悪役令息はモブに愛を捧ぐ

たなぱ

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合宿のおわり

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エアが欲しい、この気持ちをどうにかして欲しい…されるがままなエアを木に押さえつけ、舌を吸い上げ、絡ませ、歯茎を歯を舐め上げ息をも奪い激しくキスをする、口内を貪りながらエアの存在を感じていると動揺した心が穏やかになるのを感じる…
欲しい、もっと、もっと……………
ガクリとエアの膝が折れおれに全体重を預けてくるまで止められなかった


飲みきれななかった唾液が口元を濡らし、閉じられた瞳からは涙が流れている…
しまった、やりすぎた…そう、少し冷静さを思い出したおれは周囲の状況を思い出し、理解した



あの巨大な蜘蛛の化物はおれが触れた後、まるで何もいなかったかのように消え去った
しかし、蜘蛛のが移動してきた痕跡もなぎ倒された木々もあの化物がいた事を証明している
ヒロイン♂達は教員をまだ呼んでいないのかこの場には誰も来てはない…
まだ闇の深い時間、蜘蛛の化物が響かせる地響きや木の倒される音以外無音だった世界に虫の声や何かの息遣いが戻って来る

あれはなんだったんだ…?
まるで夢のような…でも倒れている木はあれが現実だと証明する…それに、これもだ


知らない間にローブのポケットには大きく美しい闇属性の魔晶石と黒い鳥の卵のような物が入っていた

一先ず、現状を記録石に保管する、万が一、教員へヒロイン♂達が何を言ってるかで対応を考えないとまずい気がした…
おれたちの野営地点へ戻ろう
エアをおんぶし、自身に身体機能向上魔法を掛け、来た道を戻る…戻る最中にあの蜘蛛の化物が這い出てきた大穴もしっかりと残っており、やはり夢ではなかったと環境が真実だと教えてくる




あの蜘蛛の化物は一体……………





野営地点に戻り、軽く自身とエアに洗浄魔法を掛け
テントの中でエアを抱きしめたまま座る
わけがわからない事が多すぎだ…おれはもう眠れそうに無い…
あの、『ありがとう』という言葉は蜘蛛の化物が発したものなのだろうか…おれに流れ込んできた灰色ではないイメージ、あの赤い複眼を持つ少年が蜘蛛の化物ってことなのか………?

ヒロイン♂達を襲っていた化物と同じものとは思えない程、触れた時に感じた魔力は優しい物だった
ゲームのゲリラボスではない、この森で通常見るとことも無いサイズの…地下から這い出て来た化物…
そしてあの化物が残していった魔晶石と卵?



何かが引っかかる…何かが


「んっ……………」


エアの声に気付く、考えすぎて腕に少し力を込めてしまったらしい…優しく抱き締めて直し、肩に顔を埋める…少しだけ甘く感じるエアの匂いに動揺を隠しきれない精神が穏やかになっていくのがわかる

そうだ、おれ一人で悩むことは無いんだ
起きたらエアに相談しよう…今のおれは1人じゃないのだから






このまま眠れそうに無かったおれは、既に広範囲に張り巡らせたままの魔力糸に集中しエアが起きるまでひたすらに掛かった獲物をテントの前に運ぶ作業をしながら、エアの寝顔を堪能した

ゆっくりと時間が流れる…
恐らく数時間後、朝日が昇ると同時に目覚めたエアにおはようとキスを贈る
推しに抱っこされたまま寝てたの僕!?と真っ赤になり慌てた彼はちょっとトイレと照れ隠しにテントの外へ走っていき、絶叫、そしてまた気絶しかけていた


「おは、おはようございますリナルド様………もう僕、リナルド様の胸に住みたいっ…なにあれ怖いっううっ…怖いって…テントの前阿鼻叫喚過ぎてむりぃーー?ううううっ…………」


明け方まで捕まえて山積みにしておいた魔獣を見てエアの寝起きの心は折れてしまったらしい
おれに四六時中抱きしめられ生活するエアも可愛いから別にいいけど、恥ずかしいって後で慌てそうなのはエアなんだよな
抱き締めてあやしつつ、昨日のことの顛末を説明する
あの蜘蛛の化物からイメージが流れ込み、そのまま消えてしまったこと
悪意や害意を感じない優しい闇の魔力を蜘蛛の化物から感じたこと
おれのローブの中に蜘蛛が置いていったと思われる魔石と黒い卵?があったこと
あの蜘蛛の化物は既視感ではなく、エアと同じ色を見ることが出来たこと…簡潔に説明するおれの言葉を真剣に聞いてくれる


「あの蜘蛛の化物…とそんな………それにゲームのイベントにそんなシーンも入手アイテムも無いです…
本来ゲームのリナルド様は取り巻きと森の浅い所で優雅に過ごし続けて優秀すら狙わない立場だったから…展開が違う…?
でもあの蜘蛛の化物はゲリラボスじゃないんです…本当のゲリラボスは何処に…?イベントで手に入る魔晶石もそんな色では無かったです…黒い鶏の卵とかも初めてみました」


「本来この国に居ることのないエアが、転生者がおれと居ることで何かが変わってきてるんだろうか…
後、おかしいのはあんな事があったのに教員が誰も来なかったたんだ
生体バンクルが助けた生徒からの話を聞いたら普通は現状確認の為に来る、この合同合宿で処理しきれるか見極めに来るのが常識…害のレベルが大きかった場合は他の生徒へ危害が及ばないようにする、それが貴族の子を預かる学園の義務…」


そこまでエアと話した瞬間、生体バンクルを経由し全生徒へ通知が入った



『合同合宿に参加する全ての生徒に告ぐ、緊急事態発生のため今年度の合宿は現時刻を持ち中止となった、詳細については全員の安否を確認後説明する
速やかに荷物をまとめ、生体バンクルを使用し我々の待つ開始地点へ戻るように
以上、繰り返す……………………』


合同合宿の中止、緊急事態…十中八九あの蜘蛛の化物が原因の緊急措置だろう
でも、何故…今?生徒の安全を守る事が必須の筈なのに、この数時間何もせずにいたのは何故……?
とりあえず指示に従うしかない、おれたちが居るのは開始地点からかなり奥、身体機能を上げても直ぐには戻れない距離だ
エアと顔を見合わせ、開始地点に戻る準備をする
あの蜘蛛の化物について教員に伝えるべきか…それは否だろう…直接国王陛下と父に報告したほうがいい…

準備を終え、エアと手を繋ぎ生体バンクルを起動させる…エアは手を繋がれたことに少し驚いていたが、おれの片時も離れなくない気持ちの現われだ付き合え








開始地点に戻ると多くの生徒も徐々に戻り始めていた、皆が何故合同合宿が中止になったかざわついている中で一人だけ泣き喚き、王太子殿下に慰められているヒロイン♂は異様に目立っていた
近づかないでおこう、そう思ったおれの耳にヒロイン♂の声が届く…





「どうして無事なの」






そう、はっきりと…………





ヒロイン♂の表情はおよそ光属性とは思えない酷い顔を一瞬だけおれに向け、再び王太子殿下に泣きついていた








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