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第参話 : 花開く神籤

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「ぎゃあああああっ!」
大宮の貧民街、夜明け前。サクラの悲鳴が静寂を破った。

「な!なに!?サクラ!どうしたの!?」
カエデが飛び起きる。

「どうした!?いかなる災厄が!」
ツバキも慌てて立ち上がる。

二人が駆けつけると、そこには右足を抱えながらのたうち回るサクラの姿があった。
「いたい!いたい!いたいよぉおおおおお」

「何があったの?」
カエデが心配そうに尋ねる。

「た、箪笥の角に小指をぶつけてぇ...痛い痛い!こんなに痛いならいっそ殺してぇえええええ」

サクラは引き続き泣き叫びながらのたうち回る。

ツバキはため息をつく。
「まったく、何事かと思えば...」

カエデが布団に戻る。
「さぁ寝よ寝よ二度寝最高ーッ!」

「あんたたち!これがどれだけ痛いか分からないでしょ!」
サクラは顔を真っ赤にして怒鳴る。

その瞬間、サクラの体が淡く光り始めた。

「え...?」

光は徐々に強くなり、サクラの体を包み込む。

「さ、サクラ!?」
カエデが驚いて後ずさる。

「こ、これは...いったい...?」
ツバキの目が見開かれる。

光が収まると、サクラはゆっくりと立ち上がった。

「あれ?力が溢れてくる?な、なに...この力は...?」
サクラは自分の手を見つめ、片手で箪笥を掴んだ。
次の瞬間、軽々と箪笥を持ち上げ、片手で回し始めた。

「う!うわっ!」
三人は驚いて飛び退く。

「こ、これが...神籤...?」
サクラは自分の手を不思議そうに見つめる。

カエデが転げ回りながら笑う。
「妖怪に引っ掻かれても覚醒しなかったのに箪笥の角に小指をぶつけて覚醒www」

ツバキも珍しく感心した様子。
「サクラらしいと言えばそうなるなw そ、それにしても怪力の神籤か...これは凄いぞ...」

サクラは徐々に状況を理解し始め、にやりと笑う。
「おお...ふふふ...くくく...クックック...ぐふっぐふっぐふっ!」

「「サクラ!ダメよ?もっと女の子らしく笑おう?」」
カエデとツバキが心配する。

突如、サクラが拳を突き上げる。
「よっしゃあ!これなら『深淵の迷宮』で通用するでしょー!」

「サクラ!その前にその力をちゃんと制御できるの?」
カエデが心配そうに尋ねる。

「大丈夫だって!ほら、見ててよ?」
サクラは意気揚々と、カエデの背中に軽く手を伸ばした。

「よいしょー!」
ぽん!という軽い音と共に、カエデが吹っ飛ぶ。

「きゃあああああっ!」
カエデの悲鳴が響き渡る。部屋の反対側の壁に激突した。

「カエデ!」
サクラとツバキが驚いて叫ぶ。

「い、いたた...」
カエデがよろよろと立ち上がるが、その瞬間。

ガンッ!

