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幼少期編

見習いを得る

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人狼化魔法とか言ってたが、苦痛な叫びと鈍い光でヘルリは本当に人狼………いや犬耳の生えた可愛い少年に変化した

変化する事が辛いのか息を荒げ涙を零すヘルリを抱き締め直し、大丈夫かと心配するおれの目にはピコピコと動く犬耳しか見えない…
狼なんだろうけど犬耳に見える…うん、何だこれかわいいなおい

シャルティも同じ気持ちなのか目をキラキラさせながらヘルリの頭から生えた犬耳を見てわんちゃん可愛いと呟いている


「ぅ゙ぐっ……はぁ………はぁ………ううっ…我慢できなかった…やだ…こんなからだ嫌なのに………
ごめんなさい…ごめんなさい……ボクは化け物なんです…人狼になれない…なり損ないの化け物……気持ちわるい姿でごめんなさい……」


震えながら怯え、泣くヘルリは自分の姿を嫌悪しているのかもしれない
だが、おれたちから見ると普通に可愛い…逃げようと悶えるのを抱き締めて逃がしたくないくらいに可愛い…


「ヘルリ、身体が痛むの?大丈夫…?
怯えないで、君は気持ち悪くなんてないよ…?ごめんね…ぼくもシャルティも君の犬耳見て可愛いって思ってる…できたら触ってもいい…?」


「…………え………?ボク、きもちわるくない……の?人狼化魔法の失敗作だって…父さんはこの姿見るとね…人じゃない、きもちわるいって叩くんだよ…?
なのに………なのに………2人はそんなボクを触れるの…?」


シャルティと同時に頷き、それぞれ不安そうに揺れる犬耳に手を伸ばす…ふわふわの毛に包まれた耳は本当に血が通っているのか温かい…
そう、まるで生前可愛がっていた近所のポチ太郎の耳のように触り心地抜群なのだ…これが気持ち悪い?可愛いの間違いじゃなくて??


「ヘルリくん…かわいいね?わんちゃんの耳すごい…!ふわふわでかわいい…いいこだねー」


「本当に可愛いね、触らせてくれてありがとう…
ほら、ヘルリは気持ち悪くないだろ?おれもシャルティもずっと触っていたくなるくらい夢中だ…
手もすごくもふもふで可愛いいよ」


肘から先が犬のように変化したヘルリの腕も撫でたりもふもふしたりと堪能する
いいじゃないか生前以降犬に触れてないんだ飢えてる、それもあって可愛さが爆発している
なでなで、スリスリ…もふもふ…
おれたち義兄妹はヘルリの人狼化魔法が一時的に消えるまで堪能しまくったのだ


その結果、ヘルリはとてもとても懐いた
あの可愛い姿を本当に気持ち悪いと言われていたらしく、ソレを気に入ったおれたちに心を開きまくったのだ
最終的に撫でながら抱き締めてたら腕の中で寝るほどに懐いた、これはおれの計画は成功したと言ってもいいだろう…
こんなおれたちを食べるなんて出来ないよな?









…………………
…………
……





「まさか私達が出かけている間にそんな事が…それでその子が保護したというヘルリくん…だね?
そう怯えなくていい、私はサングイス公爵…ルディヴィスとシャルティの父だ」


「私はペトラ、二人の母です
ヘルリくん…大変だったのね…気の毒に…」


領地の視察から帰った父様、母様は事前に執事からある程度の情報は入っているらしかった
帰宅後直にヘルリを含めリビングに呼ばれたおれたちに事情が聞きたいと言ってきた
シャルティと目配せをし今日我が家で起きた出来事について正直に話す
ヘルリが話してくれた事も含め包み隠さずに…だ
基本とても優しい両親はヘルリが受けてきた実質の虐待に深く心を痛めているのがわかる
おれとシャルティの陰に隠れるように怯えるヘルリ、痩せた身体と儚い様子からも事実で有ることがわかるだろう


「父様…ぼくは…ヘルリをこのまま返しては駄目だと思います…酷い仕打ちを受ける場所に彼を返したく無いです…」

「ルティも……私も、おにいさまと同じ気持ちです…ヘルリくん…かわいそうで守ってあげたいです」


父様はおれたちの言葉を否定せず聞いてくれる
現状、これは拉致でも誘拐でもない…虐待を受けた子を保護している状況だと思う
乙女ゲームの世界で悪役令嬢はどう両親を丸め込んだかは知らないが、おれたちの前にいる両親ならきっと最善を考えてくれるはず…


「二人の気持ちはよくわかった、私も最善を尽くそう…子はこの国の宝だ…安全を確認できない場所に送り返すことはしないよ、君のお父さんの件はこちらでも調べよう、任せなさい

ヘルリくん、君の気持ちを知りたい…国運営の孤児院に引き取って貰い、姿を変え事態が解決するまで隠れ住む事もできる、たが…君は私の子供達に随分と懐いているようだ…もしもここに居たいと言うなら客人としてずっと居ることが出来ないのはわかっているね?

この屋敷で従者見習いとして過ごす…それも1つの選択肢だ、君はどうしたい?」



やはり父様はいい人だと思う…
おれたちの事もしっかりと見てくれる素敵な父様だ
ヘルリは父様の言葉に、怯えていた表情を引き締め、前へ進み父様の方へ向かった

姿勢を正し、父様を見て礼をする…先程まで泣いていた少年と同じとは思えないほどキレイな所作で


「サングイス公爵様、どうか…どうかボクをこの屋敷に従者見習いとして置いてください…ボクはルディヴィス様の従者になりたい…!シャルティお嬢様を守れる番犬になりたい…!
この屋敷に認めていただけるように精いっぱいがんばります」




深く頭を下げヘルリが言った言葉を聞いて父様も母様も嬉しそうに頷いた
こうして悪役令嬢の犬だった乙女ゲームの攻略対象は悪役令嬢の兄の従者見習いになったのだ…






………………え、シャルティの従者見習いじゃないの!?なんでおれ?!?番犬って何!?

そんなツッコミを心の中でしつつ、嬉しそうに笑うヘルリとポチ太郎が重なりそれでもいいかなと受け入れてしまったのだ…
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