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アルヴァス王子の世直し放浪記

少年と王子の昔話

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グランスから出発して自由気ままな旅を続けるアルヴァスとクロエ。

晴れ渡る空を駆け抜ける一匹の鷹が、アルヴァス目掛けて勢い良く飛んできた。

「危ない王子!!」

クロエが叫ぶとアルヴァスは穏やかな表情でゆっくりと右腕を掲げた。

「落ち着くのだクロエ。彼はアルヴィンの従者、ティグリスだ。」

アルヴァスがそう言うとティグリスは彼の腕にしっかりと止まった。

「久しぶりだな、元気にしていたか?」

アルヴァスの腕にとまったティグリスは、彼に挨拶するかの様に大きく翼を広げていななく。
満足そうにアルヴァスは頷くと、ティグリスは自分の首に巻き付けられたものを示すかの様にアルヴァスに見せた。

「ふむ、ティグリスよ実に大義であった。戻ったらアルヴィンによろしく頼むぞ。」

アルヴァスはティグリスから括り付けられた物を受け取ると、彼に餌をやり、再び何かを括り付けると勢い良く空へと投げた。ティグリスはそのまま加速し物凄い速度で蒼空を駆け、グランス王国王城の方へと飛んでいった。

アルヴァスはティグリスから受け取ったものを開き、すぐに中を確認した。中には手紙が入っていて、手紙の主はどうやらアルヴィンの様であった。

─拝啓、義兄上。旅は順調でございますか?
この度の手紙は、先のヴァンドの問題やその後の調べについての報告と、義兄上の旅用の戸籍と身分証明を新しく作った事をお知らせする為のものです。

義兄上の旅用の名をアル・ヴァース、職業をヴァース商会代表取締役と定めました。

今後、初対面の者に対して名乗る時は商人として振る舞ってください。また、ヴァース商会はグランス国家公認の商会になるので後日グランス国内にヴァース商会の屋敷を建設する予定です。

また取り調べを行ったところ今回の件に関してグルマンは何も知らず、ヴァンドは口を固く閉ざしたままでした。

またグルマンは本人の人柄と縁戚であるヴァンドの頼みを断る事が出来ず協力させられたと言う事実があった為、ヴァース商会に協力させる形で今回の罪を不問に処すと言う判断に至りました。

グランスに戻った際には是非ヴァース商会はの屋敷へと足をお運びください。

義兄上の旅路に幸運在らん事を。

─アルヴィン・デュオレウス・グランス。

アルヴァスは手紙を丁寧に折り畳むと懐に仕舞い込んだ。

「アルヴィンめ、粋な事を。」

クロエは喜んでいる様な顔をしたアルヴァスの顔を覗き込む様に見た。

「王子、何が良いことでもあったのですか?」

「うむ。クロエよ、余は今日から商人となった。」

うんうんと頷くアルヴァスにクロエは首を傾げる。

「王子が商人って…一体何を売るんです?」

「それは色々だ、余の趣味と実益を兼ねるならば、人々の生活を脅かす魔物を討伐し、そこから獲れる素材にしよう。困っている人々も助けられて一石二鳥以上のだとは思わぬか?」

「え?あ、はい。そうですね」

アルヴァスの目は、まるで純真無垢な子供の様にキラキラと輝いている様にクロエには見えた。

「今日から余も商人の端くれ、さて、旅のついでに取引する品でも集めるか」

「…今からですか…?」

「当然だ。道中魔物でも狩りながらルーデルを目指すぞ。」

満面の笑顔で話すアルヴァスの表情を見て、クロエの脳裏に酷く嫌な予測が浮かんでいた。



少年は森の中を全力で走る、心臓の鼓動は加速し、両脚に痛みが走るが、ここで立ち止まってしまえば彼の未来は無い。

木々を掻き分け森を駆け抜ける、すぐ背後からは轟音を立てて、生える木々を強引に容易く薙ぎ倒しながら、大きな猪の様な魔物が彼の方へと向かってやってくる。

そいつは、酷く興奮していて、息を荒げていた。
何故こんなことになってしまったかと言うと、彼は彼の主人であるエルディラ国王リューゼスのお使いで、貴重な薬草や香草を収集していたのだが、誤って魔物の生息領域に踏み込んでしまったらしいのだ。

本来、森の中に入るのであれば、護衛の騎士を何人か連れて来るものだが、彼が薬草摘みに慣れていたのと、魔物の住処も大体全て把握していた為。午後にはエルディラに戻ってティータイムの予定していたのだが、予想だにしなかった状況によって結果的に今の彼がある。

自分の油断と不幸を呪いながら全力で走り続けた。

「はあっ…!はあっ…!もう、しつこいなッ!!」

彼の体力も限界に近い、長い距離をずっと全力疾走していたからだ。

身体の所々、特に脚は悲鳴をあげていた。
しかし、魔物に追い付かれたら間違いなく彼の生命は無い、何とかして街に着き、安全な場所に転がり込めれば良いが…と彼は思っていた。

魔物が段々と彼との距離を詰め始めた。
魔物の体力は無尽蔵の様にも思えた。
ふとした油断から、彼はその場に転んでしまった。

「うあっ!?しまったッ!!」

彼は不幸にも行く道に這う木の根に脚をひっかけてしまった、それを知らしめるかの様に、無情にも砂埃が宙に巻き上がる。

「いててっ…うっ…アイツ、もう近くまで来てるのか…」

大きな音は、彼のすぐ側まで迫っていた、魔物との距離が徐々に詰められているのが理解出来た。
それは絶望へのカウントダウンか、それとも肉体と言う器からの解放の為の待機時間だろうか、彼の方へと大きな音が徐々に近付いてくる。

「く…逃げなきゃ…」

疲労困憊のだるい身体、それに合わせて痛む身体を無理矢理と立ち上がらせた、近付いてくる恐怖からゆっくりと逃げる。

怪我した脚では、もう走る事もままならなかったが彼は諦める事なく先を目指す。
その行為は、側から見れば無様で、滑稽に映るかもしれない。それでも彼は諦めはしなかった。

腰に取り付けたポーチには、エルテナ姫から頼まれた薬草や香草が入っている。
せめてこれだけでも守らなくては。と彼はポーチを庇いながら森を進む。

「うう…ここまで…かな…」

ついに魔物に遂に追いつかれた、彼よりも何倍も大きい体躯。

全身を満遍なく覆う茶黒い体毛、太く鋭くとんがった巨大な牙、獲物を睨む鋭い眼、潰れた丸いパンの様な不細工な鼻で、獲物を探る様に小刻みにヒクつかせる、鼻水滴る鼻腔。

そのすぐ下の無骨な牙が生え揃った口からは、蒸気の様に吐息を吐き出す。
唾液を垂らす魔物は最早、彼をエサとしか見ていない。

「…リューゼス陛下、エルテナ姫様…リンドはここまでです。最後の挨拶も出来ずに、申し訳ありません」

彼は主人の使いを果たせず、志半ばでここで散る事を悔い嘆く。
自然と頬に涙が伝い、その脳裏には、短いながらも主人達と過ごした思い出が、まるで映画のスクリーンフィルムの様に、鮮明に輝く様に美化され映し出されていく。

辛い時もあったが楽しい日々だった、願わくば孤児である自分を拾ってくれた、主人達に一言でも御礼を伝えられればと
彼がそう残念に思っていた。

その時である。

「…諦めるなッ!!」

遠くから男性の力強く威厳の籠った声を、彼の耳は確かに拾い上げた。それは何処かで聴き覚えのある声だった。

─余の敵を射抜け!!闘気砲ッ!!

