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学園祭 前編
しおりを挟む準備期間などあっという間に過ぎ、ついに学園祭当日になってしまった
想像通りヒロイン♂はこの日を待っていたようで仕掛けては来なかった
とりあえず予定通りの中、この学園祭に沸き立ち、学院全体が祭りの雰囲気を纏う、この期間は生徒各々が持てる全てを出し切り、商才や芸術等を披露する場である
校門から校舎までの表門広場も商家の生徒が市街の露店をイメージした出店をしており、いつもとはまったく違う活気ある雰囲気が漂っている
中庭にある中央噴水でも美術に精通するクラスの生徒が魔術を駆使し溶けない氷のアートで涼し気な美しさを披露していた
演劇部の面々は講堂を貸し切りオペラを披露するという、エアと一緒に学園祭の出し物を回るのも今から楽しみだ
校舎内も全ての部屋で何かしらの露店やサロン、演出が成される、巨大な学院全てが祭りの装い
余裕があるクラスは数名で1つの空き部屋を使用して追加の出し物を行い明日の家族来賓にも備える
おれたちのクラスでも勿論祭りの準備は完璧だった
貴族の子息令嬢が執事とメイドに扮するサロン、各領地の特産品や嗜好品を持ち寄り紹介も兼ね給仕もするが、希望者には会談も行う特殊な場所となっている
将来的に領地を担うものが多いクラスだからこそ明日の家族来賓をも想定に入れた出し物だ
「リナルド様っ…!!もうなんか、目が潰れるほど尊いっ…!え、まじで顔がいいっ中身もいいっ…!!うう、生きててよかったぁ…こんな最高な場面生で見られるのほんと、ほんとよかったぁ!!」
予定通り、女子に混じり1人だけメイド服を着用し、なんと当日はガーターベルトまで準備されていたおれの心境など知らずに、エアはすごく喜んでいる
あえて胸に詰め物をせず、普通に着ているおれは一体何なのだろうか…ラドラ様やレヴィル様にも似合ってると言われても全く嬉しくない
他生徒もいつもは遠巻きにするのに今日はやたら近い…なぜだ
鏡で自分を見ると悲しくもなる…男らしい身体つきは何故かしてない悪役令息という存在を改めて不幸だと感じてしまった
この姿でヒロイン♂のところに行くのか…嫌だな…
そうも言ってられないのが悲しい
学園祭開始時間は間もなく、ヒロイン♂の計画を潰す為にも異物入りクッキーを全て潰す…
他のクラスを偵察に行ってくると離れても誰も止めに来ないのは何時もの流れか?
執事服のレヴィル様を連れ、エア曰く美男美女のとんでもない組み合わせに見えて神々しいらしい…?おれ達は、廊下を移動するととんでもなく目を引く…まだ既視感ではない世界、これから始まるのはガレリナの箱庭とは少し違う展開だ…
ヒロイン♂のクラスに近づくと、目的ではあるが聞きたくもない嫌な声が聞こえる
似合うよ恥ずかしいよなんて馬鹿のようにはしゃぐヒロイン♂とその攻略対象達…てかミシュル様達はクラス違うのに何故いるんだ?
まぁ、そんな事はどうでもいい、エアの事前情報通り役者は揃ってる…この部屋で問題を起こす悪役令息が学園祭での大きなイベントのトリガーだ
レヴィル様と頷き合い、久々に悪役令息を演じるちょっとした懐かしさのままヒロイン♂のクラスへと足を踏み入れた
可愛いエプロンに身を包むヒロイン♂を取り囲むように酷く濁りきった瞳の王太子殿下とその仲間たち、そして濁り始めた瞳をしたクラスメイトがいるヒロイン♂クラス…そこは学園祭の雰囲気からやや逸脱した異様な空間だった
おれはバレないように深呼吸をし、悪役令息になりきる、メイド服すらも着こなす中性的な棘のある存在に…
「失礼、王太子殿下こんな所にいらしたのですか?私、心配しました…まさか庶民と一緒におられるなんて…
ねぇ、キミ…神子様だからといって王太子殿下と親密にするのはおかしくないですか?それに…それは何ですか?」
「リ、リナルド様…ぼくはただ…ロベール様達と学園祭を盛り上げようとしていたんです…親密になんて…
………えっと、それは、ぼく達が作ったクッキーです…幸せになれるように願いを込めて作った…」
そう言うヒロイン♂の目の前には綺麗にラッピングされた色とりどりのドライフルーツが練り込まれたクッキーや、チョコチップ入のクッキーなど販売用の物が机の上に並んでいる
このクラスでの出し物はカフェだ、恐らくバックヤードにもクッキーの残りは有るだろう…精霊の秘薬を使った物、その全てがこの部屋にあると思って大丈夫そうだ
おれは不敵に笑い、ゲームの台詞を言い放った
「馬鹿馬鹿しい!そんな庶民の食べ物を王太子殿下に?来賓の皆様に販売するつもりだというのですか?
庶民の手垢が付いたものなど公に販売できると思わないでください」
そう、やや金切り声の様な声を出し、机を蹴りクッキーを床にぶちまけ踏みつける…
なんてことはせず、おれはゲームとは違った台詞を続けた
「ここにあるもの全て私が買い取ります、全て
変わりにレヴィル様の故郷から取り寄せた異国の菓子を置いていきましょう
レヴィル様、それでいいですか?」
「異世界の神子、ソラトと言ったか?
我が国の菓子をここで販売してくれたら嬉しい
まぁ、ここの菓子も俺も食べてはみたいから後でリナルド殿に貰うとするよ」
食べさせたいと思ってた相手が自ら食す機会を悪役令息に与えたれたらお前はどうする?
返って来る筈の台詞が違う現場にどう反応する?
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