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ある日突然告白されたら

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「しずくもいっしょに見ないっ!?」


まるで、推しのアイドルがテレビに出るからテンションが上がっている女子高生のように、高い声のトーンでお母さんがわたしを誘ってきた。


「また買ってきたの~?」


わたしは、やれやれというふうに2階の部屋から顔を覗かせる。


「そりゃ、毎月買うに決まってるじゃない!お茶淹れるから、しずくもリビングに下りてきたら?」

「はーい」


お母さんに促されるまま、1階のリビングへ。


ダイニングテーブルの上には、お母さんが今さっき買ってきたばかりのファッション誌が置いてあった。


しかしそれは、お母さんが読むような女性用の雑誌ではない。


この雑誌の名前は、『Excellentエクセロン』。

高校生から大学生あたりをターゲットにした、人気メンズファッション誌だ。


わたしの家は、お父さん、お母さん、わたしの3人家族で、そんな若者向けのメンズファッション誌を必要とする人はいない。


しかし、なぜお母さんが毎月発売日に、こうして『Excellent』を買っているのかというと――。



「ほら!今月のりっくんも、かっこよすぎじゃない!?」


お母さんは『Excellent』を手にすると、にんまりとした笑顔で雑誌の表紙をわたしに向ける。


表紙には、クールに微笑むイケメンモデル。


その微笑みは、どこか色っぽくて…。

まるで、少し年上のお兄さんという感じだ。


しかし彼は、高校生でもなければ、はたまた大学生でもない。



単独表紙を堂々と飾る彼の名前は、遠野律希とおのりつき

わたし、花岡はなおかしずくと同じ、中学2年生なのだ。


しかも、彼は…わたしの幼なじみ。

わたしは、『りっくん』と呼んでいる。



りっくんとは、昔家が近所だったということもあって、幼稚園、小学校とずっと同じだった。

それに、小学校では1年生から6年生まですべて同じクラス。


お互いのことを、よく知らないわけがない。


りっくんは、小学5年生のときに街でスカウトされて、そのままモデルの仕事をするようになった。


だけど、当時から小学生とは思えない整った顔立ちに、落ち着きのあるクールさ。


それがたちまち話題となり、りっくんは小学生ですでに、自分より年上の男性層をターゲットにした、『Excellent』の専属モデルを務めることになった。


当時は高校生かと思われていたりっくんが、実は小学生モデルだったとわかって、一時期メディアがざわついたほど。


中学生になってからは、もともと高かった身長がさらに伸びて、ますますモデル体型に磨きがかかっている。

相変わらずイケメンだし、運動神経は抜群だし、頭もよくて、まさに完璧。


お母さんは、そんなりっくんのファンの1人だ。

だから、かっこいいモデルのりっくんを見るためだけに、こうしてメンズファッション誌である『Excellent』を買うことを、毎月楽しみにしているのだ。



りっくんとは、小学校のときと同様に同じ中学に通っているけど、同じクラスになったことはない。

それに、わたしが中学に上がるときに、りっくんの家から近かったマンションから引っ越して、真逆の方向になる今の一軒家に移り住んだ。


以前こそ、幼稚園の同じ通園バスや、小学校の同じ通学路でりっくんといっしょだったけど、今はほとんど関わりがない。


学校で会えば、あいさつもするし、話すことだってある。


だけど、あまり目立たない地味なわたしと違って、りっくんはかっこいいモデルさん。

もちろん、学校でだって人気だし、女の子からはモテモテ。


…だから。

前までの幼なじみの関係が、まるで嘘だったかのように…。


なんだか雲の上にいるような…。

そんな遠い存在になってしまったような気がしていた。



『Excellent』に目を通しつつ、お菓子のクッキーを摘みながら、マグカップに入ったコーヒーを飲むお母さん。

その隣で、わたしはスマホをいじりながら紅茶を飲んでいた。


そんな休日の静かなリビングに――。


「…んぇっ!?」


お母さんの変な声が漏れる。

どこからその声が出たのかと思うほど。


「どうかしたの?」


わたしは、お母さんの顔を覗き込む。


すると、お母さんは雑誌のあるページを何度も指さした。


「見て見てっ!りっくん、好きなコがいるんだって!」


お母さんが読んでいたページに目を移す。

それは、りっくんの単独インタビューのコーナーだった。



記者:律希さんは、まだ中学2年生なんですよね?学校、楽しいですか?