轟音を轟かせながら一筋の光が鮮烈に走った。

気高く力強い闘気の輝き、大気を切り裂き、煌めく一閃、一筋の閃光が魔物を貫き弾き飛ばす。

闘気の閃光に弾き飛ばされた魔物は、苦悶の呻き声を上げながら、木々をへし折り数回転がってゆく。

闘気の強力な衝撃に貫かれ、その場に崩れた魔物は、そのまま動かなくなった。
何が起こったのか彼はよくわからなかったが、どうやら助かった事を理解すると自然と涙が溢れ出ていた。

「…無事か?リンド。」

「…そ、その声は…もしかして…アルヴァス王子…?ああ、お久しぶりでございます!」

「うむ、無事で何よりだ。」

僕は久しぶりに王子と会えた事を喜び、生き延びる事が出来たこともあって、勢い余って瞳からは涙がこぼれてしまいました。

「助けていただき、本当にありがとうございました!もしよろしければ、この後お礼をッ!!」

「それも良いが、今暫くの間、待ってはくれないか?余の従者が辿り着いていない、それに…。」

アルヴァスは魔物の方へと振り向き、横たわるその大きな体躯を見据えていた。

「さて、この魔物。このまま捨て置くわけにもいかぬな…」

アルヴァスは木々の近くへと移動してしゃがみ込み、地面を掌で触れた。

「…破ッ!!」

気合を込めた一撃が地面を砕き、大地を抉り取る。
アルヴァスのすぐ足元には人一人が、悠々に入るぐらいの穴がぽっかりと空いていた。

「えっ!?何やってるんですか王子!?」

「まあ、見ているといい、余がこの魔物を綺麗に解体してご覧に入れよう。」

するとアルヴァスは魔物を先程、彼が開けた穴の近くまで引きずり持っていく。

「では始めよう」

アルヴァスが手刀を勢い良く魔物の身体へと
一気に打ち込むと、その手刀はまるで、途轍もなく鋭利な金属で出来た刃物の様に魔物の身体を切り裂いた。まるでバターでも切り分けるかの様に、猪の魔物を淡々と解体していく。

「ついでに飯の準備をしよう。リンド、其方は周辺で薪を拾ってきてくれ。」

「は、はあ…?」

一体どの様な魔法なのか技術なのか、リンドには皆目見当も付がなかった。
彼は言われた通り薪を拾いに行く。

リンドがある程度薪を集めて戻って来ると、
魔物は毛皮、角、牙、骨、肉、内臓と、綺麗に分けられていた。

「…なんて手際がいいんだ…。これがグランスの王族…」

アルヴァスはゴミとなった部位を、先程空けた穴に入れ、土で埋めると全ての作業が終わった様だ。少し大きな山ができていた。

「リンド、焚き火の準備を頼む。」

「わかりました。」

リンドが先ほど拾った薪に火をつけている間、アルヴァスは周辺の木々を伐採し椅子やテーブルなどを削り出していた。
すると何かの気配に気がついたのか、その方角を見て彼はつぶやいた。

「ふむ…ようやくクロエも来た様だな。」

アルヴァスの視線の先から、山の様な荷物を背負った人影がフラフラと歩いてくるのが見えた。リンドは驚き目を疑った。
その人影は屈強な男ではなく、リンドの目には華奢に映る女性の姿であった。

「お…王子…置いてかないで下さいよー!ただでさえ魔物の素材で、荷物がいっぱいなんですから~…。」

顔を真っ青にして、荷物を背負ったメイド姿のクロエが歩いてきた。アルヴァスは仁王立ちで微笑み、彼女を出迎える。

「其方が荷物を引き受けてくれたから、全て事が間に合った、礼を言おう。」

「それは良かったですが、私もうクタクタで…」

「エルドールならば泣き言は言わんぞ、それに良き素材がまた手に入った。」

ただでさえ青いクロエの表情が一層曇った。

「…うえ…また荷物が増えるんですか…?」

「実に良い肉も手に入った、休憩がてら一旦食事といこう」

「…あ…はい。」

クロエは顔を真っ青にしていたのに、汗を一切かく事もなく、難なく大量の荷物を下ろした事にリンドは驚いていた。
嬉々として肉を焼きはじめるアルヴァスを見て、クロエは少し呆れている様な顔をした。

「…王子…あの、こちらの彼女は…?」

「余のメイド…クロエである。」

リンドが恐る恐る尋ねると肉を焼きながらアルヴァスはそう答えた。

「え、メイドさんが…あの量の荷物を…?」

「うむ、実に優秀なメイドだろう?」

「…メイドですよね?」

「メイドだな」

クロエは唖然とするリンドに笑顔で右手を差し出した。

「クロエです、よろしくお願いします」

微笑むクロエにリンドは慌てて右手を拭うと二人は握手を交わす。

「あ、はい、よろしく…お願いします」

クロエの手には、所々剣だこが出来ていて硬い部分と、柔らかい掌の感触。
何よりも、可憐な笑顔の女性の掌に久々に触れたリンドは、胸の内がとても高鳴るのを感じていた。

「あの、王子…彼は…見たところアニマス
(動物の特徴を持つ人)みたいですが…?」

リンドには白い尻尾ととんがった耳が有った。
彼等はアニマスと呼ばれるいわゆる亜人である。
何かしら動物の特徴や特殊な外見を持った者は総称してアニマスと呼ばれている。

「リンドは特に珍しい白狼族のアニマスであり、エルディラ王族に仕える優秀な従者である。」

「改めてよろしくね、リンド」

「は、はい、よろしくお願いします、クロエ…さん。」

リンドの目の前で微笑むクロエ明るい笑顔は彼の目にとても眩しく映った。

リンドはアルヴァスのバーベキューを手伝う為に、周辺から焚き火用の枝や枯れ草、枯れ木、少し大きめの石を用意してきた。

更にどんどん用意されていく香ばしく焼けた肉を見てクロエはアルヴァスの相変わらずの手際の良さに、舌を巻き驚いていた。

それを見てリンドは不思議そうに尋ねた。

「アルヴァス王子ならば、いつもやっている事では?」

「王族のやる事じゃないでしょ…」

クロエは内心呆れ返っていた様だった。

焚き火に照らされ炙られる肉はどんどんとテーブルに積み上げられて行く。

程よく脂を滲ませた肉は、適度なサイズに切り分けられ、木の皿に添えられて、盛り付けというのは名ばかりに大量に積まれていた。

クロエとリンドの目のテーブルに置かれた肉料理の数々は、高級料理店に提供される様な、ステーキ肉よりもはるかに高価な料理に二人の目には写っていた。

「肉ばかりだが、さあ、切り分けて食え」

アルヴァスから即席の木製カラトリーと一緒に提供されたとりわけ皿。

豪快に置かれ、微かな湯気が立つ肉の出立ちと、微笑むアルヴァスの表情を見たら、リンドやクロエにはその皿を拒む事なんて出来なかった。

「い…いただきます!!」

「…僕もいただきます!!」

自分の皿に好きなだけ肉を盛ると、二人はそれぞれ丸太に腰をかけた。

「好きなだけ堪能するが良い、まだまだあるからな!」

クロエは手にした木のナイフを肉に入れると、まるで、バターでも切るかの様に軽く切り割いた。

「うそ!?こんなに柔らかいの!?」

「アルヴァス王子のお手製ナイフのお陰でもありますよ、簡単に切れますね」

「まあ、使い捨て、ではあるがな」

リンドは手際よく肉を食べやすいサイズに切り分け、その一片に木のフォークを刺し込んだ。肉とフォークの刺し込み口から滲む様にキラキラとした脂が溢れ出てきた。

リンドはごくりと生唾を飲み込んだ後、一間置いてフォークに刺した肉を、口の中へゆっくりと運ぶ。歯が肉を噛むと旨味が口の中に溢れていた。

口の中でジュワッと溶け出す肉の脂、うわっとリンドは驚いた。香ばしい風味が鼻先に抜け、程よい塩味と肉の旨みが螺旋を描く様に口の中に溢れ出していた。

後から来る香辛料の爽やかな程よい辛味が
リンドの食欲を一層加速させる。美味しい物を食べて頬が落ちるとは、この事を言うのだろうか、

「お、おいひぃれふ…」

クロエも頬を染めて泣いている様な表情でそう言いうと、アルヴァスは二人の表情を見て笑っていた。
アルヴァスの旅先で作る料理はある種、クロエの楽しみともなっていた。。

「おかわり!」

クロエが一口食べている間に、リンドの皿は瞬く間に空になっていた。

「へ?え?もう食べちゃったの?」

「はい!アルヴァス王子は料理が相変わらずお上手です!美味しすぎて何枚でも食べれちゃいます!!」

「リンドは育ち盛りだからな」

「はい!王子!」

クロエはリンドが食事をする姿を驚きながら見ていたが、その反面まるで子供の食事風景を眺める親の様な表情のアルヴァスであった。

「ご馳走様でした!」

料理を堪能し大層満足した表情で、リンドとクロエは、アルヴァスに感謝して両手を合わせていた。

アルヴァスは少し照れ臭そうに短く「うむ。」と軽く微笑む。
全員が食事を終えると先程の魔物の素材を荷物にまとめ、アルヴァスはそれを背負った。

まるで山が動いている様に見えていた。

アルヴァス達はグランス王国とエルディラ王国の丁度中間に位置する都市へと辿り着いた。

門番との手続きを問題なく終えてエルディラ王国東部の都市、ルーデルの街へ入る。

「ここはエルディラ王国の東にあり、グランス王国との国境に位置します、商いも盛んで国境沿いであれど、領主様の手腕で治安がとても良くて賑やかな都市なのです。」

リンドは自信満々にクロエに説明していた。
アルヴァスはうんうんと頷きながらリンドの説明に耳を傾けていた。

「エルディラとグランスの両国もとても良い関係の様ですね。」

クロエが楽しそうにリンドの説明を聞いていたからか、彼がとても嬉しそうな表情をしている様にアルヴァスには見えた。

「…はるか古より、グランス王族とエルディラの王族は実に友好的な関係なのだ」

「ええ、そうなのです、エルディラ王族の従者である僕もアルヴァス王子にはとても懇意にしていただけるのです。」

アルヴァスとリンドの説明に頷きながら耳を傾けるクロエ。

「ここまで国同士が長が良いのも、実に珍しいであろうな。」

「…国家間って本来であれば冒険者や貿易商人で長い手続きが必要ですが、グランスとエルディラの国家間では、両国のどちらかが発行した正式な査証であれば簡単な手順で自由に行き来ができます」

リンドはアルヴァスとクロエにエルディラ王国の家紋が入った「冒険者登録書」を見せた。
それは手のひらサイズの紙で。そこのにはリンドの顔写真の隣に『リンド・アルマーク14歳・アニマス・男性』と他に色々記載されていた。

「この二国間では簡単な手続きを踏めば
商売等も容易に行う事が出来るのですよ。それに、冒険者登録は簡単にできますよ」

二人はリンドの話にとても興味を持っていた様であった。

その後、一旦はリンドと別れアルヴァス達はルーデルに運び込んだ大量の荷物を預ける為、都市街でもそれなりの値段がする宿へと向かう。

二人がしばらくここに滞在する為の宿であった。

「旅の資金はアルヴィンが気を遣ってくれた為、ある程度長期の旅でも不自由は無い…
だが、それでも有限である、早急に改善せねば。」

「街中での野宿は嫌ですからね」

アルヴァスは旅路の中で抱え込んだ魔物の素材を、今すぐ冒険者ギルドで換金したいはずではあるが。
『リンドをエルディラへと帰す事を優先する。』とアルヴァスがリンドに気を遣っている様で、宿に荷物を預ける事となった。

宿の主人は大量の荷物を背負い込んだアルヴァスを見て、顔を青くしていたが、彼はそんな事などを気にせず、宿の一室へと荷物を全て運び込んだのだった。

「王子、クロエさん!こっちですよ!!」

アルヴァス達が宿屋での用事を終えると、リンドと再び合流した。

ルーデルの都市は活気が満ち溢れている、しかし、今日においてはそれ以上に、武装した兵士や傭兵の様な人々が多かった様にアルヴァス達には思えた。

「…ふむ、人が多いな。」

「…実はある理由で警戒体制が敷かれていまして…」

リンドが言うには、ルーデルでは盗賊だとか人攫いだとか、現在はそう言った噂が流れている為か、街中に警戒態勢が敷かれていた。

「…成る程、先程から余に熱い視線を向けるのはその為であったか?」

アルヴァスは周囲を見渡す。敵意は無い、しかし、確かに鋭い視線を感じる。

「…え…?それが理由なんですかね…?」

「わからん、だが、兵は皆…余を視る」

都市内を警備している人々はアルヴァスの一行を睨む様によく見ていた。
しかし、その視線は一行、クロエやリンドに対してではなく、アルヴァスただ一人に向けられたものであった。

…正確に言えば、アルヴァスが身に付けた深紅の外套に、目立つ様に大きく輝く糸で刺繍された、グランス王家の家紋に釘付けになっている様にも見えた。

「…あの、アルヴァス王子?…警備兵の皆さんはもしかして…その外套のグランス王家の家紋を見ているのではないでしょうか…?」

クロエの言葉にアルヴァスは首を傾げた。

「…何故だ?…余の外套に何か変なものでも付いているのか…?王家の家紋しか付いておらぬぞ?」

「…いや、だからその家紋が…」

するとルーデルの警備兵達の複数人が、アルヴァス達の行く目の前の道を塞ぐ様に集まってきた。あっという間に周囲を囲まれていた。

クロエが警備兵達をゆく手を遮る様にアルヴァスの前へと立つと、彼等を睨む。 

「…あの…私達に何か御用ですか?」

クロエは毅然とした表情でリンドとアルヴァスの前に立ち警備兵達と相対する。
そこから感じられるのは、主であるアルヴァスを護るといった決意の様なものであった。

「…真紅の外套の御仁、差し支えなければ
我々と一緒に来て頂きたいのですが…?」

警備兵の一人が丁寧に、静かに言う。

「ふむ」

それに対してアルヴァスは穏やかに微笑んだ。

「…仕方あるまい、余もここで騒ぎを起こす訳にはいかぬ。クロエ、リンド。まあ、心配するな…特に問題はない。」

「…しかし…。」

険しい顔のクロエにアルヴァスは頷くと、彼女はゆっくりと後へと引く。
了承を得たと判断した警備兵の表情は途端に穏やかになった。
その警備兵達の表情は、クロエやリンドの警戒を解かせる為の様にも思えた。

「…貴方様のご協力感謝致します。従者のお二人も是非一緒にいらして下さい。我々は貴方達に危害を加える気はありません。」

「ならば行こう。」

アルヴァス達はルーデルの警備兵に連れられるまま、彼等の後をついて行く。
彼等が辿り着いたその先にあったのは、大層豪奢な建物だった。それは、ルーデルの都市の中でも、一番立派な領主の屋敷である。

とても立派な建物でアルヴァス達は立ち尽くしていた。アルヴァスは特に微動だにしていなかったが、クロエやリンドは少し圧倒されている様であった。

「え…?ここは領主様の館では?」

リンドが驚いた様に言葉をこぼすと、警備兵の一人が微笑みながら答えた。

「ええ、ハインス様が貴方達をお待ちしております。」

「え?領主様…?」

「そうです、さあさあ、どうぞこちらへ」

警備兵達は最初から、この様にアルヴァス達を案内する事が決まっていたかの様に振る舞っている。
実に見事なまでに手早く円滑に、アルヴァス達が応接室の一室に案内されると、一行はふかふかとした心地の良いソファへと腰をかけた。

「少々お待ちください」

警備兵達は一礼して、その場を後にする。
数刻、無言の静寂の間、クロエとリンドは、少し緊張した面持ちである。その反面で、アルヴァスは腕を組み静かに目を瞑り時が来るのを待った。

クロエとリンドの目には微動だにせず、実に堂々とした出立ちに見えた。
アルヴァス達がその場で待っていると、遂に応接室の扉が音を立てて開く。

「お待たせしました、申し訳ございません。」

煌びやかな衣服を纏った。温和な表情の男性が応接室へと入ってきた。
黄金色の長い頭髪がふわりと靡いた。。
その男性はアルヴァスを一目見て、心の底から驚いている様だった。

「…まさか、本当にアルヴァス王子とは…
グランス王家の真紅の外套をその目にしたら
ここへ連れてくる様、警備の兵に伝えておいて正解でしたね。」

穏やかな表情の男性はアルヴァスに静かに一礼すると、それに応じてアルヴァスも一礼を行った。

「…久しぶりであるな、ハインス殿」

アルヴァスの目の前に立つ温和な表情の彼こそがハインス・ルーデル卿、この都市…ルーデルの領主である。

「門を守備する兵の話を聞いた時は、半信半疑ではありましたが…本当にルーデルにいらしていたとは。」

「うむ、リンドを送り届ける為にな」

「左様でございますか。」

リンドはハインスに会釈をすると、彼は爽やかに微笑んだ。

「…王子。ここ最近、エルディラ国内では国家公認の文官や上流階級の要人、そして王族とその関係者が襲撃や誘拐騒動を受けると言う被害が頻発しているのです。」

ハインスの話を耳にして、アルヴァスの片眉がピクリと動いた。状況はあまり良いものではないらしい。

「被害の程は?」

「…襲撃は幸いな事にまだ大事に至っておりません。しかし、誘拐に関してはここ最近にルーデルの都市でも確認出来ました。」

アルヴァスは目を瞑り、少し考えていた。

「…ここから先の話…すまぬがクロエとリンドは少し席を外してもらえるか?二人で何処かの店で時間を潰していてくれ」

アルヴァスはハインスへ視線を送ると、彼は頷いた。

「…それならば良い店があります、兵に案内させましょう、こちらからもお願いしたいので費用は我々の方で負担しましょう」

「それはとても助かる」

警備をしていた兵士の耳元で、ハインス卿が何かを呟く二人の兵は笑顔で頷きました。

「では、従者のお二人、我々について来てください、ルーデルの都市でも一番のお店を紹介致しますよ」

リンドとクロエが少し不安そうにアルヴァスを見ると、彼は穏やかに微笑む。

「何も心配する事はない、良い店らしいからしっかり楽しんできてくれ」

「…王子、それでは行って参ります。」

「いってきます。」

クロエはアルヴァスに深々と頭を下げて、リンドと共にルーデルの兵について行く。
部屋にはアルヴァスとハインスの二人だけが残された。二人は周囲の気配を確認する様に警戒し、しばしの間、静寂の時間が流れていく。

「王子、誘拐の件もそうなのですが一つ気になる話を耳にしました。」

先に静寂を破ったのはハインスであった。
彼の表情は先程の温和な物とは違いとても険しい。

「気になる話?」

唯ならぬハインスの表情にアルヴァスにもかすかに緊張が走る。

「騎士団が捕らえた賊から聞き出した情報です。ルーデルに入った賊たちは誘拐した者達を…何やら神の宝玉とやらの儀式の生贄にするそうです。」

「神の宝玉…」

かつて聴いた事のある言葉を前にして、アルヴァスの脳裏には嫌な予感が浮かんだ。

「それともう一つ、西から来た者が攫われた孤児を取り戻す為にルーデル周辺を調べています。念の為でさが、王子にお伝えしておきます。」

ハインスの言葉にアルヴァスは頷く。

「うむ、何事も些細な情報がキッカケになるなるかもしれぬ。ハインス殿、情報感謝する。」

微笑むアルヴァスは、ふと思いついたようにハインスに尋ねた。

「ああ、そう言えばリンドの件だが…。」

「その事に付きましてはこちらに全てお任せ下さい。我々が責任を持ってエルディラまでお送り致します。」

「よろしく頼む。」

アルヴァスはハインスに深く頭を下げる
気にしていた肩の荷が降りた事で一安心といったところだ。ハインスに任せておけば安全な旅路でエルディラへと帰れる事だろう。と
アルヴァスはほっと胸を撫で下ろしていた。



同時刻、ルーデルの護衛兵士に連れられたクロエとリンドは、彼等がお勧めしてくれた食堂の野外座席にて。お茶を嗜みながらそれぞれが仕える、主人の事を話し談笑している。

「クロエさんは、アルヴァス王子に仕えて
まだ間もないんですね」

「ええ、だからリンドの話がとても面白くって、さっき聞いた、アルヴァス王子に毛刈りされてしまった話とか」

「…あれは私にとって、だいぶとてもトラウマなんですよ…」

後頭部をさすりながら苦笑いのリンド、笑いながらそう話す彼の姿が、アルヴァスとの友好である事を思わせた。

楽しそうに談笑する二人に話しかける、詩人風の外装をした男が一人。

「あなた達はもしかしてグランスの王子の事を話しているのですか?」

クロエとリンドは少々驚いた。
目の前の男は、帽子を深く被り視線こそ伺えないが、声色から一見穏やかな表情に見える。しかし、どこか不思議な雰囲気を漂わせる詩人だった。

「ここで巡り会えたのも何かの縁。私が知る王子の話、是非聞いていただけますか?もちろんお題は要りません。ただお二人に聞いていただきたいだけなのです。」

二人は、まあ話を聞くだけなら、と静かに頷いた。詩人は喜んでいるようである。

「─それでは始めましょう、グランスとエルディラの王家で起こった愛と悲劇の話を。」

詩人は楽器を携えることも無く、ただその言葉のみで雄弁に物語を紡ぎ出す。

─約十年前の事。

エルディラ王国から二人の姫がグランス王国へ向かう途中森の中で、とても荒々しい大型の魔物に一行は襲われた。

魔物の原始的な力の前に、容易く馬車は横転し、二人の姫を守る為に、仕える守護騎士や従者達は、大なり小なりの怪我を負っていた。

痛みに呻き声を上げる者、そのままその場で気絶した者、少ないとは言えない被害に二人の姫は顔を青ざめさせた。

妹姫は足を捻ったのか、その場からは立ち上がれず、逃げる事もままならない。
妹姫の異変に気付き、魔物から庇う様に身を盾にする。

これから向かう先にて、披露するはずだった、二人の姫が身に纏う煌びやかなドレスは、泥を纏い土埃で酷く汚れていた。

その光景はもはや絶体絶命、互いにかばいあう様に抱き合いながら二人の姫はソレを見据える。

じわじわと躙り寄る恐怖の存在。

己が本能と欲望のみで活動する、粗野にて純粋である暴力的な存在。
魔物の目の前の姫達は、他の獲物と何一つ変わらない。
魔物にとってはこれ一切の脅威がない、ただの無力な餌。
彼女達の方へとゆっくりと、そして時々周囲を警戒し、気にしながら徐々に、徐々に躙り寄る。

(…何とも、惨めな最後ですね…)

姉姫は己の最後をうんざりしながら悟る。
恐怖に震える妹姫を自身の腕の中に強く抱きながら、自分だけは、と毅然な態度で臨む。

如何に高貴なる存在と言えど、如何に能力を持った人間と言えど、自身を遥かに超える至極単純な力の前には、所詮は無力な存在なのだと。
全てに絶望し、全てを諦めかけた姫達の目の前で鋭い眼を見開き、蒸気を登らせながら息を、荒げる魔物が遂に眼前に立つ。

目をゆっくり瞑る、願わくば一撃の元、二人とも苦しまずに天に召されたいと。

何の辱めを受けず、息絶えたい。
心からその様に思って姉姫は目を瞑る。
姉姫の唯一の心残りといえば、実の兄であるエルディラの若き国王、リューゼス王に最後の言葉を伝えられない事だ。
せめて辞世の句ぐらいは残せたら、その様に思った。

そして、魔物が姫達に襲い飛びかかる、その巨大な体躯を構えた、正に、その時だった。

輝く一筋の閃光が轟音を唸らせて走った。
閃光が魔物の頭部を勢い良く貫くと、その場で魔物は音も無く活動を止めた。

先程までの荒い吐息はもう聞こえてこない。

周囲に轟音を撒き散らし、鳥達は驚きバサバサと羽音を鳴らしながら、木々を揺らして飛び立った数刻後。
森には元々の静寂が戻って来たのでした。

「…迎えが遅くなってすまない。二人に怪我は無いか?」

声の聞こえた先には、姉姫よりも少し背が高いぐらいの人影があった。

後光を背負うその陰影は、二人の瞳にとても神々しく映る。

最も容易く豪快に、大型の魔物を討ち倒した少年、妹姫よりは姉姫と同じ歳ぐらいに思えた。

しかし、まだあどけなさの残る少年は白銀の髪を靡かせる。
キラキラとした黄金の瞳は、まるで威厳や自信が溢れ出ているかと表す様に輝いていた。
彼のその姿は優雅にて、とても美く、白金の鎧を身に纏い、その背には真紅の外套を靡かせていた。
外套にはグランス王家の家紋が刺繍され、それが陽光に触れると眩く煌めく。

とても勇ましい姿であった。

その姿こそ、まるで、昔、姫達が読んだ童話の絵本の中で活躍する英雄を彷彿とさせていた。
今、二人の姫の瞳の中に彼の姿が焼き付く。

「…は、はい…お陰様で、私達に大きな怪我はありません、私たちの命を助けて下さり、ありがとうござました。」

姉姫と少年のやりとりを妹姫は黙って見ていた。少年は二人の状況を観察し、無事である事を確認すると優しく微笑んだ。

「二人とも、本当に生命に別状はない様だな。従者の皆も怪我こそしているが、余の騎士達が今処置をしている。緊急の報告がない事を見ると、恐らく問題ないだろう。
従者の皆も命に別状はない様だ。余の国の騎士団が護衛として救援に来る、それ迄しばし待たれよ。」

彼は姫達に再度優しく微笑むと、二人を包む様に真紅の外套を纏わせた。

「…そちらの方はまだ震えている様だな、大丈夫か?」

そして、彼は妹姫の頭を撫でた。
すると自然と妹姫の身体の震えが止まった。
彼の外套を思いの外、暖かく感じた。

「…はい…大丈夫…です」

妹姫は小さく答えた。

「ふむ、そうか。では二人とも立ち上がれるか?」

姉姫が妹姫に視線を向けると妹姫はふるふると首を横に振った。

「私は立てますが、妹は足を挫いていて立つ事は無理な様です。」

「では、余が手をかそう」

彼は妹姫に右の手を差し出して微笑む。
妹姫は恐る恐る彼の手を取ると、その手はかなりの修練を積んでいるのだろうか、まるで、海岸や森で触った事のあるゴツゴツとした岩場の様に感じられた、鍛え上げられた太く逞しい腕が妹姫を優しく引き寄せる。