カエデは箪笥の角に右足の小指を強打した。

「ぎゃあああああああああ!痛い痛い!こんなに痛いならいっそ殺してぇえええええ」

カエデがのたうち回りながら叫んだその瞬間、その体が青白い光に包まれた。
光はカエデの右手に吸い込まれるように消えていく。

光が消えると、カエデは縁側の外の石の一つが光ってるのが見えた。
「ん。あれ..?なんか...」

カエデは縁側から外に出ると不思議そうに石を見つめ、反射的に投げた。
石は部屋を飛び回り、的確にサクラの頭を直撃した。

「いてっ!」
サクラが頭を抑える。

「ごめん!ごめん!...あれー?」
カエデが慌てて謝る。
「でも...なんだかね。石がすごく投げやすかったの」

ツバキが目を見開いて言う。
「まさか...カエデの神籤も覚醒したのか?」

サクラは頭を撫でながら言う。
「うん?もしかして?物を投げる能力じゃない?」

カエデは別の石を拾い、投げてみる。
「あ、これはダメだ。」
投げると同時にカエデは呟く。
石はサクラの頭を超えて壁にぶつかった。

「さっきみたいにいかないな...なんだろ...」
「うーん?」
カエデとサクラが首をかしげた。

ツバキが石を観察する。
「ふむ...これを投げてみてくれ」
ツバキが良い形の石をカエデに渡す。

「あ、これは行けるよ!いっくよー?」
石は部屋を飛び回り、的確にサクラの頭を直撃した。

「あたっ!」
サクラが頭を抑える。

ツバキが考え込む。
「どうやら...」

サクラが口を挟む。
「良い形の石に限るってこと?」

「そうかもしれないな」
ツバキが頷く。
「もう少し試してみる必要がありそうだ」

カエデは少し困惑しながらも笑う。
「えへへ...なんだか難しそう」

サクラが突然、ツバキに向かって歩き出す。
「よし!次はツバキだ!」

「な...なに!?」
ツバキが驚いて後ずさる。

「ダメよ逃げちゃ!ツバキの神籤も覚醒させないと!」
サクラがニヤニヤと笑いながら近づく。

「や、やめろ!サクラ!我は自然に覚醒を待つ...うわっ!」

ガンッ!

ツバキは必死に逃げ回るが、箪笥の角に右足の小指を強打した。

「ぎゃあああああああああ!痛い痛い!こんなに痛いならいっそ殺してぇえええええ」

ツバキがのたうち回りながら叫んだその瞬間、その体が青白い光に包まれる。
光はツバキの左目に吸い込まれるように消えていく。

「こ、これは...」
光が消えると、ツバキの左目が不思議な模様を描いていた。

「おお...我が左目に宿りし漆黒の力よ...目覚めたのか。こ...こんなことで...?」

サクラとカエデは驚きの表情でツバキの左目を見つめる。

「ねえ、ツバキ?その目...なんか模様が…大丈夫?ちゃんと見えてるの?」
カエデが心配そうに尋ねる。

ツバキはゆっくりと立ち上がり、左目を凝らす。
「ふむ...なんだこれは...左目の視力がやたら良いな...」

「視力!?」
サクラとカエデが息を呑む。

その時突然、ツバキの左目から青白いビームが飛び出した。
ビームは細く、レーザーのように鋭く、「シュイーン」という音と共に壁に穴を開けた。

「う!うわっ!」
三人は驚いて飛び退く。

「な、何だこれ...」
ツバキは自分の左目を押さえる。

サクラが爆笑する。
「ぷっ!あはははははは!ツバキ、あんたの神籤は目からビームじゃない?www」

カエデも笑いを堪えきれない。
「ご、ごめんね、ツバキ...でも、これは笑うwww」

ツバキは顔を真っ赤にして怒る。
「笑うな!我が左目に宿りし漆黒の力は、本当に特別なのだ...うわっ!」

再びビームが飛び出し、今度は天井に穴を開けた。

「「「 ...ッ!!! 」」」
三人は顔を見合わせ、笑い出した。

笑いが収まると、サクラが真剣な表情で言う。
「三人の共通点...それは箪笥の角に小指をぶつけて『死を覚悟した』...なるほど。死への覚悟が神籤覚醒の鍵なのね!」

「「おい!恥ずかしいから今日のことは誰にも言うなよ!」」
カエデとツバキが口を揃えた。

「なるほど。だから神籤覚醒の詳細については誰も教えてくれなかったんだね。」
サクラは腕を組み頷く。

「「どうしよう...今日のこと知られたらもうお嫁に行けない...」」
カエデとツバキが真っ赤にした顔を抑える。

「ま、まぁいいわ!さて、これからどうする?」
カエデが尋ねる。

ツバキが咳払いをする。
「まずは、我らの能力の制御法を学ばねばなるまい」

サクラは目を輝かせる。
「そうだね!でも、それと同時に深淵の迷宮の情報も集めないと」

三人は頷き合い、能力の練習と情報収集を始めることにした。

数時間後、サクラは腰に手を当て『氷川神社』の方角を指差した。
「よし!これで私たち全員の神籤が覚醒したぞ。次は...」

「『深淵の迷宮』だね!」
カエデが石を手に取りながら言う。

ツバキも頷く。
「うむ。我らの真の冒険が、今始まるのだ」

サクラは拳を突き上げる。
「行くわよ!我等『芸者少女隊 (げいしゃがーるず)』準備は良いか!」

「いや!『百花繚乱』!いい加減覚えろ!」
ツバキがツッコミを入れる。

「ふふふ!蔵人様のやつめ!見てろよ!」
サクラの頬が少し赤くなる。

「様付けwww」
カエデが笑い転げる。
カエデは (だいぶ捻くれた) 恋をするサクラが嬉しかった。

そして三人は手を取り合って叫んだ。

「天麩羅ーぁ?」
「お寿司ーぃ!」
「すき焼きぃーッ!!!」

深淵の迷宮が、絶望の暗闇が、彼女たちを待っている。

(つづく)
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