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幼少期編

閑話 居たい場所

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ボクはどうして生まれてきたのだろう
そう思い始めたのは、父さんが軍で素晴らしい勲章を貰ってからだ…その日から少しずつ父さんはおかしくなっていった…





父さんは昔からすごい魔術師だったと知ったのは、5歳の誕生日に魔法の本をプレゼントされ
「お前も将来素晴らしい才能を開花し優秀な魔術師になるよ」
そう言って頭を撫でてくれた日…

その日がボクの中で一番幸せで、一番楽しかった
父さんみたいな魔術師になって、母さんや国を守る騎士になるのだと心に誓えたから
ほとんど文字も読めないのに毎日魔法の本をひたすらに読みながら未来を夢見ていた日々



6歳の誕生日、父さんは魔獣討伐の遠征でずっと帰らなかった…母さんと2人で父さんの無事を祈って過ごす悲しさを知った日



そして7歳の誕生日、ずっと家に帰ってこなかった父さんは長期にわたる魔獣討伐で素晴らしい勲章と、報奨金を得て家に帰ってきた
平民のボク達家族の生活が一変した日…



大きな庭のついた家に父さんはボクと母さん、そして生まれたばかりの弟を連れてきた
見たこともない広い部屋…食べたこともない美味しいお肉やおかしをたくさん食べていいと父さんは言う…
その顔は5歳の頃、ボクに魔法の本をプレゼントしてくれたあの日の父さんではなくて…どこか怖くて…恐ろしかった






「ヘルリ、お前には俺を超える素晴らしい才能があるかもしれない…!十歳になったら国の軍人養成校に入りなさい
この暮らしはいいだろう?この豪華な暮らしを守るためには報奨金が必要なんだ!!」


父さんがボク肩を揺すりながら言ったこの言葉が恐ろしく思えたのは、ボクの間違いじゃない







…………………
…………
……



「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ーーーー!!!!いだいよぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙!!!いだい!!だすけで、どうさん゙!!!やめめで、やだぁーー!!!ぃ゙ぎゃぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ーーーー!!!!!」

「ヘルリ!!真面目にやれと言っているだろう!魔力を受け入れその身で体現すればいい簡単な事だ!
人狼化魔法は俺の得意分野、息子のお前が出来ない訳がない!
軍の養成校に入る前にこれができるようになれば出世など簡単なんだぞ?うまい飯、綺麗な家、豪華な暮らしを守りたくは無いのか!?!

もう一度だ、ヘルリ…泣き言など聞かんぞ」


他人の魔力を無理矢理体内に注ぎ込まれる事がこんなにも痛くて辛くて…死にたくなるほど苦しい事なのだと、教えてくれたのは金と豪華な暮らしに目がくらんだ父さんだった

豪華な暮らしに依存した父さんは酒の飲みすぎて怪我をして討伐作戦に長期間いけなくなってしまったから余計になのだろう
ボクを優秀な存在として軍の養成校に入れるため…出世を早くし報奨金を得るための都合の良い存在…
それがボク…
幼い頃は魔力を介した治療などを受けてはいけない、後遺症があるからと昔、町の先生が言っていたのを思いだしたのは、ボクの姿を見て母さんが悲鳴を上げたから…




7歳になったとはいえ、まだまだ幼い身体に無理矢理付与された人狼化魔法は…ボクの中で恐ろしい形で現れるようになった
耳が、手足が、背中が…顔が…一部だけ人でなくなってしまうんだ…
人狼化じゃない、これは失敗作…

犬の耳が生え、手足が犬のそれになったボクに対して母さんも父さんも心配などしてくれなかった




「私は獣なんて産んでない!!!酷い姿を見せないで!やめて!こっちを見ないで!!!
父さんの言う通りにしないからこんなことに!!…こっちにこないで!汚らわしい!」


「なんだその姿は!誰が犬になれと言った!?人狼だ!俺が教えてるのは人狼化だ!!!!
その辺の野良犬になってどうする!?俺を馬鹿にしてるのか!!!」



犬の一部が見えているボクをそう言って2人で叩く、せめて人に戻れと…せめて人狼化してみろと…
ボクの意思でなった訳じゃないのに…好きでこんな姿になった訳じゃないのに…
ふざけているのかと、気持ち悪いと叩かれ、暗い部屋に閉じ込められるのは本当に辛かった