掌の凹凸。妹姫が鍛え上げられたその手を取った瞬間、彼女の口から自然と言葉が溢れた。

彼女が口から出てしまった言葉は、妹姫自身も驚いた事に、感謝の言葉ではなかった。

「…あ、あ、貴方様のお名前は…?」

妹姫の顔面がとても熱くなっていた。
額や全身から汗が滲み出る様に熱い。

恩人に対して何とも下品である、と妹姫自身の行為と不甲斐無さを恥じたものだろうか、言った直後に顔を伏せていた。
姉姫もその光景に少し苦笑いを浮かべていたが、妹姫の問いに少年は満面の笑顔で答えた。

「…余の名はアルヴァス、…アルヴァス・
ヴェルレウス・グランス、グランス王国の
第一王子だ…今後共よろしくな、小さき其方はリリア姫だな。」

「…はい…アルヴァス…様…」

アルヴァスは姉姫へと視線を向けた。

「窮地に対しても毅然たる其方は、エルテナ姫だな。二人とも災難だったな。」

「アルヴァス様、再度お礼を申し上げます。本当にありがとうございました。」

「気にするな、二人ともエルディラからよくぞ参った。グランスの皆で歓迎しよう。」

その後、三人は救援に来たグランスの騎士団により、グランス王城へと向かうのであった。

偶然にも二人の姫が、今向かわんとしているグランス王国の王子に、その生命を助けられた。

二人の姫の瞳の奥に強く焼き付いた彼の力強き姿。
それはまるで一枚の絵画の様に鮮明に脳裏に刻み込まれた情景。

目を瞑っていてもすぐに思い出せる思い出
二人の姫の心の臓を射止め、姫が生涯で唯一
心から愛した無二の男性…それが、グランス王国のアルヴァス王子であった。

しかし、これがアルヴァスにとって悲劇の始まりである事は、この時はまだ誰も知る事は無かった。



穏やかな春の日差しの中で、アルヴァスはエルディラ王国から遊びに来たエルテナとリリアとの三人で、良くグランス城内の中庭で日向ぼっこをしていた。

今回はエルディラ騎士団護衛の元宰相のファセルダと共にグランス王国に訪れていた。
今回は何日か長めの滞在をする様であった。

エルテナとリリアがグランスに滞在している間、三人はよく遊んだ。
時には野庭を走り駆け回り
時にはボードゲームに興じたり
時には一緒に料理をしてみたり
時には川へ渓流釣りに
時には山でキャンプをしたり
王族であるにも関わらず、家臣や騎士たちの背筋を凍らせる様な少し危険な事でさえ、彼等にはただの遊びであった。

春の日差しは程よく暖かく、エルテナの見守る中で、アルヴァスに腕枕をしてもらいながらお昼寝をするのが、グランス王城へ遊びに来たリリアの日課になっていた。

アルヴァスに魔物から助けられたあの日から、リリアは彼の事を心の底より慕う様になっていてそれに伴い、実の兄であるリューゼルよりも兄の様に懐いていた。エルテナにとってもそれはまた微笑ましい光景であった。

「エル姉様、アル兄様、暖かくて、気持ち良いですね」

「そうね、このまま寝ちゃいそうね」

「ああ、そうだな」

三人はそれぞれが大の字になってふかふかな芝生のカーペットに寝転んでいた。
衣服やドレスが汚れてもそれを気にすることもなく、家臣から見ればはしたなくもあったが、その尊い時間こそが彼等にとって、唯一無二の掛け替えのない時間であった事は間違いない。
清々しい程の空を見上げながらリリアは尋ねた。

「ねえ、エル姉様、アル兄様」

「何ですか?リリア?」

「どうした?リリィ」

リリアは芝生から起き上がり微笑みながら二人の見つめて言う。

「こんなにいい天気だから、リリアはピクニックに行きたいです!」

「ええ、そうね、いきましょうか」

「ああ、悪くない、直ぐに準備しよう。」

彼等は護衛も付けず、その後、静かに城を抜け出した。
清々しい風が吹き抜け彼等のの髪を靡かせた。
手持ちの荷物は軽めにして、まるで散歩を楽しむかの様に彼等は歩く。

何気ない会話、すれ違う風景、そして、互いに溢れる笑顔、その全てが煌めいて見えていた。

「エル姉様!リリアの方が早いですよー!」

「リリア!余り急ぐと転びますよ!!」

「二人とも余を置いてかないでくれよ」

歩く道は山岳地帯に近い、渓谷の崖に差し当たった所だ。
行く道の所々に咲いた野花が風に吹かれて揺れている。。
リリアは軽快なステップで道を探す様に歩き、エルテナはそれを追いかける。
二人はアルヴァスの先を行きました。

「ほらー、アル兄様も早くー」

「そんなに急いで二人とも転ばないようにな」

アルヴァスは心配そうにそう言いったが
リリアとエルテナの楽しそうな笑顔を見ていて、内心はとても嬉しく思っていた。

「ふふ、リリアは運動音痴でも、これぐらい、大丈夫ですよ!」

「リリア、気を付けないと本当に転びますよ!」

リリアはまるでダンスを踊る様にクルクルと優雅に回ると、それをエルテナが苦笑いで嗜めていた。

するとその時だった、何処からともなく
カラカラと、小石が落ちる音がしました
アルヴァスは叫ぶ。

「エルッ!!リリィッ!!伏せろッッ!!」

がらがらと大きな音を立てて岩石が崩れ落ちてきた。

「え…?」

「リリア!!危ない!!」

彼女達の目前に既に大きな岩石が迫っていた。
逃げる時間はもはやなく。
二人はその場で動けず、リリアのその身を守り庇う様に抱き締めるエルテナ。二人は強く目を瞑る。

アルヴァスは彼女達の元へと全ての力を振り絞って向かう。

「間に合えぇッ!!」

アルヴァスの叫びが聞こえた直ぐ後にエルテナとリリアの耳には痛々しく鈍い音が響いた。
エルテナは何かに包まれた様な感覚を感じこれが死ぬと言うことなのかと、その時はその様に思った。

しかし、彼女の身体には特に痛みはなく、自分の腕の中に居るリリアも震えながらも健在であった。
彼女は恐る恐る目を開く。
すると彼女の目には、エルテナ達をを庇う様にして、岩石からの身を挺して盾となった全身血塗れのアルヴァスが居た。

「あ…?…アル…?…どう、して…?」

彼はエルテナ達に襲いかかる岩石を
背中で受け止めて、文字通り彼女達を守った。
アルヴァスの血で汚れた砕けた岩石が
周囲には散らばっていた。

「…エル…リリィ…二人とも…無事…か?」

「はい…!…リリアも私も無事です。ですが、アルが…アルの身体が……ッ!!」

「…そうか…ならば、よかっ…た…」

彼女達の無事を確認したアルヴァスは
安心した表情でその場で崩れ落ち、横になって倒れた。

「アル!?アル!!いやあぁぁッ!!!誰か!!誰かぁッ!!」

「兄様!!アル兄様ッ!!」

エルテナとリリアは泣き叫ぶ。
アルヴァスの背からは止めどなく
彼の血が流れ出していました。
彼女の叫びに応える者は誰もいません

「アル…どうか目を開けて…。この様なお別れのしかた…私は…私は嫌です…アルヴァス…」

「アル兄様…しんじゃやだよぅ」

エルテナとリリアが祈りを込めると、彼女達の掌が淡く光出した。
暖かな癒しの光、その光がアルヴァスの全身を包み込むと、彼から止めどなく流れ出していた血流はぴたりと止まった。

この時の無意識の内に、彼女達は自身の中に眠る強大な潜在魔力を放出し、強力な癒しの魔法をアルヴァスを助ける為に使っていたのだが、この時はまだその事を知らなかった。

程なくして、遠くからエルテナとリリアを呼ぶファルセダの声が聞こえてきた。
彼は馬を走らせてエルテナ達の元に向かって来る。

「エルテナ様!!リリア様!!一体何が!!」

ファルセダはエルテナの元に到着した直ぐに続けてエルドールとマイルズも現れた。
彼等はアルヴァス達が城内に居ない事を不審に思い、騎士達を使って捜索していたのだ。

「これはなんと言うことだ!!」

「王子!姫様達も、ご無事ですか!!」

エルドールの問いにリリアは泣きながら答えた。

「アル兄様が…リリア達を守って…」

エルドールはファルセダの横を通り、血の池の中で気を失ったアルヴァスの状態を確認して行く。脈を確認し、呼吸が安定しているのをみて、彼はまだアルヴァスがしっかりと生きている事に安堵のため息を漏らした。

「二人とも、どうか落ち着いてください。アルヴァス王子は生きておられます。」

「ああ…アル…良かった…」

「アル兄様ぁッ!」

エルテナもリリアも大粒の涙をこぼし続けていた。
程なくして、グランス騎士団に運ばれた
アルヴァスは寝室にて眠り続た。

エルテナとリリアはアルヴァスの介抱を申し出ると、彼が眠る間、寝る間も惜しんでアルヴァスの介抱に勤しんでいた。

ファルセダよりエルディラに帰還する提案も一つ返事で断るとエルテナとリリアはアルヴァスの介抱へと全力を注ぐ。

「…この時より二人の姫以外が、アルヴァスの寝室へ出入りするのを、例外なく禁ずるものとする。」

エルテナとリリアの献身的な姿を逐一見ていた、フローリア王妃の一声だった。
その時から二人の姫は寝食をアルヴァスの寝室で行う事となった。

アルヴァスの身体が熱くなれば、リリアは手拭いの水を取り換え彼の額を丁寧に拭いた。

アルヴァスの身体が汚れれば、エルテナは彼の全身を、自分の身体までも文字通り全て使いアルヴァスの身体を綺麗にした。
アルヴァスの身体が冷えて冷たくなれば素肌を合わせて、アルヴァスの身体を温めた。

二人は精神を擦り削り、指先をボロボロにしながら、自分達の出来る全てを使ってアルヴァスの介抱を行ったのだった。

アルヴァスの顔の血色はエルテナとリリアの介抱の甲斐もあり、次第に良くなっていった。

そして、二人の介抱から何日が経った後
アルヴァスはゆっくりと目を覚ました。

そして、上半身を起こすと、彼の隣にはスヤスヤと寝息を立てて、全裸で眠る穏やかな寝顔のエルテナ。

自分自身も身に何も付けていない全裸であり、布団の上にはリリアがぐーぐーと寝息を立てて転がっている。

「…う…な…これは一体…?」

状況が理解出来ないアルヴァスは大いに困惑していた。身の回りにはまだ年場もない二人の少女達、一体いつの間に一線を越えたのかと。アルヴァスの頭は痛くなっていた。

「う、うーん…。」

エルテナが眠い目を擦りながら目を覚ました。
彼女も身体をゆっくりと起こすと、アルヴァスの目の前には成熟し切ってない
エルテナの透き通る様に白く輝く美しい身体があった。

「え、エル…エルテナひめ…?」

「アル…やっと…お目覚めになられたのですね!!ああ、良かったぁ!!」

産まれたままの姿で、大喜びのエルテナはアルヴァスに抱き付いた。彼女の白くきめ細かい絹の様な肌はとても柔らかくアルヴァスの心の臓を捉えていた。

リリアはとても疲れている様で、その様なやり取りがあってもまだ寝ていた。

それから…二人は落ち着きを取り戻し
身支度を整えるとリリアを起こした。

エルテナはフローリアをはじめグランスの皆に、アルヴァスが目覚めた事を伝えた。その後の事である。

「アル…背中のお怪我…本当に申し訳ございませんでした…」

「アル兄様、ケガはもういたくない…?」

俯きながら涙をこぼしてアルヴァスに謝罪をするエルテナ。心配そうにアルヴァスに尋ねるリリア。

アルヴァスは二人に微笑む。

「何、気にするな、二人とも無事で良かった。」

「ですが、お身体に大きな傷痕が残ります私達はアルの身体に一生消えない傷痕を残したのですよ?」

涙目で訴えるエルテナにアルヴァスは微笑んだ。

「…余の背中の傷痕は、其方達を余が護ったという、何よりの勲章だ。
余はこの傷痕を誇るこそすれど、哀しむ必要など何処にもないのだ。」

「…アルッ!!」

「アル兄様ッ!!」

二人がアルヴァスの胸に飛び込むと
彼は優しく彼女達を抱き抱えた。
彼女達を護れた事をアルヴァスは心底誇りに思っていた。

そして、エルテナとリリアはアルヴァスとの別れを惜しんでいたが、マイルズ率いるグランスの騎士団に送られる形で
エルディラ王国へと帰還することになった。
まだ本調子でないアルヴァスは、エルテナ達を見送る事は出来なかったがまた再会を誓い合い、約束を交わしたのだった。

アルヴァスとエルドールは二人の姫をエルディアへと送る騎士団の後ろ姿を窓から眺めていた。

「エルドール、余は心に決めたぞ。」

「はい、何をでしょうか?」

「余は今よりも強くなる。今よりも強くなって、大切な者を必ず護れる者となる」

エルドールはアルヴァスの言葉に静かに微笑んだ。

「では王子、その為にも、これからの
訓練はより厳しく致しましょう。」

「うむ、余の決意を貫き通す為には
エルドール達の協力が必要不可欠だ
よろしく頼むぞ。」

「了解しました、王子」

アルヴァスとエルドールは微笑み合った。



グランスの第二王子アルヴィン・デュオレウス・グランスは義理の兄である第一王子アルヴァス・ヴェルレウス・グランスと共にエルディラ王国へ、来賓として招かれていた。

この度アルヴィンとアルヴァスがエルディラ王国に呼ばれた理由は、アルヴァスとエルテナ姫に関係するとても良い話の為であった。

国内でも祝賀ムードとなり、エルディラの国民は大層賑やかであった。

「義兄上、ご結婚おめでとうございます。」

アルヴィンは心の底から義兄を祝福した。

「ありがとう、アルヴィン。」

アルヴァスも表情には出しはしないものの、微笑む姿を見たアルヴィンは彼がとても喜んでいる様に感じている。

今日、エルディラ王国の城内にて、グランス王国の王子であるアルヴァスと、エルディラ王国の姫であるエルテナの結婚報告を兼ねたパーティが開かれたのである。

その場には兄であるリューゼスや妹のリリアもおり、皆でアルヴァスとエルテナを祝福していたのである。

「おめでとうございますお姉様!」

「ありがとう、リリア」

微笑み合うエルテナとリリア。

「アル兄様、どうかエル姉様を幸せにしてくださいね、泣かせたらリリが許しませんよ!」

「もちろんだ、余も全力を尽くそう」

リリアの激励にアルヴァスも微笑んだ。

それから、祝宴のパーティは盛大に盛り上がり、参列した貴族やエルディラの家臣は皆、美味い食事と舌鼓を打ち、美味い酒に酔いしれていた。

アルヴァスとアルヴィンは酒が一滴も飲めなかった為、グラスの中に入っているのは実はワインでは無く、リューゼスが気を使ってワインに模した葡萄ジュースである。

「アルヴァスよ、楽しんでいるか?」

エルディラ王国リューゼス国王はアルヴァスの幼馴染でもあり、また無二の戦友でもあった。

「リューゼス、今宵は余とエルの為にとても良い宴を開いてくれてありがとう。」

「この程度、お前と愛する我が妹の為なら何度でも開いてやるさ。さて、この次は結婚式だな、グランスとエルディラ総出で良い式を挙げよう。」

盃を交わすと、アルヴァスとリューゼスは微笑み合うのであった。

皆に祝福された宴席、しかし、この後にアルヴァスの人生における、最高の宴が最大の悲劇へと変わる事を、この時はまだ誰も知るよしもなかった。

空は月も星も隠れる闇夜が支配した頃。
アルヴァスはエルテナに頼まれ、宴席の後で見当たらなくなった、リリア姫を探していた。

宴席の興奮を冷ます為だろうか、廊下で夜風に当たりながら空を見上げていたアルヴィンを見かけると、アルヴァスはリリアの所在を尋ねた。

「アルヴィン…すまぬがリリィを見かけなかったか?エルに探す様に頼まれたのだ。」

「いえ…そう言えば宴席の途中から見かけておりませんね、リリア姫はいらっしゃった様ですが…。」

「そうか、見ていないか。では余はもう少し探してみるとするか…」

その時、王城に女性の悲鳴と男性の叫び声が響き渡った。二人は声の先に視線を送ると何やら明るい。

「なんだ…?何が起きている?」

「なにやら、騒がしいですね…」

アルヴァスとアルヴィンは再び耳を澄ませた。すると今度ははっきりと悲鳴が聴こえる。

『竜だ!!竜が城を襲っているッ!!』

『助けてッ!!誰かぁッ!!』

二人は驚いた。

「アルヴィン、其方は急ぎリューゼスとエルの元へ行きリリィを探せ!!」

アルヴァスの表情に、アルヴィンは酷く悪い予感がしていた。

「義兄上…まさか…!!」

「…余は竜を止める!…アルヴィン、皆と協力しエルディラ王国の者と共にここから避難せよ!!」

そう言うとアルヴァスは単身暴れる竜の元へと、急ぎ向かって行く。

エルディラ王城の、燃える中庭の中で紅蓮の竜は猛々しく雄叫びを上げていた。

辿り着いたアルヴァスの体格を余裕で超え、その体躯は彼のおよそ五倍くらいはあった。竜は大きく翼を広げると、鋭い爪を煌めかせ、太い角を誇り、牙を剥き出し、再度雄叫びを上げると口から業火を噴き出す。その姿はまるで生きた火山の様であった。

