さよなら万年発情期

とさか

文字の大きさ
上 下
1 / 1

さよなら万年発情期

しおりを挟む
例えばそこにあるものが愛情だとしたら、
一体どんな気持ちになるのだろう。

そして、貴方はどんなふうに笑ってくれたんだろう。



---さよなら万年発情期---



「男の人って」
「ん?」
「夜景の綺麗なレストランとか、雰囲気のいいバーとか実際好きじゃないよね」
いつものファミレスで笑みを浮かべる彼に目を向ける。

「んー人によるんじゃない?」
「そうかな?実際付き合ってる人とかに綺麗な夜景のレストランとか行きたいなって言っても面倒にする人多いと思う」

彼は少し逡巡したのち、ゆっくりと冷めたドリンクバーのコーヒーに口をつける。

「その割に藍はよく行ってない?彼氏と、そういうレストランとか」

運ばれてきたばかりのパスタをくるくるとフォークに巻き付けて、それは確かにそうなんだけど、と口を開く。

「彼氏になったら行かないってこと」
「なるほど」
「そうでしょ?」

彼はちらちらと、私の顔と胸元に視線を行ったり来たりさせながら言う。
この人はこういう人だ。そしてその視線が私も嫌ではない。
私もだいぶ承認欲求を拗らせている。

「女の子喜ばせるために予約してる人が大半。あとは見栄とか?」
まぁ、男のことは分からないんだけど。
「ううん、というか、落とすための道具だよね」
「はは、身も蓋もないことを…」

随分とまぁ長い付き合い、それこそ私が中学生とかからの付き合いの彼はよく私の恋愛遍歴を知っているけれど、そういった間柄ではない。
もっとも彼はそういった間柄になりたそうにしているけれど。
学生時代勉強を教えてくれていたこともあって先生と生徒のような間柄、というのが一番近いかな。
こうして夜に私を連れ出すようになったのは私が大人になったからだと思うけれど、大人の意味合いには肉体的に、って部分が大きいのだろう。

「お食事中ああコイツとさっさとヤりてぇな、って顔に書いてあるもん。男の人」
「こらこら」

品がないぞって、それこそ先生みたいに言って苦笑する彼。左手の薬指が鈍く光る。
美味しいフレンチと、シャンパンと、きらきらした夜景を前に
男の目はだいたい性欲にまみれたドロドロした色をしている。

全否定しないのは、彼も同類だからだ。

そっと胸に空風が吹くのを感じる。

ああ、孤独。

空虚?分からない。

「…でもやめられないんだ」
彼に向けて、というより独り言としてつぶやく。

そのドロドロした瞳に見られる嫌悪感。
そして、同時に渦巻く高揚感。

「私って性癖おかしいんかな」
ドロドロした瞳をぎりぎりまで思わせぶりに最大限に期待させて、そして盛大に振るんだ。
さっきまで可愛い可愛いと媚びてた瞳から、急に滲んでくる怒りみたいなものを向けられると、すごく満たされるんだ。あの物凄く理不尽で汚い瞳。
いつか刺されるかもしれないなって、思って、乾いた笑いを浮かべる。

「まー多少歪んでいそうではあるかな?」

彼は私が、そうやっていろんな男に引っかかってると思っていそうだけど。
違うんだ。寝ないし、それ以上に。
男から見れば遊ばれてるんだろうけど
私からすれば遊んでるのは私なんだ。

私はどこまでも汚くて、どこまでも潔癖だから。


そうやって意味のない復讐をしているのかもしれない。
男に。

空々しい。

アツアツのパスタの上にのせられていたチーズが、とろりと溶けて、そのまま冷えて固まっていた。

相変わらず、苦笑したまま、遠慮もせずに
私の身体を不躾に見やるこの瞳にほんの少しでも愛情が混ざっていたら。


「歪んでるの、嫌い?」
「いやぁ?すき」

へへ、と気持ち悪い笑いを浮かべる彼。
何を想像したのやら。
やはりその瞳は性欲に汚れていて。

汚い。

と私は思う。
胸の奥が、ギシギシと痛んだ。











--------------------

いつからこうして自分を傷つけてまで
相手を傷つけようとするようになったんだろう。

心のどこかで
いつか止めてくれると、思っていたのかもしれない。
そうしたらたとえそれが愛情じゃなくても、愛情だって思い込んでいられるから。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

しけたか~る

恋愛でもシリアスでもないと思う。
ただ変わった文章だと思う。

解除

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。