父さんと母さんにとってボクはなんなのだろう
贅沢な暮らしに慣れてしまった2人の顔は5歳の誕生日に見たあの日と同じ人と思えないくらい酷く怖い顔をしている
出世してこの家に金を生む金の鶏とでも思われているのかもしれない…



ボクは贅沢な暮らしなんて欲しくなかったのに…
皆で貧しくても楽しい暮らしがよかったのに…
そう、呟いてしまった日…ボクは父さんに気絶するまで殴られた気がするんだ

ボクは必死に我慢した…毎日激痛に耐えながら人狼化魔法の練習をさせられて、失敗したり無意識に犬の耳とかが生えたりしないように…痛みを堪えた
我慢すればする程痛いんだ…でも、それ以上に叩かれたり殴られるのはもっと痛い



そんな生活は父さんがボクを役立たずだと、誰かに売るのだと言った日、終わりを告げた
日々の激痛で幼児退行していたのかもしれない…言われている意味は分かるのに、わからなかった…
父さんと母さんの中ではボクは本当に、ただの金を生む何かに成り下がってしまったのだろう




苦しい、憎い、こんな生活嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
…………………全て消えてしまえばいいのに

そんな言葉が浮かんだような不思議な感覚…
全身の血が沸騰するほどざわついて…ボクを目の前を真っ赤に染めた
これが人狼化魔法なのだと心のどこかで理解していた自分と、父さんを斬りつけたショックが無いことが怖かった…
真っ赤に染まる視界に真っ赤に染まるボク…
ボクは人じゃない…化け物なんだ…
激痛しか産まない生活が化け物を…ボクを生んだ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……………





誰か失敗作の化け物なボクを助けて下さい












ボクの手が誰かに握られた気がした…
優しい心地いい声が聞こえた気がした…


「何もしない、何もしないよ…大丈夫……
ヘルリ…君はどうして此処へきたの…?シャルティに助けを求めたのはどうして…?

目が覚めたらゆっくりでいい、教えてほしい
ぼくは君の敵じゃない…この場所は君を害することはないんだよ…」



ボクの敵じゃないの?この声はボクを嫌ったりしないの…?
どうしてか握られてる手が、何かに触れる温もりが温かくて…頭を撫でてくれるそんな気配を感じて目が覚めた先に居たのはこの国の公爵家…そのご子息様…
ルディヴィス.サングイス様、そしてシャルティ様だった


父さんや周りを傷付けて血まみれだったボクは、目が覚めたら綺麗な服を着ている
この家で助けられたとわかったけど、また父さん達の所に戻されるのが怖くて泣いてしまった
けれど、やさしい顔をしたルディヴィス様はそんなボクを抱きしめて、落ち着くまでここに居たらいいと居場所をくれるなんて…

その一言と、伝わってくるルディヴィス様の体温が余りにも心地よくて…これまで何度も死にたいと思っていたのに、生きたいと願ってしまうほど嬉しかった
公爵家という貴族のお二人がボクを看病してくれる、ボクがここに来た理由を聞いてくれる…居場所をくれる…

化け物の姿を見ても受け入れてくれる…
裏なんてない、本当にボクから生えてる犬耳や変化した犬の手を愛おしそうに撫でて可愛いと言ってくれるルディヴィス様達の笑顔にボクは救われたんだ




この家にずっと居れたらいいのに




その願いは従者見習いとして叶うなんて思ってもいなかった…ボクはお二人に恩返しがしたい…サングイス家を守れる番犬になりたい…







父さんや母さんがどうなろう悲しむ心が無いのはきっと心まで化け物になってしまったのだろう
それでもルディヴィス様は全てを見据えた目でボクを受け入れてくれる…
サングイス家へ恩返しをするために、ボクの居場所を守るために……ボクはここに生涯を捧げます

化け物さえも受け入れてくれるルディヴィス様の為に、ボクはこれから努力して、人狼化魔法を使いこなして見せます



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