「ふむ…。これは、些か骨が折れそうだな」

アルヴァスは暴れまわる紅蓮の竜を見て、今までに無いぐらいの強敵であると、直感した。
竜はアルヴァスを視界に入れると、その瞬間彼に向かって灼熱の火の玉を吐き出した。

「むっ!だが、この程度なら問題ない!」

アルヴァスは腕をゆっくりと回転させ、円を作ると火の玉を素手で受け流し、彼方の方へと放り投げた。
そして、隙を捉えた。

「せいッ!!」

竜の身体へと一突き、勢い良く拳を撃ち込む。
竜の身体を包む鱗はとても硬く、その巨体はびくともしない。

「うぬっ…!流石に硬いな…!!」

手応えを一切感じず、アルヴァスは竜と間合いを取った。

膠着状態の戦闘を繰り広げるアルヴァスにアルヴィンは叫び呼びかけた。

「義兄上!!大半の方は城から避難出来ましたが、リリア姫とファルセダ卿が場内で見つかりません!!」

「…なに…?」

アルヴァスは明らかに動揺していた。
アルヴィンが伝えたこの一件が、悲劇そのものであるのをアルヴァスは直後に思い知らされる事となる。

「義兄上!危ない!!」

鋭い竜の爪がアルヴァスの上半身を襲う。

「ぬうぅ!!」

服もマントも容易く引き裂かれ、ズタボロになった。しかし、アルヴァスの鍛え上げられた肉体は、何一つ傷ついていなかった。

アルヴァスに深く刻み込まれた背中の傷痕が炎に照らされる。

「…中々やるな…!…だが、その身に拳が通らぬならと言うのならば、闘気の力で撃ち抜くのみ…!」

アルヴァスは体制を整えて構えた。
竜は彼の背中の傷跡を見るや否や、ぴたりと動きを止める。そして、おとなしくなった。
竜の動きを見てアルヴァスは不思議に思う。

『…アル…にい…さ…』

竜は確かにアルヴァスの名を呟いた。

それは何処かで聞いた事のある声。
アルヴァスは眼を見開いて竜を見つめた
少し近づいて紅蓮の竜を観察、脳裏に嫌な予感がよぎり、アルヴァスは驚いた顔のまま立ち止まった。

「…この声…。バ…バカ…な…。まさか…リリィ…?其方なのか…?」

アルヴァスの頬を静かに汗が流れ落ちる。

『にい…さま…たす…たす…けて…』

どう言った原理なのか、アルヴァス達には理解出来なかった。
アルヴィンは以前、古の記録に呪いによる人が魔物へ変貌する記述を以前読んだ事があったものの、まさか、ここで目の当たりにするとは思いもよらなかった。文献で現実で起こりうる事では無かったからだ。
竜となったリリアはもがき苦しんでいる様にも見えた。

「…余は…余は…一体どうすれば…」

絶望するアルヴァス、竜の背後から男の笑い声が高らかに響き渡る。その声の主を思い出したアルヴィンはその姿に驚いた。

「あ…あれは…、まさか…ファルセダ卿…?!」

黒いローブに身を包んだエルディラ王国宰相のファルセダが、竜となったリリアの背後の空中でまるで羽毛の様にふわりと浮いていた。右手には禍々しい魔力を放つ宝珠が握られている。

「ファルセダ卿!これは一体どう言う事だ!!」

アルヴァスは叫んだ。それに対してファルセダは大きく高らかに嘲笑う。そして彼が右手の宝珠を掲げると竜は天高く雄叫びを上げた。

「この竜となったリリアを使い、グランス王国もエルディラ王国も俺が支配する!ふはは!!妹同然のリリアをお前には殺せまい!!」

「ぐっ…!本当にリリィだと言うのか…!!」

竜はアルヴァスに向かって灼熱の炎を吐き付けた。
不意を突かれたアルヴァスは動けず、炎の直撃を回避出来ないと悟り、両腕で盾にする様に守りの体制を取った。
アルヴァスが全身大火傷を覚悟した時、穏やかで優しい魔力のベールが彼を灼熱から救う。

「これは…!」

アルヴァスを包む魔力のベール、それはエルテナの放つ守りの魔法であった。
リューゼスと共にアルヴァスの元へと駆け付けた。

「アル!無事ですか!!」

「エル!リューゼス!リリィが…リリィが竜に…ッ!!」

アルヴァスはエルテナとリューゼスに訴えかける。二人もまた状況を理解していた様だった。

「アルヴァス、戦ってくれ!!リリアもそれを望んでいるッ!!」

「だが…ッ!!」

友の呼びかけにもアルヴァスは未だ、戸惑っていた。

「目を覚ませリリィッ!!」

アルヴァスは叫ぶ様にリリアに呼びかけた。
その声に反応し竜はゆっくり動きだす。

「アルッ!」

エルテナの放つ光弾が轟音を立てて、一瞬竜を止めるが、それでも動きは止まらない。

「はーっはっはっは!!無駄だ無駄だ!!我が魔法により変貌したリリアは二度と人の姿には戻れぬ!!魔力が高いだけにエーテリック・スフィアと相性がとても良かったぞ!!」

襲い掛かる竜の尾から、アルヴァスはエルテナを庇う様に受け止めた。

「…エーテリック・スフィアだと…?そんなものがリリィを竜に変貌させただと…?」

「…そんなバカな、エルディラの王家ですら伝説上の幻の宝珠だぞ!」

その場の皆が驚いた。

「何故ファルセダ卿がその様なものをリリアに…!」

エーテリック・スフィア、それは、持つ者にありとあらゆる力を与え、願いを叶えると言う巨大な魔力を秘めた伝説の宝珠。
それは、良くも悪くも持つ者によって左右される危険な代物である。

「…その手の球ころで、リリィを竜にしたと…。許さん、許さんぞファルセダッ!!」

「叫んだところでお前にはなす術あるまい!潔くリリアにおとなしく殺されろアルヴァス!!」

「…この外道が…ッ!」

「いくらでも喚いていろ!」

竜からの攻撃によるダメージこそ無いものの、エルディラ王城から燃え広がる消えない炎は次第に街へと燃え広がり、周辺民家へと燃え移っていきました。エルディラ王国の騎士達は対応に追われ、街の人々も逃げまといます。

「アル!このままでは!!」

「わかっている!わかっているが…ッ!!」

エルテナの訴えにアルヴァスの表情が歪む。
リューゼス王は騎士団に指示を出し、エルディアの民を避難させていた。

エルディアの民が悲鳴を上げて避難する声が響き渡る中で、アルヴァスはまだ迷っていた。

実の妹の様に可愛がった、楽しき日々を作ってくれた少女。

エルディラを救う為には彼女をその手にかける、今、それ以外の手段がなかった。

現時点でアルヴァスが竜を留めていてくれるから、被害が最小で済んでいる事は明らかであった。
仮に他の者が竜と戦えば、ものの数秒で灰となる事だろう。
それはエルディラの王族であるリューゼスもエルテナもまた同じ事であった。

「アル…」

エルテナはアルヴァスの隣に立って竜を見据えた。

「エル…?ここは危険だぞ」

「…あなただけに咎を背負わせる気はありません。」

エルテナはそう言ってアルヴァスの手を取り触れると、己が魔力を込めた。

「私もあなたと共にリリィの生命を断ちます。咎は私も背負います。」

アルヴァスとエルテナじっと見つめる竜は攻撃をやめて、ぴたりと止まった。

「何だ?」

とたん、穏やかな表情となった。
まるで、その光景は、アルヴァスとエルテナに微笑んでいる様に見えた。

「エル…しかし…」

リリアは意識を取り戻したのか、アルヴァス達の耳に彼女の言葉がはっきりと聞こえた。

『…アル兄様、エル姉様。どうか、これ以上、リリアに、だいすきなエルディラをこわさせないでください…』

「…リリィ…?」

竜は完全に動きを止めた。

「アル…私からもお願いします。どうか、どうか、リリアの言う通りにしてあげて」

アルヴァスとエルテナの周囲には轟音上げた闘気の波動が巻き上がった。
二人のその瞳には哀しみが宿り、頬には涙を伝わせていた。

「ならば、せめて、リリィの為に、余も全力を尽くそう…」

『…さよなら、アル兄様、エル姉様』

「せめて安らかに…リリア」

闘気の色が変わり、虹彩放ち美しく輝く力強い波動がアルヴァスとエルテナを包む。

「くそ!何故だ!一切動かぬとは!!」

リリアには、ファルセダのコントロールが届かなかった。
リリアの全力の抵抗であった。
エーテリック・スフィアに抗い、自分の意思を貫く。
それは、並大抵の精神力ではなかった。

