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アルヴァス王子の世直し放浪記

プロローグ

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剣と魔が支配するラギア大陸。
その東の大国グランス王国に暴君と呼ばれし王子あり。

数多の国々が歴史を刻む、人と神と魔とあらゆる生きる者達がその営みを育む世界で。

誰かが言う、彼の者はその拳で巨悪を撃ち砕くと。
誰かが言う、彼の者はその身ひとつで世を正すと。
誰かが言う、彼の者は巨悪を倒す為に世界を流離う者と。

銀髪の男は吹き抜ける風に真紅の外套を靡かせていた。
その光景の中で複数人の視界に映るのは、月日をかけて鍛え上げられた、筋骨隆々の男の身体はまるで金属製の鎧の様であった。

彼の周りを取り囲むのは、数百はいるであろう数多の武器を持った悪党達。

その目の前に広がる光景に、一切恐れる素振りを見せることなく、銀髪の男は脅威へと一人立ち向かって行く。

銀髪の男は間違いなく、多勢に無勢を心の底から喜んでいた。

「今からお前を叩き潰してやる」と言ったような屈強な荒くれ者共の顔を見て、銀髪の男の顔に軽く笑みが溢れていた。

実に不敵な笑みを浮かべる銀髪の男。
どのような状況であろうと一切恐れない彼の姿に、歴戦の荒くれ者達の背筋に冷たいものが走った。

銀髪の男は豪快に拳を振るう。
彼を取り囲む、荒くれ者達を一人…また一人とその身一つで豪快に殴り飛ばしていく。

すると荒くれ者の一人が叫ぶ。そして、己の身を奮い立たせるのだ。

「ふざけるな!相手は丸腰一人なんだぞ!!囲んでやっちまえ!!」

飛びかかる荒くれ者達
すると、一人の荒くれ者の身体が宙を舞った。

「クソッ!武器が!!武器が効かねえ!!」

すると、一人の荒くれ者の武具が粉々に砕かれた。

「弓も持ってないのになんであんなところからッ!!」

すると、荒くれ者達は無慈悲に、豪快に、まとめて蹴散らされた。

荒くれ者達は恐怖の叫びを上げる。あるものは悲痛の悲鳴、あるものは苦悶の呻きを上げ、一人また一人と銀髪の男に殴られ、蹴りぬかれ、弾き飛ばされていく。

銀髪の男の手によって築き上げられた、気絶した悪党の山の上で男は猛り吠えた。
それは気高く、誇り高く、そして…

何よりも力強い雄叫びであった。

「余の名はアルヴァス・ヴェルレウス・グランス!!悪党共よ、余の拳を恐るならば、いくらでもかかって来くるがいいッ!!」

悪党共の転がる荒野で男の鬨の声が響き渡る。

この物語は、悪党をその拳で撃滅し、その身ひとつで世直しを行う。
暴君─タイラント─と呼ばれたグランス王国の第一王位継承者

─アルヴァス王子の放浪記である。
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