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14話 交渉

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「その発言は王国への反逆とみなされるが訂正をする気はありますか」
 いの一番に反応したのは若い騎士だった。
 まだ、騎士に成り立てて間もなく、正義感に溢れている。
 そんな彼が王国を捨てると発言した辺境伯に詰め寄ろうとする。

「落ち着きたまえ、我々の出る幕ではない」
 騎士長トーマスが若い騎士を嗜める。

「若いな、君に聞きたいがなぜ王国を捨ててはいけないのだね」
「それは反逆にあたります」
「別に王国を貶めようとしてるわけではない。ただ別の国で商売でもしようかと思っているだけだ」
 よっぽどの危険物を取り扱うや国家機密に関わるもの以外は商売人がどこで商売しようと国がとやかくいうことではない。

「それは……でもなぜですか? ここに並ぶ食事のどれもが大変素晴らしいものでした。貴族として裕福な暮らしをしているのになぜそれをお捨てになるのですか?」
「これは私が商売人として稼いだ金で買い集めたものだよ。貴族として、領主としてだけでいえば大赤字もいいところだ。何故かわかるかね?」
 辺境伯は若い騎士に問いかけた。

「いえ……」
「中央の貴族どもが搾取していくからだよ。私からではなく領民からね。飢え死にしそうなギリギリまで搾取して後は知らぬ存ぜぬだ。私は身銭を切って領民を助けたよ。互いに力を合わせてここまで発展させてようやくこれからというときにこれだ」
 辺境伯は懐から一通の手紙を出して全員に見えるように机に放り投げた。
 中には辺境の地が発展したせいでこちらの領地に人の流通がなくなった、謝礼金でも渡せという内容だった。
 しかも、一通ではなく色々な貴族から何通も届いていたのだ。

「これはひどいですね」
 私にも経験がある。
 今でこそなくなったが、商会には何かと因縁をつけてくる貴族たちがいた。

「これで分かっただろ。貴族というのは生まれが立派なだけの汚らしい連中なのだよ」
「それでここ最近、彼の国と活発的にやりとりをしているのですね」
「やりとりといったって健全な商いをしているだけさ」
「そうですね。ですが、率直に申し上げてその取引を止めていただきたい。いえ、もう少し遅らせることはできないでしょうか」
「もう少しというのは?」
「一年ほどですね」
「それは難しい相談だな。オリヴィア嬢も商人ならば分かるだろ。時は金だよ。一年も遅らせればそれだけ利益下がる。それとも王国が保障でもしてくれるのかな」
「いえ、それはないと思います」
 そう、元々が無理難題を押しつけられているのだ。
 そうでなくても、私からすればこれは何としても成功させなければいけない。
 私自身がそう強く思っている。

「それでは私が損しかしないではないか」
「時は金というお言葉、私には痛いほどに分かります。しかし、私にも譲れないものがあります」
「ほぅ……」
「人にこそ価値はあり、その中でも子どもは最も捨てがたい宝と考えております」
「なるほど、このままいけばその子どもという宝を失うことになると」
「その通りです。ぜひ、お考え直しを」
「ふーむ……」
 辺境伯は少し目を瞑り考えをまとめる。

「悪いが今回の件は難しそうだ。大体が今回の一件は身から出たサビ、その負債を宝をもって返済するのは至極当然のことだろう」
 辺境伯は何も間違ったことは言っていない。
 しかし、それでも譲れない。
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