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さよなら万年発情期
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例えばそこにあるものが愛情だとしたら、
一体どんな気持ちになるのだろう。
そして、貴方はどんなふうに笑ってくれたんだろう。
---さよなら万年発情期---
「男の人って」
「ん?」
「夜景の綺麗なレストランとか、雰囲気のいいバーとか実際好きじゃないよね」
いつものファミレスで笑みを浮かべる彼に目を向ける。
「んー人によるんじゃない?」
「そうかな?実際付き合ってる人とかに綺麗な夜景のレストランとか行きたいなって言っても面倒にする人多いと思う」
彼は少し逡巡したのち、ゆっくりと冷めたドリンクバーのコーヒーに口をつける。
「その割に藍はよく行ってない?彼氏と、そういうレストランとか」
運ばれてきたばかりのパスタをくるくるとフォークに巻き付けて、それは確かにそうなんだけど、と口を開く。
「彼氏になったら行かないってこと」
「なるほど」
「そうでしょ?」
彼はちらちらと、私の顔と胸元に視線を行ったり来たりさせながら言う。
この人はこういう人だ。そしてその視線が私も嫌ではない。
私もだいぶ承認欲求を拗らせている。
「女の子喜ばせるために予約してる人が大半。あとは見栄とか?」
まぁ、男のことは分からないんだけど。
「ううん、というか、落とすための道具だよね」
「はは、身も蓋もないことを…」
随分とまぁ長い付き合い、それこそ私が中学生とかからの付き合いの彼はよく私の恋愛遍歴を知っているけれど、そういった間柄ではない。
もっとも彼はそういった間柄になりたそうにしているけれど。
学生時代勉強を教えてくれていたこともあって先生と生徒のような間柄、というのが一番近いかな。
こうして夜に私を連れ出すようになったのは私が大人になったからだと思うけれど、大人の意味合いには肉体的に、って部分が大きいのだろう。
「お食事中ああコイツとさっさとヤりてぇな、って顔に書いてあるもん。男の人」
「こらこら」
品がないぞって、それこそ先生みたいに言って苦笑する彼。左手の薬指が鈍く光る。
美味しいフレンチと、シャンパンと、きらきらした夜景を前に
男の目はだいたい性欲にまみれたドロドロした色をしている。
全否定しないのは、彼も同類だからだ。
そっと胸に空風が吹くのを感じる。
ああ、孤独。
空虚?分からない。
「…でもやめられないんだ」
彼に向けて、というより独り言としてつぶやく。
そのドロドロした瞳に見られる嫌悪感。
そして、同時に渦巻く高揚感。
「私って性癖おかしいんかな」
ドロドロした瞳をぎりぎりまで思わせぶりに最大限に期待させて、そして盛大に振るんだ。
さっきまで可愛い可愛いと媚びてた瞳から、急に滲んでくる怒りみたいなものを向けられると、すごく満たされるんだ。あの物凄く理不尽で汚い瞳。
いつか刺されるかもしれないなって、思って、乾いた笑いを浮かべる。
「まー多少歪んでいそうではあるかな?」
彼は私が、そうやっていろんな男に引っかかってると思っていそうだけど。
違うんだ。寝ないし、それ以上に。
男から見れば遊ばれてるんだろうけど
私からすれば遊んでるのは私なんだ。
私はどこまでも汚くて、どこまでも潔癖だから。
そうやって意味のない復讐をしているのかもしれない。
男に。
空々しい。
アツアツのパスタの上にのせられていたチーズが、とろりと溶けて、そのまま冷えて固まっていた。
相変わらず、苦笑したまま、遠慮もせずに
私の身体を不躾に見やるこの瞳にほんの少しでも愛情が混ざっていたら。
「歪んでるの、嫌い?」
「いやぁ?すき」
へへ、と気持ち悪い笑いを浮かべる彼。
何を想像したのやら。
やはりその瞳は性欲に汚れていて。
汚い。
と私は思う。
胸の奥が、ギシギシと痛んだ。
--------------------
いつからこうして自分を傷つけてまで
相手を傷つけようとするようになったんだろう。
心のどこかで
いつか止めてくれると、思っていたのかもしれない。