「アル兄様…はや…く…」

「…ああ。」

アルヴァスは全力の闘気を集めた右手の拳を竜へと撃ち込んだ。
音も無く、それはとても静かな悲しい一撃だった。

全てが終わった時、竜の姿は形崩れ、リリアは人間の姿へと戻った。
彼女は力無くその場に崩れる様にアルヴァスの腕の中へと倒れ込んだ。

「すまぬ…余にはこうする…、こうする事しか、出来なかった…」

「…ごめんね、不甲斐ない姉でごめんね…」

アルヴァスは涙するエルテナに支えられながらリリアを優しく抱きかかえていた。
リリアはエルテナに見守られながらアルヴァスの腕の中で微笑みながら「エル姉様、アル兄様、ありがと」とだけ呟いた。

「…リリィ…」

「…アル兄様、エル姉様と、いつ…までも…なかよ…」

リリアの口の動きが止まる。

「…」

全てを言い終える前に、リリアはアルヴァスの腕の中で、微笑みながら息を引き取った。
エルテナは涙を溢しながらリリアに呼びかけた。

「ああっ…リリア…リリアッ!!」

「…リリィ…さらばだ…。」

アルヴァスとエルテナの頬に涙が伝う。
すると、その二人の悲しみを踏み躙る様にしてファルセダは宝珠を掲げて叫んだ。

「なんだこの展開!!ふざけるなぁッ!!まだ…まだ終わってないんだよッ!!!」

アルヴァスの瞳は悲しみから怒りに変わっていた。エルテナに短く「エルは背後へ」とだけ伝えるとエルテナは頷いてその場を離れていく。
リリアを抱いたアルヴァスは二、三歩き前へと出た。

「…ファルセダ…余は、余はお前を決して許さぬ…。覚悟しろ…。」

「俺には、無敵のエーテリック・スフィアがあるんだよぉッ!!無防備で女々しいお前なんかに負けるわけねぇだろぉッ!!」

ファルセダが宝珠を掲げると、周囲には無数の雷が降り注いだ。そして宝珠をアルヴァスの方へと向けると、空から降り注ぐ雷は道を作る様にアルヴァスへと向かっていく。

「死ねぇ!!アルヴァスッ!!リリアの死体と共に丸焦げになれぇッ!!!」

「アルッ!!避けてッ!!」

叫ぶエルテナ。
轟音轟かせた無数の雷は容赦なくアルヴァスとリリアの頭上に降り注ぐ。
しかし、アルヴァスは微動だにしない。

「無駄だッ!!」

アルヴァスは左手でリリアを下ろしながら、無数の雷を右手で一薙すると、全ての雷を最も容易く弾き返した。
エルテナも少し離れた所にいたアルヴィンもリューゼスもアルヴァスのその強さに驚いていた。

アルヴァスは雷を薙ぎ払うと、ファルセダへとゆっくり掌をかざす。

「な…なにぃ!?そんなバカなッ!!?」

「余の目の前から消え失せよファルセダ」

アルヴァスの掌が光を放ち輝く。
ファルセダは再度呪文を唱えながら宝珠をアルヴァスに向けるものの、しかし、先に仕掛けたのはアルヴァスだった。

「受けよ、究極奥義─」

─神魔・撃滅砲!!

アルヴァスは右掌から轟音轟かせながら虹彩放つ強大な光の波動を放った。
光の波動は一瞬にしてファルセダを飲み込む。思いもよらない衝撃がファルセダの全身を襲う。

「ぐくっ!?こんなもの…これがあれば…ッ!!」

「余の神気は全ての事を成す、この波動は宝珠を通り抜け、お前だけを消滅させるのだ!!」

光の奔流は止まる事なく激しい流れとなってファルセダを飲み込む。
ファルセダはなす術なく、光の波動に身体を崩されて行く。

「ぶぁっ!?バカなあぁぁぁッッ!!??」

「受け取れ。余からお前に贈る、地獄での永住権だ。」

ファルセダの手はエーテリック・スフィアから離れ、光の波動はそのまま彼の身体を崩壊させながら、地平の彼方へと弾き飛ばしたのであった。

持ち主を失った宝珠は黒き魔力を消失させ、アルヴァスの足元へと導かれる様に転がっていく。

アルヴァスは足元の宝珠を拾い上げ、何を思ったのか、集中する様に力を込めた。

宝珠は一瞬七色に光ったが、その光はすぐに消えて何も起きなかった。
アルヴァスは少し残念そうな表情をすると、宝珠を懐へとしまい、リリアの前で跪いて眠る様な穏やかな表情のリリアを優しく抱いた。

「さあ、みんなの元へ行こう…リリィ…」

アルヴァスはリリアを抱きかかえ、エルテナとリューゼスの元へとゆっくり歩いていく。

いつの間にか夜が明けていて、空から差し込む朝日の光がアルヴァスの背中の傷痕を悲しく照らしている。

エルテナとリューゼスは刻み込まれた傷痕をいたわる様に、アルヴァスとリリアを優しく迎え入れていた。

それからの事、リリア姫の非業の死はエルディラ王国の国民に衝撃と深い悲しみを与え、祝賀ムードが一瞬にして破壊されたのである。

宰相ファルセダの失踪に伴い、彼が何かしらの原因なのではないか、と言う噂がまことしやかに囁かれていた。

また一つ噂として、全ての悲惨な出来事はグランスのアルヴァス王子が行ったのだ、グランス王国の陰謀論を唱える者まで現れ、根の葉の無い噂が流れる事態となった。

グランスのアルヴァス王子とエルディラのエルテナ姫の結婚式が、無期限の延期という歴史上例を見ない事態となり、リューゼスとアルヴィンはその対応に追われる事となる。

またこの一件は状況を目の当たりにしたグランス王族とエルディラ王族に深い傷を残し、アルヴァス王子は今後のあらゆる悪党の殲滅を徹底した行動をとる様になり、いわば「暴君」とまで呼ばれる様になって行くのであった。



「─ここまでがグランスの王子アルヴァスとエルディラの姫エルテナが背負った哀しみでございます。」

ふう、と一息ついて詩人はコップの水を飲み干した。

「その様な事が…」

クロエとリンドはアルヴァスの身に起こった出来事に少し狼狽えていた。

そして、詩人が腕を上げると裾から深く刻み込まれたであろう、数多の深い縫い目の後窺えた。
深く被った帽子から覗かせる頬にも、大きな傷の様な縫い目ある事が確認できる。
それはまるで、一度バラバラになったパズルを無理矢理再び縫い合わせた様にもクロエには思え、先程聞いた話の中でその傷を作った男の姿を思い浮かべた。

それと同時にクロエは背筋に冷たいものを感じた。
詩人の帽子から微かに覗かせる瞳に一抹の殺気を感じ取る。脳裏に先程の悲劇を思い出させた。

「あなた、まさか…」

警戒し、隠し持った武器に手を添える。
詩人の回答次第では、彼は間違いなく王子の敵であるとクロエはそう確信した。

彼女が詩人に再び尋ねようと、口を開こうとした時、クロエとリンドの背の方で二人を呼ぶ声が聞こえた。

「二人とも待たせたな。」

二人が振り向くと、そこには微笑むアルヴァスの姿があった。

「アルヴァス王子!ハインス様とのお話は、もうよろしいのですか?」

「うむ、後の事はハインス殿に任せた。リンドよ、別れの名残は惜しいがそろそろ余達も行かねばならぬ。リューゼスとエルによろしく伝えてくれ。」

リンドは微笑むアルヴァスに少し寂しそうな表情をした。クロエはハッとしてアルヴァスに伝えた。

「そういえば王子。ちょうど今、王子の物語をこちらの詩人さんから聴いていたのですが。」

「そうです、とても詳細とか描写が事細かで、こちらの方は王子の知り合いですか?」

二人はアルヴァスに尋ねると彼は不思議そうな顔をして首を傾げた。

「詩人?…クロエ、リンド。そこには誰も居ないぞ?」

「え?」

二人は驚き振り向く。確かに先程まで
その場にいた詩人の姿はすっかり無くなっていたのだ。確かに飲み干された空のコップが一つだけ置かれていたが。
まるで今までの出来事が夢幻であるかの様だった。

そうして翌日の事、アルヴァスとクロエはリンドとハインス卿の館の前で別れる事となった。

「今度は是非ともエルディラにいらして下さい、リューゼス様もエルテナ様も絶対に喜びますから。クロエさんもまた会いましょう。」

「ああ、必ず。」

「お話楽しかったわ、リンドも元気でね。」

アルヴァスとクロエはリンドとハインスの館で笑顔で再開を誓い合うと、新たな旅路へと向かうのであった。
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