悪役令息はモブに愛を捧ぐ

たなぱ

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悪役令息は逃げられない

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ガレリナの箱庭において、悪役令息リナルド.アークランドは運営に嫌われ、ある意味加虐的に愛された悲劇のキャラクターであると
そう、エアは何度も言っていた


これもその展開の一部なのか…?



おれたちは今、公爵領では絶対見ないような野盗に馬車を襲われ、囚われている…


今日はエアを湖に連れて行こうとした矢先の出来事…人気のない森の中程で急に馬車を複数人の男達に囲まれた
軽い戦闘の音の後、扉を開いたのは汚らしい男ども…馬車の外には護衛も御者も気絶させられている、かなりのやり手ではあるようだが…何処から現れた?何となく見たことがある気もするがまさか…


それよりも治安が良いことで有名なおれの父様の治める公爵領…そこに何故こんな真っ当に生きることを諦めたような奴らがいる…?
巫山戯るなよ…浮浪者支援までしている父様と兄様がいるこの領地に居て良い奴らじゃない


「一緒に来ていただきましょうか?リナルド坊っちゃん…?…随分と好き勝手に贅沢三昧して俺達の税金を食い潰す令息にお仕置きしてやりましょうねぇ…」

「神子様が施しをしてくださるというのに、それを邪魔したと言うじゃないですか…?なんて非道な坊っちゃんだ…
その体で払って貰いますよ?へへへ…………」


セリフからおれが目的だと、ゲームのリナルドが目的なのだとすぐにわかった
…こんな場所でも既視感の世界を見ることになる残念さにため息を付き、特に抵抗せず野盗に捕まることにする

根城ごと完膚なきまでに潰す為に…そう思っていたのだが、一緒に捕まったエアは真っ青な顔をして怯えている様子…
エアも知ってるシーンなのか?詳細を聞きたいが男どもが居ては邪魔をされる、今は話せない…とりあえず着いていく事にしようとエアを見つめ頷くと涙目で頷き返してきた



汚い馬車に入れられ、連れて行かれたのは山中の小屋…こんな小屋あったか…?と思えるほど簡素な小屋

縛られたまま馬車から降ろされ、簡素な小屋の地下にエアと共に入れられる…
あまりにも雑な扱いに身の代金でも請求するならもっと丁重にしろと思いつつ、エアの無事を確認した



「エア、大丈夫?怪我はしていないか?ごめんな怖い思いさせて…あれもゲームのシナリオで合っているか…?」


「リナルド様………ごめんなさい……僕、こんな大事なこと忘れてた…イベントに書かれてないだけでハーレムルートに進もうとするヒロイン♂がいると悪役令息は…リナルド様はすごく危険な立場なんです

神子様を害する者としてストーリーが進めば進むほどこんな感じに野盗に襲われたりする事が増えていく…
全ては最後の断罪イベントでリナルド様は多数の男の精で穢された王妃に相応しくない存在だと言わしめるための展開…それがある事…僕、忘れてた…ごめんなさい…」



エアは泣きながら謝ってくる…なるほどな…?ヒロイン♂視点で進む以外にも悪役令息は酷い目に合っていろとそういう事…これがその流れの始まりかも知れないとおれを心配してくれているんだろう…
その気持ちが嬉しいよ、おれの事になると直に泣くエアも可愛いけど笑顔でいて欲しい


「泣かなくていい、エアが悪いわけじゃないよ…
ちゃんとこっちを見ろエア、今お前の目の前に居るのはゲームのリナルドか?王太子殿下の婚約者で居たいと願ってた悪役令息か?
違うだろ?おれは婚約解消を望んでこれまで準備をしてきたんだ…それは他国に一人でも生き延びて逃げ出す事が出来るように…」



だから不安にならなくていいと、エアを抱き締めてキスを送る、縛られていた筈なのに何故って顔してるのが可愛い…

縄なんてエアでも簡単に切れるんだよ?ちょっと毒耐性の応用で腐らせればいいだけだ
魔封じの首輪を着けられると脱出は難しくなるが…


「リナルド様、は…僕の知ってるリナルド様はあなたです…酷いことされたりしないですか…?悲しい顔した推し見たくないよ………うぅ゙ぁ……………」



エアの縄も切ってあげると抱きついて泣いてきた…うん、可愛い…
王太子殿下の婚約者になるなと警笛を聞き続けてたおれはか弱くなんてない?大丈夫、安心してほしい…逃げるくらいなら戦って勝ち抜いてやるから

泣きじゃくる愛しい存在をあやしていると、おれたちをここへ連れてきた野盗が戻ってきた…神子様の施しとか言ってたけどあいつなんかやってるのか…
捕まえればそれもわかるかな?
よく見るとわかるが、こいつらの目はおかしい…
ニヤニヤとこちらを見る目は濁りきり若干焦点が合っていない



「おいおい、2人で楽しんでんじゃねぇよ?きついお仕置きが必要だなリナルド坊っちゃん…」

「その普通顔はほっといて良い、あんなんじゃ勃たねぇよ、さっさと神子様の為に公爵令息を犯して差し上げようぜ?」



濁りきった目で、涎を垂れ流す汚らしい姿でこちらに向かってくる男どもはズボンを下ろしペニスを扱きながら一歩一歩近づいてくる…






ブチリとおれの中の何かが切れた…


















side エア


大変な事を忘れてて…リナルド様がシナリオ以外でも危険な目に遭う存在だって思い出して…その時には既に野盗に捕まってからだった…

こんな大切な事…なんで忘れてたんだろう
縄で縛られ、リナルド様と薄汚れた地下室の小屋に投げ出されてゾッとした…ここまま此処でリナルド様があの野盗に襲われてしまうと思ったから
もっと早く気付いて…伝える事が出来てたらこんな悲しい事にならなかったのに





と、思ったのは僕の思い込みで終わった
ゲームのリナルド様は儚かった…王妃になるべく洗練された美と可憐さがある存在…けれど僕が愛してしまったリナルド様はか弱くなかったのだ

目の前で起こる事を僕は目に焼き付ける
自衛出来るようにしていると言っていた彼は、あまりにも滑らかな動きで、野盗を闇の糸で絡め取り縛り上げ、天井から吊るして毒を付与し苦しめる…

語彙力を失うほど手際が良すぎて何が何だか分からなかった…これは本当に悲劇を迎える悪役令息なのかと不安になるほど人が違った
…………けどひたすらに僕を抱き締めてあやしてくれるのは確かに僕の好きなリナルド様で…


推しがあまりにもかっこよくて恐怖が飛ぶ体験も出来た素晴らしい休暇になってしまったのだ




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