律希:はい。撮影で休むこともありますが、友達にも恵まれて、毎日楽しいです。

記者:いいですねー。そういえば先程、『友達』という言葉が出てきましたが、ぶっちゃけ『恋人』はいるんですか?

律希:残念ながら、いないです(笑)

記者:そうなんですか!すごく意外!律希さんならモテるでしょ。

律希:そんなこともないですよ。

記者:それじゃあ、ズバリ…好きな人は!?

律希:…そうですねぇ。まぁ、好きな人は…います。

記者:やっぱりー!律希さんに好きになってもらえるなんて、その女の子がうらやましい!



そんな、りっくんと記者さんとのやり取りが、2ページにも渡って綴られていた。


「しずく、知ってた?」

「…ううん、知らない」


りっくんに好きな人がいるだなんて、…今初めて知った。


それに、りっくんとそんな話なんて今までしたことがなかったから、わたしが知るはずがない…。


…でも、もうわたしたちだって中学2年生なんだし、好きな人くらいいたってなにも不思議じゃないよね。



「もしかして、りっくんの好きなコって…しずくだったりしてっ!」

「…えっ!?わたし…!?」

「だって2人、ずっと仲よかったじゃないっ。引っ越してからは、いっしょにいるところあんまり見ないけど」

「わ…わたしなわけないじゃん…!りっくんと違って地味なんだしっ…」


わたしは、どこにでもいるような黒髪のセミロングヘア。

巻いたりすることもなく、たまに簡単に結んだりするくらい。


一方で、りっくんは前下がりの前髪をセンターで分けて、緩いパーマのあたった黒髪。

同じ黒髪なのに、わたしは地味で、りっくんはそのクールさに合っていてかっこいい。


しかも、どの男の子がしたって似合う髪型ではない。

高身長で、顔が小さくて、鼻が高いりっくんだからこそ似合っている。



「学校にはもっとオシャレでかわいいコ、たくさんいるから。りっくんには、そういう女の子がお似合いなんだよ」


わたしがそう言うと、食い込み気味だったお母さんがあっさりと引いた。


「それもそうね。しずくがもう少しオシャレなら、りっくんも振り向いてくれるかもしれないのに~」


お母さんも、地味なわたしがりっくんと釣り合わないことはわかっているらしい。


「学校で、りっくんの好きなコがわかったら教えてよね~。お母さんもひと目見てみたいし!」

「…はいはい。わかったらね」


苦笑いを浮かべると、わたしは紅茶を飲み干して、自分の部屋へと戻った。


それにしても、りっくんに好きなコ…か。


りっくんは幼稚園の頃からモテモテで、バレンタインのときなんて、両手に抱えきれないほどのチョコをもらっていた。

そのモテっぷりは今も健在で、小学校、中学校と、りっくんが告白されている現場を何度も見たことがあるし、周りから聞いたこともある。


「〇組の〇〇ちゃんが、昨日律希くんに告白したんだって!」


しかし、りっくんの答えは、いつも決まって『ごめんなさい』。


学校で目立つ明るいコや、女子力が高いオシャレなコ、はたまた男の子から人気のあるコに告白されたって、キッパリと断っていた。


だから、りっくんは女の子に興味がないんじゃないのだろうか。

そんなことも思っていたけど…。


断っていたのは、りっくんには好きなコがいたから。


これで、納得できた。



次の日の月曜日。


わたしが学校に登校すると、校門を過ぎた辺りで、前の方にりっくんが歩いているのが見えた。


普段なら、「りっくん!」と呼んで駆け寄っている。


しかしわたしは、その声を飲み込んだ。


『りっくんには、好きなコがいる』


そう思ったら、自然と伸ばした手を下ろしていた。


ただの幼なじみのわたしが、出しゃばるべきじゃない。


遠いところにいる存在…。


それがますます、そんなふうに思えてきた。



教室に着くと、机に座る女の子がパラパラと雑誌のページをめくっていた。

そして、その机の周りに集まる他の女の子たち。


みんなが見ているのは、昨日発売の『Excellent』。


そこに写るりっくんを見て、キャーキャーと小さく騒いでいる。


そんな様子を眺めながら、自分の席へ座ったわたしのもとへ、だれかが駆け寄ってきた。
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