そうしたらたとえそれが愛情じゃなくても、愛情だって思い込んでいられるから。
一体どんな気持ちになるのだろう。
そして、貴方はどんなふうに笑ってくれたんだろう。
---さよなら万年発情期---
「男の人って」
「ん?」
「夜景の綺麗なレストランとか、雰囲気のいいバーとか実際好きじゃないよね」
いつものファミレスで笑みを浮かべる彼に目を向ける。
「んー人によるんじゃない?」
「そうかな?実際付き合ってる人とかに綺麗な夜景のレストランとか行きたいなって言っても面倒にする人多いと思う」
彼は少し逡巡したのち、ゆっくりと冷めたドリンクバーのコーヒーに口をつける。
「その割に藍はよく行ってない?彼氏と、そういうレストランとか」
運ばれてきたばかりのパスタをくるくるとフォークに巻き付けて、それは確かにそうなんだけど、と口を開く。
「彼氏になったら行かないってこと」
「なるほど」
「そうでしょ?」
彼はちらちらと、私の顔と胸元に視線を行ったり来たりさせながら言う。
この人はこういう人だ。そしてその視線が私も嫌ではない。
私もだいぶ承認欲求を拗らせている。
「女の子喜ばせるために予約してる人が大半。あとは見栄とか?」
まぁ、男のことは分からないんだけど。
「ううん、というか、落とすための道具だよね」
「はは、身も蓋もないことを…」
随分とまぁ長い付き合い、それこそ私が中学生とかからの付き合いの彼はよく私の恋愛遍歴を知っているけれど、そういった間柄ではない。
もっとも彼はそういった間柄になりたそうにしているけれど。
学生時代勉強を教えてくれていたこともあって先生と生徒のような間柄、というのが一番近いかな。
こうして夜に私を連れ出すようになったのは私が大人になったからだと思うけれど、大人の意味合いには肉体的に、って部分が大きいのだろう。
「お食事中ああコイツとさっさとヤりてぇな、って顔に書いてあるもん。男の人」
「こらこら」
品がないぞって、それこそ先生みたいに言って苦笑する彼。左手の薬指が鈍く光る。
美味しいフレンチと、シャンパンと、きらきらした夜景を前に
男の目はだいたい性欲にまみれたドロドロした色をしている。
全否定しないのは、彼も同類だからだ。
そっと胸に空風が吹くのを感じる。
ああ、孤独。
空虚?分からない。
「…でもやめられないんだ」
彼に向けて、というより独り言としてつぶやく。
そのドロドロした瞳に見られる嫌悪感。
そして、同時に渦巻く高揚感。
「私って性癖おかしいんかな」
ドロドロした瞳をぎりぎりまで思わせぶりに最大限に期待させて、そして盛大に振るんだ。
さっきまで可愛い可愛いと媚びてた瞳から、急に滲んでくる怒りみたいなものを向けられると、すごく満たされるんだ。あの物凄く理不尽で汚い瞳。
いつか刺されるかもしれないなって、思って、乾いた笑いを浮かべる。
「まー多少歪んでいそうではあるかな?」
彼は私が、そうやっていろんな男に引っかかってると思っていそうだけど。
違うんだ。寝ないし、それ以上に。
男から見れば遊ばれてるんだろうけど
私からすれば遊んでるのは私なんだ。
私はどこまでも汚くて、どこまでも潔癖だから。
そうやって意味のない復讐をしているのかもしれない。
男に。
空々しい。
アツアツのパスタの上にのせられていたチーズが、とろりと溶けて、そのまま冷えて固まっていた。
相変わらず、苦笑したまま、遠慮もせずに
私の身体を不躾に見やるこの瞳にほんの少しでも愛情が混ざっていたら。
「歪んでるの、嫌い?」
「いやぁ?すき」
へへ、と気持ち悪い笑いを浮かべる彼。
何を想像したのやら。
やはりその瞳は性欲に汚れていて。
汚い。
と私は思う。
胸の奥が、ギシギシと痛んだ。
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いつからこうして自分を傷つけてまで
相手を傷つけようとするようになったんだろう。
心のどこかで
いつか止めてくれると、思っていたのかもしれない。
そうしたらたとえそれが愛情じゃなくても、愛情だって思い込んでいられるから。
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