 「う、うわぁああっ!!  待て、待て、待てぇ~っ !!」 ★ ★ ★ ★ ★ *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *砕けた文体を使用しています。肩の力を抜いてご覧ください。暇つぶしにでもなれば。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

あきたのこぐま

鷹尾(たかお)
児童書・童話
【絵本ver.制作中】 秋田県の森吉山に住むこぐまの話。 山一番の最強を探す探検をするよ!

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

処理中です...