悪役令息はモブに愛を捧ぐ

たなぱ

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神子と野営と野宿

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Side ヒロイン♂



このゲームの世界、どうしてこうも中途半端なの…!



待ちに待った大型イベントと同じ流れで討伐作戦が始まった、なんでか合同合宿って名前だったけど、国名が誤字ってるゲームだもの仕方ないと思う
だって、この生体バンクルも説明していた先生も、開始の流れも全てゲーム通り!もうあのイベントしかない!
悪役令息はやっぱり仕事しなかったけど、そんなのどうでも良くなるくらい、このイベントでしか見れない限定衣装の攻略対象者達は最高だった
各属性の刺繍がされたローブを纏った姿と、野営なってローブを脱いだ時の、このイベント限定制服!課金して手に入れたゲームの時よりも実物は何倍も輝いていた…そんな彼らにチヤホヤされていざ!森の中へって最高の気分だったのに…




楽しかったのはそこまで、ゲームとそこからの流れは違っていた…
ゲームだとただ前に進んで採取か討伐を選べばよかった…ぼくを大好きな皆と時々エッチなハプニング踏まえてポイントを稼ぐだけの簡単なゲーム
ポイントがある程度貯まるとゲリライベント開始で毒消し飲みながら耐久戦すれば、課金アイテムがタダで貰える神イベントだったのに…






「なんで誰も野営の方法知らないの!野宿じゃん!それにここドコ!!!迷子じゃんぼくら!」




そう、攻略対象者の誰もテントを張るどころか野営の基本すら知らなかった…授業でやったんじゃないの!?いや…ゲームでもテントを張ったりはしていない、テントで休んだとか誰が建てたかわからない表示の仕方だったけども…!!
和気あいあいと森の奥に進んだ事を後悔している…

イケメンがこんなに揃ってるのにみんなポンコツ…ぼくを終始可愛いとか愛おしいとか言ってくれるのは嬉しいよ?でも、誰ひとり危機感が無いのはどうして???
あっ………イベントと違う所…そう言えば野営とか討伐が得意だった隣国の留学生が留学していない………それなの?そのせいなの?
テントもない、夕飯もない、乾いた干し肉と水でどうしろって??寝る所は暫定地面…………ぼくはこんなの嫌だ!
ロベールが抱っこしててくれるけど、そうじゃないの!これから夜中なのにどうするの!?
ミシュル様の照明魔法で無駄に明るいけど!ジョイル様が見張りしててくれるけど!大変だねでもソラトかわいいじゃないんだよ!?
そうじゃないの…このままでぼくらどうするの?不眠不休で野営するの?
ラドラ様はオープニングだけ参加して教会に戻っちゃうし……なんなの!この中途半端なゲーム!!
ぼくの為の世界ならもっとイージーにしてよ!




どうして誰も授業で野営について学んだ事なんて覚えて無いの?…何が悪いかなんて全くわからない
辺りが真っ暗になり、本当に暗闇で怖いからと無駄に雑談して無駄に照明を明るくし続けていたのが悪かったんだと思う…たぶん



知らぬ魔に森から虫の声とか全然聞こえなくなっていた…何かに怯えるように…



バキバキバキバキ………………ズシャアアアアアア……………!!!!!
木々がミシミシと音を立て倒れる激しい地鳴りが聞こえた瞬間、野宿嫌だよとロベール様達とキスをして戯れていたぼくら前で、見張りをしていたジョイル様が消えた…

キリキリと嫌な音がする…ゆっくりと何かが近づいてくる……確実に人じゃない………何かの音……
無駄に明るい照明のせいで暗闇が見えない、わからない…………
何かがぼくら前にいる…?なに?これは…………
あまりにも大きく、あまりにも黒い何か………ジョイル様は消えた?この黒い何かに襲われたの…??



違う、生体バンクルが反応して先生の元へ送られたんだ…!!!



動けず何かがいると、考えるだけでそれ以上の動きができない事に気付いた時には遅かった
逃げようなんて思考も、こいつがゲリライベントの討伐対象なのかもなんて頭には浮かんでこない…
丸太と同じくらい太い足で木々をなぎ倒しながらぼくらへ向かってくる、それは…あまりにも…現実離れしていた
ミシュル様の照明の範囲にまで来たことで全貌が見える………………うそ…これは真っ黒な巨大な蜘蛛…だ…こんなの知らない…ゲリラボスじゃない…!!!
イベントでみたあの魔獣のシルエットは蜘蛛じゃない…!!!
蜘蛛が触れた地面は何故か黒ずみ煙をあげているテン…なんなんだよこれ…


ロベール様に抱きつくけど彼は既に気絶無効していた…ミシュル様も天才魔導師だっていうのに…唖然としていて動こうとしない…
ぼくは神子様だけど戦闘能力はないんだよ!!!なんで、守ってよ!おかしいよ…こんなの、こんなの……!!!



「来ないで!やだぁ!!!ぼくはこんなの望んでない!こんなのシナリオじゃない!!!やだ、やだーーーー!!!!」


ぼくは叫ぶことしかできない…こんな所で馬鹿でかい蜘蛛に食べられたくない
気絶したロベール様に抱きつき、唖然と蜘蛛を見つめるミシュル様を睨んだ瞬間、蜘蛛足はぼくらの頭上にあった…容赦なく振り下ろされたそれが身体を突き破る直前…身体が光り輝いた
引っ張られる様な感覚に陥る…そうか…先生たちの元へ生体バンクルが転送の陣を発動させたんだ





転送される瞬間、ぼくの目に見えたもの
それは、悪役令息ともう一人知らない男の影だった







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