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闇を重ねる手
しおりを挟む「………ぐっ、ッ………!!ぁ゙ぐぅ゙……!!!」
「リナルド様!?!」
光を飲み込む闇は徐々におれを蝕んで居たのかもしれない…
本来魔力の相性が悪い状況で相手の魔力を取り込むなんて自分を虐めたい性癖の人が行う行為だ
闇の聖獣様に愛されし闇の魔力だからこそ、これまで耐え抜けたのかと思うほどの苦痛、不快感、身体の中にヘドロが満たされていくような気持ち悪さにに膝を着く…
光の魔力は見た目こそ美しい眩しい存在の筈なのに、この光はなんなんだ?明るく照らすはずの光がヘドロのように蔓延り体内に侵入を試みているような…苦しい、苦しい…………
終わりのない無理矢理異物を飲み込まされる拷問のような時間、苦痛にたえ、必死にヒロイン♂の魔力を飲み込むのに、飲み込んでいる筈なのに…なんで枯渇しないんだ…!!!!
エアが闇の糸を維持したまま、床に膝をつき苦しむおれを支えてくれる…触れているだけでも心地良い、ヘドロの中にある唯一汚染されていない真水のようなエアの魔力を少しずつ吸い、おれはヘドロを飲み込む
それはレヴィル様も同じ、国王陛下達がいる二階を見るとラドラ様がレヴィル様を支える姿が見えた
狼狽え、部下に包囲される国王陛下は自身の息子がとんでもない者に魅了されていた事に初めて気付いたのか?
大司教様は必死に何かを唱えているが、おれの位置からは聞こえない…ホールの隅に逃げたり外へ出たりと動揺する他生徒が興味本位でヒロイン♂に近づかないのが唯一の奇跡だと言える
もう、おれもレヴィル様も限界なんだ…
大舞踏会を行うはずのホール中央で、叫び声を上げ続けるヒロイン♂、その中から這い出てくる美しい偽りの女神を止めるすべが見当たらない…
恐らくおれ達以外がヘドロに触れればその瞬間、ヒロイン♂の゙虜となり精神汚染により傀儡となる事は確定しているのだから…その先に待つ未来も
レヴィル様とラドラ様はヒロイン♂に汚染され慰み者に…所有物にされる、おれはゲームのシナリオ予定通り断罪されヒロイン♂が王妃となる世界で犯され偽りの神への贄となる…
それを止めるためにここまでやってきたのに…見たくもない茶番を耐え抜いてきたのに………!!!
……………………ああ、苦しい、気持ち悪い、もうこの苦行から逃げ出したい…ヘドロを飲む拷問から解放されたい………
……………………ゲームのシナリオが完遂された時、エアはどうなるんだろうか…
モブであり、本来居ないはずの存在であるエアは…どうなってしまうんだ…?
エアまで壊される事になるんじゃないのか………!??!
嫌だ、嫌だ、いやだ、いやだ、いやだ……………
おれは贄でもいい、おれはどうなったっていい、エアはエアだけは守らなきゃダメなんだ…!!!
「ぁ゙ぁ゙あぁ゙ぁ゙ッぅ゙ぁ゙ぁ゙あ!!!!!」
自らの腕にナイフを突き立てる、血が流れ激痛と共にいい変化があった
エアが焦った顔で泣きそうになってる、猫の精霊も驚いたような顔をしているが大丈夫だから…今の痛みで一気に頭がクリアになるような…そんな感覚に自分が置かれている状況を理解できたのだから…
既に限界を超えていたんだ…
もしかしたらヒロイン♂の魔力におれも汚染されていたのかもしれない…諦めるって言葉が脳裏を過ってしまったのだから……でも、それでも…
おれは愛する存在すら守れない男になりたくない……!!!!
最後の力を振り絞り、ヒロイン♂の魔力を飲み込む…
全てを食えるか分からない…分からないがやるしか無いんだ!
エア、おれの唯一…おれの大切な存在…大好きで愛おしくて…幸せにしたかった存在…お前を守れるなら…
おれは全てを失ったっていいんだ
この世界を壊す存在に、エアが幸せになるこの大切な世界を渡すわけにはいかない…だから…
命を賭してでも、この世界を守り抜いてやる…!
『……だよ、…………大切な人を守りたいなら、己の命も大切にしなければ駄目だ…』
全てを賭けよう、そう心に決めた時…ヒロイン♂の叫びしか聞こえないはずのホールに優しい声が響いた
何が起きたのか分からない
床に膝をつくおれの中から黒い何かが滲み出て、エアと反対側に誰かがいるような不思議な感覚があった…
何故かヘドロの不快感が消失しているような…よくわからない状況で、おれは誰かに手を握られる
『光は闇を重ねて飲み込むんだ、一人では出来ない…互いに求め合い、必要とし合う存在だからこそ出来ること…その意味がわかるよな?』
闇を重ねて?飲み込む…?何故かおれに触れる誰かの手は懐かしく温かく…悲しい気持ちになる
エアの手も握り、おれに重ねる…そうして誰かの手は目の前で黒髪黒目の男性に変化し、満足そうに微笑み消えた、気がした
エアと魔力を重ねて飲み込む…
それは同調しろって事なのか…?そうなのだとしたら…ふと二階を見ると、銀髪に赤目の人がレヴィル様とラドラ様に何かを話しているのが見えた気がした…灰色の世界なのに、エアじゃない存在なのに…何故か色が分かったような、それが不思議じゃない…
「リナルド様…」
「ああ、おれが一人でやるんじゃダメなんだな…おれ達が救うんだ…この世界をエアと一緒に互いに守りたいって…」
エアと手を強く握り、互いの闇の魔力を混ぜ合わせ広げ、折り重ね同調する…
黒く、黒く…優しい闇が灰色にみえる世界を包み込む…光のヘドロに触れているのにさっきまでの気持ち悪さが無い、全然苦しくない事に笑ってしまう程に
もしかしたら初めて出会った日、同室になる為に学園長に見せた同調でこのゲームの世界が変わり始めたのかもしれないな…?
そんな事を考えていたら2階からも闇が広がり、どんどんホールを埋め尽くす…ヘドロを飲み込み、啜りながらヒロイン♂に広がっていく
それは偽りの神にも当然触れ、腕を足を、腹を丸ごと飲み込み存在を消化する
先ほどまでと違うヒロイン♂の゙様子からもこれが本当に最適な方法なのだと理解できた
「いやぁああああーーー!!!!やめて、やめてよ!!!何してんだよ!!!ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!痛い!!痛い!?!わかんない!なに!?なんなの!?何が!?何が起きてんだよ!!!ァ゙ァ゙ァ゙ーーー!!!!剥がれてくッ!!痛い!痛い!痛いーーーー!!!!」
『ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ーーーー!!!!!ギャァァァァァァ!!!!ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ!!!…………ギィィイイイーーーーーー……!!!!』
目の前の光景を音で表すならブチブチと引き千切るが正解か…
ヒロイン♂から引きずり出すように光のヘドロが食い尽くされていく、徐々に徐々に光が弱くなるにつれて偽りの神からは断末魔が上がった
あれは生き物なのか、そうでないのかおれ達にはわからない
ヒロイン♂が白目を剥き、泡を吐き出しながら気絶するまでおれ達は同調を続けた
床にヒロイン♂が倒れ、それを見届けて自分たちも床に倒れるその時まで……………
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