31 / 142
学園編
私の騎士とは
しおりを挟む「長時間及ぶ激しい運動の疲労と脱水、さらに魔力の枯渇で気絶してしまったんですね…ルディヴィスくんが彼を見つけてくれて応急的に水分補給までしてくれて助かりました
治癒魔法は掛けたのでもう大丈夫ですよ、後は側にいてあげてください」
白衣に身を包んだ男性がベッドに横たわるイグニスに毛布を掛けつつおれに話しかけてくる
この男性は学園の保険医だ、乙女ゲームにも確かサポートキャラでいた気がする…好感度を教えてくれる先生…だったか?
名前はなんだっけ…先生と呼ばれていた気がする
鍛錬場で気を失ったイグニスを、身長の差もあり一人では運べず、教員を呼びに行ったりと色々あって現在
保健室まで連れてきてくれた先生は運良くおれの担任だったため、イグニスが心配だと言い1限の授業を免除し付き添って良いと言ってくれた
眠るイグニスを見る…乙女ゲームの攻略対象者…
ゲームでは負け知らずの脳筋キャラだったような気がするのに…このイグニスは脳筋には思えない
「先生、イグニスはいつもあんな感じにお兄さんから鍛錬を受けているんですか…?」
「気絶する程までの鍛錬は今回が始めてですね…これまでも朝の時間に互いに自主鍛錬を行っているのは知っていましたがここまでとは…
元々家族仲もあまり…よくは無いんです…けれど学園で問題を起こすほどではなかったんですよ?
もしかしたら、騎士科の間での噂を鵜呑みにしてしまったんでしょうか…
来年殿下がご入学されるのにまだ側近候補を決めていない、それまでに成果を上げれば側近になれるなど言う噂を信じる生徒もいるんです
教員がいくら噂だと言っても信じない子も…………ああ、すいません…噂話などルディヴィスくんに話す内容では無かったですね…」
飲み物を取ってきますと保険医の先生は部屋を出ていく…騎士科の噂、レオンハルト殿下の側近…ゲームのストーリー……………私の騎士…
『私の騎士…………?』
ズキリと頭が軋む痛みに視界が歪む
なんだ?今の違和感…おれは何を忘れている?イグニスは…ゲームでのイグニスは脳筋キャラだったけどそれ以外に何があった…?
悪役令嬢の側にいた彼、いつの間にかレオンハルト殿下の側にいた彼……………何故殿下の側に居たんだ…?
思い出せ…思い出せ……………
…………………
…………
……
『お兄ちゃんおかえりー!冷凍庫にあったアイスあれで全部?足りないんだけど!もっと買っておいてよねー
あ、今暇?暇だよね?仕事しかしてないんだもん!ほら見てみて!新しいキャラいい感じに攻略してるんだー!
このイケメン、なんと未来の近衛師団長!彼ね可哀想なキャラなんだよ~お兄さんに嫌われてて、お父さんにも才能も無いぼんくら?って呼ばれててね!
ひっどい扱いされてる不幸なキャラ!
でも、見た目が良いからって魔力測定の日に悪役令嬢に金で騎士契約させられちゃうの!悪役令嬢の騎士として聖女に剣を向けて泣いちゃうシーンとか可愛いんだよ~!でねでね!その後も前も凄いの!殿下と協力して男の友情とか聖女に命を捧げますとかいっぱ………ねぇ……………お兄ちゃん?
ちょっとなんでお風呂行こうとしてんの?
…………ちょっと!話聞いてる…!?』
思い…出した
イグニス.バイゼルが何故…私の騎士と呼ばれてるか…
てか、この乙女ゲームさ、聖女に全部救わせる設定にする為に至る所重くしすぎじゃないか…?馬鹿なの?可哀想な子大好きとか危ない性癖の人しかいないの?
人のアイス全部食いやがったクソ妹は確実に馬鹿だとは言える…
そうじゃない…アイスはどうでもいいだろう?おれ………現実逃避したくなるほど思い出したくない記憶に目眩がする
なんでおれは…あの乙女ゲームを妹のプレイを無理矢理見せられるだけじゃく自分でちゃんと攻略しなかったんだろう…って後悔してる
今、目の前で気絶し倒れ眠っているイグニスは…本来、悪役令嬢の騎士として魔力測定後…契約を結ばれバイゼル家に居ないはずなんだ…
本当は悪役令嬢に付き従う騎士としてこの学園に入学する…だからあの酷い鍛錬を受けることも無い筈だったんだ…
乙女ゲームで、レオンハルト殿下の側近として側にいたのも、確か騎士として悪役令嬢の非道な行いを身近で知ってて、聖女との出会いを通して互いに悪役令嬢を断罪する戦友になったから…
おれが乙女ゲームの世界を変えたが為に、今…イグニスはこんな目に合っている
実の兄へ対してのあの怯え、それは日常的に何かしら精神的か肉体的かのストレスがあったのだろう
でも、その原因を作ったのは…おれだ…
シャルティを不幸にしたくない、無駄死にさせたくない、出来れば他の皆も不幸にしたくないとこれまで動いてきた事が…知らぬ場所でシナリオが変わり、人を不幸にもしていた可能性が出てきてしまった
これまでの行動が間違って居たとしてもおれはシャルティを救いたかった…けれど…でも…
このイグニスという存在は悪役令嬢の騎士になるのと家にいるのどっちが幸せだったのだろう…
おれの行いが、彼から選ぶ選択肢を奪っていたのだとしたら…
目頭が熱い、視界が歪み、知らずに涙が溢れてくる
喉が引く付くように痛い…おれが泣いていい場面じゃ無いからだ…
ごめん、ごめんよ…イグニス…
おれが、おれがお前を不幸にしたかもしれない、もしそうだったら…ごめんなさい…ごめんなさい…………
「…………っ、……なぁ…なんで泣いてんだ…?」
知らぬ間に、閉じられていた筈のイグニスの目が開いていた…ゲームと同じ薄黄緑の瞳でおれを見てくる…真っ直ぐに…
その視線が、おれには耐えきれなかった
「ごめん…ごめん………!」
「………え、おい!?」
それだけ言って保健室を飛び出したのは覚えている
どうしていいか分からなくて…イグニスが呼び止めたような気がしたけど止まれなくて、分からなくて、おれはどうしたら良かったんだ…って
走って走って…走って………
自分というおろかな存在を消したくて必死に逃げてしまった
3,544
お気に入りに追加
6,616
あなたにおすすめの小説
弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。
【完結】薄倖文官は嘘をつく
七咲陸
BL
コリン=イェルリンは恋人のシルヴァ=コールフィールドの管理癖にいい加減辟易としていた。
そんなコリンはついに辺境から王都へ逃げ出す決意をするのだが…
□薄幸文官、浮薄文官の続編です。本編と言うよりはおまけ程度だと思ってください。
□時系列的には浮薄の番外編コリン&シルヴァの後くらいです。エメはまだ結婚していません。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる